前立腺がん

執筆者:Thenappan Chandrasekar, MD, University of California, Davis
Reviewed ByLeonard G. Gomella, MD, Sidney Kimmel Medical College at Thomas Jefferson University
レビュー/改訂 修正済み 2025年 2月
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やさしくわかる病気事典

前立腺がんは、男性だけにある前立腺という器官で発生するがんです。

  • 前立腺がんのリスクは年齢とともに高くなります。

  • 排尿困難、頻尿や尿意切迫、血尿などの症状は通常、がんがある程度進行するまで現れません。

  • 前立腺がんはほかの器官へ転移する可能性があり、最も転移しやすい部位は骨とリンパ節です。

  • 症状のない男性で前立腺がんの可能性をチェックするために、医師が手袋をはめた指で直腸内から前立腺を診察する直腸指診や血液検査(PSA測定)を行うことがあります。

  • がんが疑われる場合には、画像検査や前立腺組織の生検を行います。

  • 治療としては、積極的サーベイランス、前立腺の切除、放射線療法、あるいはがんの成長を遅らせる各種の新しい薬剤やホルモン剤の投与を行うことがあります。

前立腺がんは、米国では男性に発症するがんの中で数が最も多く、がんによる死亡の最も一般的な原因の1つです。毎年299,010例を超える症例が新たに診断されており、35,250人が前立腺がんで死亡しています(2024年の推定値)。前立腺がんの発症率は年齢とともに高くなり、特に以下のタイプの男性ではリスクが高くなります。

  • 黒人、特にカリブ系民族の出身者

  • 近親者に前立腺がん患者がいる男性

  • 近親者に乳がんや卵巣がんなど他のがんの患者がいる男性

前立腺がんは通常、極めてゆっくりと増殖し、症状が現れるまでに数十年かかることもあります。そのため前立腺がんは高齢の男性にみられることが多く、有病者数は死亡者数よりはるかに大きいと考えられています。前立腺がんがあっても、その存在に気づかないまま、別の原因で亡くなる男性も多いです。しかし、なかには増殖が速いものや、前立腺以外の部位に転移するがんもあります。

前立腺がんの原因は明らかになっていません。

前立腺がんの症状

前立腺がんは進行期になるまで症状が現れないのが普通です。時により、排尿困難や頻尿・切迫尿意など、前立腺肥大症(BPH)によく似た症状が現れることもありますが、これらの症状は、がんが増殖して尿道を圧迫し、尿の流れを部分的に遮断するほど大きくなるまでは現れません。その後、血尿が出たり、突然尿が出なくなるといった症状が出ることがあります。

患者の中には、前立腺がんが他の器官に転移して初めて症状が現れる人もいます。前立腺がんの転移先として最も多いのは骨(典型的には骨盤、肋骨、脊椎)です。骨への転移は痛みを伴うことが多く、容易に骨折するほど骨がもろくなることもあります。脊椎の骨(椎骨)への転移は脊髄に影響を及ぼすため、痛み、しびれ、脱力感、尿失禁などがみられます。がんが転移すると、貧血がよくみられます。

知っていますか?

  • 前立腺がんがあっても、その存在に気づかないまま、別の原因で亡くなる男性も多いです。

  • 一部の前立腺がんは増殖が非常に遅く、治療の必要はありません。逆に、より進行が早く、急速に増殖して広がる前立腺がんもあります。前立腺がんのどの症例がより早く進行するかは、医師にとっても判断が難しいことがあります。

前立腺がんの診断

  • 血液検査によるスクリーニング(場合により直腸指診も)

  • 生検

  • 画像検査

医師は、症状、直腸指診、または血液検査によるスクリーニングの結果に基づいて前立腺がんを疑います。最もよくスクリーニングに使用される血液検査は、前立腺特異抗原(PSA)値の測定です。PSAは前立腺組織によってのみ作られる物質です。

一部の症例では、進行の速いがんを見つけられる詳細な画像を取得するため、前立腺に焦点を合わせたMRI検査の実施が推奨されます。MRI検査の画像を読影する放射線科医は、生検部位の選定に役立つ病変領域データを提供します(MRI検査だけで生検が不要になることはありません)。

