リウマチ熱は、治療を行わなかった場合ののどのレンサ球菌感染に対する反応です。
関節痛、発熱、胸痛や動悸、けいれんのような不随意運動、発疹、皮膚の下の小さなこぶ(小結節)などが組み合わさって発症することがあります。
診断は症状に基づいて下されます。
リウマチ熱を予防する最善の方法は、レンサ球菌によるのどの感染症を、抗菌薬で迅速かつ完全に治療することです。
痛みを和らげるためにアスピリンを投与し、さらに抗菌薬を投与してレンサ球菌感染症を根治させます。
リウマチ熱は、のどのレンサ球菌感染症(レンサ球菌咽頭炎 のどの痛み のどの痛みとは、のどの奥に生じる痛みのことです。痛みは激しいこともあり、通常はものを飲み込んだときに強くなります。のどの痛みがある人の多くは、食べたり飲んだりするのを拒みます。ときに、耳にも痛みを感じることがあります(のどの奥に向かう神経は、耳に通じる神経のごく近くを通っています)。 のどの痛みは通常、感染によって生じます(表「 のどの痛みの主な原因と特徴」を参照)。最も一般的な感染症は以下のものです。... さらに読む )に続いて起こりますが、感染症ではなく、レンサ球菌の感染に対する炎症反応です。ほとんどの場合に炎症がみられる部位としては、以下の部位が挙げられます。
関節
心臓
皮膚
神経系
リウマチ熱にかかった患者の大半は回復しますが、低い割合で、心臓に回復不能な損傷を受けます。
リウマチ熱はどの年齢でもかかる可能性がありますが、5歳から15歳の間で最もよくみられます。米国では、3歳未満の小児と21歳以上の成人にはリウマチ熱はほとんどみられず、発展途上国に比べるとリウマチ熱の発生率自体がかなり低くなっています。これはおそらく、レンサ球菌感染症に対して早い段階で抗菌薬を使用することが一般的になっているためです。その一方で、リウマチ熱の発生率が特定の地域で増えたり減ったりすることがありますが、その原因は分かっていません。人口過密な生活環境、低栄養、社会的・経済的立場が低いことでリウマチ熱のリスクは増大するようです。リウマチ熱を発症する傾向が家系に遺伝すると思われることから、遺伝が関与していると考えられます。
米国では、レンサ球菌咽頭炎にかかっているのに治療を受けなかった小児でも、リウマチ熱を発症する確率は1~3%未満に過ぎません。しかし、過去にリウマチ熱にかかったことがある小児が、再びレンサ球菌咽頭炎にかかって治療を受けなかった場合には、約半数がリウマチ熱を再度、発症します。
リウマチ熱はレンサ球菌咽頭炎に続いて発生しますが、皮膚のレンサ球菌感染症(膿痂疹 膿痂疹と膿瘡 膿痂疹(のうかしん)とは、黄色ブドウ球菌 Staphylococcus aureus、化膿レンサ球菌 Streptococcus pyogenes、またはこの両方によって引き起こされる皮膚感染症で、黄色いかさぶた(痂皮[かひ])を伴ったびらんができるほか、ときに黄色い液体が詰まった小水疱ができることもあります。膿瘡(のうそう)は膿痂疹の一種で、皮膚により深いただれを引き起こします。... さらに読む )や、体の他の部位への感染の後では起こりません。この原因は不明です。
(小児における細菌感染症の概要 小児における細菌感染症の概要 細菌は顕微鏡でようやく見える程度の小さな単細胞生物で、このうち人間の病気の原因となるものはほんの一部です。腸管や泌尿生殖器内、または皮膚の上に生息し、害をもたらさない細菌もあります。一部の細菌は、健康を保つ上で役に立つとすら考えられています。 小児に最も多くみられる細菌感染症は、皮膚感染症(... さらに読む も参照のこと。)
症状
リウマチ熱の症状は多岐にわたり、体のどの部位に炎症が起きるかで異なります。典型的には、のどのレンサ球菌感染症(レンサ球菌咽頭炎)が治ってから2~3週間後に症状が始まります。リウマチ熱で最もよくみられる症状は以下のものです。
関節痛
発熱
心臓の炎症(心炎)によって起こる胸痛または動悸
けいれん性のコントロールできない動き(小舞踏病)
発疹
皮膚の下の小さなしこり(小結節)
症状は1つしかみられないことも、複数みられることもあります。
関節
