極寒の環境では、組織が凍結することがあり、ときにはその周辺組織まで破壊されることがあります。
皮膚は感覚がなくなり、白くなったり、腫れて、水疱ができたり、黒く革のような状態になることもあります。
患部は、できるだけ早く、温水で温める必要があります。
ほとんどの場合、時間の経過とともに回復しますが、ときには壊死した組織を取り除くために手術が必要になることがあります。
(寒冷障害の概要 寒冷障害の概要 皮膚と皮下組織は、循環している血液やその他のメカニズムによって、一定の温度(約37℃)に保たれています。 血液は主に、食物を燃焼(代謝)するときに細胞から放出されるエネルギーからその熱を得ています。このプロセスは食物と酸素の安定的な供給を必要とします。体の細胞や組織が適切に機能するには、体温を正常に保つことが必要です。体温が低くなると心臓... さらに読む も参照のこと。)
凍傷による障害は、いくつかの要因が重なって起こります。凍結によって、一部の細胞は破壊されますが、生き残る細胞もあります。寒さで血管が狭くなるため、凍傷部の周辺組織は、それ自体は凍っていなくても血流量が減少するためにダメージを受けます。寒さにより組織の細い血管内に血栓が生じることもあります。この血栓により血流が阻害され、組織が壊死します。患部への血流が再開すると、傷ついた組織から炎症を引き起こす数種類の化学物質が放出されます。炎症により、寒冷障害はさらに悪化します。さらに、凍結した組織が温められると、毒性のある物質が血流に放出されます。
氷点下の外気にさらされると、体のどの部分でも凍傷のリスクが生じます。凍傷の程度は、気温の低さと寒さにさらされている時間により決まります。 糖尿病 糖尿病 糖尿病は、体がインスリンを十分に産生しないかインスリンに正常に反応しないため、血中の糖分の濃度(血糖値)が異常に高くなる病気です。 排尿が増加し、のどが渇くほか、減量しようとしていなくても体重が減少することがあります。 神経を損傷し、知覚に問題が生じます。 血管を損傷し、心臓発作、脳卒中、慢性腎臓病、視力障害のリスクが高まります。... さらに読む や 動脈硬化 動脈硬化 アテローム性動脈硬化とは、太い動脈や中型の動脈の壁の中に主に脂肪で構成されるまだら状の沈着物(アテロームあるいはアテローム性プラーク)が形成され、それにより血流が減少ないし遮断される病気です。 アテローム性動脈硬化は、動脈の壁が繰り返し損傷を受けることによって引き起こされます。... さらに読む がある、血管れん縮(喫煙、神経疾患の一部、ある種の薬が原因)がある、きつすぎる手袋やブーツで血流が阻害されている場合に、凍傷が発生するリスクが最大になります。むき出しになっている手足や顔、耳は最も凍傷になりやすい部位です。濡れたものや金属に触れると、さらに凍傷が加速するため特に危険です。
症状
凍結した組織の深さと量によって症状は異なります。浅い凍傷では皮膚に感覚のない白斑が生じ、温めると剥がれます。やや深い凍傷では水疱と腫れがみられます。より深い凍傷では手足の感覚がなくなり冷たく硬くなります。患部は青白く冷たくなります。しばしば水疱が現れます。水疱内の液が透明であれば、血が混じっている場合よりも損傷が軽度であることを示唆します。
壊死した組織によって、手足が灰色で軟らかくなることがあります(湿性壊疽[しっせいえそ])。湿性壊疽が起こると、多くの場合、手足の切断が必要になります。より頻度が高いのは、壊死した組織が黒く変色して革のような状態になる乾性壊疽(かんせいえそ)です。
診断
医師の診察
寒冷な環境にさらされたという事実
凍傷は、寒冷な環境にさらされたという事実と、特徴的な外観に基づいて診断されます。ときに凍傷は初期の数日間、非凍結性の障害と見分けがつかないことがあります。時間が経つと、凍結した組織は特徴的な変化を示すため、 非凍結性の障害 非凍結性の組織障害 非凍結性の組織障害は、皮膚の一部が極度に冷えているものの凍結はしていない状態です。 ( 寒冷障害の概要も参照のこと。) 非凍結性の組織障害にはフロストニップ、浸水足、しもやけ(凍瘡)があります。 フロストニップは、冷えた部分の皮膚がしびれ、腫れて赤くなる 寒冷障害です。治療は冷えた部分を数分温めるだけです。温めると、患部に激しい痛みやかゆみが生じます。症状が永続することはありませんが、患部は数カ月から数年間は冷たさに過敏になる場合があり... さらに読む と区別できます。
