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昏迷と昏睡

執筆者:

Kenneth Maiese

, MD, National Heart, Lung, and Blood Institute

最終査読/改訂年月 2018年 3月
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昏迷とは、反応がなく、激しい物理的な刺激によってのみ覚醒させることができる状態です。昏睡とは、反応がなく、覚醒させることができない状態です。

  • 昏迷や昏睡の原因は通常、脳の左右両側の広い領域または意識の維持に特化した領域に影響を及ぼす病気、薬、またはけがです。

  • 身体診察、血液検査、脳の画像検査、家族や友人への問診は、原因を特定する上での助けになります。

  • 考えられる原因を是正し、身体機能を補助する処置(人工呼吸器による呼吸の補助など)を行います。

  • 昏睡から回復するかどうかは原因によって大きく異なります。

意識の制御

正常な脳は、必要に応じて活動レベルと意識レベルをすばやく調節できます。この調整は、眼、耳、皮膚などの感覚器官から受け取る情報に基づいて行われます。例えば、脳は、代謝活動(エネルギーレベル)を減らして睡眠を誘発することができます。

目が覚めているかどうか(覚醒)は、脳幹(大脳と脊髄を接続している脳の一部)の上部にある神経細胞と神経線維のシステム(網様体賦活系)によって制御されています。大脳(脳の最大の部位)は、脳幹の上部と相互に作用して、意識と覚醒を維持しています。大脳は左右2つの半球(大脳半球)で構成されています。

活動レベルと意識レベルを調節する脳の機能は、以下のような場合に損なわれます。

  • 両方の大脳半球が機能不全に陥ったとき、特に突然重度の損傷が起きたとき

  • 網様体賦活系が機能不全に陥ったとき

活動レベルと意識レベルを調節する脳の機能は、以下の状況でも損なわれます。

  • 重度の睡眠不足のとき

  • けいれん発作の最中とその直後

  • 脳に供給される血流または栄養(酸素や糖など)が減少したとき

  • 有害物質によって脳の働きが損なわれたとき

有害物質は(例えば、摂取や吸入によって)体内に取り込まれたものである場合と、体内の正常なプロセスの老廃物として作られ、正常に分解・除去されずに体内に蓄積したものである場合があります。

意識障害のレベル

意識障害は短時間だけの場合もあれば、長く続く場合もあります。障害の程度は、以下のように軽いものから重いものまで様々です。

  • 嗜眠は、覚醒レベルが若干低下した状態または精神がやや不鮮明になった状態(意識の混濁)です。自分の周囲の状況をあまり認識できず、思考が遅くなる傾向があります。疲れているように見えることもあります。

  • 昏蒙は、不正確な用語であり、覚醒レベルが中等度に低下した状態や意識が中等度に混濁した状態を指します。

  • せん妄は、突然起こる意識障害と精神機能の障害で、一般にその程度には変動がみられ、通常は回復します。ものごとに注意を向けられなくなったり、明晰な思考ができなくなったりします。見当識障害が起こり、自分がどこにいるのかや今何時なのかが分からなくなることがあります。過剰なほど覚醒していても、次の瞬間には錯乱し、反応が鈍くなることがあります。

  • 精神状態の変化とは、医師が意識の変化(嗜眠、昏蒙、せん妄、ときに昏迷や昏睡)を指して言うときに使うことのある非常にあいまいな言葉です。

  • 昏迷は、過度に深いまたは過度に長く続く無反応の状態です。繰り返し体を揺する、大声で呼びかける、体をつねるなどの強い刺激を与えると、短時間だけ目を覚ますことができます。

  • 昏睡は、(一部の自動的な反射を除き)完全に無反応となった状態です。患者を覚醒させることはまったくできません。眼は閉じたままです。深い昏睡状態にある患者では、痛みを引き起こすものから腕や脚を避けるといった意図的な反応がみられません。

原因

意識障害の原因になるものは数多くあり、同じ原因でも、生じる意識障害のレベル(嗜眠、昏蒙、昏迷、昏睡)は様々です。

最も一般的な原因は以下のものです。

加齢に関連する注意点

高齢者では、以下の理由から、嗜眠、昏迷、昏睡などの意識障害が特に懸念されます。

  • 加齢に伴う脳の変化:加齢に伴い脳では神経細胞が減少していくため、高齢者では薬によって意識障害や精神機能の障害が生じる可能性が高くなります( 加齢に伴う体の変化 : 脳と神経系)。その結果、加齢した脳は反応が鈍くなり、薬による影響を打ち消す能力が低下します。

  • 加齢に伴うその他の変化:体内の他の部位に起こる変化によっても、薬の影響に対する感度が上がります。例えば、加齢に伴い、腎臓では薬を尿中に排泄する能力が低下し、肝臓では様々な薬を分解(代謝)する能力が衰えます。その結果、薬が体内から除去されにくくなります。血液中に残る薬の量が増え、血液中にとどまる時間が長くなる可能性があります。すると、より多くの薬が脳に到達するようになり、脳機能に影響を及ぼします。その結果、高齢者は少量の薬でも錯乱に陥ったり、眠気を催したりすることがあります。高齢者が薬を使用する場合は、しばしば投与量を通常より少なめにする必要があります。

  • 複数の薬の使用:多くの高齢者は、高血圧、糖尿病、関節炎などの慢性疾患にかかっているため、複数の薬を使用しています(多重投薬と呼ばれます)。複数の薬を使用すると、薬物相互作用のリスクが高まり、脳に影響が現れる可能性があります。例えば、ある薬が別の薬の血中濃度を高めることがあります。