初期症状として一番多いのは関節痛と発熱です。1つまたはいくつかの関節が突然痛みだして、触れると痛みます。関節は、熱をもち、腫れて、赤くなることもあります。また、関節がこわばり、中に液体がたまることもあります。通常、足首、膝、肘、手首の関節で発症し、肩、股関節(こかんせつ)、手と足の小さな関節にも影響する場合があります。痛んでいた関節の症状が軽減するにつれて、他の関節が痛み始めます(移動性関節痛)。
関節痛は軽いこともひどいこともあり、通常は約2週間続き、4週間続くことはまれです。
リウマチ熱により長期的な関節の損傷が起きることはありません。
心臓
心臓に炎症を起こしてもまったく症状が現れず、何年も経ってから心臓の障害が見つかり炎症がみとめられることがあります。心臓の鼓動が速くなったと感じる小児もいれば、心臓を包む袋状の組織(心嚢)の炎症により胸痛が起きる小児もいます(心膜炎 急性心膜炎 急性心膜炎は、心膜(心臓を包んでいる柔軟な2層の袋状の膜)の炎症が突然発生する病態で、しばしば痛みを伴い、フィブリン、赤血球、白血球などの血液成分や体液が心膜腔に貯留します。 心膜炎は、感染症や心膜に炎症を起こす病気が原因で発生します。 よくみられる症状は発熱と鋭い胸の痛みで、その胸痛は姿勢や動きによって変化し、まれに心臓発作に似ることがあります。 診断は症状に基づき、また、まれに聴診で特徴的な心音を確認することによって下されます。... さらに読む )。高熱、胸痛、またはその両方が起こる場合があります。
心雑音は、血液が心臓を流れる際に起こる音です。小児の心雑音は一般的には静かです。しかしながら、心雑音が大きかったり、変化したりした場合は、 心臓弁膜症 心臓弁膜症の概要 心臓弁は、4つの心腔(心臓の上部にある比較的小さな丸い空洞である左右の心房と、心臓の下部にある比較的大きな円錐形の空洞である左右の心室)を通過する血液の流れを制御しています。それぞれの心室には、その入口側と出口側に、一方向に開く弁が1つずつあります。それぞれの弁は複数の薄い組織(弁尖)で構成され、一方向だけに開閉できるようになっています。... さらに読む にかかっていることがあります。リウマチ熱で心臓が侵されると、心臓弁が影響を受けることが多く、これにより医師が聴診器で聞こえるような心雑音が新しく生じたり、大きくなったり、変化したりします。
また、 心不全 心不全(HF) 心不全とは、心臓が体の需要を満たせなくなった状態のことで、血流量の減少や静脈または肺での血液の滞留(うっ血)、心臓の機能をさらに弱めたり心臓を硬化させたりする他の変化などを引き起こします。 心不全は心臓の収縮や弛緩が不十分になることで発生しますが、これらの変化は一般的に、心筋が弱ったり硬くなったりすることが原因で起こります。... さらに読む が発生することで、疲労感や息切れが現れ、吐き気、嘔吐、胃痛、空せき(たんのからまないせき)を伴うこともあります。
心臓の炎症は徐々に消え、通常は5カ月以内になくなります。しかし、心臓弁に永続的な損傷が残ってリウマチ性心疾患が起きることもあります。リウマチ性心疾患が発生する可能性は、最初に起きた心臓の炎症の程度によって異なり、また再発したレンサ球菌の感染が治療されたかどうかにも左右されます。
リウマチ性心疾患で一番損傷を受けやすいのは、左心房と左心室の間の弁(僧帽弁)です。損傷を受けた弁では血液が漏れやすくなったり(僧帽弁逆流症 僧帽弁逆流症 僧帽弁逆流症(僧帽弁閉鎖不全症とも呼ばれます)は、左心室が収縮するたびに僧帽弁で血液が逆向きに流れる(逆流)する病気です。 僧帽弁逆流症の最も一般的な原因は、僧帽弁組織の遺伝的な脆弱化(粘液腫様変性)および心臓発作です(ただし、レンサ球菌感染の治療およびリウマチ熱の予防のための抗菌薬の入手が困難な地域は除く)。 逆流が重度の場合、息切れを起こすこともあります。 軽度の逆流は治療の必要はありませんが、より重度の逆流の場合、損傷した心臓弁の... さらに読む )、異常に狭くなったり(僧帽弁狭窄症 僧帽弁狭窄症 僧帽弁狭窄症とは、僧帽弁の開口部が狭くなり、左心房から左心室への血流が妨害(閉塞)されている状態です。 僧帽弁狭窄症は、通常はリウマチ熱が原因で発生しますが、生まれたときからこの病気がある場合もあります。 僧帽弁狭窄症は通常、重度でないかぎり症状を引き起こしません。 診断は、心臓の上に当てた聴診器で特徴的な心雑音が聞こえた場合に下されますが、より詳しい診断のために心エコー検査が行われます。... さらに読む
