無気肺の一般的な原因は気管支の閉塞です。
酸素レベルが低くなる、または肺炎が起こると、息切れが生じます。
診断を確定するには胸部X線検査を使います。
治療では、深い呼吸を確実にできるようにすること、気道の障害物を取り除くこと、またはその両方が必要になることがあります。
肺の主な機能は、大気中から血液中に酸素を取り込み、血液中の二酸化炭素を呼気として吐き出すことです(ガス交換、 肺胞腔と毛細血管の間でのガス交換 肺胞腔と毛細血管の間でのガス交換 )。ガス交換が行われるためには、肺の中にある小さな空気の袋(肺胞)が、ふくれた状態を保ち、空気で満たされていなければなりません。肺胞がふくれた状態を保てるのは、肺の構造に弾力性があり、サーファクタントと呼ばれる液体が肺胞の内面を覆っているおかげです。このサーファクタントは、肺胞が自然につぶれようとする(虚脱する)のを防いでいます。無意識に行っている周期的な深い呼吸やせきも、肺胞がふくれた状態を保つのに役立っています。肺胞につながる気道をふさぐおそれがある粘液やその他の分泌物は、せきによって吐き出されます。
何らかの理由で肺胞がつぶれた場合、その肺胞ではガス交換ができなくなります。つぶれた肺胞が多いほど、ガス交換の量が減少します。そのため、無気肺になると、血液中の酸素レベルが低下します。体はそれを補うために、無気肺の部分が少なければ、つぶれた肺胞がある領域の血管を閉じ(収縮させ)ます。この血管の収縮により、その分の血液が膨らんでいる肺胞に流れ、そこでガス交換が行われます。
原因
無気肺の一般的な原因には通常、以下のものがあります。
気管から分かれて肺組織につながっている管(気管支)のうちの1つがふさがれる
深い呼吸を減らす、またはせきをする能力を抑える病態
このような閉塞は、粘液の栓、腫瘍、吸い込んだ異物(例えば、錠剤、食べもののかけら、おもちゃ)など、気管支の内部にあるものによって起こることがあります。あるいは、腫瘍やリンパ節の腫れなどによって、気管支の外から圧迫を受けることで閉塞が発生することもあります。また、外部からの圧迫による閉塞は、胸腔(肺の外側で胸の内側の空間)に大量の液体(胸水)または空気(気胸 気胸 気胸とは、2層の胸膜(肺の外側と胸壁の内側を覆っている薄くて透明な膜)の間に空気が入り込むことによって、肺が部分的または完全につぶれてしまう病気です。 症状には、呼吸困難や胸痛などがあります。 胸部X線検査によって診断が下されます。 治療は通常、ドレーンやときに合成樹脂製のカテーテルを胸部に挿入して空気を抜くことです。 (胸膜疾患の概要も参照のこと。) さらに読む )がたまった場合にも発生することがあります。
気管支またはより細い気道(細気管支)がふさがってしまうと、閉塞部より先の肺胞内にある空気が血液中に吸収されてしまい、その肺胞は小さくなってつぶれてしまいます。その閉塞部の奥(内部)には細菌や白血球が蓄積することがあるため、つぶれた部分の肺が感染を起こすおそれがあります。無気肺が数日にわたって続くと、特に感染しやすくなります。無気肺が数カ月にわたって続くと、肺が容易には元通りに膨らまない可能性があります。
深い呼吸を減らしたり、せきをする能力を抑える状態は、無気肺を引き起こしたり、無気肺の一因となる可能性があります。オピオイドや鎮静薬を大量に使用すると、深い呼吸が妨げられることがあります。せきや呼吸を促す仕組みが一時的に抑制される全身麻酔の後には無気肺がよくみられます。胸部や腹部の手術の後は、全身麻酔の影響に加えて、深い呼吸をすると痛むことから患者は浅く呼吸するため、無気肺が特に多くみられます。また、けがや肺炎 肺炎の概要 肺炎は、肺にある小さな空気の袋(肺胞)やその周辺組織に発生する感染症です。 肺炎は、世界で最も一般的な死因の1つです。 重篤な慢性の病気が他にある患者において、肺炎はしばしば最終的な死因となります。 肺炎の種類によっては、ワクチンの接種によって予防できます。 米国では、毎年約200~300万人が肺炎を発症し、そのうち約6万人が死亡していま... さらに読む などの他の原因によって胸や腹部に痛みがある場合も、深い呼吸をすると痛みが生じます。
特定の神経疾患や胸部の変形があったり、体を動かせない状態が続いたり、腹部が腫れていたりすると、胸部の動きが制限されるため、深く呼吸できないことがあります。極めて過体重の人や肥満の人でも、無気肺のリスクが高まります。
症状
ときに息切れがみられることを除き、無気肺自体に症状はありません。息切れの有無や重症度は、無気肺の進行速度や範囲によって決まります。無気肺が肺の限られた部分にとどまり、進行が遅い場合は、症状は軽いことが多く、気づかないことさえあります。多数の肺胞がつぶれ、特に無気肺が急速に発生した場合は、息切れがひどくなることがあります。
