ヘム前駆体のプロトポルフィリンが骨髄、赤血球、他の組織(皮膚など)に蓄積します。
日光にあたるとすぐに、激しい皮膚の痛みと腫れが起こります。
血液検査で、プロトポルフィリン濃度の上昇が調べられます。
この病気の人は、日光を避ける必要があります。
ベータカロテンが皮膚の保護に有用となる場合があります。
(ポルフィリン症の概要 ポルフィリン症の概要 ポルフィリン症とは、ヘムの産生に関わる酵素が欠損することによって生じる疾患群です。 ヘムは鉄を含む化学物質で、血液の赤い色を作り出しており、体内に存在する数種類の重要なタンパク質の主要成分です。赤血球が酸素を運ぶことを可能にするヘモグロビンは、そうしたタンパク質の1つです。ヘムは肝臓でつくられる特定の酵素の重要な材料でもあります。... さらに読む も参照のこと。)
皮膚にプロトポルフィリンが蓄積すると、日光に対して極端に敏感になり、日光を浴びるとすぐに激しい痛みが生じます。日光がプロトポルフィリン分子を活性化して、周囲の組織を損傷します。
肝臓にプロトポルフィリンが蓄積すると、肝傷害が生じます。胆汁に排出されたプロトポルフィリンは、しばしば 胆石 胆石 胆石は胆嚢内で固形物(主にコレステロールの結晶)が集積したものです。 肝臓はコレステロールを過剰に分泌することがあり、このコレステロールは胆汁とともに胆嚢に運ばれ、そこで過剰なコレステロールが固体粒子を形成して蓄積します。 胆石は、ときに数時間続く上腹部痛を起こすことがあります。 超音波検査では極めて正確に胆石を検出できます。 胆石によって痛みなどの問題が繰り返し起こる場合は、胆嚢を摘出します。 さらに読む を形成します。
骨髄性プロトポルフィリン症
骨髄性プロトポルフィリン症はあまりみられません。主に小児期に発生します。
骨髄性プロトポルフィリン症のほとんどの人で、フェロキラターゼ酵素の欠損により、 ヘム前駆体のプロトポルフィリン ポルフィリン症の概要 ポルフィリン症とは、ヘムの産生に関わる酵素が欠損することによって生じる疾患群です。 ヘムは鉄を含む化学物質で、血液の赤い色を作り出しており、体内に存在する数種類の重要なタンパク質の主要成分です。赤血球が酸素を運ぶことを可能にするヘモグロビンは、そうしたタンパク質の1つです。ヘムは肝臓でつくられる特定の酵素の重要な材料でもあります。... さらに読む が骨髄、赤血球、血漿(けっしょう、血液の液体成分)、皮膚に蓄積し、最終的には肝臓にもたまります。
この酵素の欠損は両親の片方から遺伝しますが、発症に至る人では、他方の親から受け継いだこの酵素に関する遺伝子にもわずかに異常がみられます。
X連鎖優性プロトポルフィリン症
骨髄性プロトポルフィリン症の症状がみられる人の約10%では、実際には別の酵素の活性が上昇しています。この活性の上昇によって、同じヘム前駆体が蓄積されるようになります。しかし、このタイプの骨髄性プロトポルフィリン症の異常遺伝子は X染色体 単一遺伝子疾患の遺伝 遺伝子とは、DNA(デオキシリボ核酸)のうち、細胞の種類に応じて機能する特定のタンパク質の設計情報が記録された領域のことです。 染色体は非常に長いDNA鎖からできており、そこには多く(数百~数千)の 遺伝子があります。特定の細胞(例えば、精子と卵子)を除き、人間の正常な細胞には23対の染色体があります。22対の常染色体と1対の性染色体があり、合わせて46本の染色体があります。通常、それぞれの対を構成する染色体は、片方を母親から、もう片方... さらに読む 上にあるため、この病気はX連鎖優性プロトポルフィリン症と呼ばれ、主に男児に発生します。
X連鎖優性プロトポルフィリン症は骨髄性プロトポルフィリン症によく似ているため、骨髄性プロトポルフィリン症の一種とみなされることもあります。
症状
通常、症状は小児期に始まります。皮膚が短期間でも日光にさらされると、すぐに激しい痛みと腫れが起こります。日光に長時間さらされると、唇の周囲や手の甲にかさぶたが生じることがあります。水疱(すいほう)や瘢痕(はんこん)は生じないため、医師はなかなかこの病気に気づきません。
胆石 胆石 胆石は胆嚢内で固形物(主にコレステロールの結晶)が集積したものです。 肝臓はコレステロールを過剰に分泌することがあり、このコレステロールは胆汁とともに胆嚢に運ばれ、そこで過剰なコレステロールが固体粒子を形成して蓄積します。 胆石は、ときに数時間続く上腹部痛を起こすことがあります。 超音波検査では極めて正確に胆石を検出できます。 胆石によって痛みなどの問題が繰り返し起こる場合は、胆嚢を摘出します。 さらに読む は特徴的な腹痛を引き起こします。肝傷害により、黄疸、腹痛、脾腫(ひしゅ)を伴う 肝不全 肝不全 肝不全は、肝機能が大幅に低下した状態です。 肝不全は、肝臓に損傷が起きる病気や物質により引き起こされます。 ほとんどの患者は 黄疸(皮膚と眼が黄色くなる)になり、疲れて脱力を覚え、食欲を失います。 他の症状には、腹部への体液の貯留( 腹水)や、皮下出血や出血が起きやすい傾向などがあります。 医師は通常、症状と身体診察、および血液検査の結果に基づいて、肝不全の診断を下すことができます。 さらに読む が生じます。
