
これらの細菌は、感染者と直接接触したり、汚染された物を使用したり、くしゃみやせきによって飛び散った飛沫を吸引することで感染します。
皮膚の感染症が一般的ですが、血流を介して広がり、離れた臓器に感染することもあります。
皮膚の感染症では、感染部位に水疱、膿瘍、発赤と腫れがみられます。
診断は、皮膚の外観や、感染部位のサンプルに含まれる細菌が特定されることに基づいて下されます。
手を十分に洗うことで感染の拡大を予防できます。
感染を起こした菌株に効果的な抗菌薬を考慮して、薬を選択します。
(細菌の概要 細菌の概要 細菌は、顕微鏡でようやく見える程度の単細胞生物です。この地球上で最も初期の段階から存在する生命体の1つです。数千種類の細菌が存在し、世界中のあらゆる環境に生息しています。土壌、海水、地中深くはもちろん、放射性廃棄物の中で生きている細菌すら報告されています。多くの細菌が、宿主に害を与えずに、人間や動物の皮膚、気道、口の中、消化管、尿路や生殖... さらに読む も参照のこと。)
黄色ブドウ球菌 Staphylococcus aureusは健康な成人の約30%の鼻腔に存在し(通常は一時的)、約20%の人の皮膚に存在します。入院患者や病院で働く人では、この割合がさらに高まります。
細菌は汚染された物体(ジムの器具、電話、ドアノブ、テレビのリモコンやエレベーターのボタンなど)に直接触れたり、それほど多くはないものの、くしゃみやせきの飛沫を吸入したりすることで広がります。
その細菌をもっているものの、症状は何も現れない人は、キャリア(保菌者)と呼ばれます。キャリアであっても、手で触ることで鼻から体の他の部位に細菌を移動させ、ときに感染症を発症することがあります。入院している人や病院で働いている人は、キャリアである可能性が高いです。
ブドウ球菌感染症の種類
黄色ブドウ球菌感染症 Staphylococcus aureusは、軽度のものから生命を脅かすものまで幅があります。
最も一般的なブドウ球菌感染症は次のものです。
しかし、細菌が血流に入り(菌血症 菌血症 菌血症とは血流に細菌が存在する状態をいいます。 菌血症は、日常的な行為(激しい歯磨きなど)、歯科的または医学的処置、あるいは感染症( 肺炎や 尿路感染症)が原因となります。 人工関節や人工心臓弁を使用している人や心臓弁に異常がある人では、菌血症が長引くリスクや菌血症で症状が生じるリスクが高まります。 菌血症では通常、症状はみられませんが、ときに特定の組織や臓器に細菌が増殖して、重篤な感染症を引き起こすことがあります。... さらに読む と呼ばれる病態)、体内のあらゆる部位に広がることもあり、その場合、特に心臓弁(心内膜炎 感染性心内膜炎 感染性心内膜炎は、心臓の内側を覆っている組織(心内膜)に生じる感染症で、通常は心臓弁にも感染が及びます。 感染性心内膜炎は、血流に入った細菌が損傷のある心臓弁に到達して、そこに付着することで発生します。 急性細菌性心内膜炎では通常、高熱、頻脈(心拍数の上昇)、疲労、そして広範囲にわたる急激な心臓弁の損傷が突然もたらされます。... さらに読む )と骨(骨髄炎 骨髄炎 骨髄炎は、通常は細菌、抗酸菌、または真菌によって起こる、骨の感染症です。 細菌、抗酸菌、真菌が血液を介して、あるいは近くの感染組織や開いて汚染された傷から広がり(こちらの場合が多い)、骨に感染することがあります。 患者には骨の一部の痛み、発熱、体重減少がみられます。 血液検査と画像検査を行い、骨のサンプルを採取して検査します。 抗菌薬が数週間投与され、感染した骨を除去するために手術が必要なこともあります。 さらに読む )によく感染します。
この細菌は、人工心臓弁、人工関節、心臓のペースメーカー、皮膚から血管に挿入されたカテーテルなどの医療器具に蓄積することもあります。
特定のブドウ球菌感染症は、次のような状況で発生しやすくなります。
血流感染症:静脈にカテーテルが挿入され、長期間留置された場合
心内膜炎:違法薬物を注射している場合、人工心臓弁が入っている場合、または静脈に挿入されたカテーテルに感染した場合
