タンパク質同化ステロイドは、筋肉の成長を促し、筋力と活力を増強するホルモンです。
タンパク質同化ステロイドには多くの副作用もあり、精神的なもの(気分変動、攻撃的行動、易刺激性)や、身体的なもの(にきび、女性の男性化、男性の乳房腫大)が含まれます。
これらの物質は6カ月後まで尿中で検出できます。
治療は使用をやめることです。
(薬物使用と薬物乱用 物質関連障害の概要 薬物は、それが合法的な医療用の薬剤であるか、娯楽目的で使用される薬物(レクリエーショナルドラッグ)であるかにかかわらず、現在では多くの人々にとって、日々の生活になくてはならないものになっています(表「 医療用途と娯楽用途がある薬物」を参照)。 物質関連障害は、脳の報酬系を直接活性化する物質(薬物など)を、それがもたらす快感を求めて使用する... さらに読む も参照のこと。)
タンパク質同化ステロイドは、ホルモンであるテストステロンと、それに関連する薬を含みます。タンパク質同化ステロイドには、筋肉の成長の促進や筋力と活力の増強など、多くの身体的な作用があります。したがってこれらの薬は、スポーツで競争力を上げるためにしばしば違法に使用されます。この薬物を使用する人の多くがアメリカンフットボール選手、レスラー、ボディビルダー、重量挙げ選手などの運動選手で、大半が男性です。
タンパク質同化ステロイドは、医療では、通常テストステロン低値(性腺機能低下症 男性生殖器系への加齢の影響 男性の性機能は徐々に変化していきますが、これが加齢そのものによって生じるのか、それとも加齢に伴う病気などが原因なのかは明らかではありません。勃起の頻度、持続時間、硬さは、加齢とともに徐々に衰えていきます( 勃起障害を参照)。男性ホルモン(テストステロン)の値が低下する傾向があり、それにより 性的欲求(性欲)が弱まります。陰茎(ペニス)への血流量が減少します。その他の変化には以下のものがあります。... さらに読む )の治療に使用されますが、場合によっては寝たきりの人や重度の熱傷を負った人、がん患者、エイズ患者に対して、筋肉の衰えを防ぐために使用されます。
薬の投与は、服用、筋肉内注射、または皮膚へのゲルの塗布やパッチ剤の貼付などで行われます。
運動選手は、一定期間ステロイドを使用した後に中断し、また再開するという過程を1年に数回繰り返すことがあります。これをサイクリングといいます。運動選手はまた、しばしば多くのステロイドを同時に(スタッキングと呼ばれる行為)、また様々な経路(経口、注射、パッチ剤)で使用します。サイクル毎に用量を増やすこともあります(ピラミッド法と呼ばれます)。ピラミッド法の結果、極めて高用量になります。サイクリング、スタッキング、ピラミッド法には望ましい作用を高めて有害な作用を最小限とする意図がありますが、そのような恩恵を裏付ける証拠はほとんどありません。
タンパク質同化ステロイドは、病気の治療に使用される用量で問題を起こすことはほとんどありません。しかし、運動選手はその10~50倍もの用量を摂取する場合があります。
症状
タンパク質同化ステロイドには身体的な作用と精神的な作用があります。使用量が増えれば、それだけ作用が強くなります。
身体作用
タンパク質同化ステロイドの主な身体作用は以下のものです。
筋肉量の増加
その他の身体作用には、以下のものが含まれます。
女性では、禿頭、過剰な体毛(男性型多毛症 多毛 男性では、体毛の量は人によって大きく異なりますが( 毛髪の成長の概要も参照)、医療機関を受診するほど体毛の多さに悩んでいる人はごくわずかです。女性では、過剰とされる体毛の量は民族的背景や文化によって様々です。通常、過剰な体毛は美容的、精神的に問題となるだけです。しかし、ときにその原因が重篤な内分泌疾患である場合もあり、特に男性的な特徴(男性化)がみられた女性では、そうである可能性が高いです。... さらに読む
)、陰核の肥大、声の低音化、乳房の縮小、腟粘膜が薄くなる(萎縮)などの男性化
男性の女性化乳房と女性の男性化は元に戻らない場合があります。
