サル痘はサル痘ウイルスが原因の感染症で、サル痘ウイルスは天然痘ウイルスに関連するウイルスです。
最も目立つ症状は発疹です。
サル痘の診断は通常、皮膚の病変からサンプルを採取し、ウイルスの遺伝物質(DNA)を調べる検査によって下されます。
サル痘を予防するためのワクチンが利用できます。
サル痘の治療は、たいていの場合、症状の緩和を目標にして行われ、抗ウイルス薬が役立つことがあります。
(ウイルス感染症の概要 ウイルス感染症の概要 ウイルスは核酸( DNAかRNAのどちらか一方)で構成されており、タンパク質の膜で覆われています。ウイルスが増殖するには生きている細胞が必要です。ウイルス感染症は、無症状(明らかな症状はない)から重度の病態にいたるまで、幅広い症状を引き起こします。 ウイルス感染症は、ウイルスを飲み込んだり、吸い込んだり、虫に刺されたり、性的接触を通じて感... さらに読む も参照のこと。)
サル痘と天然痘は、オルソポックスウイルスと呼ばれるウイルス群の一種です。水痘帯状疱疹ウイルスによって引き起こされる、別のウイルス群の一種である水痘とは無関係です。
病気の名前とは異なり、サル痘ウイルスはサルに由来するものではありません。病原体保有生物(感染源の動物)は不明ですが、最も可能性が高い原因動物はアフリカ熱帯雨林(ほとんどが西アフリカおよび中央アフリカ)に生息する小型のげっ歯類(例えば、リス)です。
2022年に、通常ではサル痘の感染が起こらない欧州のいくつかの国と米国を含む、約70カ国でサル痘の症例が報告されました。これまでサル痘の人から人への持続的な感染は主にアフリカで起こっていたため、これは新しい状況です。世界保健機関(WHO)は、2022年のサル痘の集団発生を、国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態と宣言しました(WHO:2022年サル痘アウトブレイク[WHO: Monkeypox Outbreak 2022]を参照)。
医療機関は、2022年の集団発生中にどのように人々がウイルスにさらされ、どのように感染が拡大しているかを調査しています。男性と性行為を行う男性で多くの症例が発生していますが、このパターンが続くかどうか、また性行為によって感染するかどうかは分かっていません。
歴史的には、サル痘の人への感染は主にアフリカで散発的に起こっていたか、ときに流行がみられました。ほとんどの患者は、コンゴ民主共和国の小児で報告されています。
アフリカでは2000年代から患者数が徐々に増えてきています。以下のような理由が考えられます。
サル痘ウイルスを保有している動物の生息地域に人が入り込んでいる
2021年までは、アフリカ以外での感染例は西アフリカや中央アフリカへの旅行や同地域から輸入された動物に直接関連するものでした。米国では、2003年にサル痘が流行しました。これは感染したげっ歯類がペットとしてアフリカから輸入されたことがきっかけでした。ウイルスは、感染したげっ歯類からペットのプレーリードッグに広がり、その後、アメリカ中西部の人々に感染しました。
サル痘はいくつかの方法で広がります(米国疾病予防管理センター:米国における2022年サル痘アウトブレイク[Centers for Disease Control and Prevention (CDC): 2022 U.S. Monkeypox Outbreak]も参照)。以下を介して人から人へ広がることがあります。
感染性の発疹、かさぶた、体液に直接触れる
長時間の対面での接触時、またはキスをする、抱き合う、性行為などの身体的に親密な接触時の呼吸器の分泌物
感染性の発疹や体液に触れた物(衣類や寝具など)に触る
妊婦の胎盤を通じて胎児に感染する
サル痘は、感染した動物と接触したときに、おそらく動物に咬まれたり引っかかれたりするか、感染した動物の肉を調理して食べることで広がる可能性があります。
サル痘の症状
サル痘では、 天然痘 天然痘 天然痘は、天然痘ウイルスが引き起こす、感染性、致死性ともに非常に高い病気です。この病気は現在では根絶されています。 1977年以来、天然痘は発生していません。 感染者が呼吸やせきで排出した空気を吸い込むことで感染します。 発熱、頭痛、背部痛、発疹、またときには重度の腹痛が生じ、非常に体調が悪くなります。... さらに読む の症状とよく似た症状が現れます。天然痘でみられるように、サル痘の発疹は最初、平坦な赤い斑点として現れます。斑点はその後、水疱になり、その中は膿で満たされています(膿疱になります)。数日後には膿疱がかさぶたで覆われます。2022年の集団発生以前は、発疹は顔面から始まり、体の他の部分(手のひらや足の裏など)に広がることが多くありました。しかし、2022年の世界的流行では、発疹はしばしば性器またはその近くや口の中で始まり、痛みを伴うことが多く、典型的な段階を経て広がったり進行したりしないこともあります。