  • 複雑な服薬スケジュール:高齢者は多くの薬を服用しなければならないことがあり、その服薬スケジュールが複雑になることもあります。その結果、服薬スケジュールを誤ったり、薬を多く服用しすぎたりする可能性が高まります。

  • 軽い病気の影響:高齢者では若い人に比べて、尿路感染症や脱水といった比較的軽い病気で意識障害をきたす可能性が高まります。

  • 他の病気の存在:高齢者によくみられる病気の多くが、意識障害の原因になります。そのような病気には、脳卒中、脳腫瘍、動脈瘤(脳内の動脈の弱くなった部分にできた膨らみ)、代謝性疾患、重度の肺疾患、重症感染症、心不全などがあります。

  • 意識障害が気づかれにくい:高齢者では、意識障害が気づかれにくいことがあります。高齢者の覚醒レベルが低下したり、周囲のことに対する認識能力が低下したりしても、家族や友人がそれに気づかなかったり、加齢によるものだと考えたりすることがあります。(意識障害は加齢に伴う正常な変化ではありません。)認知症または脳疾患がある高齢者や、脳卒中を起こしたことのある高齢者では、意識状態の変化を見つけるのが難しい場合があります。

  • 回復能力:脳の自己修復能力は加齢につれて低下するため、高齢者では昏迷や昏睡から回復する可能性が低くなります。

高齢者では、一般に薬への反応、脱水、感染症によって意識が障害されます。

病気

一部の病気では、脳に必要な物質が供給されるプロセスが妨げられたり、体内で必要な物質が利用されるプロセスが妨げられたりします。例えば、以下のものがあります。

  • 血糖値が非常に低いまたは非常に高い状態(低血糖または高血糖)

  • 呼吸(肺機能)不全心不全など、血液中の酸素レベルが非常に低くなる状態

  • 心臓のポンプ機能が突然停止した状態(心停止

糖尿病があると、血糖値が過度に高くなったり、過剰な治療によって過度に低下したりする可能性があるため、昏迷や昏睡のリスクが高まります。

また、体中の細胞の機能不全を引き起こす病気もあります。多くの場合、最も影響を受けるのが脳の細胞です。例として、以下のような病気が挙げられます。

上記のほかに、意識を制御している脳領域を侵す病気も原因としてよくみられます。そのような病気には以下のものがあります。

  • 頭部外傷では、これらの脳領域が(物理的な損傷を受けることなく)揺さぶられたり、直接的な損傷を受けたり、脳の内部や周囲の出血によって間接的な損傷を受けたりすることがあります。

  • 脳卒中脳腫瘍も、意識を制御する脳領域に直接的な損傷を与える可能性があります。

頭蓋内の圧力(頭蓋内圧)を上昇させるあらゆる病気は、意識障害を招く可能性があります。血腫(血液の貯留)、腫瘍、膿瘍など、脳内の腫瘤は、意識を制御する脳領域を圧迫することによって間接的に意識を障害する可能性があります。腫瘤が大きいと、頭蓋内の比較的硬い構造に脳が押しつけられて、脳組織が傷つくことがあります。意識を制御する脳領域がこうした影響を受けると、患者は昏迷または昏睡に陥ります。圧があまりに高くなると、脳の各部分を仕切っている比較的硬い組織の壁にある小さな穴から脳が押し出されることがあります。この状態は脳ヘルニアと呼ばれ、生命を脅かします( ヘルニア:脳の圧迫)。脳ヘルニアが起こると、脳組織にさらに損傷が起こり、状態がますます悪化する可能性があります。

脳卒中を起こしたことがある人や、脳機能に影響を及ぼす別の病気がある人では、意識が障害される他の脳疾患にかかりやすくなります。

物質

一般的に、過度の飲酒をしたり、鎮静薬( 処方睡眠薬:安易に服用しないこと)やオピオイドなど、特定の薬剤を過剰に使用したりすると、意識が障害されます。アルコールと一部の薬は、脳細胞の機能を鈍らせるだけでなく、脳細胞を間接的に損傷することもあります。アルコールや薬により呼吸速度が大きく低下して、血液中の酸素レベルが非常に低くなり、脳に損傷が生じることがあります。

(複数の病気の治療のために)複数の薬を使用することも意識障害の一般的な原因であり、その理由の1つに、複数の薬を使用すると薬同士が相互作用するリスクが高まることが挙げられます。

マリファナ(医療用のものを含む)は、ときに脳の機能不全を引き起こし、意識障害の原因になることがあります。

特定の抗精神病薬を使用した結果、ときとして、神経遮断薬による悪性症候群と呼ばれる無反応状態に陥ることがあります。この症候群は、筋肉の硬直、発熱、高血圧、精神機能の変化(錯乱、嗜眠など)を特徴とします。

精神障害と精神的ストレス

ときに、精神障害または精神的ストレスのある人が、無反応に見えることがあります。例えば、がんを告知された人や、配偶者が離婚を考えていることを知ってしまった人は、意気消沈し、話しかけられたり触られたりしても反応しなくなることがあります。しかし、そのような人は、自分の周囲で何が起こっているのかを認識していて、脳は正常に機能している可能性があります。

医師は通常、診察の結果に基づき、意識障害と思われる状態に精神障害や心理的苦痛がどのくらい関与しているのか、また患者が無反応を装っているだけなのかどうかを判定できます。