骨髄炎:黄色ブドウ球菌 Staphylococcus aureusが血液や隣接した軟部組織から骨へ感染した場合(糖尿病による足の潰瘍や褥瘡[床ずれ]ができているときなど)
肺の感染症(肺炎 肺炎の概要 肺炎は、肺にある小さな空気の袋(肺胞)やその周辺組織に発生する感染症です。 肺炎は、世界で最も一般的な死因の1つです。 重篤な慢性の病気が他にある患者において、肺炎はしばしば最終的な死因となります。 肺炎の種類によっては、ワクチンの接種によって予防できます。 米国では、毎年約200~300万人が肺炎を発症し、そのうち約6万人が死亡していま... さらに読む
):インフルエンザ(特に多い)や血液感染を起こしている場合、コルチコステロイドや免疫抑制薬(免疫系を抑制する薬)を使用している場合、もしくは気管挿管と人工呼吸器での管理が必要で入院している場合(院内肺炎 病院で感染した肺炎 院内肺炎は、一般に入院して約2日以上経過した患者に発生する肺の感染症です。 入院中の患者では、多くの細菌やウイルスに加えて、真菌も肺炎の原因となる可能性があります。 肺炎で最もよくみられる症状は、たんがからんだせきですが、胸痛、悪寒、発熱、息切れなどもよくみられます。 診断は、症状と、胸部のX線検査またはCT検査に基づいて下されます。 肺炎の原因である可能性が最も高い微生物に応じて、抗菌薬、抗ウイルス薬、抗真菌薬が使用されます。 さらに読む と呼ばれます)
黄色ブドウ球菌の毒素
黄色ブドウ球菌 Staphylococcus aureusには多くの種類(菌株)があります。菌株によっては毒素を作るものもあり、 ブドウ球菌食中毒 ブドウ球菌食中毒 ブドウ球菌食中毒は、ある種のブドウ球菌が産生する毒素に汚染された食べものを摂取することで起こり、下痢と嘔吐が起こります。 この食中毒は、黄色ブドウ球菌 Staphylococcus aureusが産生する毒素によって引き起こされます。 この毒素は汚染された食べものでみられます。 典型的な症状としては、汚染された食べものを食べてから約2~8時間後に、強い吐き気と嘔吐がみられます。... さらに読む 、 毒素性ショック症候群 毒素性ショック症候群 毒素性ショック症候群とは、発熱、発疹、危険な低血圧、複数の臓器不全など、進行が速い重度の症状の一群を指します。これは、黄色ブドウ球菌 Staphylococcus aureusやA群レンサ球菌といった グラム陽性球菌(図「 主な細菌の形」を参照)が作る毒素によって引き起こされます。 高吸水性のタンポンの使用や黄色ブドウ球菌 Staphylococcus aureusまたはA群レンサ球菌の感染症は、毒素性ショッ... さらに読む 、または 熱傷様皮膚症候群 ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群 ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(SSSS)とは、熱傷を負ったときのように皮膚に水疱が生じて剥がれてしまう病気で、ブドウ球菌による皮膚感染症に対する体の反応として起こります。 皮膚の水疱と剥離以外の症状として、発熱、悪寒、脱力感がみられます。 診断は皮膚の外観に基づいて下されますが、生検を行うこともあります。 適切な時期に治療をすれば、予後(経過の見通し)は極めて良好です。 治療としては抗菌薬の静脈内投与とスキンケアを行います。 さらに読む
を引き起こします。