これらの検査結果によりがんの可能性が示唆される場合、通常は超音波検査を行います。超音波画像で確実に前立腺がんを見つけられるとは限りませんが、前立腺生検を行う際のガイドとして有用となります。

直腸指診やPSA検査の結果から前立腺がんの疑いがある場合は、前立腺から組織サンプルを採取して分析します(生検)。生検を行う際は、まず最初に超音波プローブを直腸に挿入して前立腺の画像を取得します(経直腸超音波検査)。生検サンプルは、直腸内のプローブを介して、または直腸と陰嚢の間の皮膚を介して採取します(経会陰的採取)。通常は、前立腺から10~12点のサンプルを採取します。多くのサンプルを採取することで、小さながんを発見できる可能性が高くなります。この処置には約20分かかり、通常は局所麻酔下で行います。

生検サンプル中にがんが認められた場合は、見つかったがん組織を分析して悪性度と病期を判定し、その後の経過予測と最適な治療法の選択に役立てます。

悪性度分類

グリソングレードグループ分類システムは、現在、前立腺がんの悪性度を分類する最も一般的な方法です(以前はグリソンスコア分類を使用していました)。グリソングレードグループ分類では、生検で採取した組織を顕微鏡で検査した結果に基づき、細胞の形態的異常の度合いに応じてがん症例に番号を割り当てます。グリソングレードグループ分類の現行バージョンでは、各がん症例にグレード1から5のグレード番号を割り当てます(旧グリソンスコア分類では6から10のスコアを割り当てていました)。グレードグループ番号が高いほど、がんの悪性度は高く、がんが転移する確率も大きくなります。

グリソングレードグループ1=グリソンスコア6(3+3)

グリソングレードグループ2 = グリソンスコア7(3+4)

グリソングレードグループ3 = グリソンスコア7(4+3)

グリソングレードグループ4 = グリソンスコア8

グリソングレードグループ5 = グリソンスコア9と10

グリソングレードグループ分類、PSA値、および臨床病期を組み合わせて用いることで、それぞれの指標を単独で用いるよりも予後を高精度に予測でき、治療法を判断するうえでのより有効な指針となります。

病期診断

前立腺がんの病期は、次の3つの基準で診断されます。

  • 前立腺内での広がりの範囲

  • 前立腺付近のリンパ節への転移の有無

  • 骨もしくは前立腺から離れた他の臓器への転移の有無

がんの診断が確定したら、がんの病期を判定するための検査を行います。しかし、前立腺以外に転移している可能性が極めて低い場合は、この検査は必ずしも必要ではありません。グレードグループ分類が2もしくはそれ以下、かつPSA値が10 ng/mL (10 mcg/L) 未満でがんが前立腺の表面にとどまっている場合、転移の可能性は低いです。直腸指診、超音波検査、生検の結果から、前立腺内でがんがどの程度広がっているかが分かります。

転移の可能性が低くない場合には、通常は腹部や骨盤内のCT(コンピュータ断層撮影)検査MRI(磁気共鳴画像)検査を行います。ときに、直腸に特殊なコイルを挿入して前立腺のMRI検査を行います。骨に痛みがある場合や、前立腺特異抗原(PSA)値が非常に高い場合、またはグリソングレードグループ分類が高い場合は、核医学(NM)検査(骨シンチグラフィー)を行うことがあります。

脳や脊髄への転移が疑われる場合は、これらの臓器のCT検査もしくはMRI検査を行います。

前立腺がんのスクリーニング

前立腺がんはよくある疾患で、死に至ることもありますが、がんが進行するまで症状が出ないことも多いため、多くの医師は症状のない男性にもスクリーニング検査を勧めます。

前立腺がんのスクリーニングとしては、前立腺特異抗原(PSA)値を測定する血液検査を行います。PSA値が上昇している場合は、前立腺がんである可能性が高いです。ただし、PSA値は必ずしも常に正確な指標ではありません。前立腺がんがあってもPSA値が正常な場合や、逆に前立腺がん以外の理由でPSA値が上昇する場合もあります。通常、PSA値は年齢とともに上昇し、また前立腺肥大症前立腺炎などの疾患がある場合にも上昇します。

