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植物状態

執筆者:

Kenneth Maiese

, MD, Rutgers University

最終査読/改訂年月 2018年 3月
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植物状態とは、大脳(思考と行動を制御する脳の部位)が機能しなくなったものの、視床下部と脳幹(睡眠サイクル、体温、呼吸、血圧、心拍、意識などの生命維持に必要な機能を制御している脳の部位)はまだ機能し続けている状態のことをいいます。そのため、患者は眼を開けていて起きているように見えますが、刺激に対して意味のある反応をすることはありません。

  • 植物状態の原因として最も多いのは、頭部外傷による重度の脳損傷と、心停止や呼吸停止などの脳への酸素供給が絶たれる病態です。

  • 植物状態の人は目を開けることができますが、話すことや、思考や意図を必要とする行為を行うことができず、自分の状態や周囲の環境を認識していません。

  • 医師は、一定期間、複数回にわたり観察しても意識がある証拠が見つからない場合に限り、植物状態の診断を下します。

  • 植物状態の人には、十分な栄養補給と動けないことで生じる問題(床ずれなど)を防止するための対策を含めた、包括的なケアが必要になります。

植物状態になることはまれです。従来から、植物状態は長期的な(慢性の)病気とみなされてきました。つまり、最初は植物状態のように見えていた人が数週間後に一部の精神(認知)機能を回復した場合には、その人は植物状態ではなかったということになります。

1カ月以上続く植物状態は、遷延性植物状態とみなされます。遷延性植物状態の人が精神機能を回復したり、周囲の環境と意味のあるやりとりをできるようになったりすることはまれです。少しでも回復がみられれば、原因は通常、頭部外傷による脳損傷(外傷性脳損傷 頭部外傷の概要 頭部外傷の一般的な原因には、転倒や転落、自動車事故、暴行、スポーツやレクリエーション活動中の事故などがあります。 軽症の頭部外傷では頭痛やめまいが起こることがあります。 重症の頭部外傷では、意識を失ったり、脳機能障害の症状が現れたりすることがあります。 重症の頭部外傷かどうかを調べるには、CT(コンピュータ断層撮影)検査を行います。... さらに読む )であり、脳への酸素供給を断つ病気ではありません。また、多くの場合、回復は非常に限定的なものです。例えば、何らかの物または手当たり次第の物をつかもうとしたり、同じ単語を繰り返し発音したりすることがあります。まれに、頭部外傷が原因で遷延性植物状態になった人の状態が、数カ月から数年をかけて徐々に改善することがあります。状態がかなり改善すれば、診断が最小意識状態 最小意識状態 最小意識状態とは、大脳(思考と行動を制御する脳の部位)の広範囲の損傷によって、認識能力が重度に障害されているものの、完全にはなくなっていない状態のことをいいます。 この状態は、脳の損傷によって生じる場合もあれば、植物状態から一部の機能が回復するときに生じる場合もあります。 最小意識状態の人では、自己と周囲の環境をある程度認識していることを示す動作(アイコンタクトなど)がみられます。... さらに読む (重度ではあるものの不完全な意識障害)に変わることがあります。

植物状態にある人の数はよく分かっていませんが、米国では約2万5000人の成人患者と1万人近くの小児患者がいると考えられています。

原因

植物状態になるのは、大脳 大脳 脳の機能は神秘的であり、驚異的です。思考、信念、記憶、行動、気分は、すべて脳から起こります。脳は思考と知能の場所であり、体全体をコントロールしている司令塔です。脳はまた、運動、触覚、嗅覚、味覚、聴覚、視覚の統合も行っています。人は脳の働きによって、言葉を話して他者とコミュニケーションをとる、数字を理解して計算する、作曲や音楽鑑賞をする、幾何学的な形を認識したり判別したりする、将来の計画を立てる、さらには想像して空想を楽しむことなどを可能... さらに読む 大脳 (脳の最大の部位)に重度の損傷が起きたために神機能が働かなくなっているものの、網様体賦活系はまだ機能していて覚醒が可能なときです。網様体賦活系 脳の機能は神秘的であり、驚異的です。思考、信念、記憶、行動、気分は、すべて脳から起こります。脳は思考と知能の場所であり、体全体をコントロールしている司令塔です。脳はまた、運動、触覚、嗅覚、味覚、聴覚、視覚の統合も行っています。人は脳の働きによって、言葉を話して他者とコミュニケーションをとる、数字を理解して計算する、作曲や音楽鑑賞をする、幾何学的な形を認識したり判別したりする、将来の計画を立てる、さらには想像して空想を楽しむことなどを可能... さらに読む は、覚醒レベル(目を覚ましているかどうか)を制御しています。網様体賦活系は、脳幹(大脳と脊髄をつなぐ脳の部位)上部の深くに位置する神経細胞と線維で構成されています。