毒素性ショック症候群 毒素性ショック症候群 毒素性ショック症候群とは、発熱、発疹、危険な低血圧、複数の臓器不全など、進行が速い重度の症状の一群を指します。これは、黄色ブドウ球菌 Staphylococcus aureusやA群レンサ球菌といった グラム陽性球菌(図「 主な細菌の形」を参照)が作る毒素によって引き起こされます。 高吸水性のタンポンの使用や黄色ブドウ球菌 Staphylococcus aureusまたはA群レンサ球菌の感染症は、毒素性ショッ... さらに読む は、いくつかの レンサ球菌 レンサ球菌感染症 レンサ球菌感染症は、レンサ球菌属 Streptococcusの細菌によって引き起こされる感染症です。これらの グラム陽性の球状細菌(球菌)(図「 主な細菌の形」を参照)は、レンサ球菌咽頭炎、肺炎のほか、創傷、皮膚、心臓弁、血流の感染症など、多くの病態を引き起こします。 種類の異なる菌株が異なった経路で拡大し、例えば、せきやくしゃみ、感染が生じた傷や褥瘡(床ずれ)、経腟分娩(母親から新生児へ)を介して感染します。... さらに読む が作る毒素によって引き起こされることもあります。この症候群は、発熱、発疹、危険な低血圧、複数の臓器不全などの、進行が速い重度の症状を引き起こします。
ブドウ球菌感染症の危険因子
ブドウ球菌感染症にかかるリスクは、以下の特定の条件によって高まります。
腫瘍
移植臓器 移植の概要 移植とは、生きて機能している細胞、組織、臓器を体から摘出して、同じ人間の別の部分、または別の人間の体に移し替えることをいいます。 一番よく行われている移植は 輸血です。毎年、何百万人もが治療として輸血を受けます。しかし、一般には移植というと臓器(実質臓器移植)や組織の移植を指します。... さらに読む 、植え込み型の医療機器(人工心臓弁 心臓弁の修復または置換手術 心臓弁は、4つの心腔(心臓の上部にある比較的小さな丸い空洞である左右の心房と、心臓の下部にある比較的大きな円錐形の空洞である左右の心室)を通過する血液の流れを制御しています。それぞれの心室には、その入口側と出口側に、一方向に開く弁が1つずつあります。それぞれの弁は複数の薄い組織(弁尖)で構成され、一方向だけに開閉できるようになっています。... さらに読む
、 関節 人工股関節置換術 股関節骨折は、太ももの骨(大腿骨)の丸い上端部(骨頭)、大腿骨頭のすぐ下の狭くなった部分(頸部)、または頸部のすぐ下の広くなっている部分の隆起で起こることがあります。 股関節骨折は、通常は高齢者(特に骨粗しょう症患者)に発生し、しばしば軽い転倒で起こります。 通常、患部側の脚を動かしたり、立ったり、歩いたりするとかなりの痛みが生じます。 X線検査やときに他の画像検査で診断を確定します。... さらに読む 、または 心臓ペースメーカー ペースメーカー 不整脈とは、一連の心拍が不規則、速すぎる(頻脈)、遅すぎる(徐脈)、あるいは心臓内で電気刺激が異常な経路で伝わるなど、心拍リズムの異常のことをいいます。 不整脈の最も一般的な原因は心臓の病気(心疾患)です。 自分で心拍リズムの異常に気づくこともありますが、ほとんどの人は、脱力感や失神などの症状が起きるまで不整脈を自覚しません。... さらに読む
など)、または長期間の静脈内カテーテル留置
開いた傷口または潰瘍
慢性皮膚疾患
手術
コルチコステロイド、免疫の働きを抑える薬(免疫抑制薬)、またはがんの化学療法薬など
放射線療法
違法薬物の注射
新生児と授乳中の母親
抗菌薬に対する耐性
多くの菌株は抗菌薬に対する 耐性 抗菌薬に対する耐性 細菌は、顕微鏡でようやく見える程度の単細胞生物です。この地球上で最も初期の段階から存在する生命体の1つです。数千種類の細菌が存在し、世界中のあらゆる環境に生息しています。土壌、海水、地中深くはもちろん、放射性廃棄物の中で生きている細菌すら報告されています。多くの細菌が、宿主に害を与えずに、人間や動物の皮膚、気道、口の中、消化管、尿路や生殖... さらに読む を獲得しています。キャリアに抗菌薬を使用すると、抗菌薬に対する耐性のない菌株が死滅し、耐性菌が生き残ります。これらの細菌が増殖し、感染症を引き起こした場合は、治療がより難しくなります。
原因菌が耐性をもっているかどうかや、どの抗菌薬に対する耐性を獲得しているかは、感染した場所によって異なり、病院などの医療施設内で感染した場合と、それ以外の場所(市中)で感染した場合とで区別します。
