出生前診断
(遺伝性疾患の概要も参照のこと。)
出生前診断は、遺伝性または自然発生的な特定の遺伝性疾患などの特定の異常がないかどうか、出生前に胎児を調べる検査です。こうした検査の一部(超音波検査や特定の血液検査など)は、通常の出生前ケアの一環として広く行われています。超音波検査や血液検査は安全で、体への負担がより大きな出生前遺伝学的検査(絨毛採取、羊水穿刺、経皮的臍帯血採取など)が必要かどうかを判断するのに役立ちます。通常、体への負担が大きな検査は、子どもに遺伝子異常(神経管閉鎖不全など)や染色体異常が生じるリスクの高いカップルに対して行われます(特に母親が35歳以上の場合)。ただし、すべての妊婦にこのタイプの検査を提供している医師は多く、すべての妊婦が受けることができます。こうした検査は、ごくわずかですがリスク(特に胎児に対する)を伴います。
カップルはリスクについて医療従事者に相談し、リスクと異常の有無を知る必要性とを比較検討する必要があります。例えば、検査の結果が分からないことによって不安が生じるかどうか、異常がないことが分かれば安心できるかどうかについて検討します。また、異常が見つかった場合に人工妊娠中絶を行うかどうかも検討する必要があります。人工妊娠中絶を行わないとすれば、それでもなお(例えば心の準備をするなどのために)出生前に異常の有無を知りたいと思うのか、あるいは、異常の有無を知ることは苦痛をもたらすだけではないかについて考えます。カップルが、子どもに染色体異常があるかどうかを知ることの有益性よりも、胎児へのリスクの方が重大であると考える場合は検査を行いません。
出生前に発見できる主な遺伝性疾患
病名 |
発生率 |
遺伝形式 |
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白人の出生3300人に1人 黒人の出生15,300人に1人 アジア系アメリカ人の出生32,000人に1人 |
常染色体劣性遺伝 |
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先天性副腎過形成症 |
出生9000~14,000人に1人 |
常染色体劣性遺伝 |
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男児の出生4700人に1人 |
X連鎖劣性遺伝 |
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男児の出生8500人に1人 |
X連鎖劣性遺伝 |
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民族や人種によって大きく異なる |
常染色体劣性遺伝 |
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男児の出生4000人に1人 女児の出生8000人に1人 |
X連鎖優性遺伝 |
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多発性嚢胞腎(成人型) |
出生1000人に1人 |
常染色体優性遺伝 |
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米国では黒人の出生400人に1人 |
常染色体劣性遺伝 |
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アシュケナージ系ユダヤ人とフランス系カナダ人の出生3600人に1人 その他の民族では出生40万人に1人 |
常染色体劣性遺伝 |
妊婦のスクリーニング
マーカーと呼ばれる特定の物質の血中濃度を測定することで、例えば、脳や脊髄の異常(神経管閉鎖不全)や、ダウン症候群、その他の染色体異常、あるいはまれな遺伝性疾患のある子どもが生まれるリスクが高い女性を特定することができます。こうした血液検査には胎児へのリスクはありません。血液検査は女性一人ひとりについて、異常のある子どもが生まれるリスクの正確な判断に役立ち、カップルが侵襲的な出生前遺伝学的検査が有益かどうかを判断しやすくなります。
医師はたいてい、染色体異常のマーカーを測定する血液検査を通常の出生前ケアの一環として提供しますが、検査を受けないという決断をするカップルもいます。あるいは、特定の病気のリスクが高いカップルは血液検査を行わずに、侵襲的な出生前遺伝学的検査(絨毛採取や羊水穿刺など)に進む場合もあります。妊婦が絨毛採取を受けると決めた場合、医師は通常、アルファ-フェトプロテインというマーカー(胎児の体内で作られるタンパク質)を血液検査で測定することを勧めます。アルファ-フェトプロテインの測定は、二分脊椎などの脳または脊髄の先天異常(神経管閉鎖不全)のリスクの判断に役立ちます。絨毛採取ではこの情報は得られません。