高齢者

高齢者における意識障害の一般的な原因には、以下のものがあります。

  • 薬への反応

  • 脱水

  • 感染症

  • 脳機能に影響を及ぼす特定の病気(脳卒中や心不全など)

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昏迷と昏睡の主な原因

状態

メカニズム

影響

脳の病気

頻繁に繰り返すけいれん発作や長時間にわたるけいれん発作は、

  • 脳組織を過剰に刺激して、神経信号の正常な伝達を妨げることがある。

  • ときに、高熱を引き起こし、これが脳の機能障害を悪化させることがある。

そのようなけいれん発作は脳組織を損傷することがある。

意識が障害される場合がある。

けいれん発作後、ほとんどの患者は反応が鈍くなったり(嗜眠)錯乱したりして、一部の患者は脱力を感じたり麻痺に陥ったりする。けいれん発作後は、そのような状態が数分から数時間続く。

脳卒中により、脳幹を含む脳の各部位への血流が遮断されることがある。

脳幹の上部への血流が遮断されると、意識が突然失われ、昏睡に陥ることがある。脳幹全体への血流が遮断され、数分以内に回復しなかった場合は、脳幹の大部分または全体に損傷が起こり、死に至ることもある。

脳の内部への出血(脳内出血)、または脳を覆う組織層と組織層の間への出血(くも膜下出血)の結果、脳卒中が起こる場合もある。

血液によって、脳組織が直接損傷されたり、脳の圧力が上昇する。意識が障害され、昏睡に陥ることがある。けいれん発作が起こることもある。脳幹に出血が起こると、わずかな出血でも昏睡に陥ることがある。

脳腫瘍または膿瘍

大きな腫瘍や膿瘍(のうよう)があると、脳が頭蓋内の比較的硬い構造に押しつけられることで、脳組織に圧力がかかり、機能不全に陥る。

腫瘍は脳組織に直接浸潤し損傷を与えることがある。

意識を制御する脳領域が損傷を受けた場合は、昏睡に陥る。

その他の病気

心停止または呼吸停止

心停止では心臓の拍動が止まり、呼吸停止では呼吸が止まる。どちらの場合も、組織に酸素を運ぶ血液が脳に十分に供給されなくなる。酸素が欠乏するため脳組織が死滅する。

1~2分以内に意識が消失する。酸素欠乏状態が4~5分続くと、脳の一部の領域の神経細胞が死滅する。その結果昏睡に陥り、すぐに不可逆的な状態になることもある。

重度の心疾患または肺疾患

重度の心疾患(心不全など)によって脳への血流が減少することがある。

重度の肺疾患(慢性閉塞性肺疾患、肺水腫、肺塞栓症、長時間続く重度の喘息発作など)によって血液中の酸素量が低下することがある。

どちらの場合も、脳に十分な酸素が供給されず、ときに昏睡に陥ることがある。

腎臓または肝臓が正常な場合のように血液中から有害な老廃物を除去できない場合、血液中に老廃物が蓄積し、その結果、脳の機能不全に陥る。

慢性の腎不全または肝不全によって昏睡が起こった場合、その昏睡は通常は可逆的である。

重度の急性肝不全によって昏睡が起こった場合は、脳細胞に水分がたまるために、脳が腫れる(脳浮腫)。死に至ることが多い。

代謝異常

糖尿病があると、血糖値が過度に高くなったり(高血糖)、過剰な治療によって過度に低下したり(低血糖)する可能性がある(下記を参照)。

また、インスリンが不足すると(1型糖尿病でみられることがある)、体は脂肪細胞を分解してエネルギーを作り出そうとするが、この過程でケトン体が生成される。ケトン体は血液を過度に酸性化する(糖尿病性ケトアシドーシスと呼ばれる状態)。

昏迷または昏睡に陥ることがある。

治療を行わないと、糖尿病性ケトアシドーシスまたは低血糖から昏睡に陥り、死に至る可能性があります。

血糖値が異常に高くなった状態。血液がシロップのようにどろどろになり、脳から水分が吸い出される。

昏迷または昏睡に陥ることがある。

血糖値が異常に低くなった状態。酸素と合わせて主要なエネルギー源になる糖が不足すると、脳が機能不全に陥ったり、脳組織に損傷が起こったりする。

昏睡に陥ることがある。昏睡が起こってすぐにブドウ糖の静脈内注射を行えば、永続的な脳の損傷を防ぐことができる。

血中ナトリウム濃度が高くなった状態。通常、高ナトリウム血症は脱水によって起こり、脳細胞内の水分を減少させることがある。

脳細胞内の水分量が異常になると、細胞内の化学反応が妨げられる。昏迷または昏睡に陥ることがある。

血中ナトリウム濃度が低くなった状態。低ナトリウム血症の原因には以下のものがある。

  • 水分のとりすぎ(例えば大学の同好会儀式)

  • 体内に過剰な水分が貯留する

  • 尿中や消化管への大量のナトリウムの喪失(下痢の場合など)

低ナトリウム血症になると、脳細胞内の水分が増加することがある。

脳細胞内の水分量が異常になると、細胞内の化学反応が妨げられる。昏迷、昏睡、けいれん発作が起こることがある。

甲状腺の活動が低下した状態。

錯乱から昏迷や昏睡に進行することがある。

無治療で放置すると、錯乱と思考の鈍化が起こることがある。

栄養素の欠乏(例えばチアミンや特定の電解質またはミネラル[マグネシウムなど])