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌 Staphylococcus aureus (MRSA)
病院では多数の抗菌薬が使用されるために、たいていの場合、病院スタッフは耐性菌のキャリアとなります。医療施設で感染が起こった場合、その細菌は通常、ほぼすべてのペニシリン系抗菌薬(ベータラクタム系抗菌薬 ペニシリン系 ペニシリン系は、ベータラクタム系 抗菌薬(ベータラクタム環と呼ばれる化学構造をもつ抗菌薬)のサブクラスです。 カルバペネム系、 セファロスポリン系、および モノバクタム系もベータラクタム系の抗菌薬です。 ペニシリン系薬剤は、 グラム陽性細菌による感染症( レンサ球菌感染症など)と一部の グラム陰性細菌による感染症( 髄膜炎菌感染症など)の治療に使用されます。 ペニシリン系薬剤としては以下のものがあります。... さらに読む )など、複数の抗菌薬に対する耐性をもっています。ほぼすべてのベータラクタム系抗菌薬に耐性のある菌株は、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌 Staphylococcus aureus(MRSA)と呼ばれます。メチシリンは、ペニシリンの一種です。
MRSA株は、医療施設で感染が起こった場合によくみられます(院内感染と呼ばれます)。MRSA株の中には、軽度の膿瘍や皮膚感染症などの、医療施設の外で感染する感染症(市中感染症と呼ばれます)を引き起こすものもあります。こうした市中感染症の数は増加しています。
症状
皮膚感染症が黄色ブドウ球菌 Staphylococcus aureusによって生じた場合、以下のものなどがみられます。
毛包炎 毛包炎 毛包炎と皮膚膿瘍は、細菌感染によって皮膚の内部に膿のたまった空洞ができたものです。浅いものもあれば、深いものがあり、毛包だけに生じることもあれば、皮膚のさらに深い部分まで及ぶこともあります。 ( 皮膚細菌感染症の概要も参照のこと。) 毛包炎は毛包に生じる小さな皮膚膿瘍の一種です。膿瘍は、皮膚の表層とより深い部分のいずれにも生じ、必ずしも毛包炎を伴いません。 皮膚膿瘍の大半は黄色ブドウ球菌... さらに読む
は最も軽度のものです。毛の根元(毛包)が感染し、わずかな痛みを伴う小さな吹き出物が毛の根元にできます。
膿痂疹 膿痂疹と膿瘡 膿痂疹(のうかしん)とは、黄色ブドウ球菌 Staphylococcus aureus、化膿レンサ球菌 Streptococcus pyogenes、またはこの両方によって引き起こされる皮膚感染症で、黄色いかさぶた(痂皮[かひ])を伴ったびらんができるほか、ときに黄色い液体が詰まった小水疱ができることもあります。膿瘡(のうそう)は膿痂疹の一種で、皮膚により深いただれを引き起こします。... さらに読む
は、液体で満たされた浅い水疱であり、これが破裂して蜂蜜色のかさぶたを残します。膿痂疹はかゆみまたは痛みを伴うことがあります。
中毒性表皮壊死融解症 スティーブンス-ジョンソン症候群(SJS)と中毒性表皮壊死融解症(TEN) スティーブンス-ジョンソン症候群と中毒性表皮壊死融解症は、生命を脅かす同じ皮膚疾患がそれぞれ異なる形態で生じたもので、どちらも発疹、皮膚の剥離、粘膜のびらんを引き起こします。 ( 過敏症と炎症性皮膚疾患に関する序も参照のこと。) スティーブンス-ジョンソン症候群と中毒性表皮壊死融解症は、一般的に薬または感染が原因となって発生します。 両方の病気に典型的な症状としては、皮膚の剥離、発熱、全身の痛み、平坦な赤い発疹、粘膜の水疱とびらんがあり... さらに読む
と新生児でみられる熱傷様皮膚症候群は、重篤な感染症です。どちらも広い範囲で皮膚がむけます。
ブドウ球菌の皮膚感染症は、いずれも感染力が非常に強い病気です。