通常、マーカーの測定は妊娠10~13週に行います(第1トリメスター[訳注:日本の妊娠初期にほぼ相当]のスクリーニング)。妊娠16~18週に測定するマーカーもあります(第2トリメスター[訳注:日本の妊娠中期にほぼ相当]のスクリーニング)。
第1トリメスターのスクリーニング
第1トリメスター(訳注:日本の妊娠初期にほぼ相当)のスクリーニングは通常、以下で構成されます。
血液検査によりダウン症候群のリスクを推定します。これらは妊娠11~14週に行うことができます。
超音波検査は、ダウン症候群およびその他の特定の染色体異常のリスク推定に役立ちます。超音波検査で、胎児の項部透明帯(NT)の肥厚がみられるかどうかを確認することができ、肥厚がみられれば、異常のリスクが高いということになります。
あるいは、細胞フリー胎児DNA(cfDNA)を用いた血液検査を行うことも可能です。この検査では、母体の血液中にごく少量存在する胎児のDNAの小さな断片を分析します。この検査は、胎児の染色体異常のリスクが高いカップルにおいて、ダウン症候群およびその他いくつかの染色体異常のリスクを正確に示すことができます。妊娠10週から行うことができますが、もっと後でも可能です。
第1トリメスター(訳注:日本の妊娠初期にほぼ相当)のスクリーニングでは、早い時期に異常の有無を知ることができます。こうした検査の結果に異常がある場合は、カップルが希望すれば、早期に絨毛採取を行ってダウン症候群かどうかを調べます。ダウン症候群は羊水穿刺でも検出できますが、この検査は通常、妊娠期間の後半に行われます。
第1トリメスターのスクリーニングの利点の1つは、早い時期に結果が分かることで、希望があれば、早期に安全に人工妊娠中絶を行うことができます。
第2トリメスターのスクリーニング
第2トリメスター(訳注:日本の妊娠中期にほぼ相当)には、胎児が特定の異常をもつリスクを評価するため、妊婦の血液中のマーカーを測定し、場合によっては超音波検査も行います。
重要なマーカーには、以下のものがあります。
アルファ-フェトプロテインの血中濃度の測定は、第1トリメスター(訳注:日本の妊娠初期にほぼ相当)のスクリーニングや絨毛採取を受けた場合も含め、通常すべての妊婦で行います。アルファ-フェトプロテインの測定値が高い場合、以下のいずれかが生じているリスクが高いと考えられます。
超音波検査は、妊婦の血液検査でアルファ-フェトプロテイン値に異常がみられた場合に行います。超音波検査は、以下に役立ちます。
一部の専門病院では、高分解能の超音波機器による標的を絞った超音波検査を行うことができ、この検査では標準的な超音波検査よりも詳細な画像が得られるため、特に小さな先天異常の有無をより正確に判定できます。
超音波検査の結果が正常であれば、胎児に異常がある可能性は低いと考えられますが、神経管閉鎖不全などの一部の異常がある可能性は残ります。このため、超音波検査結果が正常であったかどうかにかかわらず、多くの医師がすべての妊婦に羊水穿刺を勧めます。
羊水穿刺により、羊水(胎児の周囲を満たしている液体)中のアルファ-フェトプロテインの濃度を測定したり、胎児の染色体を分析したり、羊水にアセチルコリンエステラーゼと呼ばれる酵素が含まれているかどうかを調べたりすることができます。アルファ-フェトプロテインの測定値とアセチルコリンエステラーゼの有無を調べることで、リスクをより正確に評価できるようになります。
羊水中のアルファ-フェトプロテインの濃度が高いか、またはアセチルコリンエステラーゼが認められる場合は、以下の可能性が示唆されます。
羊水中のアルファ-フェトプロテインの濃度が高く、かつアセチルコリンエステラーゼが認められる場合は、以下のリスクが高いことが示唆されます。
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無脳症や二分脊椎などの神経管閉鎖不全
ときに羊水サンプルに胎児の血液が混入して、胎児に異常がないにもかかわらずアルファ-フェトプロテインの測定値が高くなることがあり、結果の評価が難しくなります。このような場合には、胎児に異常がない可能性もあります。
トリプルスクリーニングとクアッドスクリーニング
血液検査によりエストリオールやベータ-ヒト絨毛性ゴナドトロピンといった他のマーカーを測定することで、ダウン症候群などの染色体異常のリスクを推定することができます。第1トリメスター(訳注:日本の妊娠初期にほぼ相当)のスクリーニングを受けた場合は、この検査は必ずしも必要ではありません。エストリオール、ベータ-ヒト絨毛性ゴナドトロピンに加えアルファ-フェトプロテインを測定する検査をトリプルスクリーニングといいます。これに加えてインヒビンAを測定することがあります。この4種類のマーカーを測定する検査をクアッドスクリーニングといいます。