)、この両方が起きたりします。弁の損傷により特徴的な心雑音が発生することから、リウマチ熱と診断できます。後年、通常は中年期になってから、弁の損傷により心不全や 心房細動 心房細動と心房粗動 心房細動と心房粗動は、非常に速い電気刺激が発生することにより、心房(心臓の上側にある部屋)が急速に収縮すると同時に、一部の電気刺激が心室まで到達することで、ときに心室の収縮も正常より速くかつ非効率になる病態です。 これらの病気は、しばしば心房を拡張させる病態によって引き起こされます。 症状は心室がどれくらい速く収縮するかに応じて、動悸、脱力感、めまい、ふらつき、息切れ、胸痛などがみられます。... さらに読む (不整脈の一種)が起きることがあります。
皮膚
他の症状が軽快するにつれて、縁が波打つような形の平らで痛みのない発疹(輪状紅斑)が現れることがあります。これは、ごく短い間しか続かず、1日もしないうちに消えることもあります。
心臓または関節の炎症がある小児では、皮膚の下に小さくて硬い、痛みを伴わないしこり(小結節)ができることがあります。小結節は一般的に、患部の関節の近くに現れ、しばらくすると消えます。
神経系
リウマチ熱にかかった小児には、小舞踏病(シデナム舞踏病)と呼ばれるけいれんのような不随意運動が、通常は両腕および両脚と、特に顔、足、手に徐々に現れることがありますが、通常、他の症状がすべて消えた後にのみ起こります。親が小児を受診させるほどにけいれんのような動きが強くなるまで、1カ月ほどかかることもあります。その頃には、典型的には、速くて無意味な、散発的な体の動きが生じていますが、この症状は睡眠中には起こりません。この動きは、目を動かす筋肉を除いて、どの筋肉でも起きる可能性があります。手から始まり、足と顔に広がることがあります。顔をしかめる動き(顔のゆがんだ表情)がよくみられます。舌打ちをしたり、口から舌を突き出したり入れたりすることもあります。
軽症の場合は、動きがぎこちなく見え、服を着たりものを食べたりするのが若干難しくなることがあります。重症の場合は、小児が腕や脚を振り回すことでけがをしないよう、保護する必要があるかもしれません。この舞踏運動は4~8カ月間続きます。
診断
確立された臨床基準
のどから採取したサンプルの培養
血液検査
心電図検査としばしば心エコー検査
リウマチ熱の診断は、症状と検査結果を組み合わせる修正版ジョーンズ基準に基づいて下されます(リウマチ熱の診断方法 リウマチ熱の診断方法 を参照)。
血液検査を行い、レンサ球菌に対する抗体のレベルが高くなっていないか確認します。また、綿棒でのどをぬぐった液を検査室に送り、レンサ球菌の有無を確認します。
赤血球沈降速度(赤沈)やC反応性タンパク質などの他の血液検査は、体内に炎症があるか、またどの程度広がっているかを判定するための補助になります。炎症がある場合、赤沈とC反応性タンパク質が上昇します。
心電図検査 心電図検査 心電図検査は心臓の電気刺激を増幅して記録する検査法で、手早く簡単に行える痛みのない方法です。この記録は心電図と呼ばれ、以下に関する情報が得られます。 心臓の1回1回の拍動を引き起こしている、ペースメーカーとしての部分(洞房結節、洞結節) 心臓の神経伝導経路 心拍数や心拍リズム 心電図では、心臓が拡大していること(通常の原因は 高血圧)や、心臓に血液を供給する冠動脈の1つが閉塞しているために心臓に十分な酸素が行き届いていないことが示される... さらに読む (心臓の電気的活動の記録)を行い、心臓の炎症によって引き起こされた不整脈がないか調べます。また、心臓弁の異常および心臓の炎症を診断するため、 心エコー検査 心エコー検査とその他の超音波検査 超音波検査では、周波数の高い超音波を内部の構造に当てて跳ね返ってきた反射波を利用して動画を生成します。この検査ではX線を使いません。心臓の超音波検査(心エコー検査)は、優れた画像が得られることに加えて、以下の理由から、心疾患の診断に最もよく用いられる検査法の1つになっています。 非侵襲的である 害がない 比較的安価である 広く利用できる さらに読む