チアミン(ビタミンの一種)またはミネラル(マグネシウムなど)が欠乏すると、脳内の神経細胞が機能不全に陥る。一部のミネラル(マグネシウムなど)は電解質でもある。電解質は、神経や筋肉の機能の調節と、酸と塩基のバランスの維持を助けている。

チアミン欠乏症によって、錯乱、昏迷、昏睡に陥ることがある。眼の筋肉が正常に働かなくなり、複視をきたすことがあり。

特定の電解質またはミネラル(マグネシウムなど)が少なすぎたり多すぎたりすると、眠気や筋力低下をきたすほか、まれにけいれん発作や昏睡に陥ることがある。

感染症

脳炎(脳の感染症)

髄膜炎(脳と脊髄を覆う組織の層の感染症)

敗血症(血液の感染に対する全身の重篤な反応)

高齢者の尿路感染症

脳組織に感染が起こると、脳が機能不全に陥ることがある。

敗血症などの他の感染症では、高熱により脳が機能不全に陥ったり、脳組織が損傷されたりすることがある。

昏睡に陥ることがある。

事故やけが

窒息

脳内の酸素が不足する。

急速に意識を失い、続いて昏睡と死に至ることがある。

頭部外傷では、以下のようにして脳組織が損傷されることがある。

  • 脳が揺さぶられ、ときに脳細胞間での情報伝達が妨げられるが、明らかな物理的損傷はない(脳しんとうなど)

  • 脳内の細い血管が損傷される(挫傷)

  • 脳組織が切れたりつぶれたりする

  • 脳内への重度の出血(脳内出血など)または脳を覆う組織層と組織層の間への重度の出血(くも膜下出血など)が起こる

血液は、脳組織を直接刺激したり、蓄積してかたまり(血腫)になり、脳を圧迫したりすることがある(硬膜外血腫や硬膜下血腫など)。

けがの種類や程度によって、昏睡がすぐに生じることもあれば、数時間にわたって徐々に生じることもある。けいれん発作が起こることもある(特に大量の血液が血管から漏れ、脳組織に直接接触して刺激を与える場合)。

高熱や熱中症などで体温が40℃以上になると、脳組織に損傷が起こることがある。

昏睡に陥ることがある。体温が非常に高い場合は、神経細胞が非常に急速に死滅する。

体温が36℃以下になると脳の機能が鈍くなる。体温が26.7℃以下になると昏睡に陥る。

しかし体温が低いと、血液や酸素の供給不足による脳の損傷が遅くなって、脳が保護される場合もある。また、体温が非常に低い場合は、神経細胞が死ぬまでの時間が非常に長くなる。例えば、氷の張った湖に30分間沈んでいた小児が完全に回復する場合もある。温かい水に同じ時間沈んでいれば、通常は死に至る。

昏迷または昏睡に陥ることもあるが、生き延びることができれば、永続的な損傷は残らないのが通常である。

物質

アルコールは脳の機能を鈍らせる。大量に飲酒すると、脳組織に直接的に影響を及ぼすこともあれば、呼吸が非常に遅くなって血液中の酸素レベルが大幅に低下し脳の損傷が起こることで、間接的に影響を及ぼすこともある。

血中アルコール濃度が上昇すると(特に0.2%を超える場合)、昏迷または昏睡に陥ることがある。

一酸化炭素または類似物質を大量に吸入する

一酸化炭素は赤血球の中にあるヘモグロビンに結合して、ヘモグロビンが酸素と結合する部位を占拠する。これにより、脳を含む各組織に酸素を運搬する赤血球の働きが阻害される。

重度の一酸化炭素中毒では、脳に十分な酸素が供給されなくなるため、昏睡に陥ったり、不可逆的な脳の損傷をきたしたりする。

たとえ高用量でなくても、脳の機能を鈍くする薬は数多く存在する。具体的には以下のものがある。

昏睡に陥ることがある。早い段階で治療を行えば、この種の昏睡は完全に回復する。

症状

意識障害の程度は様々です。昏迷状態の患者は、通常は意識がありませんが、激しい刺激を与えると覚醒させることができます。昏睡状態の患者は、意識がなく、眼は閉じたままで、覚醒させることができません。

昏迷や昏睡を引き起こす脳の損傷また機能障害は、体の他の部位にも影響を及ぼします。

通常は、呼吸のパターンが異常になります。呼吸が速すぎる、遅すぎる、深すぎる、または不規則になることがあります。あるいは、これらの異常な呼吸パターンが交互に現れることもあります。

血圧を制御する神経が影響を受けると、血圧が上昇することがあります。

筋肉が収縮したり、異常な姿勢で収縮したまま元に戻らなくなったりすることがあります。例えば、頭が後ろに傾いて両腕と両脚は伸びたままになることがあり、この状態は除脳硬直と呼ばれます。あるいは、両脚が伸びて両腕は曲がったままになることもあり、この状態は除皮質硬直と呼ばれます。全身がだらりと緩むこともあります。ときに筋肉が散発的にまたは不随意に収縮することがあります。

に影響が及ぶこともあります。片方または両方の瞳孔が広がって(散大して)、光の変化に反応しなくなることがあります。あるいは、瞳孔が小さくなることもあります。眼球が動かなくなったり、動きが異常になったりすることもあります。

意識を障害する病気によって、その他の症状が現れることがあります。例えば、原因が髄膜炎(脳と脊髄を覆う組織層の感染症)であれば、発熱、嘔吐、頭痛などの症状がみられたり、あごを胸に近づけようとすると首に痛みが出て硬くなる徴候(項部硬直)がみられたりします。

