胎児では精巣は腹部の中で発育します。精巣が発育した後、一般的には出生前(通常は第3トリメスター[訳注:日本のほぼ妊娠後期に相当])に腹部から会陰部へとつながる管(鼠径管)を通って下降し、陰嚢の中へと入ります。
精巣が下降した後、通常は管が閉じます。管が完全に閉じないと、 鼠径ヘルニア 鼠径ヘルニア 鼠径ヘルニアとは、太ももの付け根(鼠径部)にある腹壁の開口部から、腸管や他の腹部臓器の一部が突出した状態のことをいいます。 鼠径部または陰嚢(いんのう)に痛みのない膨らみができます。 診断にはCT(コンピュータ断層撮影)検査または超音波検査を使用できます。 女性の場合、症状がある場合、または絞扼(こうやく)や嵌頓(かんとん)がみられる場合は、手術が行われます。 ( 腹壁ヘルニアも参昭のこと。) さらに読む が発生する可能性があります。鼠径ヘルニアが症状を引き起こすことはめったにありませんが、多くの場合、医師は鼠径ヘルニアを触知できます。
腹部からの体液が精巣の周囲にたまり、管が閉じた後に陰嚢の中にとどまることがあります。このとどまった体液は陰嚢水腫という軟らかいしこりになり、通常は生後1年以内になくなります。(陰嚢の腫れ 陰嚢の腫れ 片方または両方の陰嚢(精巣を包んで保護している袋)の腫れは、 尿路疾患の症状である場合があります。腫れは、わずかで陰嚢を入念に触診して初めて検出できる場合もあれば、極めて大きくなり外見から明らかな場合もあります。陰嚢の腫れを引き起こす病気には、同時に 陰嚢痛を引き起こすものもあります。 痛みのない陰嚢の腫れは、一般的に害のない変化が原因である場合もあれば、がんの徴候であることもあります。原因はいくつかあります。... さらに読む も参照のこと。)
停留精巣
正期産(9カ月)で生まれた男児100人のうち約3人の割合で、出生時に停留精巣がみられます。しかし、 未熟 早産児 早産児とは、在胎37週未満で生まれた新生児です。生まれた時期により、早産児の臓器は発達が不十分であるため、子宮外で機能する準備がまだできていないことがあります。 早産の既往、多胎妊娠、妊娠中の栄養不良、出生前ケアの遅れ、感染症、生殖補助医療(体外受精など)、および高血圧などがある場合に、早産児を出産するリスクが高くなります。 多くの臓器の発達が不十分であるため、早産児では呼吸したり哺乳したりすることが難しく、脳内出血、感染症や他の異常が... さらに読む な状態で生まれた男児では100人のうち約30人に停留精巣がみられます。停留精巣があった家族がいる男児でも、この状態にある可能性が高まります。精巣が下降しないのは通常は片方だけですが、約10%の患者で両方の精巣が下降しません。
停留した精巣はたいてい鼠径管にありますが、腹腔内にあることもあります。約3分の2の停留精巣が、正期産児では生後4カ月までに、早産児では早産児でなかった場合に出生が予定されていた日から4カ月経過するまでに、自然に下降します。精巣が出生時に腹腔内にとどまっていた場合は、自然に下降する可能性がはるかに低くなります。
停留精巣
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停留精巣が症状を引き起こすことはほとんどありません。しかし、停留した精巣によって成長後の精子の産生が妨げられ、 精巣腫瘍 精巣腫瘍 精巣腫瘍は若い男性によくみられますが、通常は治癒させることが可能です。 通常は痛みのないしこりができます。 超音波検査と血液検査を実施します。 精巣を除去し、放射線療法または化学療法を行う場合や、さらに手術を行う場合があります。 精巣腫瘍の多くは40歳未満の男性に発生します。この腫瘍は若い男性に多い悪性腫瘍の1つで、毎年約9600人の男性に発生し、約410人が死亡しています。精巣に多くみられる悪性腫瘍には、セミノーマ(精上皮腫)、奇形腫... さらに読む のリスクが高まることがあります。腹腔内に停留した精巣は、ねじれて(精巣捻転 精巣捻転 精巣捻転(せいそうねんてん)とは、精巣が回転して精索がねじれてしまった状態で、精巣への血流が妨げられます。 精巣捻転が起きると、激しい痛みが突然起きた後、捻転が起きた側の精巣が腫れ上がります。 精巣捻転の診断には、医師による診察のほか、ときに超音波検査が必要になります。 治療は精巣のねじれを解除することです。 精巣捻転は通常、12歳から18歳くらいの男児に起こり、ときに乳児期にも起こりますが、どの年齢でも起こる可能性があります。精巣を覆... さらに読む )重度の痛みを引き起こすことがあります。停留精巣がある新生児のほとんどで鼠径ヘルニアもみられます。
