クロストリジウム・ディフィシル Clostridium difficileは、生存に酸素を必要としない嫌気性の細菌です。
原因
クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)腸炎では、通常は感染症の治療のために抗菌薬を使用した後に、この細菌が大腸の炎症(大腸炎)を引き起こす毒素を作ります。多くの抗菌薬は腸内に存在する細菌の種類と量のバランスを変化させます。こうして、クロストリジウム・ディフィシル Clostridium difficileなどの病気を引き起こす特定の細菌が異常に増殖し、普段から腸内に生息している無害な細菌を閉め出してしまいます。クロストリジウム・ディフィシル Clostridium difficileは、抗菌薬の使用後に発生する腸炎の最も一般的な原因です。
クロストリジウム・ディフィシル Clostridium difficileが異常増殖すると、2種類の毒素が作られます。
最近の院内流行で、より命に関わるクロストリジウム・ディフィシル Clostridium difficileの菌株が特定されています。この菌株は、かなり多くの毒素を作り、より重度の病気を引き起こして再発の可能性が高いほか、伝播しやすく、抗菌薬療法に対する反応が良好ではありません。
ほとんどの抗菌薬でこの病気が起こることがありますが、クリンダマイシン、ペニシリン系(アンピシリンやアモキシシリンなど)、セファロスポリン系(セフトリアキソンなど)、フルオロキノロン系(レボフロキサシンやシプロフロキサシンなど)が最も多く関わっています。クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)腸炎は、抗菌薬の投与期間がごく短い場合でも発生することがあります。クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)腸炎は、がん治療用のある種の化学療法薬の使用後にも生じることがあります。
クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)感染症は抗菌薬を内服した場合に最もよくみられますが、抗菌薬が筋肉に注射された場合や静脈内へ投与(静注)された場合にも発生します。
クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)腸炎を発症するリスクと、それが重症化するリスクは、加齢とともに上昇します。その他の危険因子には以下のものがあります。
ときに、細菌の発生源が患者自身の腸管であることもあります。クロストリジウム・ディフィシル Clostridium difficileは、新生児、健康な成人、入院している成人の腸内によくみられる細菌です。クロストリジウム・ディフィシル Clostridium difficileは通常、異常に多く増殖しない限り、これらの人たちに病気を引き起こすことはありません。ただし、これらの人たちからリスクのある人たちに菌が広まることがあります。人から人への感染は、しっかり手を洗うことで防止できます。
この細菌はペットや周囲環境から感染することもあります。
抗菌薬を最近使用したのでない限り、クロストリジウム・ディフィシル Clostridium difficileの感染によって腸炎が起こることはまれです。しかし、手術(胃や腸管の手術が典型的)のような肉体的に大きなストレスがかかる出来事があると、同じように腸内細菌の種類と数のバランスが崩れることが多く、もともと腸に備わっている防御機構が破綻することもあり、その結果としてクロストリジウム・ディフィシル感染症やクロストリジウム・ディフィシル腸炎が起こる場合があります。
症状
診断
抗菌薬の使用後2カ月以内または入院後72時間以内に下痢が生じた場合にクロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)腸炎が疑われます。診断は、クロストリジウム・ディフィシル Clostridium difficileが作る毒素の1つが便のサンプルから特定されることで確定します。毒素が検出されるまでに、便サンプルを2~3回採取することが必要な場合もあります。
医師は大腸の下部(S状結腸)の炎症を通常はS状結腸鏡またはS状結腸内視鏡(観察用の硬いまたは柔軟な管状の機器)で観察して、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)腸炎の診断を下すこともできます。偽膜性大腸炎と呼ばれる特定の炎症が認められた場合も、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)腸炎と診断されます。S状結腸鏡が届く範囲より上に病変がある場合は、大腸内視鏡(より長い観察用の柔軟な管状の機器)を使って大腸全体を調べます。しかし、これらの検査法は通常は必要ありません。
治療
腸管の動きを遅くし、下痢を治療するためにときに使用される薬剤(ロペラミドなど)は一般に避けられます。そのような薬剤は、病気の原因である毒素と大腸との接触を持続させ、大腸炎を長引かせることになるためです。
クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)腸炎の患者で抗菌薬の服用中に下痢が起きている場合は、その抗菌薬がどうしても必要でないかぎり、直ちに服用を中止します。抗菌薬を中止すると、症状は通常10~12日で治まります。症状が持続する場合、通常はクロストリジウム・ディフィシル Clostridium difficileに対して有効な抗菌薬が投与されます。
クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)腸炎のほとんどの症例は、バンコマイシンという抗菌薬の内服で治療されます。比較的新しい抗菌薬であるフィダキソマイシンは、非常に効果的とみられていて、使用することで症状の再発が少なくなります。
この病気の人の15~20%に、一般には治療を中止してから数週間以内に、症状が再発します。最初に下痢が再発したときには、同じ抗菌薬が再度投与されます。下痢の再発が続く場合、通常はバンコマイシンが数週間投与され、その後リファキシミンという抗菌薬が投与されます。あるいは、その代わりにフィダキソマイシンが14日間投与されることもあります。
ベズロトクスマブは、静脈から投与されるモノクローナル抗体です。これは、クロストリジウム・ディフィシル Clostridium difficileが作る毒素の1つに結合します。ベズロトクスマブと標準的な抗菌薬治療を併用することで、下痢が再発する可能性を減らすことができます。
重度の再発を頻繁に繰り返す患者には、便移植という方法もあります。これは、健康なドナーの便を約1カップ患者の結腸に注入するという処置です。ドナーの便はまず、検査にかけて病気を引き起こす微生物が含まれていないか確認されます。便移植では、鼻から消化管に通したチューブを介して、または大腸内視鏡を介して便を腸に注入します。医師の間では、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)腸炎患者の腸内にドナーの便を入れることで、腸内の細菌のバランスが正常化すると考えられています。この治療の後は、症状が再発する可能性が低くなります。
ときに、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)腸炎が非常に重度なことがあり、その場合は入院して輸液で水分と電解質(ナトリウム、マグネシウム、カルシウム、カリウムなど)を補うとともに、輸血を行います。
まれに手術が必要になります。例えば、重症の場合に命を救う手段として、手術による大腸の切除(結腸切除術)が必要になることがあります。