遺伝子の構成は人によって違い、体が医薬品に及ぼす作用や、医薬品が体に及ぼす作用に影響します。遺伝子の違いが、医薬品に対する反応にどう影響するかを研究する分野を薬理遺伝学といいます。治療を開始する前に、医薬品を代謝する酵素の量を測定できる場合もあります。これは医薬品を処方する前に考慮すべきことです。
ある遺伝子構成をもつ人は、医薬品の変化のプロセス(代謝)がゆっくりと起こります。その結果、医薬品が体内に蓄積し、毒性が生じることがあります。別の遺伝子構成をもつ人は、医薬品の代謝が速すぎて、通常用いられる投与量を服用しても薬の血中濃度が十分に高くならないため、医薬品の効果が得られません。
米国の一部の人では、ある種の医薬品を代謝する肝臓の酵素、N-アセチルトランスフェラーゼの働きが遅いといわれています。このような人はアセチル化が遅い人(slow acetylator)と呼ばれます。この酵素よって代謝されるイソニアジド(結核治療薬)などの医薬品は、アセチル化が遅い人では速い人(fast acetylator)に比べ血中濃度が高くなる傾向があり、医薬品が体内に長くとどまります。
外科手術の間に筋肉を一時的に弛緩させるために投与するスキサメトニウムのような医薬品を不活化する血液中の酵素である、偽性コリンエステラーゼの濃度が低い人がいます。スキサメトニウムが速やかに不活性化されないと、筋肉の弛緩状態が長引き、手術が終わっても、すぐにはいつもどおり自力呼吸できないことがあります。この場合、人工呼吸器の必要な期間が長びきます。
アフリカ系またはアフリカ系アメリカ人を祖先にもつ人の中には、ある種の有毒化学物質から赤血球を保護する酵素であるグルコース-6-リン酸脱水素酵素(G6PD)が欠乏している人がいます。G6PD欠乏症の人に、例えば、マラリアの治療薬であるクロロキンやプリマキンのような医薬品を投与すると、医薬品が赤血球を破壊して、溶血性貧血を引き起こすことがあります。
また、ハロタンやイソフルラン、セボフルランのような特定の吸入麻酔薬に筋肉が過敏に反応するような遺伝子欠損がみられます。こうした人に、これらの麻酔薬のいずれかと筋弛緩薬(通常、スキサメトニウム)を併用すると、悪性高熱症と呼ばれる生命を脅かす病気を引き起こすことがあります。この病気では、熱が非常に高くなります。筋肉が硬直し、心臓の拍動が早くなり、血圧が下がります。