医師は、出生時と毎年の 小児健診 小児の健診 定期的に健康診断(小児健診)を受けると、小児の成長と発達についての情報が得られます。このような定期健診は、例えば トイレトレーニングについて、親が質問をしたり助言を求める機会でもあります。米国小児科学会では、生後1年以降、1歳、1歳3カ月、1歳半、2歳、2歳半に健診を受け、その後は6歳まで年に1回健診を受けるよう推奨しています。その後は、8歳と10歳のときに健診を受けるよう推奨しています。医師の指導がある場合や、家族が必要を感じた場合は... さらに読む の際に陰嚢の身体診察を行って精巣がないか調べます。片方または両方の精巣に触れられない場合、精巣が単純に鼠径管の中へ引っ込んでいる状態(移動性精巣 移動性精巣 停留精巣(潜在精巣)とは、陰嚢(いんのう)の中に下りてくるはずの精巣が腹部にとどまったままになっている状態です。移動性精巣(遊走精巣)とは、精巣が陰嚢の中まで下りてきているにもかかわらず、刺激に反応して容易に鼠径管(そけいかん)の中に戻ってしまう(移動する)ことです。 胎児では精巣は腹部の中で発育します。精巣が発育した後、一般的には出生前(通常は第3トリメスター[訳注:日本のほぼ妊娠後期に相当])に腹部から会陰部へとつながる管(鼠径管)... さらに読む
を参照)ではないことを確認します。停留精巣のほとんどは乳児期に診断されますが、その後の小児期、たいていは成長スパート以降に診断されることもあります。精巣が陰嚢の中にない場合、泌尿器科医(尿路や男性生殖器系を専門とする医師)による診察が必要です。まれに、 超音波検査 超音波検査 腎疾患または尿路疾患が疑われる場合の評価には、様々な検査が用いられます。( 尿路の概要も参照のこと。) 尿路を評価する際、X線検査は通常役に立ちません。ある種の 腎結石の検出と腎結石の位置や大きさの確認には、X線検査が役立つことがあります。単純X線検査では撮影されないタイプの腎結石もあります。 超音波検査は以下の点で有用な画像検査です。 電離放射線や造影剤の静脈内投与(ときに腎臓を損傷します)が不要である... さらに読む や MRI検査 MRI検査 腎疾患または尿路疾患が疑われる場合の評価には、様々な検査が用いられます。( 尿路の概要も参照のこと。) 尿路を評価する際、X線検査は通常役に立ちません。ある種の 腎結石の検出と腎結石の位置や大きさの確認には、X線検査が役立つことがあります。単純X線検査では撮影されないタイプの腎結石もあります。 超音波検査は以下の点で有用な画像検査です。 電離放射線や造影剤の静脈内投与(ときに腎臓を損傷します)が不要である... さらに読む (磁気共鳴画像検査)が行われることがあります。
正期産児で生後約6カ月まで、早産児で生後1年までに精巣が下降しなければ、手術が必要です。精巣の位置によっては、開腹手術か腹腔鏡手術(内視鏡で腹腔内を観察します)を行うことによって精巣を陰嚢内へと下降させることができます。乳児に鼠径ヘルニアがある場合は、それも修復します。
移動性精巣
移動性精巣(遊走精巣)とは、陰嚢の中に下りてきた精巣が陰嚢と鼠径管の間で容易に行ったり来たりする状態です。精巣が接触、温度、恐怖、または笑いに対する反射として上に移動します。このような反応はよくみられ、乳児や小児では特に多くみられます。移動性精巣が、がんやその他の合併症を引き起こすことはありません。
医師は 小児健診 小児の健診 定期的に健康診断(小児健診)を受けると、小児の成長と発達についての情報が得られます。このような定期健診は、例えば トイレトレーニングについて、親が質問をしたり助言を求める機会でもあります。米国小児科学会では、生後1年以降、1歳、1歳3カ月、1歳半、2歳、2歳半に健診を受け、その後は6歳まで年に1回健診を受けるよう推奨しています。その後は、8歳と10歳のときに健診を受けるよう推奨しています。医師の指導がある場合や、家族が必要を感じた場合は... さらに読む の際に精巣を調べ、成長しても陰嚢内の正しい位置に精巣があることを確認します。精巣は大きくなるため、たいていは思春期まで上に移動しなくなります。移動性精巣には手術やその他の治療は不要です。