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健忘

執筆者:

Juebin Huang

, MD, PhD, Memory Impairment and Neurodegenerative Dementia (MIND) Center, University of Mississippi Medical Center

最終査読/改訂年月 2017年 7月
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健忘とは、数秒前、数日前、またはさらに前の体験や出来事を思い出す能力が部分的または完全に失われる障害です。

  • 記憶には脳の多くの領域が関わっているため、脳のほぼどこに損傷が起きても健忘をきたす可能性があります。

  • 健忘がどのように起こるかは部分的にしか解明されていません。

  • 記憶障害がどの程度続くかは、原因になった損傷の重症度によって変わります。

  • 医師は簡単な質問や正式な記憶の検査を行うことにより、記憶障害を評価します。

  • 可能であれば、記憶障害の原因に対する治療を行います。

記憶障害は以下のように分類できます。

  • 逆行性:原因が起こる直前の出来事に対する健忘

  • 前向性:原因が起こった直後の出来事に対する健忘

  • 感覚特異的:1つの感覚(聴覚など)によって処理される出来事に対する健忘

記憶障害では、学習した技能よりも事実の記憶が失われるのが一般的です。

どのくらい前までの記憶が失われるかは様々で、健忘が始まった時点の数秒前や数日前までの場合もあれば、さらに遠い過去の(遠隔または長期)記憶に影響が出る場合もあります。

記憶の処理は以下の過程で構成されます。

  • 新しい情報を取り込む(記銘)

  • 新しい情報を、脳にすでに保存されている記憶、イメージ、または想起に役立つその他の情報と関連付ける(符号化)

  • 記憶を取り出す(想起)

情報を保存したり、記憶の中から情報を呼び出したりする脳のメカニズムは、主に側頭葉と前頭葉が担っていますが、そのほかにも多くの脳領域が記憶に関与しています。例えば、脳の奥深くにある海馬は、新しい記憶の形成と保存された記憶の想起に関与しています。海馬は大脳辺縁系の一部であり、感情の経験と表現を制御しています。ですので、海馬は記憶の形成にあたり、経験された感情と記憶を結びつけるプロセスを補助します。

記憶の保存と検索のプロセスは、大脳辺縁系で起こる感情の影響を受けます。大脳辺縁系には、大脳の一部と脳の深部の構造が含まれます。脳幹の中で覚醒と意識をつかさどる領域も記憶に関与しています。

記憶には互いに複雑に絡み合った数多くの脳機能が関与しているため、脳のほぼどこに損傷を受けても健忘をきたす可能性があります。

健忘の原因

健忘がどのように起こるかは部分的にしか解明されていません。以下のものが原因で発生することがあります。

その原因に応じて、健忘は次の2種類に分けられます。

  • 一過性のもの(頭部外傷後などにみられます)

  • 永続的で変化しないもの(脳炎や脳の大部分に影響を与える脳卒中などの重篤な病気の後にみられます)

  • 進行性のもの(アルツハイマー病など、脳の特定の領域に進行性の変性が生じる病気でみられます)

記憶の恩恵

健忘は映画やテレビ番組でよく題材にされる症状で、登場人物が自分の身元や過去の記憶を一切忘れてしまう設定もよくみられます。そうした登場人物は、ゼロからの再出発をすることになりますが、ほとんどの場合、そのための心の準備ができています。しかし、映画やドラマでみられるこのような描写は、現実の健忘とはかなり異なります。

映画では:健忘が脳の異常や損傷とは無関係な場合があります。登場人物は単に記憶を失い、その理由がはっきりしない場合もあります。目が覚めると前日の記憶がすっかりなくなっているといったシーンもありますが、これは漫画でもない限り、まず起こりえない筋書きです。あるいは、原因が殴打や衝突による頭部外傷や、心的外傷(殺人を目撃した、レイプされたなど)である場合もあります。『メン・イン・ブラック』や『エターナル・サンシャイン』といった映画では、特殊な記憶消去装置で記憶が消されることもあります。

