感電による外傷は、欠陥のある電気製品や機械に触れたり、家庭内配線や送電線にうっかり触れたりすることで発生します。 家庭内にある電気コンセントへの接触や小型電化製品による感電で重い症状が現れることはまれですが、米国では高電圧への接触事故で毎年約300人が死亡しています。
電気は体にどのような影響を与えるか
電流の強さ
電流の強さ(電力)は電圧(ボルト)と電流(アンペア)の大きさで決まります。米国の一般家庭用の電圧は110ボルトまたは220ボルトです。他の国では多くの場合、標準的な家庭用電圧は220ボルトです。標準的な電気コンセントは110ボルトですが、ドライヤーや冷蔵庫などの消費電力の高い電化製品には220ボルトのものが使われます。500ボルトを超えると、すべて高電圧とみなされます。電圧が高いと、電圧の大きさによりますが数センチメートルから数メートルまで空中を飛ぶことがあります(アーク放電)。そのため、高圧電線に近づいただけでけがを負うこともあります。高電圧では、低電圧より重度のけがを負い、内部損傷が生じる可能性も高くなります。
電流の種類
電流には直流(DC)と交流(AC)の2種類があります。直流は、電池から得られる電流のように、常に同じ方向に流れます。交流は、欧米の家庭の壁にある電気コンセントから得られる電流のように、流れる方向が1秒間に50~60回も変化しています。交流は直流よりも危険です。直流に触れても筋収縮が単発的になりやすく、筋収縮が強くても電源から弾き飛ばされるだけで済む場合がよくあります。交流に触れると持続的な筋収縮を生じるため、電源を握った手が離せなくなる場合が多くなります。その結果、電流との接触が長く続くことになります。軽い電撃をかろうじて感じとれるくらいの弱い交流でも、握った手が固まって離せなくなることがあります。それより少し強いと、胸の筋肉が収縮して呼吸ができなくなることもあります。さらに電流が強くなると、致死的な不整脈(心拍リズムの異常)を起こすことがあります。
電流の経路
接触時間
電流に対する電気抵抗
電気抵抗とは電流を妨げる能力のことです。体の電気抵抗のほとんどは皮膚に集中しています。皮膚が厚いほど電気抵抗は大きくなります。例えば、皮膚にたこができた手のひらや足の裏は、腕の内側のような皮膚の薄い部分よりはるかに電気抵抗が高いです。ひび割れや擦り傷といった皮膚損傷がある場合や皮膚がぬれている場合は、皮膚の電気抵抗が低下します。皮膚の電気抵抗が高いと、損傷が局所的になることが多く、皮膚の熱傷だけで済むことがよくあります。皮膚の電気抵抗が低いと、損傷が内臓に及ぶことが多くなります。そのため、ヘアドライヤーを浴槽に落とした場合や、落下した電線と接触している水たまりに足を踏み入れた場合など、体がぬれた状態で電気に触れると、損傷はほとんど体内に及んでいます。
症状
感電の主な症状はたいてい皮膚の熱傷ですが、必ずしも体の外部に損傷がみられるとは限りません。高電圧による外傷では、体内に大きな熱傷ができる場合があります。 筋肉の損傷が広範囲にわたる場合、腕や脚が大きく腫れて動脈が圧迫され、手足への血液供給が妨げられます(コンパートメント症候群)。眼の近くを電気が流れた場合は白内障になるおそれがあります。白内障は、外傷を受けた数日後にみられる場合も、数年後に現れる場合もあります。損傷を受けた筋肉が多い場合、ミオグロビンという化学物質が血液中に放出されます(横紋筋融解症と呼ばれる病態)。このミオグロビンは腎臓に損傷を与えることがあります。
幼児は電源コードをかんだりしゃぶったりして口や唇に熱傷を負うことがあります。こうした熱傷により、顔が変形したり、歯、あご、顔などの成長に問題が生じることがあります。その他の危険性として、通常は熱傷を負った5~10日後にかさぶたが落ちますが、その際に唇の動脈から大量出血を起こすこともあります。
軽い電撃でも、筋肉に痛みが生じることがあり、軽い筋収縮を起こしたり、驚いて転倒したりする場合があります。重度の電撃で不整脈が生じることがありますが、さほど問題ない場合から、直ちに死に至る場合まで様々です。重度の電撃では、地面に投げ出されたり、関節脱臼、骨折、その他の鈍的外傷などが生じたりするほどの強力な筋収縮が誘発されることもあります。
診断
予防
予防には、電気についての理解を深める教育が欠かせません。家庭や職場で感電による外傷を防ぐには、すべての電化製品の設計、設置、メンテナンスが適切になされていることを確認します。電気配線の設置とメンテナンスは、適切な訓練を受けた人に依頼すべきです。乳幼児がいる家庭では、コンセントカバーを使用することでリスクを減らせます。
体に触れるか、そのおそれがある電気機器は、アース線を適切に接続すべきです。3Pプラグが最も安全です。アースがない古いタイプの二穴コンセントに合わせるために、電気コードの3Pプラグからアース極(グランド)を切り落とすのは危険で、感電の危険性が高くなります。台所や風呂場のように水にぬれる場所や屋外では、5ミリアンペアほどのわずかな漏電が起きても電流を遮断(トリップ)する漏電ブレーカーの設置が勧められます。
高圧送電線の近くでは、アーク放電による外傷を避けるために、柱を立てたり、はしごを使用したりしてはいけません。
治療
まず、感電した被害者を電源から引き離さなければなりません。そのために最も安全な方法は電流を止めることで、例えば、ブレーカーやスイッチを切る、電気機器のコードをコンセントから外すといったことです。電流が遮断されるまで感電した人に触れてはいけません。特に高圧線から感電している可能性がある人に触れることは極めて危険です。
高圧線と低圧線を区別することは難しく、野外では特に区別が困難です。高圧線の電流遮断は、地域の電力会社が行います。善意から被害者を助けようとして、多くの救助者が事故に遭っています。
被害者に触れても安全なことが確認されたら、すぐに呼吸と脈拍を調べるべきです。 呼吸も脈拍もない場合は、すぐに心肺蘇生を始めるべきです。軽度の外傷でない限り、救急隊を呼ぶ必要があります。感電による熱傷の判断はあてにならないことがあるため、重症度について何らかの疑いがある場合は病院を受診するべきです。
横紋筋融解症の場合、通常は大量の輸液が投与されます。
必要であれば、破傷風の予防注射が行われます。
傷口に痛みがあれば、鎮痛薬が投与されます。
皮膚の熱傷の治療には、熱傷用クリーム(スルファジアジン銀、バシトラシンなど)を塗り、滅菌包帯を巻きます。皮膚の熱傷が軽い場合は、通常は自宅で治療できます。皮膚の熱傷がより重い場合は、病院(理想的には熱傷センター)に入院します。次のいずれかが認められる場合、6~12時間は入院する必要があります。
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心拍または心電図の検査結果が異常
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他に重い外傷がある
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妊娠している(常に必要なわけではないが、多くの場合必要)
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もともと心臓に問題がある(常に必要なわけではないが、多くの場合必要)
幼児が電源コードをかんだりしゃぶったりしてけがをした場合は、小児科の矯正歯科医や口腔外科医、あるいはこのようなけがに熟練した外科医の診察を受けるべきです。