細菌が手術中か手術後に人工関節に感染することがあり、結果、感染症を引き起こします。
症状は痛み、腫れ、可動域の制限などです。
診断は、症状、診察、複数の検査の結果に基づいて下されます。
特定の手術を行う前に抗菌薬を投与することで、人工関節の感染を予防できることがあります。
感染した人工関節は交換する必要があり、長期間にわたり抗菌薬の投与が必要です。
原因
重症の関節疾患の患者には、関節の交換(関節置換術)が必要なことがよくあります。人工関節の感染は、 通常の関節の感染 感染性関節炎 感染性関節炎は、関節液や関節組織の感染症で、通常は細菌感染が原因ですが、ウイルスや真菌の感染によって起こることもあります。 細菌、ウイルス、真菌は、血流を介して、または近くの感染部位から関節に入り、感染症を引き起こすことがあります。 通常は、数時間ないし数日以内に痛みや腫れ、発熱が生じます。... さらに読む よりも多くみられます。またこのような感染は、以下の場合においてしばしば起こります。
細菌が、手術中に関節に侵入する
細菌が、手術直後に傷に侵入する
細菌が、手術後に血液に侵入する
細菌は、皮膚感染症、肺炎、歯科処置、体内に器具を挿入する必要がある処置(侵襲的な処置と呼ばれます)、血管に入れたカテーテルの感染、または尿路感染症を介して、血液に侵入する可能性があります。
感染症の約3分の2は、手術後1年以内に発生します。手術後数カ月、最も原因となることが多い細菌は ブドウ球菌 黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)感染症 黄色ブドウ球菌 Staphylococcus aureusは多くの一般的なブドウ球菌の中で最も危険とされています。この グラム陽性の球状細菌(球菌)(図「 主な細菌の形」を参照)は、しばしば皮膚感染症を引き起こしますが、肺炎、心臓弁の感染症、骨の感染症を引き起こすこともあります。... さらに読む です。
症状
人工関節の感染の症状は、痛みや腫れ、可動域の制限などで、体温は正常の場合があります。
転倒してから数週間後に感染の症状が始まることもあります。
約20%の患者では、人工関節について何らかの修正を行うための手術を受けた後に症状が始まります。
一部の患者では、安静時や関節で体重を支えている際に、持続的な関節の痛みが出ることがあり、これは手術からの回復が何カ月も順調であった後にもみられます。
診断
関節液の分析と培養
X線検査と場合によっては骨シンチグラフィーまたは白血球シンチグラフィー
人工関節の感染は、症状、診察、複数の検査の結果に基づいて、診断が下されます。
瘻孔が生じていないか確認するために、人工関節を診察します。瘻孔とは、関節から皮膚につながる異常な経路で、感染している場合に発生することがあります。
針で関節液のサンプルを採取し(関節穿刺 関節穿刺(関節液の吸引) 筋骨格系の病気は、病歴と 診察の結果に基づいて診断することがよくあります。医師が診断を下したり確定したりするのを助けるために、臨床検査、画像検査、またはその他の診断方法が必要になることがあります。 臨床検査は、筋骨格系の病気の診断にしばしば役立ちます。例えば、赤血球沈降速度(赤沈)は、血液を試験管に入れたときに赤血球が沈む速度を測定する検... さらに読む )、検査室で白血球の数が増えていないかを調べ、細菌などの微生物についての検査を行います。検査室では、感染している細菌を培養して特定します。
通常は X線検査 X線検査 筋骨格系の病気は、病歴と 診察の結果に基づいて診断することがよくあります。医師が診断を下したり確定したりするのを助けるために、臨床検査、画像検査、またはその他の診断方法が必要になることがあります。 臨床検査は、筋骨格系の病気の診断にしばしば役立ちます。例えば、赤血球沈降速度(赤沈)は、血液を試験管に入れたときに赤血球が沈む速度を測定する検... さらに読む を行い、人工関節がゆるくなっていないか、新しい骨ができ始めていないかを確認します。 骨シンチグラフィー 骨シンチグラフィー 筋骨格系の病気は、病歴と 診察の結果に基づいて診断することがよくあります。医師が診断を下したり確定したりするのを助けるために、臨床検査、画像検査、またはその他の診断方法が必要になることがあります。 臨床検査は、筋骨格系の病気の診断にしばしば役立ちます。例えば、赤血球沈降速度(赤沈)は、血液を試験管に入れたときに赤血球が沈む速度を測定する検... さらに読む
(放射性テクネチウムを注入した後に作成される画像)または白血球シンチグラフィー(放射性ヨードで標識した白血球を静脈に注射した後に作成される画像)も行うことがあります。
他の検査で感染症が否定されなかった場合、手術中に人工関節の周囲の組織を採取し、培養と分析のために検査室に送ります。
予防
特定の処置を受ける前の抗菌薬の服用
人工関節を入れている人は、医学的な処置の前に抗菌薬による予防(予防投与といいます)が必要かどうかについて、かかりつけの歯科医や医師と話し合うべきです。抗菌薬の予防投与を行うことがある処置は、歯や消化器、尿路の処置などです。
関節の置換手術を行う前に黄色ブドウ球菌 Staphylococcus aureusの感染がないか確認することもあります。鼻の内側から綿棒でサンプルを採取し、細菌について検査します。この細菌が検出されれば、抗菌薬の軟膏を鼻の内側に塗ると感染の予防に役立ちます。
治療
人工関節の交換
長期間の抗菌薬療法
感染した人工関節を完全に治療するには、長い時間がかかります。
通常は、感染した人工関節を、すべてまたは部分的に抜去し(人工関節再置換術)、その周辺の骨セメント、膿の蓄積(膿瘍)、感染した組織も除去します。その後すぐに新しい人工関節を埋め込むか、抗菌薬で満たされたスペーサーを挿入し、2~4カ月後に新しい人工関節と抗菌薬入りの骨セメントを埋め込みます。どちらの場合も、長期間の抗菌薬療法が必要です。すぐに交換した場合も、数カ月遅らせた場合も、(半数以下ではありますが)多くの新しい人工関節にも感染が起こります。
患者が手術に耐えられない場合は、長期間の抗菌薬療法だけを試すことがあります。
感染が制御できなかったり、骨の喪失が多すぎたりするために、関節やその一部を取り除くことがあります。この手術の後、関節を形成する骨同士を固定する場合もあれば、固定しない場合もあります。
まれに、他のどの方法でも感染を制御できない場合は、その関節のある腕や脚の部分を 切断 腕や脚の切断後のリハビリテーション 手術前に、外科医、義肢装具士、理学療法士は切断が必要な患者のリハビリテーションの計画と目標を話し合います。義肢装具士は、義手や義足の取り付けや組み立て、調整を行い、使い方の説明なども行います。リハビリテーションで行われる訓練は、切断前に開始する場合もあります。( リハビリテーションの概要および... さらに読む しなければならないことがあります。