スクリーニングには、進行の速いがんを早期発見することで治癒の確率が高まるという利点があります。しかし、以下のような様々な理由から、スクリーニング検査が有用かどうか、また有用ならばいつ行うべきかについては専門家の間でも意見が分かれています。

  • がんのない人でもスクリーニング検査で陽性と判定されることがあります。

  • 一部の前立腺がんは増殖が非常に遅く、治療の必要はありません。

  • まれに、進行の速いがんが標準的なPSA検査で検出されないことがあります。

PSA血液検査によるスクリーニングは、45歳以上のすべての男性と、45歳未満のリスク因子をもつ男性(黒人、前立腺がんの家族歴がある、特定の遺伝子変異がみられる、等)を対象として検討されます。スクリーニングの有用性は対象者の年齢が上がるほど小さくなります。米国予防医療サービス作業部会では、45~75歳の男性の場合、PSA血液検査によるスクリーニングのメリットと害については主治医と話し合って判断すべきであると勧告しています。

スクリーニング検査では、たとえ見つからなくても実際には患者に害を及ぼしたり死亡には至ることはないと考えられるがんも発見される場合があります。このようながんでは、治療による副作用(勃起機能不全尿失禁など)のほうが、がんを治療せずに放置するよりも大きな不利益をもたらす可能性があります。見つかった前立腺がんが進行の速いがんであるかどうかは、早期の段階では明らかでない場合もあるため(例えば、グリソングレードグループが低く、前立腺のごく一部だけを侵しているがん)、かつては生検でがんが確認された男性全員に治療が推奨されていました。そのため、前立腺がんにより死亡したり重篤な合併症が発生したりする可能性が低い男性にも、前立腺がんの治療が行われていました。その結果、多くの患者は実際には有益でない治療を受け、それにより副作用のリスクを抱えることになりました。最近では、前立腺がんに対する理解がより深まったことから、生検で陽性と判定された一部の男性に対しては、綿密なモニタリング(積極的サーベイランス)を行い、定期的な経過観察と検査結果から治療の必要性(例、がんが大きくなっている、がんの悪性度が高まっている)が示されるまで治療を延期するという選択肢を提供しています。

最善の対応は依然として明らかではなく、また価値観や優先事項は患者一人ひとりで異なるため、スクリーニング・生検・治療それぞれの害とメリットについて、主治医とよく話し合うことが望ましいです。例えば、治療によって相当の確率でもたらされる副作用のリスクより、前立腺がんによって死亡する非常に小さなリスクの方が自分にとっては重要と考える人は、スクリーニングを選択するでしょう。逆にどうしても必要でない限り治療の副作用のリスクは回避したいと考える患者は、スクリーニングを受けないことを選択できます。

前立腺がんの治療

  • 手術

  • 放射線療法

  • ホルモン療法

  • 積極的サーベイランス

複数の選択肢の中から治療法を選ぶのは難しいものです。複数の治療法を直接比較する研究が行われていないため、どの治療法が最も効果的かは医師も明確に判断できない場合があります。さらに、治療によって寿命が延びるかどうかわからないこともあります。例えば、(高齢または重篤な健康上の問題のため)そもそも余命がそれほど長くないと思われる人や、前立腺特異抗原(PSA)の検査値が低く、悪性度の低いがんが前立腺の外に広がっていない人などがそうしたケースに該当します。余命があまり長くないと予想される場合は、がんを抱えて生活する苦痛の度合いと起こりうる治療の副作用との比較に基づいて、患者本人が選択を行うことになります。またPSA値や悪性度が低く、かつがんが前立腺の外に広がっていない場合にも、必ずしも害になるとは限らないがんを治療することのメリットと起こりうる治療の副作用を考慮して患者本人が判断を下すことになるでしょう。手術、放射線療法、ホルモン療法は、いずれも尿失禁勃起機能障害(インポテンス)、およびその他の問題を引き起こすことがあります。これらの理由から、他の多くの疾患よりに比べて前立腺がんの治療においては、患者本人の希望が治療法の選択においてとくに重要な考慮事項となります。