体を動かせない状態が長く続くと、床ずれ、腕や脚の神経の損傷、血栓、尿路感染症などの問題が生じることもあります( 床上安静による問題)。

診断

  • 医師による評価

  • 神経学的診察

  • 臨床検査と画像検査

通常、意識障害の有無は観察と診察の結果に基づいて判断できます。治療方法は原因によって異なり、意識障害が進行して昏睡や脳死に至る可能性があるため、医師は障害が起こっている脳の部位と障害の原因を特定するよう努めます。

何度も激しく起こそうとすると短時間だけ覚醒する場合は、昏迷と診断されます。まったく覚醒させることができず、患者が眼を閉じたままである場合は、昏睡と診断されます。

昏迷や昏睡は生命を脅かす病気が原因で起こることもあるため、昏迷または昏睡状態の人がいる場合は、直ちに病院に搬送しなければなりません。医療従事者は原因の特定に努め、それと並行して救急処置を行います。例えば、血糖値を推定するために迅速な検査を行います。血糖値が低い(直ちに永続的な脳の損傷が起こる可能性がある)ことが分かれば、直ちに治療を開始できます。

昏迷または昏睡状態の患者は、意思を伝えることができません。そのため医師は通常、患者が医療情報を記したブレスレットやネックレスを身につけていないか確認します。これらによって意識障害の原因を推測できることがあります。原因を特定するために、患者の財布、カバン、ポケットの中を調べて医療情報(病院の診察券など)や薬がないか確認することもあります。そのため、昏迷や昏睡のリスクを高める病気(糖尿病やけいれん性疾患など)がある人は、自身の医療情報が分かるものを何らかの形で携帯したり着用したりしておくべきです。

患者の意識が変化したときに居合わせた人に、医師はそのときの状況について尋ねます。医師は患者の家族や友人とも話し、家族や友人は、患者に関する次のような重要な情報を救急医療従事者や医師に正直にすべて伝える必要があります。

  • 薬(処方薬およびレクリエーショナルドラッグ)、アルコール、その他の有害物質を使用しているかどうか、何を使用しているか

  • 意識が変化する前にけがをしなかったか

  • 症状がいつ、どのように始まったか

  • 何らかの感染症、その他の病気(糖尿病、高血圧、甲状腺、腎臓、肝臓の病気など)、その他の症状(頭痛や嘔吐など)が現在または過去になかったか

  • 最後に正常に見えたのはいつか

  • いつもと違うものを食べたり、旅行したりしなかったか

  • 可能性のある原因に関する心当たりがないか(例えば、最近患者が抑うつ状態にあった、自殺をほのめかしていたなど)

このような情報は、原因の特定に役立ち、回復の可能性を評価する助けになります。このような情報が得られなければ、たとえ広範な診断検査を行ったとしても、原因の多くが特定されません。例えば、患者がいつもと違うものを食べていた場合は、毒素(毒キノコに含まれるものなど)が原因の可能性があります。患者が最近旅行していた場合は、訪れた地域でよくみられる感染症が原因の可能性があります。錠剤の空の容器または薬を使用するための道具が近くで見つかれば、薬が原因の可能性があります。患者が薬剤や有害物質を摂取した場合、家族や友人はその物質のサンプルまたは容器を医師に渡すべきです。

知っていますか?

  • 昏睡の原因を特定する上で、家族や友人からの情報が、診断検査よりも役立つことがよくあります。

家族や友人からの情報は通常は貴重であり、正しい診断につながる可能性は身体診察や検査を上回ります。例えば、すべての薬について過剰摂取の可能性を否定できるような検査はありません。

身体診察

体温を測定します。体温が異常に高い場合は、感染症、熱中症、体を刺激する薬(コカインやアンフェタミンなど)の過剰摂取が考えられます。体温が異常に低い場合は、寒冷への長時間の曝露、甲状腺機能低下症、アルコール中毒、鎮静薬の過剰摂取の可能性が考えられ、高齢者では感染症も考えられます。

医師は、頭部、顔、皮膚を診察し、以下のような原因の手がかりがないかを調べます。

  • 眼の周りのあざ、切り傷、皮下出血、または鼻や耳から漏れる髄液(脳の周囲を流れている液体)は、頭部外傷を示唆します。

  • 注射針の痕跡は、ヘロインなどの薬物の過剰摂取を示唆します。

  • 発疹は、しばしば敗血症(血流感染症に対する全身の重篤な反応)や脳などの感染症を示唆します。

  • ある種の口臭は、糖尿病性ケトアシドーシスや毒物または大量のアルコールの摂取を示唆します。

  • 患者が舌をかんでいた場合、けいれん発作が原因である可能性があります。

神経学的診察

徹底的な神経学的診察が行われます。この診察は、以下のことを判定するのに役立ちます。

  • 意識障害はどれくらい重症か

  • 脳幹が正常に機能しているかどうか

  • 脳のどの部分に損傷があるか

  • 可能性のある原因は何か

患者に意識がない場合、医師はまず声をかけて起こそうとし、次に患者の腕や脚、胸、または背中を触って起こそうと試みます。これらの方法で患者が目を覚まさなければ、爪床を圧迫したり皮膚をつねったりして、痛みや不快感を伴う刺激を与えます。それによって患者が眼を開いたり、顔を歪めたり、意図的に痛みの刺激から身を引くような動きをしたりする場合、意識障害は重度でないと判定されます。患者が音を立てられる場合、大脳半球はある程度機能しています。眼が開く場合、おそらく脳幹の一部は機能しています。

