
チロシン血症は、チロシンというアミノ酸の代謝に必要な酵素が欠損しているために起こります。
症状には、知的障害、肝臓と腎臓の病気、ゆでキャベツのような匂いを発する体液などがあります。
診断は血液検査の結果に基づいて下されます。
一部の小児では、食事療法と、ときに薬剤が役立つ可能性があります。
アミノ酸 タンパク質 炭水化物、タンパク質、脂肪は、食物の乾燥重量の90%を占め、食物のエネルギーの100%を供給しています。3つともエネルギー(単位はカロリー)を供給しますが、1グラム当たりのエネルギーの量は次のように異なります。 炭水化物とタンパク質は1グラムにつき4キロカロリー 脂肪は1グラムにつき9キロカロリー これらの栄養素はエネルギーを供給する速度も異なります。最も速いのが炭水化物、最も遅いのが脂肪です。... さらに読む はタンパク質の構成成分であり、体内で多くの機能を果たしています。チロシン血症の小児は、アミノ酸であるチロシンを完全に分解(代謝)することができません。このアミノ酸の代謝副産物が蓄積することで、様々な症状が現れます。また、これらの副産物のため、尿や汗などの体液からゆでキャベツのような匂いがします。
遺伝性疾患 単一遺伝子疾患の遺伝 遺伝子とは、DNA(デオキシリボ核酸)のうち、細胞の種類に応じて機能する特定のタンパク質の設計情報が記録された領域のことです。 染色体は非常に長いDNA鎖からできており、そこには多く(数百~数千)の 遺伝子があります。特定の細胞(例えば、精子と卵子)を除き、人間の正常な細胞には23対の染色体があります。22対の常染色体と1対の性染色体があり、合わせて46本の染色体があります。通常、それぞれの対を構成する染色体は、片方を母親から、もう片方... さらに読む には様々な種類があります。チロシン血症では、患児の両親がともに異常な遺伝子のコピーをもっています。通常、病気の発生には異常な遺伝子のコピーが2つ必要であるため、普通はいずれの親にも疾患は現れていません。(遺伝性代謝疾患の概要 遺伝性代謝疾患の概要 遺伝性代謝疾患とは、代謝の問題を引き起こす遺伝性の病気です。 遺伝とは、ある世代から次の世代へ遺伝子が受け継がれることを意味します。子どもは親の遺伝子を受け継ぎます。子どもが、代謝制御に関わる欠陥のある 遺伝子を受け継ぐと、遺伝性代謝疾患を発症します。 遺伝性疾患には様々な種類があります。ほとんどの遺伝性代謝疾患では、患児の両親がともに異... さらに読む も参照のこと。)
米国の一部の州では、 新生児スクリーニング検査 新生児スクリーニング検査 出生時に分からない重篤な病気の多くは、様々なスクリーニング検査により発見できます。新生児の健全な発達を妨げるような多くの病気を早期に診断し、迅速に治療を行うことで、症状を軽くしたり、予防したりすることができます。どこでも必ず行われる検査もあれば、特定の州だけが義務づけている検査もあります。スクリーニング検査の結果が陽性の場合、他の検査もしばしば追加されます。 典型的なスクリーニング検査には以下のものがあります。... さらに読む でこの病気の有無を調べています。
チロシン血症は、以下の通り主に2つの病型と、あまりみられないもう1つの病型に分類されます。
I型
II型
III型(まれ)
チロシン血症I型
チロシン血症I型が最も多くみられるのは、フランス系カナダ人やスカンジナビア系の小児です。
新生児には肝不全がみられることがあります。月齢の高い乳児や小児には、肝臓、腎臓、神経の機能障害が起こり、その結果、むずかりがみられたり、 くる病 低リン血症性くる病 低リン血症性くる病は、電解質の一種であるリンの血中濃度が低下するために、骨の痛みと軟化が生じ、骨が曲がりやすくなる病気です。 ( 先天性の尿細管疾患に関する序も参照のこと。) この非常にまれな病気は、ほぼ常に遺伝性で、最も一般的にはX染色体(2種類ある性染色体の一方)にある 優性遺伝子を介して遺伝します。 腎臓の尿細管の遺伝的な異常により、多量のリンが尿中に排泄される結果、血液中の... さらに読む になったりするだけでなく、肝不全や死亡に至ることもあります。
米国のすべての州は、血液検査によるチロシン血症I型のスクリーニングをすべての新生児に義務づけています。診断の確定には、遺伝子検査またはその他の血液検査や尿検査、そして肝臓の生検が行われます。
アミノ酸であるチロシンとフェニルアラニンが少ない食事が推奨されます。ニチシノン(NTBCとも呼ばれます)という薬剤は、有害な代謝物の生成を防ぐため、チロシン血症I型の小児に効く可能性があります。チロシン血症I型の小児の多くは、 肝移植 肝移植 肝移植とは、健康な肝臓またはときに生きている人から肝臓の一部を手術で摘出し、肝臓が機能しなくなった人に移植することです。 ( 移植の概要も参照のこと。) 肝移植は2番目に多い臓器移植です。肝臓が機能しなくなった人々に残された唯一の選択肢です。 完全な形の肝臓は死亡した人からしか提供を受けられませんが、肝臓の一部であれば生きているドナーでも提供できます。移植用の肝臓は摘出後、最長で18時間保存できます。... さらに読む が必要になります。
チロシン血症II型
チロシン血症II型はI型よりも珍しい病気です。この病気の小児は 知的障害 知的能力障害 知的能力障害(一般に知的障害とも呼ばれます)とは、出生時や乳児期の初期から知能の働きが明らかに標準を下回り、正常な日常生活動作を行う能力が限られている状態です。 知的能力障害は、遺伝的な場合もあれば、脳の発達に影響を与える病気の結果として起こる場合もあります。 知的能力障害がある小児のほとんどでは、就学前まで目立った症状が現れません。 診断は正式な検査の結果に基づいて下されます。... さらに読む を起こすことがあり、眼や皮膚にたびたび潰瘍が発生します。
チロシン血症II型の診断は血液検査によるものです。その他の血液検査や尿検査、肝臓の生検が行われることもあります。
チロシン血症II型の治療は、チロシンとフェニルアラニンを制限した食事療法です。
チロシン血症III型
チロシン血症III型は非常にまれな病気です。最もよくみられる症状は、軽度の 知的障害 知的能力障害 知的能力障害(一般に知的障害とも呼ばれます)とは、出生時や乳児期の初期から知能の働きが明らかに標準を下回り、正常な日常生活動作を行う能力が限られている状態です。 知的能力障害は、遺伝的な場合もあれば、脳の発達に影響を与える病気の結果として起こる場合もあります。 知的能力障害がある小児のほとんどでは、就学前まで目立った症状が現れません。 診断は正式な検査の結果に基づいて下されます。... さらに読む 、けいれん発作、周期的な平衡感覚の消失と協調運動障害です。
チロシン血症III型の診断は、新生児の血液を用いたスクリーニング検査によります。スクリーニング検査で異常が出れば、尿検査と血液検査も行われます。
チロシン血症III型の治療は、チロシンとフェニルアラニンを制限する食事療法です。