治療の戦略

前立腺がんの治療では通常、がんの進行の速さと広がりの程度に応じて、以下の3つの戦略のいずれかを選択します。

  • 積極的サーベイランス

  • 根治的治療

  • 緩和療法

積極的サーベイランスとは、がんが進行したり何らかの変化がみられない限り、特に治療を行わないことを意味します。この戦略の利点は、治療により生じ得る副作用を回避または先延ばしにできることです。がんが転移または症状を引き起こす可能性が低い場合には、積極的サーベイランスを選択肢の一つとして考慮すべきでしょう。例えば、病変が前立腺内の小さな領域にとどまっており、かつグリソングレードグループ分類が低いがんのほとんどは、増殖のスピードが非常に緩やかです。したがって、高齢者および別の深刻な健康問題がある患者の場合、前立腺がんによって死亡したり症状が現れる前に別の原因で死亡する可能性のほうがはるかに高いです。逆に比較的若い人では、特に健康な場合、たとえ増殖の遅いがんでも、やがて症状が現れる可能性があります。このような場合、積極的サーベイランスはあまり好ましくありませんが、それでも選択肢の一つとして検討すべきでしょう。積極的サーベイランスの期間中、医師は定期的に症状に関する問診、PSA値の測定、直腸指診、再生検(MRI画像を利用する場合としない場合があります)を行い、がんが症状を引き起こしていないか、また急速な増殖や転移を起こしていないかをモニタリングします。検査で増殖や転移が示された場合は、根治的治療や緩和療法の選択を勧めます。

根治的治療は、すべてのがんの除去または死滅を目指すもので、以下を含みます。

  • 手術

  • 放射線療法

  • 比較的まれだが、局所療法(画像データを利用して、レーザー、電気メス、高周波超音波装置により直接がん組織を破壊する治療)

  • 凍結療法

根治的治療(根治療法)は、がんが前立腺内にとどまっているものの、深刻な症状を引き起こしたり、死を招いたりする可能性が高い場合によく選択される治療戦略です。例えば、がんが急速に増殖している場合、あるいはがんは小さくて増殖は遅いものの患者が一定以上の期間(少なくとも10~15年)生存する可能性が高い場合などには根治療法が検討されます。一般に、健康な男性や年齢が比較的低い(特に60歳以下)男性がこうしたケースに該当します。根治的治療は、がんが広範囲に転移している場合には通常検討されませんが、がんの広がりが前立腺の内側あるいはすぐ外側までにとどまっている状況では有益となることが期待できます。このようながんは比較的短期間で症状を引き起こす可能性がありますが、根治的治療が成功する確率が最も高いのは、がんの広がりが前立腺近傍にとどまっている段階です。根治的治療は、患者の生存期間を延ばしたり、がんに起因する症状を緩和あるいは解消する効果が期待されます。最近の治療法では副作用が少なくなりましたが、それでも副作用が起こる可能性はあり、生活の質の低下につながる恐れがあります。これには、勃起機能障害、および比較的まれだが尿失禁(外科手術の結果起こることが多い)、排便中の痛みまたは出血、あるいは排尿時の刺激または出血(放射線療法の結果起こることが多い)などが含まれます。

緩和療法は、がんの完全な治癒よりも、症状を和らげることを目標とした治療です。緩和療法には以下のものがあります。

  • ホルモン療法

  • 化学療法

  • 放射線療法

緩和療法は、広範囲に広がった治癒不能な前立腺がんの症例に最も適した治療法です。多くの場合、緩和療法により、がんの増殖や転移を遅らせたりあるいは一時的に抑えたりして、症状の緩和を図ることができます。場合により、前立腺がんの増殖や転移を遅らせるのに加えて、他の臓器や組織(骨など)に転移したがんによる症状の緩和も試みられることがあります。しかし、これらの治療法ではがんを治癒できないため、やがて症状が悪化し、最終的にはがんによる死に至ります。

