神経芽腫の原因は不明です。
症状は神経芽腫が発生した部位によって異なります。神経芽腫は、例えば、腹部、胸部、骨、皮膚、脊髄などに発生します。
診断に際して通常は画像検査と生検が行われます。
治療法は患児の年齢とがんの特徴によって異なり、手術、化学療法、放射線療法などがあります。
(小児がんの概要 小児がんの概要 小児におけるがんはまれです。米国では、出生後から14歳までの小児における毎年の症例数は1万3500例未満、死亡は約1500例です。それに対して、成人における毎年の症例数は140万例、死亡は575,000例です。しかしながら、がんは小児の死因としてはけがに次いで第2位です。小児がんの約33%が... さらに読む も参照のこと。)
神経芽腫は、体の様々な部位にある特定の神経組織に発生します。たいてい腹部や胸部の神経に発生しますが、最も多いのは(左右の腎臓の上に1つずつある) 副腎 副腎の概要 人間の体には2つの副腎があり、それぞれ左右の腎臓の上部に位置しています。これらは 内分泌腺であり、血液中にホルモンを分泌します。それぞれの副腎には以下の2つの部分があります。 髄質:副腎内部は、アドレナリン(エピネフリン)などのホルモンを分泌し、血圧、心拍数、発汗など、交感神経系によっても調節される身体活動の制御に影響を与えます。... さらに読む です。非常にまれですが、脳に神経芽腫ができることがあります。診断を受けた時点で、半数以上の小児において体の他の部位にがんが転移しています。
神経芽腫は乳児に最も多くみられるがんで、年齢にかかわらず発生率の高い小児がんの1つです。神経芽腫の約90%が5歳未満の小児に発生します。神経芽腫の原因は不明です。これらの腫瘍のほとんどは自然に発生します。まれですが、神経芽腫が発生しやすい家系があります。
知っていますか?
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症状
神経芽腫の症状は、以下のように、神経芽腫が最初にできた部位、転移の有無、転移した部位によって異なります。
最初に腹部に発生した場合:最初の症状は、腹部が大きくなる、おなかが張った感じ、腹痛などです。
最初に胸部や首に発生した場合:小児はせきをしたり、呼吸困難に陥ったりすることがあります。
骨に転移した場合:小児に骨痛が現れます。がんが骨髄に達すると、様々な血球の数が減少することがあります。赤血球の数が減少すると(貧血)、脱力感や疲労感が生じ、ときに皮膚が青白く(蒼白に)なります。血小板の数が減少すると、皮膚にあざや小さな紫色の斑点ができやすくなります。白血球の数が減少すると、感染症への抵抗力が下がります。
皮膚に転移した場合:しこりができます。
脊髄に転移した場合:腕や脚に力が入らなくなったり、体の一部を自分の思うように動かせなくなったりすることがあります。
まれですが、 ホルネル症候群 ホルネル症候群 ホルネル症候群では、顔の片側において、まぶたが垂れ下がり、瞳孔が小さくなり(収縮)、発汗が減少します。原因は、脳と眼をつないでいる神経線維が分断されることです。 ホルネル症候群は自然に発生することもあれば、脳から眼につながる神経線維を分断する病気が原因で発生することもあります。 まぶたが垂れ下がり、瞳孔が縮小したままになり、異常が生じた側の顔面はあまり汗をかかなくなることがあります。... さらに読む と呼ばれる症状がみられることもあります。ホルネル症候群では、首にできた腫瘍が、顔面の左右片側を支配する神経を圧迫します。片側の顔面で、まぶたが下がって、瞳孔が小さくなり、発汗が低下します。
