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前頭側頭型認知症

執筆者:

Juebin Huang

, MD, PhD, Department of Neurology, University of Mississippi Medical Center

レビュー/改訂 2021年 3月
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前頭側頭型認知症とは、脳の一部(主に前頭葉、ときに側頭葉)の組織が変性する遺伝性または原因不明の病気によって発生する一群の認知症を指します。

  • アルツハイマー病と比べると、人格、行動および言語機能への影響が大きく、記憶への影響は少ない傾向があります。

  • 診断は症状と神経学的診察の結果に基づいて下され、脳損傷を評価するために画像検査も行われます。

  • 治療の目標は症状を管理することです。

  • 認知症では主に記憶力が障害され、せん妄では主に注意力が障害されます。

  • 認知症は典型的には徐々に発症し、いつ始まったのかをはっきり特定できません。せん妄は突然発生し、始まった時点を特定できる場合が多いです。

認知症患者の10人に1人が前頭側頭型認知症です。典型例では、65歳以下で発症します。男女差はほとんどなく、

前頭側頭型認知症は家族内で遺伝する傾向があります。前頭側頭型認知症のおよそ半数が遺伝性のものです。

脳細胞中のタウタンパク質の量または種類に異常がみられます。

前頭側頭型認知症 大脳 大脳 では、前頭葉と側頭葉が萎縮して、神経細胞が失われます。これらの領域は、人格や行動に関わっています。

前頭側頭型認知症には複数の型があります。例えば、ピック病は、特定のタイプの前頭側頭型認知症による一部の脳の変化を指す用語です。これは重度の萎縮、脳細胞の喪失、異常な脳細胞(ピック細胞)の存在を特徴とします。

前頭側頭型認知症の症状

前頭側頭型認知症は進行性の病気ですが、一般的な認知症の状態に至るまでの期間には個人差があります。

概して、前頭側頭型認知症は アルツハイマー病 アルツハイマー病 アルツハイマー病は、精神機能が次第に失われていく病気であり、神経細胞の消失、ベータアミロイドと呼ばれる異常タンパク質の蓄積、神経原線維変化といった、脳組織の変性を特徴とします。 最近の出来事を忘れるのが初期の徴候で、続いて錯乱が強くなっていき、記憶以外の精神機能も障害され、言語の使用と理解や日常生活行為にも問題が生じるようになります。 症状が進行すると普段の生活が送れなくなり、他者に完全に依存するようになります。... さらに読む と比べて、人格、行動、言語機能への影響が大きく、記憶への影響は小さい傾向があります。前頭側頭型認知症の人は、抽象的に考えること、注意を維持すること、言われたことを思い出すことなども困難になります。ある課題を遂行するために、アイデアを出したり、正しい手順を踏むこと(順序立て)も苦手になり、すぐに気が散ります。一方で、通常は時間、日付、場所に関する認識は維持されていて、日常生活行為は行うことができます。

発生する症状は、前頭葉または側頭葉のどの部分が侵されているかによって異なりますが、具体的には以下のものがあります。

  • 人格および行動の変化

  • 言語能力に関する問題

複数の種類の症状がみられることもあり、特に認知症が進行するとその傾向が強くなります。

人格および行動の変化

前頭側頭型認知症では、遠慮をしなくなる結果、不適切な行動が増えることがあります。失礼な発言が増えたり、性的な興味が異常に強くなったりする場合もあります。

衝動的な行動や強迫的な行動がみられることもあります。例えば、同じ行動を何回も繰り返す、毎日同じ場所に歩いて行く、

このタイプの前頭側頭型認知症の患者は、身の回りの衛生状態に気を配らなくなります。

前頭側頭型認知症の一部の患者は、クリューバー・ビューシー症候群を発症します。この症候群の症状としては性への関心の増大、またはやみくもに物を手に取っていじる、物を口に入れようとする強迫行為などがあります。この症候群の患者は、自分の唇を吸ったり、舌を鳴らしたりすることがあります。見慣れた物や人を視覚から認識できないことがあります。過食や極度の偏食をする、などの症状がみられます。