植物状態の最も一般的な原因は、以下のものによる重度の脳損傷です。

症状

植物状態の患者は、脳の一部が機能しているため、以下に挙げるようないくつかのことができます。

  • 眼を開くことができます。

  • 比較的規則的な睡眠と覚醒のパターンがみられます(昼と夜のサイクルに対応しているとは限りません)。

  • 呼吸をしたり、吸ったり、かんだり、せきをしたり、むせたり、飲み込んだり、喉音を発声したりできます。

  • 大きな音に驚いたり、笑ったり顔をしかめたりするように見えることさえあります。

こういった反応があるため、患者は周囲の様子に気づいているように見えることがあります。しかし、実際には自己や周囲の環境をまったく認識していません。外界に対するそのような反応は、不随意の基礎的な反射によるものであり、意識的な動作によるものではありません。例えば、何かが手に当たったとき、乳児がするようにその物を本能的につかむことがあります。

植物状態にある人は、思考や意図を要する活動ができません。話すこと、指示に従うこと、意図的に腕や脚を動かすこと、痛みの刺激から逃れようと動くことなどはできません。

植物状態にあるほとんどの人では、認識、思考、意識的な行動をする能力はすべて失われています。しかし、少数の患者では、機能的MRI検査 機能的MRI MRI(磁気共鳴画像)検査は、強力な磁場と非常に周波数の高い電磁波を用いて極めて詳細な画像を描き出す検査です。X線を使用しないため、通常はとても安全です。 患者が横になった可動式の台が装置の中を移動し、筒状の撮影装置の中に収まります。装置の内部は狭くなっていて、強力な磁場が発生します。通常、体内の組織に含まれる陽子(原子の一部で正の電荷をもちます)は特定の配列をとっていませんが、MRI装置内で生じるような強力な磁場の中に置かれると、磁場... さらに読む 機能的MRI (fMRI検査)や脳波検査 脳波検査 病歴聴取と神経学的診察によって推定された診断を確定するために、検査が必要になることがあります。 神経系の病気(神経疾患)の診断に一般的に用いられる画像検査としては、以下のものがあります。 CT(コンピュータ断層撮影)検査 MRI(磁気共鳴画像)検査 血管造影検査 さらに読む 脳波検査 によって、認識能力を示唆すると思われる脳活動の証拠が検出されています。そのような患者では、植物状態の原因は通常は頭部外傷であり、脳への酸素供給を断つ病気ではありません。そのような患者に体の一部を動かすことを想像するように指示すると、(たとえそのような動きを実際にしなくても)そのような動きに対応する脳の活動が検査で検出されます。しかし、これらの検査により、患者がどの程度外界を認識しているのかを判定することはできません。

植物状態にある人は、排尿や排便を制御できません(失禁)。

知っていますか?

  • 植物状態の人は、規則的に入眠および覚醒し、眼は開いて動きますが、一般的には思考能力や意識的な行動をする能力はすべて失われています。

診断

  • 医師による評価

  • MRIや脳波などの検査

医師は症状に基づいて植物状態を疑います。しかし、植物状態と診断する前に、一定期間、複数回にわたって患者を観察しなければなりません。十分な観察期間をおかないと、患者に認識能力がある証拠が見逃されてしまうことがあります。ある程度の認識能力がある患者は、植物状態ではなく最小意識状態 最小意識状態 最小意識状態とは、大脳(思考と行動を制御する脳の部位)の広範囲の損傷によって、認識能力が重度に障害されているものの、完全にはなくなっていない状態のことをいいます。 この状態は、脳の損傷によって生じる場合もあれば、植物状態から一部の機能が回復するときに生じる場合もあります。 最小意識状態の人では、自己と周囲の環境をある程度認識していることを示す動作(アイコンタクトなど)がみられます。... さらに読む である可能性があります。

MRI(磁気共鳴画像)検査やCT(コンピュータ断層撮影)検査などの画像検査を行い、問題の原因になっている病気(特に治療できるもの)がないかを確認します。診断が疑わしい場合は、他の画像検査(PET[陽電子放出断層撮影]検査 PET(陽電子放出断層撮影)検査 PET(陽電子放出断層撮影)検査は核医学検査の一種です。 PET検査では、体内で使用(代謝)されるグルコース(ブドウ糖)や酸素などの物質を放射性核種で標識します。この場合の放射性核種とは、正の電荷をもつ放射性粒子を放出する原子のことで、陽電子と呼ばれます。体内で使用される物質と放射性核種の複合体を放射性トレーサーといいます。トレーサーは体の特定の領域に集まります。この際、組織の活動が活発であればあるほど(例えば、より多くのグルコースまた... さらに読む PET(陽電子放出断層撮影)検査 またはSPECT[単一光子放出型コンピュータ断層撮影]検査 SPECT(単一光子放出型コンピュータ断層撮影) 核医学検査では、放射性核種を用いて画像を描出します。放射性核種は不安定な原子で、エネルギーを放射線の形で放出することで安定した原子になろうとする性質があります。放射性核種の多くは高いエネルギーをガンマ線(人の手によらない、自然環境で発生するX線)または粒子(陽電子放出断層撮影で使用される陽電子など)の形で放出します。 放射性核種は、甲状腺などの特定の臓器の病気を治療するのにも使用されます。... さらに読む )が行われることもあります。これらの検査により、脳がどの程度機能しているかが分かります。