手術

前立腺内にとどまっているがんには、前立腺を除去する前立腺摘除術が有用です。前立腺摘除術は通常、病期診断検査でがんの転移が認められた場合には行いません。前立腺摘除術は、悪性度が低く増殖の遅いがんの治療には極めて効果的ですが、悪性度が高く増殖の速いがんではあまり高い効果は得られません。そのような悪性度の高いがんは、診断時の病期診断検査で転移が検出されなくても、すでに他の器官に転移している確率が高いからです。

前立腺摘除術は全身麻酔または脊髄くも膜下麻酔による開腹手術で行われ、一晩入院する必要があります。手術後は、膀胱と尿道の接合部が治癒するまでの1~2週間にわたり、陰茎内にカテーテルを留置します。化学療法やホルモン療法はすべての手術の前後に画一的に行われるわけではありません。手術の際に前立腺がんの進行が速い(悪性度が高く、増殖が速い)ことが明らかになり、かつPSA値が上昇している場合は、手術後に放射線療法(ホルモン療法を併用)の実施を検討します。

前立腺摘除術は、永続的な勃起機能不全尿失禁につながることがあります。勃起をつかさどる神経は前立腺を横切って陰茎につながっていますが、この神経が手術時に損傷すると勃起障害が起こります。尿失禁は、膀胱の底の開口部を閉める括約筋の一部を手術時に切除しなければならないために起こり、場合により長期的に持続します。しかし、大半の男性は前立腺摘除術後6カ月以内に排尿をコントロールする能力を取り戻します。勃起機能の回復についてはばらつきが大きく、手術前の勃起機能の状態、前立腺がんの進行の速さ、および手術方法などの要因により異なります。

前立腺摘除術の術式には、開腹前立腺全摘除術、腹腔鏡下前立腺全摘除術、ロボット支援下前立腺全摘除術があります。開腹前立腺全摘除術では、下腹部、あるいはまれに陰嚢と肛門の間に切開部を作り、そこから前立腺全体、精嚢および精管(輸精管)の一部を切除します。この時、リンパ節も併せて切除してがんの有無をチェックすることがあります。腹腔鏡下およびロボット支援下腹腔鏡下前立腺全摘除では、開腹前立腺全摘除術と同じ部位を切除しますが、これらの術式では切開部がより小さいため、術後の痛みや失血もわずかで済み、回復のスピードも早いことが多いです。

術式にかかわらず、前立腺全摘除術は、前立腺がんの根治を目的に行われる手術です。がんが前立腺内にとどまっている場合、前立腺全摘除術を受けた患者の90%以上が10年以上生存します。治療時点で期待される余命が10~15年以上の比較的若い患者では、前立腺全摘除術が有益となる可能性が最も高くなります。しかし、前立腺全摘除術により最大10%の男性で尿漏れが発生します。一時的な尿失禁はほとんどの男性に起こり、数カ月続くこともあります。若年男性では尿失禁が生じる可能性は比較的低いです。

前立腺全摘除術の後には大半の患者にある程度の勃起障害が生じ、特に術前からすでに勃起に困難を感じていた人では勃起障害が起こる可能性が高くなります。多くの場合、前立腺全摘除術は勃起に必要な神経を傷つけないように行うことができ、こうした術式を神経温存前立腺全摘除術といいます。ただし、前立腺の神経や血管ががんに侵されている場合には、この術式は適用できません。神経温存前立腺全摘除術では、神経の温存を試みない前立腺全摘除術と比べて、勃起障害を引き起こす確率が低くなります。大部分の患者は早期に診断されるため、神経温存前立腺全摘除術による治療が可能です。

7~20%の患者では、膀胱の一部の狭窄や尿道の瘢痕化(尿道狭窄)により、尿の流れが阻害されます(尿路閉塞)。尿路閉塞は通常、容易に治療可能です(「尿路閉塞:治療」を参照)。

放射線療法

放射線療法は、前立腺内のがんだけでなく、前立腺周辺の組織に広がっているがんを治癒する効果も期待できます。放射線療法は、離れた臓器に転移したがんを根治させることはできませんが、前立腺がんの骨への転移による痛みを和らげることができます。

