ウィルムス腫瘍の原因は不明ですが、この腫瘍の発生リスクを高める遺伝子異常があると考えられる小児もいます。
通常は腹部にしこりがあり、さらに腹痛、発熱、食欲不振、吐き気、嘔吐がみられることがあります。
画像検査により、しこりの性質と大きさが調べられます。
治療では、手術、化学療法、ときには放射線療法が行われます。
(小児がんの概要 小児がんの概要 小児におけるがんはまれです。米国では、出生後から14歳までの小児における毎年の症例数は1万3500例未満、死亡は約1500例です。それに対して、成人における毎年の症例数は140万例、死亡は575,000例です。しかしながら、がんは小児の死因としてはけがに次いで第2位です。小児がんの約33%が... さらに読む も参照のこと。)
ウィルムス腫瘍が発生するのはたいてい5歳未満の小児ですが、ときに5歳以上の小児にも発生し、まれに成人に発生することもあります。非常にまれですが、ウィルムス腫瘍が出生前に発生し、新生児に認められることもあります。全体の約5%で、ウィルムス腫瘍が左右の腎臓に同時にできます。
ウィルムス腫瘍の原因は不明ですが、なかには特定の遺伝子の欠失やその他の遺伝的異常が関与していると考えられるものもあります。ウィルムス腫瘍は、特定の先天異常のある小児では生じる可能性が高く、そのような先天異常の例としては、両眼の虹彩がない場合や、体の片側が過剰に発育する場合が挙げられます。腎臓、性器、尿路の問題がある場合も多くみられます。こうした先天異常は、知的障害と同様に、遺伝子の異常により起こることがあります。しかし、ウィルムス腫瘍の小児患者の大半では、こうしたはっきり認められる先天異常はありません。
症状
多くの場合、ウィルムス腫瘍で最初に現れる症状は、痛みを伴わない腹部のしこりです。腹部が膨らむことがあります。急に小児のおむつのサイズを大きくする必要が生じて、親が膨らみに気づくことがあります。また、小児に腹痛、発熱、食欲不振、吐き気、嘔吐がみられることもあります。一部の小児に血尿がみられます。腎臓は血圧の制御に関わっているため、ウィルムス腫瘍によって 高血圧 高血圧 高血圧とは、動脈内の圧力が恒常的に高くなった状態のことです。 高血圧の原因は不明のことも多いですが、腎臓の基礎疾患や内分泌疾患によって起こる場合もあります。 肥満、体を動かさない生活習慣、ストレス、喫煙、過度の飲酒、食事での過剰な塩分摂取などはすべて、遺伝的に高血圧になりやすい人の高血圧の発症に何らかの形で関与しています。... さらに読む になる場合があります。
ウィルムス腫瘍は体の他の部位に転移することがあり、特に肺への転移がよくみられます。肺が侵された場合、せきや息切れが起こることがあります。
診断
腹部の超音波検査、CT検査、MRI検査
多くの場合、診断時に手術による腫瘍の切除
たいていの場合、親が小児の腹部にしこりがあることに気づいて診察を受けた際に、ウィルムス腫瘍であると分かります。定期的な診察で医師がこのしこりに触れて気づくこともあります。ウィルムス腫瘍が疑われる場合には、腹部の超音波検査や CT検査 CT(コンピュータ断層撮影)検査 CT検査(以前はCAT検査とよばれていました)では、X線源とX線検出器が患者の周りを回転します。最近の装置では、X線検出器は4~64列あるいはそれ以上配置されていて、それらが体を通過したX線を記録します。検出器によって記録されたデータは、患者の全周の様々な角度からX線により計測されたものであり、直接見ることはできませんが、検出器からコンピュータに送信され、コンピュータが体の2次元の断面のような画像(スライス画像)に変換します。(CTとは... さらに読む 、または MRI検査 MRI(磁気共鳴画像)検査 MRI(磁気共鳴画像)検査は、強力な磁場と非常に周波数の高い電磁波を用いて極めて詳細な画像を描き出す検査です。X線を使用しないため、通常はとても安全です。( 画像検査の概要も参照のこと。) 患者が横になった可動式の台が装置の中を移動し、筒状の撮影装置の中に収まります。装置の内部は狭くなっていて、強力な磁場が発生します。通常、体内の組織に含まれる陽子(原子の一部で正の電荷をもちます)は特定の配列をとっていませんが、MRI装置内で生じるよう... さらに読む