脳波検査を行い、けいれん発作(意識を障害する可能性がある)を示唆する脳の異常な電気的活動がないか確認することがあります。

予後(経過の見通し)

植物状態から自然に回復する人もいます。回復する可能性は、以下のように、脳の損傷の原因や程度、患者の年齢によって異なります。

  • 原因が脳卒中や心停止ではなく、頭部外傷、可逆的な代謝異常(低血糖など)、または薬の過剰摂取であれば、ある程度回復する可能性が比較的高くなります。

  • 若い人は高齢者に比べて筋肉を使う能力がより多く回復することがあるものの、精神機能、行動、発話に関しては年齢間で有意な差はありません。

  • 数カ月以上植物状態が続いた場合、意識が回復する見込みは高くありません。回復したとしても、高い確率で重度の身体障害が残ります。

  • 植物状態が長く続くほど、身体障害も重度になる可能性が高まります。

頭部外傷以外の原因で植物状態になった場合、1カ月以上経過した後に回復する可能性はほとんどありません。原因が頭部外傷である場合、12カ月以上経過した後に回復する可能性はほとんどありません。しかし、少数ながら数カ月から数年かけて改善する人もいます。まれに、改善が後期にみられることもあります。5年経過した時点で、約3%の人が意思疎通と理解の能力を回復しますが、自立して生活できることはほとんどなく、正常な機能を取り戻せる人はいません。

植物状態になった人の大半は、当初の脳外傷から6カ月以内に死亡します。残りの人の大半は2~5年ほど生存します。死因は多くの場合、呼吸器感染症、尿路感染症、または複数の臓器の重度の機能不全(臓器不全)です。しかし、突然死亡して原因が分からないままのこともあります。

治療

  • 体を動かせないことで生じる問題の予防策

  • 十分な栄養を与える

長期的なケア

十分な栄養を与えること(栄養補給 栄養補給の概要 低栄養( 低栄養)や重症患者の多くには、栄養補給が必要です。食品ではなく栄養素を配合した市販のものを使用する人工栄養が、栄養補給の一般的な方法です。栄養補給は、筋肉の組織の量(筋肉量)を増やすことを目的としています。栄養補給では通常、カロリーとともにビタミンとミネラルを供給します。... さらに読む )が重要です。栄養は鼻から胃に挿入したチューブを介して与えられます(経管栄養と呼ばれます)。腹部を切開して直接胃にチューブを挿入し、そのチューブから栄養を胃または小腸に送り込むこともあります。このチューブから薬を投与することもあります。

  • 床ずれ:同じ姿勢で寝ていると、体の一部分への血液供給が遮断され、その部分の皮膚が破れて、床ずれ(褥瘡)が発生する可能性があります。

  • 拘縮:体を動かさずにいると、筋肉が永久的に硬直し(拘縮)、関節が曲がったまま元に戻らなくなることがあります。

  • 血栓:体を動かさずにいると、脚の静脈に血栓が形成されやすくなります。

拘縮を予防するため、患者の関節をすべての方向に優しく動かしたり(他動的関節可動域訓練)、関節を特定の姿勢で固定したりするケアを理学療法士が行います。

失禁があるため、皮膚を清潔で乾燥した状態に保つためのケアが必要です。膀胱が機能せず、尿がたまってしまう場合は、膀胱にチューブ(カテーテル)を留置して排尿させます。尿路感染症を予防するため、カテーテルは丁寧に洗浄し、定期的に点検を行います。

床ずれは、頻繁に体位を変えるとともに、ベッドの表面に接する部分(かかとなど)の下に保護パッドを置いて保護することで、予防することができます。

その他の問題

回復の見込みが低い場合、医師と家族が、ときに病院の倫理委員会も含めて、将来医療をどの程度積極的に続けるか、生命を維持する治療を中止するかどうか、中止する場合はそれをいつ行うかについて話し合う必要があります。そのような治療に対する患者の希望が分かっている場合、例えば、事前指示書(リビングウィル リビングウィル 医療に関する事前指示書は、ある人が医療に関する決断を下すことができなくなった場合に、医療についての本人の希望を伝達する法的文書です。事前指示書には、基本的にリビングウィルと医療判断代理委任状の2種類があります。(医療における法的問題と倫理的問題の概要も参照のこと。) リビングウィルは、終末期ケアに代表されるような、個人が医療に関する決定能力を喪失する事態に備え、将来の医学的治療に関する指示や要望を事前に表明するものです。... さらに読む )で患者の希望が述べられている場合は、それを考慮する必要があります。

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