放射線療法はときに、手術後の前立腺周囲の治療や、手術後に血中PSAが検出された場合に行われます。手術後に血液中にPSAが検出されるということは、手術でがんがすべて取り除かれたわけでないことを示唆するからです。

多くの病期について、前立腺がんの患者に放射線療法を行った場合の10年生存率は外科手術を行った場合とほぼ同等です。前立腺内にとどまっているがんの場合、放射線療法を受けた患者の90%以上が10年以上生存します。放射線療法には以下の方法があります。

  • 外照射療法(前立腺内のがんと骨に転移したがんの治療に使用される)

  • 小線源療法(前立腺内の低リスクのがんの治療に使用されるが、骨に転移したがんには使用されない)

  • ラジウム223(静脈内投与により、骨に転移した前立腺がんの治療に使用されるが、前立腺内のがんには使用されない)

外照射療法では、前立腺と周囲の組織に放射線を照射する装置を使用します。この場合、がんに侵されている組織を特定してより高精度に放射線を照射するために、CT(コンピュータ断層撮影)検査を利用することがあります。この方法は三次元原体照射法と呼ばれます。通常、週5日の治療を7~8週間にわたって続けます。放射線療法後に患者の最大40%である程度の勃起機能障害が起こりますが、放射線療法直後の勃起障害の発生率は、前立腺摘除術の直後よりも低いことが分かっています。しかし、数カ月または数年のスパンで見た場合、勃起障害が残る可能性は、放射線療法と前立腺摘除術とでは同程度になるようです 三次元原体照射を用いた場合、尿失禁が起こることはまれです。強度変調放射線療法(IMRT)と体幹部定位放射線治療(SBRT)は、標準の放射線療法を改良した療法です。がんが進行している場合は、放射線療法に加えてホルモン療法を2~3年間にわたって行うこともあります。

外照射療法を受けた患者の約5~10%に、尿道を狭め尿の流れを妨げる瘢痕(尿道狭窄)が生じます。その他の煩わしいがおおむね一時的な副作用として、排尿時の灼熱感、頻尿、血尿、ときに血便を伴う下痢、放射線性直腸炎(直腸の炎症や下痢を引き起こすことが多い)、および急な便意切迫などがあります。まれに、放射線療法が原因となって周辺の臓器(膀胱、直腸)にがんが発生することがあります。

別の種類の外照射療法として陽子線治療がありますが、これは特殊な放射線を使用することによって、より精密にがん細胞に放射線を照射する一方で健康な細胞には放射線が当たらないようにするものです。陽子線治療は他のがんに対して有益であることが分かっていますが、前立腺がんについては標準的な外照射療法と比べて副作用が少ないかどうかはまだ明らかにされていません。

近年の技術進歩による前立腺がんの放射線療法の新しい手法として、以下のものがあります。

  • 前立腺周囲にマーカーを留置して、放射線の照射精度を向上させる

  • 直腸に挿入した針を用いて直腸内にハイドロゲルスペーサーを留置し、放射線の毒性作用を軽減する(このハイドロゲルスペーサーは最終的に分解して組織に吸収されます)

  • 線量の高い放射線を何回かに分けて分割照射することで、従来の照射法に比べて総照射時間を(日単位あるいは週単位で)短縮する

放射性シードを前立腺に挿入する方法もあります(小線源療法)。放射線シードは植物の種のような形をした小さな放射性物質片です。CTまたは超音波画像で位置を確認しながら、陰嚢と肛門の間から前立腺内に放射線シードを挿入します。小線源療法の処置は2時間未満で完了し、複数回繰り返す必要はなく、脊髄麻酔下で実施することも可能です。小線源療法は、周囲の健康な組織を温存しながら前立腺に高線量の放射線を照射することができ、副作用も比較的少ないです。しかしながら、小線源療法は最大10%の患者で尿道狭窄を引き起こすことがあります。シードの放出する放射線量は時間とともに減少していきます。シードは、後で尿に混じって排出されることがあります。こうした放射線シードによる治療を受けている男性は、放射性物質が胎児または乳幼児に有害な影響を及ぼす可能性があるため、実施後は一定期間にわたり、妊婦や乳幼児との緊密な接触を避けなければなりません。小線源療法の10~15年後の治癒率は、場合によりますが、他の治療で得られる治癒率とほぼ同程度です。より進行の速いがんに対しては、小線源治療と外照射療法の併用が推奨される場合があります。一部の医療機関では、小線源療法用の一時的な放射線シード留置(一晩の入院が必要です)が利用可能です。