医師はときに、グラスゴー昏睡スケール(Glasgow Coma Scale)などの標準化された尺度を用いて意識レベルの変化を追うことがあります。このスケールは、刺激への反応を点数化するもので、眼の動き、発話、運動を評価します。これは、患者の反応のなさを評価する上で、比較的信頼できる客観的な尺度です。

異常な呼吸パターンは、脳のどの部分が機能していないかを知る上での手がかりになります。

痛みの刺激に対する反応を確認することは、脳や脊髄のどこかに機能不全が起こっているかどうかを判断するのに役立ちます。昏睡状態にある患者に痛みの刺激を与えると、除脳硬直や除皮質硬直といった異常な姿勢が誘発されることがあります。この検査は、正常に機能していない脳の領域を特定する助けになります。ときに、脳内の腫瘤(脳膿瘍や脳腫瘍など)が頭蓋内の圧力を高め、脳ヘルニア( ヘルニア:脳の圧迫)を引き起こすことにより、機能障害が生じることがあります。

全身の筋肉が緩んでいて、痛み刺激を与えてもまったく動かない状態は、考えられる中で最悪の反応です。これは中枢神経系(脳と脊髄)に重度の機能障害があることを意味します。しかし、そのような問題が解消する場合(つまり筋緊張と動きが回復する場合)は、原因が可逆的なもの(鎮静薬の過剰摂取など)である可能性があります。

特定の部位でみられる自動的な反射は、診察用のハンマー(打腱器)で関節を叩くなどの手技によって確認されます。

無反応になった原因が意識に影響を及ぼさない精神障害であれば、自動的な反射はすべて正常にみられます。

を観察することでも、脳幹がどの程度機能しているか、また意識障害の原因は何かを知る上で重要な手がかりが得られます。瞳孔の位置、大きさ、明るい光への反応、(意識がはっきりしている患者では)動く物を追う能力、網膜の状態を確認します。正常な瞳孔は、暗い所では大きく開き(散大)、明るい所では小さくなります(収縮)。

正確な評価を行うには、患者が緑内障の治療薬(瞳孔の大きさに影響を及ぼす薬)を使用しているかどうかの情報が必要であり、通常はもともと瞳孔の大きさに違いがあるかどうかの情報が必要です。

医師は眼の中を検眼鏡で観察し、頭蓋内圧の上昇を示す徴候がないかも調べます。頭蓋内圧が上昇していれば、腫瘍、血腫、膿瘍など脳の腫瘤が原因であることが示唆されます。

特定の手技への反応が、脳幹の機能が正常かどうかを判断する上で参考になりますが、具体的には以下のものがあります。

  • 頭を回転させて眼の動きを観察する。

  • 患者の意識がなければ、片方の耳、次に他方の耳に冷水を流し込み、眼の動きを観察する(温度刺激検査またはカロリックテストと呼ばれます)。

温度刺激検査は、患者に意識がなく、他の方法では眼の動きを確認できないときにのみ行われます。意識のある患者の耳に冷水を流し込むと、重度の回転性めまい、吐き気、嘔吐が生じることがあります。

臨床検査

臨床検査を行うと、昏迷または昏睡の原因に関するさらなる手がかりが得られます。

血液中の糖、電解質(ナトリウムなど)、アルコール、酸素、ミネラル(マグネシウムなど)、二酸化炭素の濃度や量を測定します。二酸化炭素の濃度が高ければ、呼吸障害が示唆されることがあり、人工呼吸器が必要になることがあります。また、赤血球数と白血球数を測定します。血液検査を行い、肝機能と腎機能を調べます。

尿を分析し、広く使用されている物質または摂取が疑われる有害物質がないかを調べます。血液と尿のサンプルを検査室に送って、培養検査(微生物を増殖させて調べる検査)を行い、感染の有無を確認します。

指にセンサー(パルスオキシメトリーと呼ばれます)を取り付けて、血液中の酸素レベルを測定します。動脈から採取した血液のサンプルを用いて、血液中の酸素や二酸化炭素、ときにその他の気体のレベルも測定します(動脈血ガス検査)。これらの検査は、心臓や肺の病気の有無を調べるために行います。

疑われる昏睡の原因に応じて、その他の臨床検査が行われることもあります。

その他の検査

心電図検査を行い、心疾患がないかを確認します。

原因が速やかに特定されない場合は、CT(コンピュータ断層撮影)またはMRI(磁気共鳴画像)検査による頭部の画像検査を行い、腫瘤などの構造的な脳の損傷がないかを確認します。

画像検査を行っても原因がはっきりしない場合や、髄膜炎またはくも膜下出血(脳を覆う組織層と組織層の間への出血)の可能性がある場合は、腰椎穿刺を行って髄液のサンプルを採取します( 腰椎穿刺の方法)。採取した髄液を観察して分析し、様々な原因の特定に役立てます。腰椎穿刺の前には頭部のCTまたはMRI検査を行うのが一般的で、例えば腫瘍や脳内出血(脳内への出血)によって頭蓋内の圧力が上昇していないかを確認します。圧力が高い状態で腰椎穿刺を行うと、脳の下で圧力が急激に低下することにより脳の位置が下側にずれ、少なくとも理論的には、脳ヘルニアが発生または悪化する可能性があります(ただし実際に脳ヘルニアが起こることはまれです)。

それでも原因を特定できないときは、脳波検査を行って脳の電気的な活動を確認することがあります。脳波検査では、腕や脚がひきつっていなくても、ときにけいれん発作が起きていることが明らかになる場合があります(非けいれん性てんかん重積状態と呼ばれます)。