トリプルスクリーニングやクアッドスクリーニングは妊娠15~20週頃に行います。こうした検査では、胎児のダウン症候群のリスクを推定することができます。クアッドスクリーニングでは、ダウン症候群があるケースの80%近くで異常な結果(陽性)がみられます。トリプルスクリーニングでも、ほぼ同じ割合で検出できます。ダウン症候群のリスクが高い場合は、羊水穿刺を行うかどうか検討します。
一部の病院では、染色体異常のリスクを推定するために第2トリメスター(訳注:日本の妊娠中期にほぼ相当)に特定の器官を標的にした超音波検査を行います。標的超音波検査は、染色体異常のリスクが高いこと示唆する構造的な先天異常を見つけるために実施します。また、各器官について、機能に影響は出なくても、染色体異常のリスクが高いことを示唆する特定の変化を見つけることもできます。ただし、この検査の結果が正常であっても、染色体異常のリスクがないことを必ずしも意味するわけではありません。
第1および第2トリメスターのスクリーニング結果の併用
最も正確な結果を得るため、第1トリメスターの検査と第2トリメスターの検査の両方を行い、それらの結果を合わせて分析します(訳注:第1トリメスターは日本の妊娠初期に、第2トリメスターは妊娠中期にほぼ相当)。しかし、早い段階で異常の有無を知りたいと希望するカップルは、まず、第1トリメスターに結果が判明するスクリーニングを要請することができます。その結果から、絨毛採取や羊水穿刺が必要ないと判断された場合にのみ、第2トリメスターのスクリーニングを行います。
スクリーニング検査の結果は、必ずしも正確ではないことを念頭においておく必要があります。スクリーニング検査では、異常が見逃されたり、異常がないにもかかわらず異常を示す結果が出ることもあります。
検査方法
遺伝子異常や染色体異常を発見するためにいくつかの検査を行います。超音波検査を除き、こうした検査はすべて侵襲的(器具を体内に挿入する必要がある)であるため、わずかですが胎児へのリスクを伴います。
超音波検査
超音波検査は、妊娠中によく行われる検査です。母体にも胎児にも、この検査によるリスクはないとみられています。超音波検査では、以下が可能です。
妊婦の血液検査で異常値がみられたり、先天異常の家族歴がある場合には、胎児に異常がないか確認するために超音波検査を行います。ただしどんな検査も完璧ということはなく、結果が正常でも、子どもの正常が保証されるわけではありません。超音波検査の結果によって胎児に染色体異常があると推測することはできますが、具体的な問題を特定することはできません。このような例では羊水穿刺が勧められることがあります。
絨毛採取や羊水穿刺の前に、まず超音波検査を実施して妊娠期間を確認し、妊娠中の適切な時期にこれらを行うようにします。絨毛生検や羊水穿刺を実施する際にも超音波画像を用いて胎児をモニタリングし、器具の位置を確認します。
一部の専門病院では、標的超音波検査を行うことができます。この検査では、専門家が胎児を詳しく評価し、染色体異常のリスクが高いことを示す構造異常がないか調べます。この検査では、従来の超音波検査よりも詳細な画像が得られます。そのため、小さな異常を早期に、より正確に検出できます。
絨毛採取
絨毛採取では、絨毛(胎盤の一部を構成する小さな突起)のサンプルを少量採取します。これはいくつかの胎児の病気を診断するための検査で、通常は妊娠10~12週に行います。羊水穿刺とは異なり、絨毛採取では羊水のサンプルは得られません。したがって、脳や脊髄の異常(神経管閉鎖不全)を調べるためのアルファ-フェトプロテインの羊水中濃度の測定は行えません。医師はこれらの異常を調べるため、週数が進んでから羊水穿刺を受けることを勧める場合があります。
絨毛採取の一番の利点は、羊水穿刺と比べてはるかに早い時期に結果が得られることです。このため結果に異常がなければ、カップルは早く不安を解消することができます。異常がある場合でも、発見が早いほど、カップルの希望に応じて、簡単で安全な方法で人工妊娠中絶を行うことができます。また異常が早期に発見されることで、カップルにとって、特別な医学的ニーズのある子どもが生まれる前の準備期間が長くなります。
絨毛採取の前に、超音波検査を行って胎児の生存や妊娠期間を確定し、明らかな異常の有無を調べ、胎盤の位置を確認します。
絨毛のサンプルは子宮頸部を経由して(経頸管的ルート)、あるいは腹壁から(経腹的ルート)採取します。
どちらの方法の場合も、カテーテルまたは針を挿入し、注射器で組織のサンプルを吸引する際に超音波の画像で位置を確認しながら行います。採取したサンプルは分析に出します。どちらの方法でも、ほとんどの女性に検査後1~2日間、軽い性器出血がみられます。