ラジウム223は、特定の種類の放射線(アルファ放射線)を放出する薬剤で、静脈内に投与して使用します。外照射療法や小線源治療とは異なり、特定の部位や器官を標的とはしません。ラジウム223は、前立腺内のがんよりも、前立腺からの骨に転移したがんの治療に使用されます。血流に取り込まれたラジウム223は、前立腺がんによって影響を受けている骨の領域に到達し、がん細胞の破壊を促します。ラジウム223は骨組織を標的としており、また外照射療法や小線源治療と違って放射線が散乱しないため、周囲の組織に放射線による損傷を与えにくいです。

局所療法

局所療法では、画像誘導技術を用いて前立腺のがん領域に様々な異なる治療を行います。

高密度焦点式放射線療法(HIFU)では、直腸内に置いたプローブという機器から高エネルギーの超音波を照射することによって、前立腺の組織を破壊します。この治療法は、欧州とカナダでは長年にわたり用いられてきましたが、米国でも最近になって広く利用可能になりました。前立腺がんの管理におけるこの技術の利用方法については、現在も進化が続いています。HIFUは、手術後に再発した前立腺がんや、局所的な低リスクのがんに対する治療に最も適しています。

もう一つの局所療法として、エレクトロポレーションがあります。この画像誘導技術では、周辺組織を避けながら、レーザーまたは電気を使用してがん細胞を直接破壊します。エレクトロポレーションでは、小さな針を直腸と陰嚢の間の皮膚から前立腺がんの部位に挿入します(経会陰挿入)。この針を通して電気またはレーザー光線をパルス印加することで、がん細胞を破壊します。

凍結療法は、前立腺がんの細胞を凍らせて破壊する治療法で、凍結用の器具でがん組織にアルゴンガスを送り込んで凍結させ、続いて解凍します。凍結療法は米国では第一選択療法ではありませんが、放射線療法で効果が得られなかった場合に使用することがあります。凍結療法で生じ得る副作用には、膀胱からの尿の流れの閉塞(膀胱出口閉塞)尿失禁勃起機能障害、および直腸の痛みや損傷などがあります。

ホルモン療法

ほとんどの前立腺がんは、増殖または転移にテストステロンを必要とするため、このホルモンの作用を阻害する治療(ホルモン療法)によって腫瘍の進行を遅らせることができます。ホルモン療法は、外科手術後や放射線療法後に再発したがんの転移を遅らせたり、前立腺から広範囲に広がった(転移性)のがんの治療によく使用されます。ホルモン療法は、放射線療法などの他の治療と併用されることもあります。ホルモン療法は、単独で治癒をもたらすことのできる治療ではありませんが、がんの症状を改善すると同時に、患者の余命を延ばす効果が期待できます。ただし、ホルモン療法はやがてその効果を失い、その後はがんが再び進行します。

米国で前立腺がんの治療に用いられるホルモン療法薬には、リュープロレリン、ゴセレリン、トリプトレリン、ブセレリン、ヒストレリン、デガレリクス、レルゴリクスがあり、いずれも下垂体が精巣を刺激してテストステロンを生成する働きを抑えます。レルゴリクス(経口投与)を除き、これらの薬剤は、1カ月、3カ月、4カ月または12カ月に1度の頻度で通院して注射し、通常は生涯にわたって注射を続けます。一部の患者では、この治療を1年か2年行った後いったん中断し、その後再開する場合があります。

テストステロンの作用を阻害する薬剤(フルタミド、ビカルタミド、ニルタミドなど)も用いることがあります。これらの薬は毎日内服して使用します。

ホルモン療法による副作用として、ほてり(ホットフラッシュ)、骨粗しょう症、気力の低下、筋肉量の減少、むくみによる体重増加、性的欲求の低下、体毛の減少、勃起障害乳房の肥大(女性化乳房)などがあります。