予後(経過の見通し)

一般に、患者が6時間以内に音、触覚、またはその他の刺激に反応し始めれば、回復する可能性は高いです。1日目に以下のうち1つ以上がみられる場合も、回復の見込みが高いといえます。

  • 発話が回復する(内容が不可解な場合も含む)

  • 眼で物を追うことができる

  • 指示に従うことができる。

  • 収縮していた筋肉が弛緩する、筋緊張が正常に戻る

以下に挙げるように、回復の可能性は、意識障害の原因と持続時間によっても変わります。

  • 鎮静薬の過剰摂取:脳に損傷が起こるほど長時間の呼吸停止が起こっていない限り、回復が見込めます。

  • 低血糖:脳に糖が不足している状態が1時間以内であれば、完全な回復を期待できます。

  • 頭部外傷:昏睡が数週間続いても(ただし3カ月を超えない場合)、かなり回復する場合があります。

  • 脳卒中:昏睡が6時間以上続いた場合は、永続的な脳の損傷が残る可能性が高くなります。

  • 感染症:迅速に治療すれば、しばしば完全な回復が可能です。

心停止後に以下のうち1つでも該当するものがあれば、完全な回復はまれになります。

  • 1~3日経過後、明るい光を当てても瞳孔が収縮しない

  • けいれん発作が続いていて、治療しても効果が得られない

  • 3日経過後、角膜(眼の前方を覆う透明な層)に触れられても反射的にまばたきせず、痛みの刺激を与えられても腕や脚を意図的に動かさない(例えば、腕や脚を引っ込めようとする動作がない)

  • 1~2週間経過後、簡単な指示に従えない

しかし、心停止後に医師が低体温療法により患者の体を冷却していれば、通常はこれらの反応が起こるのをさらに3日待つことにします。体を冷却すれば、心停止後も脳の機能が保護される傾向がありますが、脳機能の回復も遅くなる傾向があります。

脳幹または大脳半球が機能しているかどうかを判定するため、ときに誘発反応と呼ばれる検査が行われます。この検査では、弱い電気信号を発する電極を体の各部に取り付け、脳波を利用して、電気信号が脳に到達するまでの時間を測定して記録します。信号が脳に届かないことが何度も繰り返される場合は、予後が良くない傾向があります。

若い人では脳の自己修復がより速く完全に起こるため、小児や(ときに)若い成人では、高齢者と比べて回復の度合いが高くなります。

深い昏睡状態が数週間以上続く場合は、人工呼吸器、栄養チューブ、および薬の使用を継続するかどうかの決断が必要になります。家族はこうした問題について医師とよく話し合わなければなりません。患者が事前指示書(リビングウィルや医療判断代理委任状など)を作成している場合、治療の継続に関する決定は指示書に従うべきです。

治療

  • 呼吸を助け、脳への血流を改善するための処置

  • 原因の治療

緊急治療

患者の覚醒レベルが急速に低下し、起こすことが難しくなってきている場合、迅速な治療が必要であり、診断を下す前に治療が必要になることもしばしばあります。このような急速な意識レベルの悪化がみられる場合、緊急の治療が必要です。

治療の最初の段階としては以下の点について確認を行い、これらはときに救急医療従事者が行うこともあります。

  • 気道が開通しているか

  • 呼吸が十分であるか

  • 脈拍、血圧、心拍数が正常であるか(血液が脳に確実に届いていることを確認するため)

可能であれば、問題を是正します。

患者はまず救急外来で治療され、その後病院の集中治療室に収容されます。救急外来でも集中治療室でも、看護師によって心拍数、血圧、体温、血中酸素レベルがモニタリングされます。脳がさらに損傷されるのを防ぐため、これらの値に異常があれば直ちに是正します。多くの場合、直ちに酸素投与を行い、薬やブドウ糖を速やかに投与できるように静脈ラインを確保します。

体温が高すぎる場合または低すぎる場合は、患者の体を冷却( 熱射病 : 治療)または加温( 低体温症 : 治療)するための処置が行われます。他の病気(心疾患や肺疾患など)がある場合は、その治療を行います。

原因の治療

可能であれば、原因に対する治療を行います。

低血糖に対しては、ブドウ糖を直ちに静脈内に投与します。低血糖が原因で起こった昏睡は、このブドウ糖の投与によってすぐに回復します。このとき、ブドウ糖と一緒に、必ずチアミンが投与されます。これは、低栄養状態の人(通常の原因はアルコール乱用)にブドウ糖だけを投与すると、ウェルニッケ脳症と呼ばれる脳疾患を誘発したり、悪化させたりすることがあるためです。

オピオイドが原因である可能性がある場合は、解毒剤であるナロキソンが投与されます。意識障害の原因がオピオイドだけである場合は、ほとんど即時に回復する可能性があります。オピオイドを使用している患者には、ナロキソンの自己注射器が処方されることがあります。患者がオピオイドを過剰摂取した場合や、その可能性が疑われる場合、家族や介護者がこの注射器を使って直ちにナロキソンを投与できます。

頭部外傷が原因であれば、医師が脊椎の損傷がないことを確認するまで、患者の首が動かないように固定しておく必要があります。頭部外傷後に昏迷または昏睡状態に陥った人には、アマンタジンのように神経細胞の機能を改善する薬による治療が有益となる場合があります。このような治療により、より早く一定水準の機能が回復する可能性があります。しかし、長期的な改善という観点からは、このような治療を行っても行わなくてもほとんど差が出ない可能性があります。