(超音波を利用して心臓の構造の画像を作成する検査)を行うこともあります。
赤く腫れた関節が、リウマチ熱によるものなのか、関節の感染症によるものなのか確定できない場合、針を用いて関節から体液を採取し(関節穿刺 関節穿刺(関節液の吸引) 筋骨格系の病気は、病歴と 診察の結果に基づいて診断することがよくあります。医師が診断を下したり確定したりするのを助けるために、臨床検査、画像検査、またはその他の診断方法が必要になることがあります。 臨床検査は、筋骨格系の病気の診断にしばしば役立ちます。例えば、赤血球沈降速度(赤沈)は、血液を試験管に入れたときに赤血球が沈む速度を測定する検査です。炎症がある場合、通常は赤沈が上昇します。しかし、炎症は非常に様々な状況で起こるため、赤沈だけ... さらに読む )、体液を検査します。
予後(経過の見通し)
リウマチ熱およびそれによってもたらされる一部の問題(心臓の炎症や小舞踏病など)は再発する可能性があります。小舞踏病の発作は、通常、数カ月続き、ほとんどの場合に完全に消失しますが、約3分の1の患者では再発します。関節の問題(痛みや腫れなど)は永続的なものではありませんが、心臓の炎症は永続的かつ重度となる可能性があり、特にレンサ球菌感染が再発し、治療されなかった場合にその可能性があります。
リウマチ熱に起因する心雑音は、一部の人では最終的に消失しますが、ほとんどの場合に永続的に残り、心臓弁にある程度の損傷が起こります。
治療
抗菌薬
アスピリン
ときにコルチコステロイド
リウマチ熱の治療には次の3つの目標があります。
残存しているすべてのレンサ球菌の感染の除去
炎症の軽減、特に関節および心臓の炎症を軽減し、これにより症状を緩和する
将来の感染症の予防
リウマチ熱にかかっている小児には、残っている感染症を根治させるために抗菌薬を投与します。長時間作用型ペニシリンを1回注射するか、ペニシリンまたはアモキシシリンを経口で10日間投与します。
炎症と痛みを抑えるため、高用量のアスピリンを数週間にわたって投与します(特に関節と心臓で炎症が起きている場合)。
ナプロキセンなどの、他の非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)もアスピリンと同程度に効果的なことがありますが、リウマチ熱の治療では、ほとんどの小児に対しアスピリンが優先的に選択されます。
心臓の炎症がひどい場合には、炎症をさらに鎮めるため、アスピリンに追加してプレドニゾン(日本ではプレドニゾロン)などのコルチコステロイドが推奨され、静脈内または経口で投与されます。
関節痛、舞踏運動、または心不全がある場合は、小児の活動を制限する必要があります。心臓の炎症が認められない小児では、病気が軽減した後には活動を制限する必要はありません。長期の床上安静は役に立ちません。
予防的治療(予防的抗菌薬投与)
リウマチ熱を予防するには、レンサ球菌咽頭炎を抗菌薬で迅速かつ完全に治療するのが一番です。
さらに、過去にリウマチ熱を発症した小児の場合は、再びレンサ球菌感染症にかかるのを防ぐため、薬(一般的にはペニシリン)を毎日経口投与するか、毎月筋肉に注射するべきです。感染症にまだかかっていない人に対して抗菌薬を投与した場合、この予防的治療は予防的抗菌薬投与と呼ばれます。この予防的治療をどのくらい続ければよいかは、はっきりしていません。過去のリウマチ熱の程度によって、通常は5年以上か21歳になるまで(いずれか長い方)、予防的治療を継続します。心臓弁に永続的な損傷があり、かつ幼児との濃厚な接触がある人(レンサ球菌を保有している小児から再感染する可能性がある)のような、特定の場合には、生涯にわたって継続すべきであると推奨されることもあります。