乳房の感染症(乳腺炎 乳房の感染症 乳房の感染症( 乳腺炎)は、通常は出産後の6週間に発生し( 分娩後感染)、ほぼすべてが授乳している母親に起こります。授乳中の乳児の姿勢が適正でないと、ひび割れ(および痛み)が生じやすくなります。乳頭や乳頭周囲の皮膚にひび割れができると、皮膚にいる細菌が乳管に侵入して感染症が起こる可能性があります。 感染した乳房は通常、腫れて赤くなり、熱感と圧痛がみられます。乳房の一部だけが赤くなったり痛んだりすることもあります。発熱することもあります。... さらに読む )は、蜂窩織炎と膿瘍を伴うことがあり、出産の1~4週間後にみられる場合があります。乳頭周辺が赤くなり、痛みます。膿瘍から、しばしば母乳へと多数の細菌が排出されます。この細菌は授乳を受けている乳児に感染することがあります。
肺炎では、高熱、息切れ、血の混じったたんを伴うせきがみられます。 肺に膿瘍 肺膿瘍 肺膿瘍とは、肺の中にできた膿で満たされた空洞のことで、周りは炎症を起こした組織で囲まれており、感染症が原因で発生します。 通常は、口の中にいる細菌が肺の中へ吸い込まれることで生じます。 症状には、疲労感、食欲不振、寝汗、発熱、体重減少、たんがからんだせきなどがあります。 通常は、胸部X線検査で診断します。... さらに読む が発生することもあります。膿瘍は大きくなって、肺を覆う膜を侵し、ときに膿を蓄積させます(その状態を 膿胸 胸水の種類 といいます)。これらの症状によって、呼吸はより困難になります。
血流感染は、重度の熱傷を負った患者の主な死因です。典型的な症状は長引く高熱で、ときにショックを起こします。
心内膜炎では、すぐに心臓弁に障害が起きて 心不全 心不全(HF) 心不全とは、心臓が体の需要を満たせなくなった状態のことで、血流量の減少や静脈または肺での血液の滞留(うっ血)、心臓の機能をさらに弱めたり心臓を硬化させたりする他の変化などを引き起こします。 心不全は心臓の収縮や弛緩が不十分になることで発生しますが、これらの変化は一般的に、心筋が弱ったり硬くなったりすることが原因で起こります。... さらに読む に陥り(同時に呼吸が苦しくなり)、死に至ることがあります。
骨髄炎は、悪寒、発熱、骨の痛みといった症状を引き起こします。感染している骨の上にある皮膚や軟部組織が赤くなって腫れ、近くの関節に体液がたまります。
診断
皮膚の感染症についての医師による評価
その他の感染症には、血液や感染した体液の培養検査
皮膚のブドウ球菌感染症は通常、外観に基づいて診断が下されます。
他の部位の感染症では、血液や感染部位の体液のサンプルを検査室に送り、そこで細菌を増殖させて種類を特定する検査(培養検査)が行われる場合もあります。分析結果によって診断を確定し、そのブドウ球菌に有効な抗菌薬を特定します(感受性試験 微生物の抗菌薬に対する感受性試験 感染症は、 細菌、 ウイルス、 真菌、 寄生虫などの 微生物によって引き起こされます。 医師は、患者の症状や身体診察の結果、危険因子に基づいて感染症を疑います。まず、患者がかかっている病気が感染症であり、他の種類の病気ではないことを確認します。例えば、せきが出て、呼吸が苦しいと訴える人は、肺炎(肺の感染症)の可能性があります。また、喘息や... さらに読む と呼ばれます)。
骨髄炎が疑われる場合には、X線検査、CT検査、MRI検査、 骨シンチグラフィー 核医学検査 核医学検査では、放射性核種を用いて画像を描出します。放射性核種とは放射線を出す元素のことで、エネルギーを放射線の形で放出することで、安定した状態になろうとする原子です。放射性核種の多くは高いエネルギーをガンマ線(人の手によらない、自然環境で発生するX線)または粒子( 陽電子放出断層撮影で使用される陽電子など)の形で放出します。( 放射線障害も参照。) 放射性核種は、甲状腺などの特定の臓器の病気を治療するのにも使用されます。... さらに読む 、またはこれらの併用が行われます。これらの検査によって、損傷部位とその重症度を調べることができます。骨生検により、検査用のサンプルが採取されます。サンプルは針で採取されることもありますが、手術中に採取されることもあります。
予防