まれに、ある種の有害物質を1時間以内に飲み込んだことが疑われる場合は、太いチューブを口から胃の中に入れ、胃の内容物を吸い出すことがあります。胃の内容物を吸い出すのは、中身を調べるためと、その有害物質がさらに吸収されるのを防ぐためです。その同じチューブか鼻から入れたより細いチューブ(経鼻胃管)を介して、活性炭を投与する場合もあります。活性炭は、問題の物質が胃からさらに吸収されるのを阻止します。

呼吸を制御する治療

一般的に、深い昏迷または昏睡状態にある人には、呼吸用のチューブと人工呼吸器による呼吸の補助が必要になり、特に呼吸が(脳の損傷や機能不全などが原因で)障害されている場合は、ほぼ必ず行われます。

呼吸用のチューブ(気管内チューブ)は、鼻または口から気管に挿入されます(これを気管挿管といいます)。これにより、嘔吐が起きたときに胃の内容物を肺に吸い込んでしまう事態を予防でき、呼吸が遅すぎる場合や浅すぎる場合には人工呼吸器で呼吸を補助しやすくなります。

その他の治療

診察や検査の結果から頭蓋内圧の上昇が疑われる場合、特に医師が脳ヘルニアを疑う場合には、ドリルで頭蓋骨に小さな穴を開け、脳室(脳の内部の液体で満たされた空間)の1つに圧力をモニタリングするための装置を挿入することがあります。圧力の上昇が確認された場合は、減圧のために以下のような対策をとります。

  • ベッドの頭側を高くします。

  • 呼吸を速めるために人工呼吸器を使用することもあります。呼吸を速くすると、肺から二酸化炭素が除去され、血液中の二酸化炭素濃度が低下します。その結果、脳内の血管が狭くなり、脳に到達する血液が少なくなります。こうして、人工呼吸器を使用することで頭蓋内圧を一時的に低下させることができます。

  • 脳内および全身の体液を減らすために利尿薬などの薬が使用されることもあります。利尿薬は、腎臓がナトリウムと水を尿中に排泄するのを促すことにより、過剰な体液の除去を助けます。

  • 筋肉の過度の不随意収縮は頭蓋内圧を高める可能性があり、それを抑えるために鎮静薬が投与されることもあります。

  • 血圧を下げることがあります(特に血圧がすでに高い場合)。

脳腫瘍または脳膿瘍によって頭蓋内の圧力が高まっている場合は、圧力を下げるためにデキサメタゾンなどのコルチコステロイドが役立つ場合があります。しかし、コルチコステロイドは脳内出血や脳卒中などの特定の病気を悪化させる可能性があるため、そのような病気によって圧力が高まっている場合は、コルチコステロイドは使用しません。

ほかの方法で効果がなければ、以下の手段が試みられます。

  • 頭部外傷または心停止の後に圧力が上昇した場合、体温を下げる対策を試みることがあります。しかし、こうした対策が効果的であるかどうかは、明らかになっていません。

  • ペントバルビタール(バルビツール酸系薬剤の一種)を用いて、人為的に昏睡状態にすることがあります。その結果として、脳への血流が減少し、脳の活動が低下します。この治療により、人によっては予後が改善する場合があります。しかし、すべての人に有益というわけではなく、低血圧や不整脈などの副作用があります。

  • 外科的に頭蓋骨を開き(開頭術)、腫れた脳が広がれるスペースを作り、脳にかかる圧力を下げることもあります。この治療によって死を回避することはできますが、機能はあまり改善しないかもしれません。

長期的なケア

昏睡状態にある人には包括的なケアが必要になります。栄養は鼻から胃に挿入したチューブを介して与えられます(経管栄養と呼ばれます)。腹部を切開して直接胃にチューブを挿入し、そのチューブから栄養を胃または小腸に送り込むこともあります。このチューブから薬を投与することもあります。

体を動かせないことによって様々な問題が起こるため、それらの問題を予防するための対策が不可欠です( 床上安静による問題)。例えば、以下のようなことが起こりえます。

  • 床ずれ:同じ姿勢で寝ていると、体の一部分への血液供給が遮断され、その部分の皮膚が破れて、床ずれ(褥瘡)が発生する可能性があります。

  • 拘縮:体を動かさずにいると、筋肉が永久的に硬直し(拘縮)、関節が曲がったまま元に戻らなくなることがあります。

  • 血栓:体を動かさずにいると、脚の静脈に血栓が形成されやすくなります。血栓が剥がれて血流に乗って肺まで移動し、肺の動脈を塞いでしまうこともあります(肺塞栓症)。

拘縮を予防するため、患者の関節をすべての方向に優しく動かしたり(他動的関節可動域訓練)、関節を特定の姿勢で固定したりするケアを理学療法士が行います。

血栓の予防策として、薬剤の使用や脚の圧迫または挙上などが行われます。他動的関節可動域訓練で行うように、四肢を動かすことも血栓の予防に役立つ可能性があります。

床ずれは、頻繁に体位を変えるとともに、ベッドの表面に接する部分(かかとなど)の下に保護パッドを置いて保護することで、予防することができます。

まばたきができないため、眼が乾燥することがあります。これには点眼薬が有用です。

失禁がある場合は、皮膚を清潔で乾燥した状態に保つためのケアが必要です。膀胱が機能せず、尿がたまってしまう場合は、膀胱にチューブ(カテーテル)を留置して排尿させます。尿路感染症を予防するため、カテーテルは丁寧に洗浄し、定期的に点検を行います。

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