現実では:通常、健忘の原因は脳の感染症、アルコール依存症、脳卒中、薬物、脳腫瘍、脳手術による脳の損傷などで、映画のようにドラマチックなものではありません。心的外傷(トラウマ)が原因で健忘が起こることはときにあり、解離性健忘と呼ばれます。しかし、心的外傷では記憶障害とは逆の影響がよくみられます。自分の身に起きたことを忘れられなくなるのです。忘れたくても、トラウマになった出来事が何度も思い出され、追体験されます。

映画では:健忘の人がほとんど支障なく日常生活を送ります。すぐに新しい仕事に就き、新しい(または古くて新しい)友人を作ります。

現実では:ほとんどの人は、新しい情報を学んで記憶するのが非常に困難になります(脳に損傷があるため)。その結果、日常生活に苦労します。人や物の名前を覚えることや、どこかに行く際に行き先や理由を覚えておくことが困難になります。このような問題のためにいらだちを覚え、ひどく錯乱したり、途方に暮れたりすることがよくあります。

映画では:人格が完全に変わってしまう設定がしばしばみられます。価値観や行動が変わったり、悪人が善人になったりします。

現実では:健忘によって人格やアイデンティティが変化することはまれで、これらを制御している脳領域に機能障害が生じた場合にだけ起こります。

映画では:心的外傷によって健忘になった人では、心的外傷の記憶が潜在意識の中に完全かつ正確な状態で維持されています。そして何らかの引き金によって、心的外傷の記憶がビデオ映像のように再生されます。

現実では:脳が記憶を呼び出す過程はダイナミックです。ある出来事を思い出すときには、脳の様々な領域から記憶のかけらが引き出されて再構成されます。心的外傷かどうかを問わず、永久に凍結されて時間が経っても再構成されない記憶はありません。

映画では:健忘が物理的な方法で治ることがあります。つまり、頭を殴られたために発生した健忘がもう1回殴られることで元に戻るというシーンがよくみられます。あるいは、原因が何であれ、見慣れた物を見たり催眠にかけられたりすることで健忘が治るシーンもあります。

現実では:このような治り方の大半は疑わしいものです。頭をもう一度殴ると、脳にさらなる損傷を与える可能性の方が高くなります。催眠が有用なのは、心をかき乱す出来事が健忘の原因になっている場合だけです。その場合は、穏やかに慎重に催眠を行えば、しばしば成果が得られます。治療法とその成功の見込みは原因によって異なります。

映画では:記憶は一時的に引き出せなくなっただけで、実際には失われていません。

現実では:記憶を取り戻せるかどうかは、脳の損傷の程度とその原因に応じて異なります。脳の損傷がそれほどひどくない場合や、原因が一時的なものである場合も多くみられます。そのようなケースでは、健忘は数分から数時間しか持続しない場合が多く、治療を行わなくてもほとんどの人が記憶を取り戻します。しかし、相当の損傷が生じている場合には、記憶を取り戻せないことがよくあります。

健忘の症状

損傷の重症度に応じて、健忘の持続時間は数分、数時間、それ以上と多様です。ときに、一時的に記憶が突然なくなることもあります(一過性全健忘)。

治療を受けなくても記憶を取り戻す人もいます。しかし、脳の損傷が重度であれば、新しく記憶を形成する能力が失われることもあります。患者は遠い過去のことは思い出せる可能性が高く、例えば、初婚時の配偶者は思い出せるのに、現在の配偶者を思い出せないということがあります。

健忘の診断

  • 医師による評価

  • 正式な記憶の検査

医師は、簡単な質問(3つの項目のリストを復唱させるなど)や正式な記憶の検査を行うことにより、記憶障害を評価します。この評価の結果と患者の症状から、多くの場合、原因とほかに必要になる検査が推測できます。

健忘の治療

  • 可能であれば、原因の治療

原因が特定された場合は、可能であれば、それに対する治療を行います。その治療によって健忘が軽減することもあればしないこともあります。

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