男女ともに、にきびが増えます。性欲が増加またはまれに減退します。攻撃性と食欲が増加することがあります。若年の青年では、ステロイドは腕や脚の骨の発達を妨げます。
長期間の使用により、赤血球の産生が過剰になり、血中の脂肪(脂質 コレステロールと脂質の病気の概要 血液中にみられる重要な脂肪(脂質)には以下のものがあります。 コレステロール 中性脂肪(トリグリセリド) コレステロールは、細胞膜や脳と神経の細胞に必須の成分であるほか、脂肪と脂溶性ビタミンの吸収を助ける胆汁にも不可欠な物質です。体はコレステロールを使って、エストロゲン、テストステロン、コルチゾールなどの様々なホルモンやビタミンDをつくり... さらに読む )量が異常になります。いわゆる悪玉である低比重リポタンパク質(LDL)コレステロールが増加し、善玉である高比重リポタンパク質(HDL)コレステロールが減少します。 高血圧 高血圧 高血圧とは、動脈内の圧力が恒常的に高くなった状態のことです。 高血圧の原因は不明のことも多いですが、腎臓の基礎疾患や内分泌疾患によって起こる場合もあります。 肥満、体を動かさない生活習慣、ストレス、喫煙、過度の飲酒、食事での過剰な塩分摂取などはすべて、遺伝的に高血圧になりやすい人の高血圧の発症に何らかの形で関与しています。... さらに読む 、 脳卒中 脳卒中の概要 脳卒中は、脳に向かう動脈が詰まったり破裂したりして、血流の途絶により脳組織の一部が壊死し(脳梗塞)、突然症状が現れる病気です。 脳卒中のほとんどは虚血性(通常は動脈の閉塞によるもの)ですが、出血性(動脈の破裂によるもの)もあります。 一過性脳虚血発作は虚血性脳卒中と似ていますが、虚血性脳卒中と異なり、恒久的な脳損傷が起こらず、症状は1時間... さらに読む 、 心臓発作 急性冠症候群(心臓発作、心筋梗塞、不安定狭心症) 急性冠症候群は、冠動脈が突然ふさがる(閉塞)ことによって起こります。閉塞の位置と量に応じて、不安定狭心症か心臓発作(心筋梗塞)が起こります。心臓発作とは、血液供給がなくなることにより心臓の組織が壊死する病気です。 急性冠症候群を発症すると、通常は胸部の圧迫感や痛み、息切れ、疲労などが起こります。 急性冠症候群が起きたと思ったら、まず救急車を呼んでから、アスピリンの錠剤を噛み砕いて服用します。... さらに読む
、血栓など、重度の心血管系の合併症がタンパク質同化ステロイドの使用に伴って報告されています。
精神作用
ステロイドにはいくつかの精神作用があります(通常は高用量のときのみ)。
激しく不安定な気分変動
非理性的な行動
攻撃性の増大(ステロイド激高、「ロイド」レージ)
易怒性
男性(ときに女性)での性欲(リビドー)の増加
抑うつ
診断
尿検査
タンパク質同化ステロイドの分解産物を確認するには尿検査を行います。このような分解産物は使用中止から6カ月後まで検出できます。
予防
青年および若年成人には中学校からステロイド摂取のリスクについて教えるべきです。また、筋肉量を増やし筋力を高める健康的な代替法を教えるプログラムも役立ちます。このようなプログラムでは、十分な栄養とウェイトトレーニング技術を強調しています。
治療
ステロイド使用の中止
主な治療は使用を中止することです。身体依存は起こりませんが、特に競争の激しいボディビルダーに精神依存が起こることがあります。 女性化乳房 男性の乳房腫大 乳房の病気がまれに男性に起こります。乳房の病気には以下のものがあります。 乳房腫大 乳がん 男性の乳房腫大は、女性化乳房または偽性女性化乳房と呼ばれます。 女性化乳房は乳腺からなる乳房組織そのものが大きくなることです。 さらに読む (男性の乳房組織の腫大)は手術による切除が必要になる場合もあります。
さらなる情報
米国国立薬物乱用研究所:タンパク質同化ステロイド(National Institute on Drug Abuse (NIDA): Anabolic steroids)
米国薬物乱用・精神衛生サービス局(Substance Abuse and Mental Health Services Administration [SAMHSA])