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ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症の薬物治療

執筆者:

Edward R. Cachay

, MD, MAS, University of California, San Diego School of Medicine

レビュー/改訂 2019年 8月
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本ページのリソース
  • 血液中のHIV RNAの量(ウイルス量)を検出不可能な量まで減らす

  • CD4陽性細胞数を正常値に回復させる

HIV感染症の治療には、数種類の抗レトロウイルス薬を組み合わせて使用します。そのような薬には、HIVが人の細胞に侵入するのを阻止する働きや、HIVが人間の細胞内で増殖したり自身の遺伝物質を人間のDNAに組み込んだりするために必要な酵素を阻害する働きがあります。

抗レトロウイルス薬は、HIVに対する作用に基づいて、次のように分類されます。

  • 逆転写酵素阻害薬は、HIVの逆転写酵素がHIVのRNAをDNAに変換するのを阻害します。このタイプの薬には、ヌクレオシド系、ヌクレオチド系、非ヌクレオシド系の3種類があります。

  • プロテアーゼ阻害薬:新しく作り出されたウイルスの中で、プロテアーゼがある種のタンパク質を活性化する働きを阻害します。その結果、HIVは成熟できず、新しい細胞に感染できない、欠陥のあるHIVとなります。

  • 膜融合阻害薬:HIVが細胞内に侵入できないようにします。HIVが人間の細胞に侵入するには、CD4受容体のほかに、CCR-5受容体など別の受容体に結合する必要があります。侵入阻害薬の一種であるCCR-5阻害薬は、CCR-5受容体を遮断することで、HIVが人の細胞内に侵入できないようにします。

  • Post-attachment inhibitorもHIVが細胞に侵入するのを防ぎますが、膜融合阻害薬とは異なる方法で作用します。これらの阻害薬は、いくつかの他の薬剤に耐性のあるHIV感染症に主に使用されます。

  • インテグラーゼ阻害薬:HIVのDNAが人のDNAに組み込まれるのを阻害します。

これらの薬は、細胞内でのHIVの複製を阻止し、数日から数週間で血液中のHIVの量を劇的に減らします。複製速度を十分に抑えられれば、HIVに破壊されるCD4陽性リンパ球が少なくなり、CD4陽性細胞数が増え始めます。その結果、HIVによって免疫系が受けた障害の大部分が回復することがあります。そのような回復を検出するには、CD4陽性細胞数を測定し、この値が数週から数カ月かけて正常レベルに戻りつつあることを確認します。CD4陽性細胞数は数年間にわたって増加しますが、そのペースは次第に落ち着いてきます。

早期に診断すれば、患者のCD4陽性細胞数が減りすぎる前に、医師がHIV感染者を特定できるため、HIV感染は早期に診断することが重要です。抗レトロウイルス薬の使用を早く開始すればするほど、CD4陽性細胞数がすばやく増加し数値が高くなる可能性が高まります。

知っていますか?

  • HIV感染症の治療薬は、感染者が一貫して服用を続けて初めて効果を発揮できます。服薬を怠ると、ウイルスが増殖して、耐性が生じます。

これらの薬を単独で使用すると、HIVはいずれの薬に対しても必ず耐性をもつようになります。薬の種類とウイルスに応じて、耐性は使用を始めて数日から数カ月で生じます。HIVは、増殖する際に起こる突然変異によって、薬に対する耐性を獲得します。

複数の薬を組み合わせて使用することで、治療の効果が最大になります。このような薬の組合せは、多剤併用抗レトロウイルス併用療法と呼ばれます。多剤併用抗レトロウイルス併用療法が用いられるのは、以下の理由によります。

  • 血液中のHIV量を減らす上で、薬を単独で投与するより組み合わせた方が強力である。

  • 組み合わせることで、薬剤耐性の発生予防に役立つ。

  • リトナビルなど一部のHIV薬は、他のHIV薬(大半のプロテアーゼ阻害薬など)の排泄を遅らせることで、その薬の血中濃度を高め、有効性を向上させる。

多剤併用抗レトロウイルス併用療法では、HIV感染者のCD4陽性細胞数を増やすことで、免疫系を強化して余命を延ばすことができます。

抗レトロウイルス薬の副作用

抗レトロウイルス薬の併用による副作用が、不快な場合や重篤な場合があります。しかし、医師は定期的な診察と血液検査によって、多くの重篤な問題(貧血、肝炎、腎障害、膵炎など)を予防できます。血液検査を行うと、副作用が重篤になる前に発見することができ、医師は必要な場合には抗レトロウイルス薬を変更できます。医師はほとんどの患者に、最も副作用の小さい薬の組合せを見つけることができます。

主にプロテアーゼ阻害薬によると考えられますが、脂肪代謝が障害されることがあります。その結果、以下のことが起こる可能性があります。

  • 脂肪が腹部や女性の乳房に蓄積し(中心性肥満と呼ばれる)、顔、腕、脚の脂肪が減る。

  • インスリンが作用しにくい体になる(インスリン抵抗性と呼ばれる)。

  • 血液中のコレステロールと中性脂肪(どちらも血液中の脂肪)が増加する。

発疹(皮膚反応)は多くの薬の副作用です。ときに非常に危険な皮膚反応が起こることがあり、特にネビラピンまたはアバカビルにはそうした懸念があります。

特定の核酸系逆転写酵素阻害薬を用いると、ミトコンドリア(細胞内でエネルギーを作る構造物)が損傷を受けることがあります。副作用には、貧血、神経の損傷(神経障害)による足の痛み、ときに重度の肝不全に進行する肝傷害、心不全に至ることもある心臓の損傷などがあります。個々の薬によってそのような問題を引き起こす傾向は異なります。