神経芽腫の約90~95%は、アドレナリンなどのホルモンを分泌します。このホルモンによって心拍数が上昇したり、不安が生じたりすることがあります。そのほかに、制御不能の眼球運動(眼球クローヌス)、腕や脚の速い収縮(ミオクローヌス)など、がんに関連した症候群(腫瘍随伴症候群 腫瘍随伴症候群 腫瘍随伴(「がんに伴う」という意味、 がんの概要も参照)症候群は、がんによって血液中を循環する物質を原因とする異常な症状が引き起こされると発生します。このような物質は、腫瘍から分泌されたホルモンであったり、免疫系によって作られた抗体であったりします。これらの物質は様々な組織や臓器の機能に影響を及ぼし、腫瘍とは遠く離れた部分に症状を引き起こします。腫瘍随伴症候群は神経系や内分泌系(ホルモンを分泌する器官)などの様々な器官系に影響を与え、神... さらに読む と呼ばれる)がみられることがあります。
診断
CTまたはMRI検査
生検
ときに骨髄検査と尿検査
神経芽腫の早期診断は容易ではありません。ときとして、決まって行われる 出生前超音波検査 超音波検査 出生前診断は、遺伝性または自然発生的な特定の遺伝性疾患などの特定の異常がないかどうか、出生前に胎児を調べる検査です。 妊婦の血液に含まれる特定の物質の測定に加え、超音波検査を行うことで、胎児の遺伝子異常のリスクを推定できます。 こうした検査は、妊娠中の定期健診の一環として行われることがあります。 検査の結果、リスクが高いことが示唆された場合は、胎児の遺伝物質を分析するために羊水穿刺や絨毛採取などの検査を行うことがあります。... さらに読む で胎児の神経芽腫が発見されることがあります。がんがかなり大きくなれば、医師による触診で腹部のしこりが感知できることがあります。
神経芽腫が疑われる場合は、腹部の CT検査 CT(コンピュータ断層撮影)検査 CT検査(以前はCAT検査とよばれていました)では、X線源とX線検出器が患者の周りを回転します。最近の装置では、X線検出器は4~64列あるいはそれ以上配置されていて、それらが体を通過したX線を記録します。検出器によって記録されたデータは、患者の全周の様々な角度からX線により計測されたものであり、直接見ることはできませんが、検出器からコンピュータに送信され、コンピュータが体の2次元の断面のような画像(スライス画像)に変換します。(CTとは... さらに読む または MRI検査 MRI(磁気共鳴画像)検査 MRI(磁気共鳴画像)検査は、強力な磁場と非常に周波数の高い電磁波を用いて極めて詳細な画像を描き出す検査です。X線を使用しないため、通常はとても安全です。( 画像検査の概要も参照のこと。) 患者が横になった可動式の台が装置の中を移動し、筒状の撮影装置の中に収まります。装置の内部は狭くなっていて、強力な磁場が発生します。通常、体内の組織に含まれる陽子(原子の一部で正の電荷をもちます)は特定の配列をとっていませんが、MRI装置内で生じるよう... さらに読む
が行われます。腫瘍がみつかった場合は、サンプルが採取され、調べるために検査室に送られます(生検)。骨髄のサンプルが採取され、がん細胞がないか調べられます(骨髄検査 骨髄検査 赤血球、ほとんどの 白血球、 血小板は、骨髄という骨の中にある脂肪に富んだ柔らかい組織でつくられます。場合によっては、血球が異常となった原因や、特定の種類の血球が少なすぎたり、多すぎたりする原因を特定するために、骨髄サンプルを調べなければならないことがあります。骨髄サンプルを採取するには、次の2つの方法を用いることができます。 骨髄穿刺(こつずいせんし):骨髄に針を刺して骨髄液と細胞を吸引することによって、骨髄液と細胞を採取する方法... さらに読む を参照)。
尿検査を行うと、アドレナリン様ホルモンの分泌が過剰になっているかどうかが分かります。
がんが転移していないか確認するために、医師は以下の検査を行うことがあります。
