異なった遺伝子異常がいくつかあると、この病気を発症することがあります。
不意に出血したり、わずかな傷で出血したりする可能性があります。
診断には血液検査が必要です。
輸血を行って、欠けている凝固因子を補充します。
凝固因子は相互に作用して、血液の凝固を助け、出血を抑える血液中のタンパク質です。凝固因子には多くの種類があります( 血栓について 血栓について 止血とは、傷ついた血管からの出血を止めようとする体の働きです。止血には血液の凝固が伴います。 血液が凝固しすぎると、出血していない血管までふさいでしまうことがあります。 凝固が不十分すぎると、軽いけがでも過剰な出血が生じやすくなります。 ゆえに体には、凝固を抑制し、もはや必要なくなった血のかたまりを溶かすための仕組みが備わっています。この... さらに読む も参照)。
血友病には以下の2つの種類があります。
血友病Aは第VIII因子が欠乏しているもので、全体の約80%を占めます。
血友病Bでは第IX因子が欠乏しています。
出血のパターンや病気の経過は、いずれも似ています。
血友病はいくつかの遺伝子異常が原因で起こります。遺伝の形式は 伴性遺伝 X連鎖遺伝 遺伝子とは、DNA(デオキシリボ核酸)のうち、細胞の種類に応じて機能する特定のタンパクの設計情報が記録された領域のことです。 染色体は非常に長いDNA鎖からできており、そこには多く(数百~数千)の遺伝子があります。特定の細胞(精子と卵子など)を除き、人間の細胞には23対の染色体があります。22対の常染色体と1対の性染色体があり、合わせて46本の染色体があります。通常、それぞれの対を構成する染色体は、片方を母親から、もう片方を父親から受け... さらに読む で、遺伝子異常は母親から伝わり、血友病患者のほとんどが男性です( X連鎖遺伝 単一遺伝子疾患の遺伝 遺伝子とは、DNA(デオキシリボ核酸)のうち、細胞の種類に応じて機能する特定のタンパクの設計情報が記録された領域のことです。 染色体は非常に長いDNA鎖からできており、そこには多く(数百~数千)の遺伝子があります。特定の細胞(精子と卵子など)を除き、人間の細胞には23対の染色体があります。22対の常染色体と1対の性染色体があり、合わせて46本の染色体があります。通常、それぞれの対を構成する染色体は、片方を母親から、もう片方を父親から受け... さらに読む も参照)。
症状
主な症状は 過剰な出血 あざと出血 けがしたときのあざや出血は正常です。しかし、あざや出血を起こしやすくなる病気があります。ときには、あきらかな原因やけががないのに出血することもあります。体のほぼあらゆる部分で自然に出血することがありますが、鼻や口、消化管に最も多くみられます。血友病では、関節内や筋肉内でしばしば出血がみられます。ほとんどの場合、出血はわずかですが、生命を脅かすほど大量に出血することもあります。ただし、わずかな出血でも、脳に発生すると危険です。... さらに読む です。関節内や筋肉内、腹部や頭部の内部、傷口から、歯科治療時、手術時に出血することがあります。血友病の小児はあざができやすくなります。
出血の程度は、遺伝子異常が第VIII因子や第IX因子の血液凝固活性にどれだけ影響しているかによって異なります。
軽度の血友病:凝固活性が正常値の5~25%
中等度の血友病:凝固活性が正常値の1~5%
重度の血友病:凝固活性が正常値の1%を下回る
軽度の血友病
軽度の血友病では、診断に至らないこともあります。ただし、手術、抜歯、大けがなどの後では、出血量が予想以上に多くなる可能性があります。
中等度の血友病
中等度の血友病では、はっきりした理由がなく出血することはほとんどありませんが、手術やけがで出血が止まらなくなり、死に至ることがあります。中等度の血友病では、通常は生後18カ月になる前に最初の出血症状が起こります。わずかな傷で出血みられることがあります。
重度の血友病
血友病が重度の場合、重篤な出血が、わずかな傷やはっきりした理由もなく発生し、繰り返します。
重度の血友病では、最初の出血が出産中や出産直後に起きることがよくあります。乳児では、頭皮の下に血のかたまり(頭血腫)ができたり、割礼を行っている最中に甚だしい出血を起こしたりする場合があります。
筋肉内注射をしただけで出血を起こし、大きなあざや血液の貯留(血腫)が生じます。関節や筋肉への出血が繰り返し起こると、手足が変形します。出血によって舌の付け根が腫れ、気道がふさがれて呼吸困難を起こすことがあります。頭を軽くぶつけただけでも、脳の内部や脳と頭蓋骨の間に大量の出血を起こして、脳の損傷により死に至ることもあります。
診断
血液検査
小児(特に男児)で特に原因がなく出血する場合や、けがの後に出血が予想以上に多い場合は、血友病が疑われます。血液が凝固する速さに異常がないか、血液検査で調べることができます。もし異常があれば、第VIII因子と第IX因子の濃度を測定する詳しい血液検査を行って血友病の診断を確定し、その種類と重症度を判定することができます。
一部の専門検査機関では、異常な遺伝子を保有している可能性のある女性に対する遺伝子検査や胎児の出生前遺伝子検査が利用可能です。
治療
不足している凝固因子の補充
血友病では、出血を起こすような状況を作らないようにするとともに、血小板の機能を妨げる薬(例えばアスピリンで、非ステロイド系抗炎症薬も可能性があります)の使用は避けるべきです。抜歯をせずにすむように、口腔ケアに注意する必要があります。軽度の血友病でも、歯科治療やほかの外科手術が必要になった場合は、アミノカプロン酸(Aminocaproic acid)またはデスモプレシンという薬を使用して出血を調節する体の機能を一時的に高めることで、輸血をしなくてもすむようにします。
多くの場合、治療には凝固因子の不足を補う輸血が含まれます。これらの凝固因子は、通常血液の液体成分(血漿)に含まれています。凝固因子は、献血された血液の血漿成分を濃縮または純化してつくられる場合があります。血漿から純化する凝固因子では、献血された血漿中に存在する可能性のあるウイルスのほとんどを不活化する処理が行われます。凝固因子は、研究室で特殊な技術による処理を用いてつくられる場合もあります。このようにしてつくられた凝固因子は、高純度の組換え凝固因子濃縮物と呼ばれます。第VIII因子と第IX因子の両方の組換え凝固因子が利用可能です。組換え凝固因子は人から提供されたものではないため、献血された血液由来の凝固因子にみられるような感染のリスクはほとんどありません。凝固因子の用量、投与頻度、治療期間は、出血の場所や重症度によって決定されます。出血予防のために、手術の前や最初に出血の徴候がみられた時点で凝固因子が使用されることもあります。
血友病における出血を抑える目的で、使用可能または試験中である新薬がいくつかあります。
血友病では、輸血した凝固因子に対して抗体ができる人もおり、抗体ができると凝固因子が破壊されます。その結果、凝固因子補充療法の効果が低下してしまいます。血友病の人の血液から抗体が検出された場合は、遺伝子組換え凝固因子製剤や濃縮血漿製剤を増量するか、凝固因子の種類を変えたり、薬で抗体価を低下させたりするなどの対応が必要になります。