が行われ、しこりの性質と大きさが調べられます。CT検査やMRI検査は、腫瘍が周辺のリンパ節や肝臓に転移しているかどうかや、もう一方の腎臓に腫瘍がないかを医師が判断するためにも役立ちます。医師は胸部のCT検査も行い、腫瘍が肺に転移していないか判断します。
ほとんどの小児で、CT検査やMRI検査の結果に基づいて、腫瘍がある腎臓の一部または全部を切除する手術(腎部分切除術または腎摘出術)が行われます。その後、医師は腫瘍を検査してウィルムス腫瘍であることを確認します。手術中に、医師は周辺にある腹部のリンパ節を切除して、がん細胞がないか調べます。リンパ節にがんが転移している場合は、転移していないがんの場合と異なる治療が必要になる可能性があります。
予後(経過の見通し)
一般に、ウィルムス腫瘍は非常に治りやすいものです。腫瘍が腎臓のみに限定されている場合、約85~95%の小児が根治します。腫瘍が腎臓以外に転移している場合でも、治癒率は60~90%で、この値は検査でがん細胞がどの程度異常に見えるかに応じて異なります。通常、以下に該当する患児では、治療の結果がよくなります。
年齢が若い
腫瘍を顕微鏡で検査したときにがん細胞が異常に見える程度が低い
転移していない
しかし、ウィルムス腫瘍には、治療を行ってもあまり効果がない特定の種類があります(5%未満)。そのような腫瘍がある小児は、予後が不良です。
ウィルムス腫瘍は再発することがあり、再発が起こるのは一般的には診断から2年以内です。がんが再発しても、根治する可能性があります。
治療
手術と化学療法
場合により放射線療法
(がん治療の原則 がん治療の原則 がんの治療は、医療の中でもとりわけ複雑なものの1つです。治療には、様々な医師(かかりつけ医、婦人科医やその他の専門医、腫瘍内科医、放射線腫瘍医、外科医、病理医など)とその他の様々な医療従事者(看護師、放射線技師、理学療法士、ソーシャルワーカー、薬剤師など)が1つのチームとなって取り組みます。 治療計画では、がんの種類、位置、 病期、遺伝学的特徴などのほか、治療を受ける人に特有の特徴を考慮に入れます。... さらに読む と がんの手術 がんの手術 手術は、がんに対して昔から用いられてきた治療法です。大半のがんでは、リンパ節や遠く離れた部位に転移する前に除去するには、手術が最も効果的です。手術のみを行う場合もあれば、 放射線療法や 化学療法などの治療法と併用する場合もあります( がん治療の原則も参照)。医師は以下の他の治療を行うことがあります。 手術前に腫瘍を小さくする治療(術前補助療法) 手術後にできるだけ多くのがん細胞が除去されるようにする治療(術後補助療法)... さらに読む も参照のこと。)
ウィルムス腫瘍の治療では、腫瘍が発生した側の腎臓を切除します。手術の際にはもう片方の腎臓に腫瘍がないかどうかも確認します。手術後に 化学療法薬 化学療法 化学療法では、薬を使ってがん細胞を破壊します。正常な細胞は傷つけずに、がん細胞だけを破壊する薬が理想的ですが、大半の薬はそれほど選択的ではありません。その代わりに、一般的には細胞の増殖能力に影響を与える薬を用いることで、正常な細胞よりがん細胞に多くの損傷を与えるよう設計された薬が使用されます。無秩序で急速な増殖ががん細胞の特徴です。しかし正常な細胞も増殖する必要があり、なかには非常に速く増殖するもの(骨髄の細胞や口または腸の粘膜の細胞な... さらに読む が投与されます。特によく使用される薬はアクチノマイシンDとビンクリスチンで、ときにドキソルビシンも使用されます。腫瘍がかなり広がっている場合には、 放射線療法 がんに対する放射線療法 放射線は、コバルトなどの放射性物質や、粒子加速器(リニアック)などの特殊な装置から発生する強いエネルギーの一種です。 放射線は、急速に分裂している細胞や DNAの修復に困難がある細胞を優先的に破壊します。がん細胞は正常な細胞より頻繁に分裂し、多くの場合、放射線によって受けた損傷を修復することができません。そのため、がん細胞はほとんどの正常な細胞よりも放射線で破壊されやすい細胞です。ただし、放射線による破壊されやすさはがん細胞によって異な... さらに読む も行われます。
まれに、腫瘍が極めて大きく最初は切除できない場合や、腫瘍が両方の腎臓にみられる場合があります。そのような場合には、まず化学療法で腫瘍を小さくしてから、腫瘍が切除されます。