言語能力に関する問題

前頭側頭型認知症患者のほとんどは、言葉を見つけるのが困難になり、言葉の使用と理解が次第に困難になります(失語 失語 失語とは、会話や文字でものごとを表現したり、理解したりする能力が部分的または完全に失われる障害です。言語を制御する脳領域の損傷が原因で起こります。 言葉を読む、書く、話す、理解する、または繰り返すことが困難になります。 医師は通常、患者に質問することで、この問題を特定できます。 CT検査やMRI検査などの画像検査が行われます。 失語のある患者の多くで言語療法が助けになります。 さらに読む )。声を出すことが物理的に難しくなる人もいます(構音障害 構音障害 構音障害とは、言葉を正常にはっきり発音する能力が失われる障害です。 話し方がぎこちなくなる、ブツブツ途切れる、息の音が混じる、不規則になる、不明瞭になる、または単調になることがありますが、患者は言語を正しく理解し、正しく使用できます。 医療従事者は、口と舌を使う簡単な動作をしたり単語や文を復唱したりするよう患者に指示して、患者の筋力や筋肉の動きを評価します。 構音障害がある人には、言語療法が役立つ場合があります。... さらに読む )。また、注意力を維持するのが非常に難しくなります。10年以上にわたって言語障害だけで推移する人もいる一方、2~3年で別の症状が現れる人もいます。

言葉を理解できなくても流暢に話す人もいますが、その場合、話す内容はまったく意味を成しません。物の名前を思い出すのが難しくなることや(失名詞)、人の顔を認識するのが難しくなることもあります(相貌失認)。

認知症が進行するにつれ、患者はますます話さなくなり、自分や他者が言ったことを繰り返すようになります。最終的には、まったく話さなくなります。

前頭側頭型認知症の診断

  • 医師による評価

  • CTまたはMRI検査

医師は、患者に認知症があるかどうかを判定し、あればそれが前頭側頭型認知症であるかどうかを判定しなければなりません。

認知症の診断

診断では以下のような情報が参考にされます。

患者が自分の症状に気がついていないこともあるため、家族から事情を聞くことが必要になる場合もあります。

より詳細な神経心理学的検査がときに必要となります。この検査は気分を含めた重要な精神機能をすべて網羅していて、通常は終了までに1~3時間かかります。この検査は、 加齢に伴う記憶障害 認知症 軽度認知障害 認知症 うつ病 認知症 などの類似の症状を引き起こす病気から認知症を鑑別する上で役立ちます。

上記の検査や情報は、症状の原因としてせん妄を除外する上でも役立ちます(表「 せん妄と認知症の比較 せん妄と認知症の比較 せん妄と認知症の比較 」を参照)。認知症と異なり、せん妄は迅速な治療によって回復を望めるため、せん妄を除外することは極めて重要です。

前頭側頭型認知症の診断

前頭側頭型認知症の診断は、発症の過程も含め、典型的な症状に基づいて下されます。

脳のどこにどの程度の損傷があるかを調べ、考えられる他の原因(脳腫瘍 脳腫瘍の概要 脳腫瘍は脳内で増殖する組織で、がんの場合(悪性)と、がんでない場合(良性)があります。脳内で発生するものと、体の別の部位から脳に転移してきたものとがあります。 症状としては、頭痛、人格の変化(抑うつ、不安、自制がきかなくなるなど)、脱力、異常感覚、平衡感覚の消失、集中力の低下、けいれん発作、協調運動障害などがみられます。 脳腫瘍は画像検査で発見できますが、しばしば確認のために腫瘍の生検が必要になります。... さらに読む 脳膿瘍 脳膿瘍 脳膿瘍とは、脳の中に膿がたまった状態のことです。 脳膿瘍は、脳以外の頭部もしくは血流に生じた感染から、または傷を介して、細菌が脳に侵入することで形成されます。 頭痛、眠気、吐き気、体の片側の筋力低下、けいれん発作が起こることがあります。 頭部の画像検査を行う必要があります。 抗菌薬を投与し、通常は針で膿瘍をドレナージするか、手術で切除します。 さらに読む 脳卒中 脳卒中の概要 脳卒中は、脳に向かう動脈が詰まったり破裂したりして、血流の途絶により脳組織の一部が壊死し(脳梗塞)、突然症状が現れる病気です。 脳卒中のほとんどは虚血性(通常は動脈の閉塞によるもの)ですが、出血性(動脈の破裂によるもの)もあります。 一過性脳虚血発作は虚血性脳卒中と似ていますが、虚血性脳卒中と異なり、恒久的な脳損傷が起こらず、症状は1時間... さらに読む など)の可能性を否定するため、CT検査とMRI検査を行います。しかし、CT検査やMRI検査では、かなり進行するまで前頭側頭型認知症に特徴的な変化を検出できない可能性があります。

前頭側頭型認知症の治療

  • 症状の緩和

  • 患者の支援

前頭側頭型認知症に対する特別な治療法はありません。

一般に、治療では以下の点に重点が置かれます。

  • 症状の管理

  • 支援の提供

例えば、強迫的な行動が問題である場合には、抗精神病薬が使用されることがあります。言語に関わる問題がある場合は言語療法が役立ちます。

安全対策と患者の支援

一般に、明るく楽しげで、落ち着いた安全な環境が望ましく、また見当識を保つ工夫をするとよいでしょう。ラジオやテレビなどの適度な刺激も有用ですが、過度の刺激は避けるべきです。