石けんと水道水で十分に手洗いをするか、アルコール系の消毒液を塗布することで細菌が広がるのを予防できます。
鼻からブドウ球菌を排除するためにムピロシンという抗菌薬を鼻孔内に塗ることを推奨する医師もいます。しかしながら、ムピロシンの過度の使用は菌の耐性獲得につながるために、感染の可能性が高い場合にのみ使用することが推奨されます。例えば、特定の手術を受ける前の人や皮膚感染症が広まっている世帯内の人に投与します。
ブドウ球菌のキャリアが特定の種類の手術を受ける必要がある場合、しばしば手術前に抗菌薬が投与されます。
皮膚のブドウ球菌感染症の患者は、食べものを扱ってはいけません。
一部の医療施設では、入院時に決まってMRSAに対するスクリーニング検査を受けます。また、特定の手術を受ける予定の患者など、MRSAに感染する可能性の高い人にのみスクリーニングを行う施設もあります。スクリーニングでは、綿棒を使って鼻から採取したサンプルを検査します。MRSA株が検出された人は、菌の拡散を防ぐために隔離されます。
治療
抗菌薬
ときに感染した骨や異物を除去する手術
黄色ブドウ球菌 Staphylococcus aureusによる感染症は抗菌薬で治療します。原因菌が抗菌薬に対する耐性をもつかどうかを調べ、耐性があれば、どの抗菌薬に対するものかを調べます。
病院内で発生した感染症は、MRSAに効果的な抗菌薬を用いて治療します。具体的には、バンコマイシン、リネゾリド、テジゾリド、キヌプリスチンとダルホプリスチンの配合剤、セフタロリン(ceftaroline)、テラバンシン(telavancin)、ダプトマイシンといった抗菌薬を使用します。原因菌の検査結果が出た時点で、その菌株にメチシリンに対する感受性があり、ペニシリンアレルギーがないことが明らかな場合は、ナフシリン(nafcillin)またはオキサシリンなどのメチシリンに近い薬を使用します。感染症の重症度によっては、抗菌薬を何週間も使用します。
MRSAの感染は医療施設の外でも起こりえます(市中感染)。通常、MRSAの市中感染の場合、病院内でのMRSA感染に使用される薬に加えて、トリメトプリム/スルファメトキサゾール、クリンダマイシン、ミノサイクリン、ドキシサイクリンといった他の抗菌薬に対しても菌が感受性を示します。
毛包炎などのMRSAによる軽度の皮膚感染症は通常、バシトラシン、フラジオマイシン、ポリミキシンB(処方なしでも入手可能)を含有する軟膏や、ムピロシン軟膏(処方が必要)で治療します。軟膏を塗る以上の治療が必要な場合は、MRSAに効果的な抗菌薬を経口や静脈内注射で投与します。どの抗菌薬を使用するかは、感染症の重症度と感受性試験の結果に基づいて決定します。
感染が骨や体内の異物(心臓のペースメーカー、人工心臓弁、人工関節、人工血管グラフトなど)に及んだ際には、リファンピシンやその他の抗菌薬が投与される抗菌薬のリストに加えられる場合もあります。通常、感染症を治癒させるために、感染が生じた骨や異物を手術で摘出する必要があります。
膿瘍があれば、通常は排膿を行います。
その他のブドウ球菌による感染症
黄色ブドウ球菌 Staphylococcus aureusはコアグラーゼという酵素を作ります。他のブドウ球菌の菌株はこの酵素を作らないため、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌と呼ばれます。これらの細菌は健康な人の皮膚に常在しています。
これらの細菌は、黄色ブドウ球菌 Staphylococcus aureusより危険性は低いものの、重篤な感染症を引き起こすことがあり、通常は病院で発生した場合にみられます。皮膚から血管へ挿入したカテーテルや埋め込み型の医療器具(心臓ペースメーカー、人工心臓弁、人工関節)への感染が起こる場合があります。
これらの細菌はしばしば、多くの種類の抗菌薬に対する耐性を有しています。多くの耐性菌に対して効果があるバンコマイシンが使用され、ときにリファンピシンも使用されます。医療器具に感染が生じている場合は、しばしば取り外す必要が生じます。