皮膚の保護を慢性的に怠った場合は、特に手指関節部の皮膚が粗く肥厚して硬くなります(苔癬化[たいせんか])。口の周りにくっきりとした溝が生じることがあります(carp mouth)。
X連鎖優性プロトポルフィリン症患者では骨髄性プロトポルフィリン症患者よりも日光に対する重度の有害反応や重症の肝疾患がみられる傾向があります。
小児の場合、理由を説明できずに外出を拒むため、骨髄性プロトポルフィリン症またはX連鎖優性プロトポルフィリン症が認識されなければ、心理社会的な問題が生じる可能性があります。痛みの恐怖または痛みが起こる予感は極めて辛いため、小児は神経質になるか、緊張がみられる、もしくは攻撃的になる場合があり、外界から切り離されているような感覚や自殺念慮さえもつ場合があります。
診断
血液検査
たいていの場合、尿のポルフィリン濃度は増加しません。そのため、赤血球と血漿(血液の液体成分)のプロトポルフィリン濃度が上昇しているかどうかを調べて診断されます。
遺伝子検査が行われることもあります。遺伝子変異がないかどうかを調べるために、家族に検査を行うこともあります。
発作の予防
日光にあたらないよう、細心の注意を払う必要があります。保護効果の高い衣類、帽子、二酸化チタンや酸化亜鉛を含む光を通さない日焼け止めを使用するようにします。間違って日光を浴びてしまった場合には、 日焼け 日焼け 日焼けは、強い紫外線を短時間で浴びた(急性曝露)結果として起こります。 紫外線を浴びすぎると、日焼けが生じます。 日焼け(サンバーン)が起こると、皮膚は赤くなって痛み、ときに水疱が現れたり、発熱や悪寒が生じたりすることもあります。 日光を浴びすぎないようにし、日焼け止めを塗ることで、日焼けを予防することができます。 冷水湿布、保湿剤、および非ステロイド系抗炎症薬により、日焼けが治るまで痛みを和らげることができます。 さらに読む と同じ治療を受けます。
皮膚がやや黄色くなるくらいの多量のベータカロテンを摂取すると、日光への耐性が向上する可能性があります。日光への耐性を向上させるアファメラノチド(afamelanotide)などのいくつかの薬が研究されています。アファメラノチド(afamelanotide)は欧州の一部で利用可能です。ただそれでも日光は避けなければなりません。
急性ポルフィリン症を誘発する薬によって骨髄性プロトポルフィリン症が起こることはないため、こういった薬を避ける必要はありません。
治療
発作の症状の緩和
胆石と肝傷害の治療
急性の皮膚症状は、冷水浴または濡れタオル、鎮痛薬、コルチコステロイドの外用や経口投与により軽減できます。症状の回復には最大1週間を要します。これらの方法で効果がみられない場合、医師はヘマチンを投与したり、輸血を行ったりすることもあります。アファメラノチド(afamelanotide)、胆汁酸、コレスチラミン樹脂、活性炭などのいくつかの他の薬剤も効果的です。
プロトポルフィリンを含む胆石がある場合は、手術で取り除かなければならないことがあります。
年1回、血液や尿、便の検査で、赤血球へのポルフィリンの蓄積と肝臓の状態をモニタリングするべきです。肝傷害が重度の場合には、 肝移植 肝移植 肝移植とは、健康な肝臓またはときに生きている人から肝臓の一部を手術で摘出し、肝臓が機能しなくなった人に移植することです。 ( 移植の概要も参照のこと。) 肝移植は2番目に多い臓器移植です。肝臓が機能しなくなった人々に残された唯一の選択肢です。 完全な形の肝臓は死亡した人からしか提供を受けられませんが、肝臓の一部であれば生きているドナーでも提供できます。移植用の肝臓は摘出後、最長で18時間保存できます。... さらに読む が必要になります。
幹細胞移植 造血幹細胞移植 幹細胞移植とは、健康な人から幹細胞(未分化細胞)を採取し、重篤な血液疾患がある人にそれを注射することです。 ( 移植の概要も参照のこと。) 幹細胞は未分化の細胞で、分裂しながら、より分化した他の細胞に変わっていきます。幹細胞は以下のものから採取することができます。 生まれてすぐの新生児の臍帯血(母親が提供) 骨髄(骨髄移植) さらに読む により骨髄性プロトポルフィリン症が治癒する可能性がありますが、 移植のリスク 移植後の合併症 移植とは、生きて機能している細胞、組織、臓器を体から摘出して、同じ人間の別の部分、または別の人間の体に移し替えることをいいます。 一番よく行われている移植は 輸血です。毎年、何百万人もが治療として輸血を受けます。しかし、一般には移植というと臓器(実質臓器移植)や組織の移植を指します。... さらに読む が有益性を上回ることが一般的であるため通常は行われません。
さらなる情報
米国ポルフィリン症基金(American Porphyria Foundation)
欧州ポルフィリン症ネットワーク(European Porphyria Network)