治療
患者を温める
患部を温水に浸す
病院に着くまで
凍傷を負った人は 低体温症 低体温症 低体温症は、危険なほど体温が低くなった状態です。 低体温症は、寒冷な環境にさらされることによって発生したり悪化したりするため、 寒冷障害と呼ばれることが多くあります。 非常に寒い環境に身を置いたり、特定の病気があったり、動くことができない状況にある場合、低体温症による害が生じるリスクが高くなります。 最初はふるえが起こりますが、その後、錯乱状態となり、意識を失います。 体温が下がりきってしまう前に、体を温めて濡れた衣類を乾かすことができ... さらに読む になっている可能性もあるため、温かい毛布にくるむようにします。可能であれば、すぐに患部を温め始めます。患部を温水に浸ける場合、温水は介助者がさわって気持ちよいと感じる温度(約40℃)より熱くしてはいけません。 患部をこすると(例えば雪などで)組織のさらなる損傷につながるため、こすらないようにします。凍傷になると感覚がなくなり、たとえ熱傷(やけど)が生じても本人は気づきません。そのため、暖炉やたき火の前で温めたり、電気座布団や電気毛布などを使ってはいけません。
一度溶けかかった組織が再凍結すると、凍結したままの状態よりも損傷はさらにひどくなります。そのため凍傷の患者が再び凍りつくような寒気にさらされる場合、特に凍傷になった足で歩かなければならない場合には、患部は凍ったままにしておきます。足の凍傷が溶けかかっている状態で歩くと、損傷がひどくなります。また、損傷した組織を保護するために、患部をこすったり締めつけたりしないよう細心の注意を払う必要があります。通常は足を清潔にして、乾かし、何かで覆うようにします。患者を温め、可能であれば鎮痛薬を与えます。そして、できるだけ早く病院に連れていきます。
病院
病院では、温める治療を開始するか、すでに温められている場合はそれを続けます。完全に温まるのに15分から30分かかります。温めている間、患部をやさしく動かすようにします。温めると凍傷部分に強い痛みが生じるため、オピオイド鎮痛薬の注射が必要になる場合があります。水疱はつぶさないようにします。つぶれた場合には抗菌薬の軟膏を塗って保護します。
一度組織を温めたら、凍傷部位をやさしく洗って乾かし、滅菌した包帯で覆って、清潔で乾いた状態に保つよう注意し感染を防ぎます。炎症を緩和するには、抗炎症薬のイブプロフェンを服用するか、アロエベラのゲルを患部に塗布します。感染している場合は抗菌薬の投与が必要ですが、凍傷が重度の場合は感染予防のために必ず抗菌薬を投与すべきだという医師もいます。患部の血液循環を改善させるため薬を静脈または動脈内投与する医師もいますが、この治療が有益なのは凍傷を負ってから数日以内だけです。患者が破傷風ワクチンを接種したことがないか、破傷風ワクチンの追加接種時期が来ている場合には、 破傷風トキソイド 破傷風 破傷風は、嫌気性細菌の破傷風菌 Clostridium tetaniが作り出す毒素によって引き起こされる病気です。この毒素によって筋肉が不随意に収縮し、硬くなって動かせなくなります。 破傷風は通常、傷口や皮膚を突き破るようなけがなどが汚染されることで発生します。 診断は症状に基づいて下されます。 ワクチン接種と適切な創傷ケアにより破傷風を予防できます。 治療では、破傷風免疫グロブリンを投与して毒素を中和し、治まるまで症状を... さらに読む を接種することがあります。
退院後
体が十分な熱を確実に産生できるよう、栄養のある食事をとる必要があります。
約37℃のお湯が入ったジェットバスに1日3回浸かり、やさしく乾かした後、ゆっくりと休憩をとるのが、継続すべき最良の治療法です。多くの場合、数カ月かけて徐々に状態は改善しますが、壊死した組織を取り除くために手足の切断が必要になる場合もあります。一般に凍傷は、受傷直後は広範囲に広がり重症のようにみえますが、切断を行うかどうかの決定は、数カ月経って患部が十分に治癒してからにします。核医学検査、マイクロ波サーモグラフィー、レーザードプラ血流検査などの画像検査が、回復が期待できる部位とそうでない部位を判断するのに役立つことがあります。回復が見込めない部位は切断する必要があります。一部の患者は凍傷が治った後、患部がしびれたり、冷気や冷水に過敏になることがあります。