また、心拍数や呼吸数が増加することもあり、場合によっては、血液中の酸素レベルが低下して、皮膚が青白く見えるチアノーゼ チアノーゼ チアノーゼは、血液中の酸素の不足が原因で、皮膚が青っぽく変色することです。 酸素が枯渇した血液(脱酸素化血液)は、赤色というより青みがかっており、これが皮膚を循環している場合にチアノーゼがみられます。肺または心臓の重い病気の多くは、血液中の酸素レベルを低下させるため、チアノーゼの原因となります。また、血管や心臓にある種の奇形があると、血液が空気中から酸素を取り込む場所である肺胞(肺にある小さな空気の袋)を通らず、直接心臓に流れるために、... さらに読む と呼ばれる状態になることもあります。
症状は、無気肺を引き起こした病気(例えば、けがによる胸の痛み)や、無気肺が原因で発生した病気(例えば、肺炎 肺炎の概要 肺炎は、肺にある小さな空気の袋(肺胞)やその周辺組織に発生する感染症です。 肺炎は、世界で最も一般的な死因の1つです。 重篤な慢性の病気が他にある患者において、肺炎はしばしば最終的な死因となります。 肺炎の種類によっては、ワクチンの接種によって予防できます。 米国では、毎年約200~300万人が肺炎を発症し、そのうち約6万人が死亡していま... さらに読む による深呼吸に伴う胸の痛み)を反映している場合もあります。
診断
胸部X線検査
医師は、患者の症状、身体所見、症状が現れた状況などをもとに無気肺を疑います。胸部X線検査で空気がない領域が示されると、診断が確定します。原因を特定するために、CT検査や気管支鏡検査 気管支鏡検査 気管支鏡検査とは、気管支鏡(観察用の柔軟な管状の機器)を用いて発声器(喉頭)や気道を直接観察することです。気管支鏡の先端にはカメラが付いていて、これによって太い気道(気管支)から肺の内部を観察できます。 肺疾患に関する病歴聴取と身体診察および呼吸器系も参照のこと。) 気管支鏡は、肺の出血源を探るために用いられることもあります。肺がんが疑われる場合は、気道を調べて、がん化しているように見えるところからサンプルを採取することもあります。気管... さらに読む (気管支へ内視鏡を挿入して調べる検査)、またはその両方が行われることがあります。
予防
治療
深い呼吸とせき
吸引または気管支鏡による気道閉塞の解除
無気肺の治療では、深い呼吸を確実にできるようにすること、気道の障害物を取り除くこと、またはその両方が必要です。
場合によっては、医療従事者が患者の気道吸引を行う際に、障害物を除去できることもあります。吸引で除去できない障害物は、気管支鏡 気管支鏡検査 気管支鏡検査とは、気管支鏡(観察用の柔軟な管状の機器)を用いて発声器(喉頭)や気道を直接観察することです。気管支鏡の先端にはカメラが付いていて、これによって太い気道(気管支)から肺の内部を観察できます。 肺疾患に関する病歴聴取と身体診察および呼吸器系も参照のこと。) 気管支鏡は、肺の出血源を探るために用いられることもあります。肺がんが疑われる場合は、気道を調べて、がん化しているように見えるところからサンプルを採取することもあります。気管... さらに読む で取り出す必要があります。ときにはほかの方法が必要になることもあります。例えば、気道をふさいでいるのが腫瘍であれば、手術、放射線、化学療法、またはレーザーなどによって閉塞を解除することがあります。気道に粘液の栓が詰まっている場合、粘液を薄めたり気道を開くための薬剤が投与されることがあります。
合併症の治療
無気肺の症状や合併症に対する治療が必要になることもあります。例えば、以下が必要になることがあります。
酸素吸入
細菌感染症が疑われる場合、抗菌薬
持続陽圧呼吸
持続陽圧呼吸では、フェイスマスクを通して、空気または空気と酸素の混合気体に常に圧力をかけながら肺に送り込むことで、息を吐いているときでも気道がつぶれずに、肺が膨らんだ状態を維持できるように補助します( 閉塞性睡眠時無呼吸症候群 閉塞性睡眠時無呼吸症候群 睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中に長い呼吸停止が繰り返し起こって眠りが妨げられる重篤な病気で、しばしば一時的に血液中の酸素レベルが低下して二酸化炭素濃度が上昇することもあります。 睡眠時無呼吸症候群の患者は、日中でも強い眠気を催し、睡眠中には大きないびきをかいて、あえぎや息詰まり、呼吸停止などを起こし、荒い鼻息とともに突然目を覚ますことがよく... さらに読む )。持続陽圧呼吸は、気道を開通し、せきによる分泌物の除去を促すために使用されることもあります。細菌感染症が疑われると、しばしば抗菌薬が投与されます。