症状としては、発熱、悪寒、頭痛、筋肉痛、背中の痛み、極度の疲労、リンパ節の顕著な腫れなどがあります。これらの症状は、発疹が現れる前、発疹が現れている間、あるいは発疹が現れた後に発生することがあります。
サル痘にかかると、他の感染症にもかかる可能性が高くなります。一部のサル痘の患者では皮膚や肺に細菌感染がみられます。
サル痘は通常、天然痘よりも軽症ですが、死に至るケースもあります。2003年に米国で流行した際には、死亡は報告されませんでした。2022年の集団発生では、数千人の患者のうち数人が死亡しました。
症状が最初に現れるのは、感染してから1~2週間後ですが、現れるまでに3週間ほどかかることもあります。他の人への感染性(ウイルスを他の人に広げる可能性があるという意味)は、症状が現れてからすべての病変がかさぶたになり、かさぶたが剥がれて正常な皮膚が現れるまで持続します。これには典型的には2~4週間かかります。
サル痘の診断
医師は、典型的なサル痘の皮膚病変に似た発疹がある人における、症状の考えられる原因としてサル痘の可能性を考慮します。
サル痘の診断は通常、皮膚の病変からサンプルを採取し、ウイルスの遺伝物質(DNA)を調べる検査によって下されます。
サル痘の検出に必要なその他の検査としては、感染した組織を検査室に送り、ウイルスを培養して分析する検査、サル痘ウイルスに対する抗体の有無を調べる血液検査、感染組織のサンプルの顕微鏡による検査があります。
サル痘の予防
天然痘 天然痘 天然痘は、天然痘ウイルスが引き起こす、感染性、致死性ともに非常に高い病気です。この病気は現在では根絶されています。 1977年以来、天然痘は発生していません。 感染者が呼吸やせきで排出した空気を吸い込むことで感染します。 発熱、頭痛、背部痛、発疹、またときには重度の腹痛が生じ、非常に体調が悪くなります。... さらに読む の予防に使用されるワクチンをサル痘にも使用します。サル痘ウイルスは天然痘の原因ウイルスと非常に近縁であるため、 天然痘ワクチン 天然痘ワクチン 米国では、天然痘が根絶されたため、天然痘ワクチンの定期予防接種は1972年に中止されました。世界で最後に確認された症例は1977年に発生したもので、1980年には、世界中で定期予防接種が中止されました。ワクチンの効果が持続する期間は約10年ですので、現在はほとんどの人が 天然痘に対する免疫をもっていません。... さらに読む は、サル痘の予防に少なくとも85%の効果を示すことが、アフリカの過去のデータから示唆されています。局地的に流行している地域でサル痘にさらされるリスクが高い人や、感染している人に接触する医療従事者に天然痘ワクチンが勧められることがあります(米国疾病予防管理センター:サル痘および天然痘のワクチンガイダンス[CDC: Monkeypox and Smallpox Vaccine Guidance]を参照)。
サル痘にかかった人で入院していない場合は、次の対策を講じる必要があります。
病変が消失してかさぶたがはがれ、新たに正常な皮膚の層が形成されるまで、自宅隔離とする
ほかの人や動物との直接的な身体的接触を避ける
寝具、タオル、衣服、コップ、食器など、汚染の可能性がある物品の共用を控え、よく接触する表面および物品をきれいにして消毒する
家庭内でほかの人との濃厚接触が避けられない場合は、マスクを着用する
サル痘と診断された後の自宅隔離の安全な方法についての詳細なガイダンスは、米国疾病予防管理センター:サル痘:隔離と感染制御:自宅(CDC: Monkeypox: Isolation and Infection Control: Home)を参照してください。
サル痘の治療
サル痘の治療は、たいていの場合、症状の緩和を目標にして行われます。サル痘ウイルス感染症に効くことが証明されていて安全な治療法はありません。抗ウイルス薬のテコビリマット(tecovirimat)、シドホビル(cidofovir)またはブリンシドホビル(brincidofovir)が有用である可能性がありますが、サル痘の治療としてはこれまで研究されていません。
さらなる情報
役立つ可能性がある英語の資料を以下に示します。こちらの情報源の内容について、MSDマニュアルでは責任を負いませんのでご了承ください。
米国疾病予防管理センター:サル痘について(Centers for Disease Control and Prevention[CDC]: About Monkeypox)
世界保健機関:サル痘(World Health Organization [WHO]: Monkeypox)