もっとも古くからあるホルモン療法は、左右両方の精巣を摘出する手術(両側精巣摘除術)です。両側精巣摘除術によるテストステロン抑制効果は、リュープロレリン、ゴセレリン、ブセレリン、および関連薬剤によって得られる効果と同等です。両側精巣摘除術やその他のホルモン療法は、その肉体的・精神的影響から一部の患者にとっては受け入れがたいものとなっています。

症状を最小限に抑えるため、ホルモン療法を受けている男性には、適度に運動をすること、ビタミンDとカルシウムのサプリメントを服用すること、喫煙をやめること、過度の飲酒を控えることなどが推奨されます。

前立腺がんが広範囲に転移している場合、ホルモン療法は数年後に効果がなくなる可能性があります。ホルモン療法を続けていてもがんが進行する患者は、ほんの数年で死に至る場合があります。

その他の薬剤

ホルモン療法によりテストステロン値が良好に低下したにもかかわらず抑制効果が得られないがんは、去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)と呼ばれます。

近年、延命効果のある多くの治療法が新たに利用可能になり、ホルモン療法と併用する初期治療として、あるいはホルモン療法が不成功に終わった場合の治療として、転移性前立腺がんの治療の早い段階から用いられるようになっています。そのような治療としては、シプロイセル-T(sipuleucel-T、前立腺がんの細胞を標的とするワクチン)、ペムブロリズマブ(免疫療法)、アビラテロン、エンザルタミド、アパルタミド、ダロルタミド(経口ホルモン療法薬の一種)、ドセタキセル、カバジタキセル(化学療法薬)、PARP(ポリ(ADPリボース)ポリメラーゼ)阻害薬などがあり、DNA修復障害またはBRCA1/2遺伝子変異のあるCRPCの患者に用いられます。ラジウム223は静脈内投与により使用する放射性薬剤で、余命の延長効果や骨の転移による特定の合併症(脊髄の損傷等)を予防する効果が得られます。その他の治療法についても現在研究が進んでいます。

ゾレドロン酸やデノスマブなどの骨粗しょう症の治療薬は、がんやホルモン療法(骨を脆弱化する傾向がある)により弱くなった骨を強くするために用いることができます。それらの薬剤は、痛みや骨折しやすくなるなどの問題の治療と予防に役に立ちます。

フォローアップ

どの方法であれ治療後は、定期的にPSA値の測定を繰り返します(最初の1年は3~4カ月毎、その後は生涯にわたり6カ月毎)。手術を受けた場合、1カ月後にはPSAが検出されなくなるはずです。放射線療法を受けた場合は、PSA値はよりゆっくり低下し、通常は検出不能なレベルまでは下がらないものの、低いレベルで安定することが期待されます。PSA値が上昇する場合は、がんが再発している可能性があります。

前立腺がんの予後(経過の見通し)

局所的な前立腺がんの患者の大半では、予後は非常に良好です。前立腺がんを有する高齢男性のほとんどは、前立腺がんがなく全般的な健康状態が同程度の同年齢の人と同じくらい長く生きることが多いです。多くの患者では、長期的な寛解や治癒も期待できます。

予後はがんの悪性度と病期によって異なります。悪性度の高いがんは、できるだけ早期に治療しなければ、予後も悪くなります。がんが周囲の組織に広がっている場合も、予後は不良です。転移した前立腺がんには根治的な治療法がありません。大部分の転移性前立腺がん患者の生存期間は診断後1~3年ですが、より長期間生存する人もいます。

前立腺がんの予防

前立腺がんを確実に予防できる実証済みアプローチはありませんが、健康的な生活習慣を送ることが妥当なアプローチの1つと考えられています。具体的には以下のものがあります。

  • 運動する

  • バランスのとれた食事をとる(赤身肉および飽和脂肪酸の摂取量を制限し、葉物の緑色野菜を多く摂取する)

  • 飲酒量を減らす

  • 禁煙する

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