免疫再構築症候群

多剤併用抗レトロウイルス併用療法がうまくいっている人で、ときに免疫再構築症候群(IRIS)という病気が発生することがあります。

この症候群には以下の2つの種類があります。

  • 逆説的IRISでは、すでに診断された感染症の症状が悪化する

  • 顕在化IRISでは、まだ診断されていない感染症の症状が初めて現れる

逆説的IRISは通常、治療の最初の数カ月に起こり、多くは自然に治ります。治まらない場合は、しばしば短期間のコルチコステロイドの投与が効果的です。日和見感染症の治療が始まってすぐに多剤併用抗レトロウイルス併用療法を開始すると、逆説的IRISによる症状が現れやすく、しかも重症になりやすい傾向があります。したがって、一部の(すべてではない)日和見感染症では、治療によって日和見感染症が軽快または根治するまで多剤併用抗レトロウイルス併用療法を延期します。

顕在化IRISの患者では、医師は新しく特定した日和見感染症を抗菌薬で治療します。症状が重度の場合はコルチコステロイドを用いることもあります。通常、顕在化IRISが発生しても、多剤併用抗レトロウイルス併用療法は継続されます。ただし、 クリプトコッカス感染症 クリプトコッカス症 クリプトコッカス症は、クリプトコッカス・ネオフォルマンス Cryptococcus neoformansまたはクリプトコッカス・ガッティ Cryptococcus gattiiという真菌によって引き起こされる感染症です。 症状が出ない場合もあれば、感染部位によって、頭痛や錯乱、せきや胸痛、または発疹が出ることがあります。 診断は、組織と体液のサンプルを培養して観察する検査の結果に基づいて下されます。... さらに読む クリプトコッカス症 が脳に発生した場合は例外です。このときは、感染症が制御されるまで多剤併用抗レトロウイルス併用療法を一時中止します。

抗レトロウイルス薬の相互作用

抗レトロウイルス薬同士で相互作用が起こると、それらの薬の有効性が強くなったり弱くなったりすることがあります。

また、他の物質も体内でのHIV薬の作用に影響を及ぼします。そうした物質には以下のものがあります。

  • グレープフルーツジュースはサキナビルの濃度を高め、副作用のリスクを高めます。

  • セイヨウオトギリソウ(薬用ハーブ)は、体内でのプロテアーゼ阻害薬と非核酸系逆転写酵素阻害薬の処理を速めるため、それらの薬の効果が薄くなります。

抗レトロウイルス薬の使用

抗レトロウイルス治療が有益となるのは、医師の指示通りに服用した場合のみです。服薬を怠ると、ウイルスが増殖して、耐性が生じます。

多くの場合、治療により血液などの体液や組織に含まれるHIVの量が検出不能なレベルまで減少しますが、ウイルスを体内から完全に排除することはできません。検出不能なレベルまでウイルスを減らすことが治療の目標です。治療を中止すれば、HIVのレベルが増加し、CD4陽性細胞数が低下し始めます。

それほど病状がひどくなく、CD4陽性細胞数がまだ500以上の人(正常値は500~1000)でも、できるだけ早く薬物治療を開始することが望まれます。かつてはCD4陽性細胞数が500未満になるまで、薬物療法は開始されませんでした。しかし、研究の結果、抗レトロウイルス薬による治療を迅速に受けた人の方が、エイズ関連の合併症を発症する可能性も、合併症によって死亡する可能性も低いことが分かりました。

治療を開始する前に、患者は以下の点の必要性について説明を受けます。

  • 指示通りに薬を飲むこと

  • 毎回必ず服用すること

  • 残りの生涯にわたって薬を服用すること

生涯にわたって指示通りに服薬することは簡単ではありません。患者の中には(休薬期間と称して)服用を抜かしたり中止したりする人もいます。こうした行動は、HIVが薬への耐性を獲得する一因になり危険です。

また、HIV治療薬は不規則に服用すると薬剤耐性が発生することが多いため、医療従事者は、患者が自分の意志で確実に治療計画に従うことが可能かどうか、確認するように努めます。投薬スケジュールを分かりやすくして、指示通りに薬を飲みやすくするために、医師は1つの錠剤に複数の薬を入れ、1日1回飲めば済むようにして処方することがよくあります。

治療を必要とするほかの病気が発生した場合や、副作用が重く、原因になっている薬を特定する必要がある場合には、医師の判断で一時的に治療を中断することがあります。すべての薬の使用を同時に止めるのであれば、通常は治療の中断は安全です。問題を引き起こしている薬の用量を減らすか、別の薬に変更し、かつ医師が治療を再開しても安全であると判断したら、薬剤の投与を再開します。ただし、アバカビルは例外です。アバカビルを服用しているときに発熱または発疹がみられた場合は、この薬を永久に中止する必要があります。そのような人がアバカビルを再び服用すると、死に至ることもある重篤な副作用が起きる可能性があります。

日和見感染症の予防

CD4陽性細胞数が低い場合は、次のように日和見感染症を予防する薬が処方されます。

その他の薬

このほか、HIV感染症で起こる筋力低下や体重減少、中心性肥満に効く薬もあります。

  • メゲストロール(megestrol)とドロナビノール(dronabinol、マリファナから作られる)には食欲増進作用があります。天然のマリファナの方が効果的と考える患者も多く、米国のいくつかの州では、この目的でのマリファナ使用が合法化されています。

  • テストステロン濃度が低く、加えて疲労や貧血、筋肉減少がみられる男性には、注射または皮膚に貼るパッチでテストステロンを投与することがあります。テストステロン治療は、テストステロン濃度を高めて症状を軽減することができます。

  • 成長ホルモンとテサモレリン(成長ホルモンの分泌を引き起こす注射薬)はHIVやその治療によって発生しうる中心性肥満を軽減します。

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