腹部、骨盤部、胸部に加え、ときに脳のCTまたはMRI検査
骨シンチグラフィー
骨のX線検査
肝臓、肺、皮膚、骨髄、または骨から採取した、組織サンプルの検査
メタヨードベンジルグアニジン(metaiodobenzylguanidine:MIBG)という放射性物質を用いたシンチグラフィー(神経芽腫が転移しているかどうかの確認に役立つ)
医師は、これらの情報をすべて利用して、腫瘍が低リスク、中リスク、高リスクのいずれであるか判定します。
予後(経過の見通し)
予後(経過の見通し)は、診断時の年齢や腫瘍が広がっているかどうか、生物学的特徴と呼ばれる腫瘍の特定の性質(例えば、顕微鏡でどのように見えるか、腫瘍細胞の中にあるDNAの特徴)など、いくつかの要因によって異なります。がんの転移がない年少の小児では、予後(経過の見通し)が最も良好です。
低リスクまたは中リスクの小児の生存率は約90%です。高リスクの小児の生存率は、かつては約15%でしたが、強化された新しい併用療法によって改善し、現在では50%を上回っています。
治療
手術による切除
化学療法
場合により放射線療法または幹細胞移植
免疫療法
(がん治療の原則 がん治療の原則 がんの治療は、医療の中でもとりわけ複雑なものの1つです。治療には、様々な医師(かかりつけ医、婦人科医やその他の専門医、腫瘍内科医、放射線腫瘍医、外科医、病理医など)とその他の様々な医療従事者(看護師、放射線技師、理学療法士、ソーシャルワーカー、薬剤師など)が1つのチームとなって取り組みます。 治療計画では、がんの種類、位置、 病期、遺伝学的特徴などのほか、治療を受ける人に特有の特徴を考慮に入れます。... さらに読む も参照のこと。)
神経芽腫の治療法は、リスク分類に基づきます。
がんが転移していなければ、しばしば 手術で切除して完治させる がんの手術 手術は、がんに対して昔から用いられてきた治療法です。大半のがんでは、リンパ節や遠く離れた部位に転移する前に除去するには、手術が最も効果的です。手術のみを行う場合もあれば、 放射線療法や 化学療法などの治療法と併用する場合もあります( がん治療の原則も参照)。医師は以下の他の治療を行うことがあります。 手術前に腫瘍を小さくする治療(術前補助療法) 手術後にできるだけ多くのがん細胞が除去されるようにする治療(術後補助療法)... さらに読む ことができます。
中リスクの小児では、ビンクリスチン、シクロホスファミド、ドキソルビシン、エトポシド、シスプラチンなどの化学療法薬が投与されます。
高リスクの患児には、 造血幹細胞移植 造血幹細胞移植 幹細胞移植とは、健康な人から幹細胞(未分化細胞)を採取し、重篤な血液疾患がある人にそれを注射することです。 ( 移植の概要も参照のこと。) 幹細胞は未分化の細胞で、分裂しながら、より分化した他の細胞に変わっていきます。幹細胞は以下のものから採取することができます。 生まれてすぐの新生児の臍帯血(母親が提供) 骨髄(骨髄移植) さらに読む を伴う大量 化学療法 化学療法 化学療法では、薬を使ってがん細胞を破壊します。正常な細胞は傷つけずに、がん細胞だけを破壊する薬が理想的ですが、大半の薬はそれほど選択的ではありません。その代わりに、一般的には細胞の増殖能力に影響を与える薬を用いることで、正常な細胞よりがん細胞に多くの損傷を与えるよう設計された薬が使用されます。無秩序で急速な増殖ががん細胞の特徴です。しかし正常な細胞も増殖する必要があり、なかには非常に速く増殖するもの(骨髄の細胞や口または腸の粘膜の細胞な... さらに読む が頻繁に用いられます。大量化学療法と幹細胞移植の後にがんが再発するリスクを減らすために、これらの治療を受ける小児に対しては、レチノイド(ビタミンAに関連する化学物質)と呼ばれる薬の投与が行われます。