物の配置や1日のスケジュールを定型化することは、前頭側頭型認知症患者が見当識を保つのに役立ち、安心感や安定感を与えます。周囲の環境や日課が変わる場合や、介護者が交代する場合は、明確かつ簡潔に説明します。

入浴、食事、睡眠など日常生活のスケジュールを一定に保つことは、前頭側頭型認知症患者の記憶の助けになります。就寝前の手順を一定に保つと、睡眠の質を改善できる可能性があります。

その他の活動を定期的なスケジュールで組み込むと、楽しい活動や生産的な行為に注意が向き、自立して他者から必要とされているという感覚をもつのに役立ちます。こういった活動には身体的活動と精神的活動を両方含めるべきです。認知症が悪化してきた場合には、活動を細かく分けたり単純化したりする必要があります。

介護者に対するケア

認知症患者の介護は多くのストレスがかかる重労働であり、介護者は自分自身の精神的・肉体的健康に無頓着になりがちで、抑うつ状態になったり疲弊困憊したりすることがあります。以下のような対策が介護者の助けになります(表「 介護者に対するケア 介護者へのケア 介護者へのケア 」を参照)。

  • 認知症患者のニーズを効果的に満たす方法を学び、認知症患者に何が期待できるかを知る:例えば、認知症患者の間違いやもの忘れを叱っても、患者の行動がますます悪化するだけであることを介護者は知っておく必要があります。

  • 必要な場合は支援を求める:介護者は、ソーシャルワーカー(地域病院にいる人を含みます)に相談し、デイケアプログラム、訪問看護、パートまたはフルタイムのホームヘルパー、住み込みでの介護サービスなどの適切な支援について検討することもできます。また、家族支援団体に相談することも有用です。

  • 介護者自身に対するケア:介護者は自分自身にも気を配る必要があります。友人との交流、趣味、種々の活動を諦めてはいけません。

終末期の問題

前頭側頭型認知症の人は、意思決定能力が大きく損なわれる前に、医療方針についての様々な決定を行っておくとともに、金銭上および法律上の手続きも済ませておくべきです。こうした取り決めを記載した書類は 事前指示書 事前指示書 医療に関する事前指示書は、ある人が医療に関する決断を下すことができなくなった場合に、医療についての本人の希望を伝達する法的文書です。事前指示書には、基本的にリビングウィルと医療判断代理委任状の2種類があります。( 医療における法的問題と倫理的問題の概要も参照のこと。) リビングウィルは、終末期ケアに代表されるような、個人が医療に関する決定能力を喪失する事態に備え、将来の医学的治療に関する指示や要望を事前に表明するものです。... さらに読む と呼ばれます。患者は自分の代わりに治療に関する決定を行う人(医療代理人)を法律に基づいて指名し、 治療に関する希望 終末期の治療選択肢 終末期ケアの選択肢には多くの場合、余命が短くなるおそれがあるが快適な状態を保つ治療を受けるか、わずかでも余命を延ばすために不快で自由が損なわれる積極的な治療を試みるか、という決断が含まれます。例えば、重度の肺疾患で死期が近づいている場合は、人工呼吸器(呼吸を補助する装置)を使用することで余命を延ばすことができます。しかし、ほとんどの人は人工呼吸器の装着を非常に不快に感じ、たびたび強い鎮静を望みます。... さらに読む について、その代理人および主治医と話し合っておくべきです。こうした問題は、実際に意思決定が必要になる前に、できるだけ早く関係者全員で話し合っておく必要があります。

前頭側頭型認知症が悪化するに従って、治療の重点は、余命を延ばすことから快適さを保つことに移されていきます。

さらなる情報

役立つ可能性がある英語の資料を以下に示します。こちらの情報源の内容について、MSDマニュアルでは責任を負いませんのでご了承ください。

  • Dementia.org:このウェブサイトでは、認知症の原因、症状、治療、病期に関する情報が提供されています。

  • ヘルスダイレクト:認知症動画シリーズ(Health Direct: Dementia Video Series):この動画シリーズでは、認知症に関する一般情報、認知症の警戒すべき徴候に関する推奨事項、治療および研究、ならびに認知症患者のケアについての情報が提供されています。また、同様のトピックに関する記事へのリンクも掲載されています。

  • 米国国立神経疾患・脳卒中研究所の認知症情報ページ(National Institute of Neurological Disorders and Stroke's Dementia Information Page):このウェブサイトでは、治療法や予後に関する情報のほか、臨床試験へのリンクが掲載されています。

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