絨毛採取の終了後には、血液型がRhマイナスでRh因子に対する抗体をもたない女性には、抗体が生じないよう、Rh0(D)免疫グロブリンが注射されます( Rh式血液型不適合)。血液型がRhマイナスの女性では、胎児の血液型がRhプラスの場合、絨毛採取などの操作で母体と胎児の血液が接触すると抗体が生じることがあります。この抗体は胎児に問題を引き起こすことがあります。父親の血液型もRhマイナスであれば、胎児も必ずRhマイナスになるため、免疫グロブリン注射は不要です。
絨毛採取のリスクは羊水穿刺のリスクと同程度です。最も一般的なリスクは流産で、この手技の実施500回に1回程度の確率で生じます。
まれに、絨毛採取を実施しても遺伝子診断がはっきりせず、羊水穿刺が必要になることがあります。一般に、この2種類の検査の精度は同程度です。
羊水穿刺
羊水穿刺は、出生前に異常を発見する方法として最も多く行われている検査の1つです。染色体異常のある胎児をもつリスクが若い女性よりも高い、35歳以上の女性にしばしば提供されます。ただし、すべての妊婦にこの検査を提供している医師は多く、通常と比べてリスクが高いとはいえない場合であってもすべての妊婦が受けることができます。
羊水穿刺では、胎児の周囲を満たしている液体(羊水)のサンプルを採取して分析します。通常は妊娠15週以降に行います。羊水には胎児から剥がれ落ちた細胞が含まれています。この細胞を検査室で増殖させ、その中の染色体を分析します。羊水穿刺を行えば、羊水中のアルファ-フェトプロテインの濃度を測定することができ、その測定値を用いれば、母体の血液サンプルで得られる測定値よりも高い精度で、胎児の脳や脊髄の異常を予想することができます。
羊水穿刺の前に超音波検査を実施し、胎児の心臓を評価し、妊娠期間を確定し、胎盤や羊水の位置を調べるとともに、胎児の数を確認します。
羊水の採取には、腹壁の外から羊水に針を挿入します。痛みを感じないように、針を刺す部位に局所麻酔をかけることもあります。羊水穿刺の際は超音波画像で胎児をモニタリングし、針の位置を確認しながら行います。羊水を吸引し、針を抜き取ります。
羊水には、胎児の血液が含まれていることがあります。この血液によってアルファ-フェトプロテインの濃度が高くなることがあり、結果の評価が難しくなります。
血液型がRhマイナスの女性には、Rh因子に対する抗体ができるのを防ぐため、検査後にRh0(D)免疫グロブリンが投与されます。血液型がRhマイナスの女性では、胎児の血液型がRhプラスの場合、羊水穿刺などの操作で母体と胎児の血液が接触すると抗体が生じることがあります。この抗体は胎児の血液型がRhプラス場合に、胎児に問題を引き起こすことがあります( Rh式血液型不適合)。父親の血液型もRhマイナスであれば、胎児も必ずRhマイナスになるため、免疫グロブリン注射は不要です。
羊水穿刺によって母体や胎児に問題が起こることはめったにありませんが、以下のような問題が起こることもあります。
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痛み:検査後1~2時間はわずかに痛みを感じる場合があります。
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少量の性器出血や腟からの羊水の漏れ:検査を受けた女性の約1~2%にこうした問題が起こりますが、長く続くことはなく、普通は治療しなくても治まります。
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流産:羊水穿刺が原因で流産する確率は500~1000人に1人程度です。
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穿刺による胎児の受傷:穿刺で胎児が傷つくことはごくまれです。
胎児の数が2人以上であっても通常は羊水穿刺が可能です。
経皮的臍帯血採取
経皮的臍帯血採取では、まず腹部の皮膚に麻酔をかけます。超音波の画像で位置を確認しながら、腹壁から子宮、そして臍帯に針を挿入します。胎児の血液サンプルを採取し、針を抜き取ります。経皮的臍帯血採取は、侵襲的な検査です。検査100回に1回程度の確率で流産が生じる可能性があります。
かつては、染色体分析を至急必要とするとき、特に妊娠末期に超音波検査で胎児の異常が見つかった場合に経皮的臍帯血採取が行われていました。現在では、この目的のために行うことはほとんどありません。代わりに、羊水細胞(羊水穿刺で採取したもの)の遺伝子解析や胎盤の一部(絨毛採取による)の分析を行います。こういった検査は危険性が低く、結果が早く得られます。
現在では、医師が胎児の貧血を疑う場合に経皮的臍帯血採取が行われることがあります。胎児に重度の貧血があれば、経皮的臍帯血採取のための針がまだ臍帯に入っている状態で、胎児に輸血を行うことができます。
