予防接種が普及するまでは、麻疹は2~3年毎に流行し、特に就学前の小児と学齢期の小児の間で流行していました。また、その他の年には局地的な小規模流行がみられました。米国以外の国では、麻疹は依然としてよくみられます。 世界全体で、毎年約2000万人が麻疹にかかり、約20万人が死亡しています(主に小児)。一方、米国では定期予防接種のおかげで、麻疹はまれな病気になっています。2000年から2007年の間に米国疾病予防管理センター(CDC)に報告された患者数は、年間平均でわずか63人でした。しかしながら、米国で麻疹の発生数は増加しています。2014年には、記録的な数の麻疹症例が発生しました。2015年には、カリフォルニア州の遊園地に関連して大きな流行が発生しました。この増加の原因は、おそらく麻疹に対する予防接種を受ける小児が減ったためです。
麻疹にかかったことがあるか、予防接種を受けたことがある妊婦は、麻疹に対する免疫を抗体という形で新生児に与え、この免疫は出生後1年近く持続します。しかし、それ以降は、予防接種を受けなければ麻疹にかかりやすくなります。麻疹は一度かかれば免疫ができるため、一般的には再びかかることはありません。
感染した人がせきをすると飛沫が散布され、これにより汚染された空気を小児が吸い込むことで感染します。麻疹の予防接種を受けていない人が麻疹にかかっている人と接触すると、約90%が麻疹を発症します。感染力があるのは発疹が現れる数日前から、現れて数日後までの期間です。
症状
麻疹の症状は、感染してから約7~14日後に現れ、まず起きるのは、発熱、鼻水、頻発する空せき、目の充血です。明るい光に対して過敏になることもあります。発疹が現れる前に、中心が白または青白い、小さな明るい赤色の点(コプリック斑)が口の中に出ることがあります。この点は砂粒に似ていることがあります。その後、のどの痛みが発生します。
症状が現れ始めて3~5日経つと、軽いかゆみのある発疹が現れます。この発疹は耳の前や下と、首の横に、平らで不規則な形の赤い部分として現れて、すぐ盛り上がってきます。そして、1~2日以内に、体幹、腕、手のひら、脚、足の裏に広がり、その一方で顔の発疹は消え始めます。
症状が一番ひどい時期には小児は非常に具合が悪くなり、目に炎症ができ(結膜炎)、発疹が広範囲に広がります。体温は40℃を超えることがありますが、3~5日後に熱は下がり、状態も落ち着いてきて、残っていた発疹も急速に消えていきます。
麻疹の合併症
麻疹にかかった小児の約1000~2000人に1人で、脳の感染症(脳炎を参照)が起こります。脳炎が起きる場合は、発疹が現れて2日~2週間後に、まず、高熱、頭痛、けいれん、昏睡などが現れるのが一般的です。1週間程度の短期間で回復することもありますが、長引いて脳の損傷や死に至ることもあります。
約5%の人では、麻疹ウイルスが肺に感染し、肺炎が起こります。乳児では、よくみられる死因です。ときに、肺炎は麻疹ウイルスではなく、細菌が原因で起こることがあります。
麻疹が消失した後に、過剰な出血が起こることがあり、これは患者の血液中の血小板が少なくなるために起こります(血小板減少症)。通常、皮膚のあざや軽度の出血が起こりますが、まれに出血が重度となる場合もあります。
感染中に一時的な肝炎や下痢が発生することがあります。
亜急性硬化性全脳炎は、麻疹のまれな合併症で、脳を損傷したり、何年もかけて進行性に脳機能を悪化させたのちに死亡を引き起こしたりします。
診断
予後(経過の見通し)
予防
麻疹ワクチンは、小児期の定期予防接種の1つで、生後12~15カ月の間に接種しますが、麻疹の流行時や外国旅行の前には、生後6カ月でも接種できます。米国では、2回目の接種を、4歳から6歳の間に行います(訳注:本邦では1回目を1歳~2歳までの間、2回目を5歳以上7歳未満で小学校就学前1年間に行います[2016年10月現在、https://www.niid.go.jp/niid/ja/schedule.html])。予防接種時に1歳未満であった小児は、1歳の誕生日以降に接種を2回受ける必要が依然としてあります。使用されるワクチンは、混合型ワクチンです。混合型ワクチンには、麻疹、ムンプス、風疹(MMR) に対するワクチンが含まれており、ときには水痘(水ぼうそう)ワクチンも含まれます。麻疹のみを対象とした別個のワクチンはもう使われていません。一部の小児では、ワクチン接種によって微熱と発疹が起こりますが、他者に感染することはありません。ワクチンが自閉症を引き起こすことはありません(MMRワクチンと自閉症を参照)。
麻疹に免疫がない小児や成人が、麻疹ウイルスに接触した場合でも、3日以内に予防接種を受ければ発症せずに済むことがあります。ワクチン接種を受けるべきではない人(妊婦、特定のがんまたは未治療の結核がある人、重篤な病気にかかっているか免疫機能が低下している人)に対しては、予防のため、ワクチンの代わりに免疫グロブリンが投与されます。