症状は、閉塞した動脈やその重症度により異なります。
診断を下すために、影響が現れている領域への血流を測定します。
薬剤、血管形成術、手術により、閉塞を緩和して症状の軽減を図ります。
末梢閉塞性動脈疾患は、年齢とともに増加する 動脈硬化 動脈硬化 アテローム性動脈硬化とは、太い動脈や中型の動脈の壁の中に主に脂肪で構成されるまだら状の沈着物(アテロームあるいはアテローム性プラーク)が形成され、それにより血流が減少ないし遮断される病気です。 アテローム性動脈硬化は、動脈の壁が繰り返し損傷を受けることによって引き起こされます。... さらに読む (血管の壁にプラークなどが蓄積する病態)が原因で生じることが多いため、高齢者によくみられます。
また、末梢閉塞性動脈疾患は以下に該当する人にもよくみられます。
男性
習慣的に喫煙をしたことがある人
糖尿病 糖尿病 糖尿病は、体がインスリンを十分に産生しないかインスリンに正常に反応しないため、血中の糖分の濃度(血糖値)が異常に高くなる病気です。 排尿が増加し、のどが渇くほか、減量しようとしていなくても体重が減少することがあります。 神経を損傷し、知覚に問題が生じます。 血管を損傷し、心臓発作、脳卒中、慢性腎臓病、視力障害のリスクが高まります。... さらに読む 、 高血圧 高血圧 高血圧とは、動脈内の圧力が恒常的に高くなった状態のことです。 高血圧の原因は不明のことも多いですが、腎臓の基礎疾患や内分泌疾患によって起こる場合もあります。 肥満、体を動かさない生活習慣、ストレス、喫煙、過度の飲酒、食事での過剰な塩分摂取などはすべて、遺伝的に高血圧になりやすい人の高血圧の発症に何らかの形で関与しています。... さらに読む
、 コレステロール値の異常 脂質異常症 脂質異常症とは、 脂質(コレステロール、中性脂肪[トリグリセリド]、または両方)の濃度が高いか、高比重リポタンパク質(HDL)コレステロールの濃度が低い状態をいいます。 生活習慣、遺伝、病気(甲状腺ホルモン低値や腎疾患など)、薬、またはそれらの組合せが影響します。 動脈硬化をもたらし、狭心症、心臓発作、脳卒中、末梢動脈疾患の原因になります。 中性脂肪と各種コレステロールの血中濃度が測定されます。... さらに読む
、またはホモシステイン(タンパク質を構成する物質の一種)値の上昇がみられる人
肥満の人
運動不足の人
これらの要因はどれも末梢閉塞性動脈疾患の発生に寄与するだけでなく、悪化させる要因でもあります。
末梢閉塞性動脈疾患は、脚の動脈に最も多く発生し、腸骨動脈(大動脈の2本の分枝)、大腿動脈(太ももの主要な動脈)、膝窩動脈(膝の動脈)、脛骨動脈および腓骨動脈(ふくらはぎの動脈)などで起こります。頻度は低いものの、肩や腕の動脈でもみられることがあります。
閉塞性の動脈疾患は、腹部を通る大動脈の一部(腹部大動脈)やその分枝でも起こることがあります(腹部大動脈の分枝の閉塞 腹部大動脈の分枝の閉塞 腹部大動脈の分枝の閉塞とは、腹部で大動脈から枝分かれした太い動脈の1つがふさがったり狭くなったりした状態です。 大動脈の分枝は、動脈硬化、動脈の壁の筋肉の異常増殖(線維筋性異形成)、血栓、その他の病気によってふさがる(閉塞)することがあります。 閉塞が起きると、閉塞した動脈から血液の供給を受けていた領域において、血流の不足に関連した症状(痛みなど)が起こります。 診断を下すには画像検査が用いられます。... さらに読む を参照)。
末梢閉塞性動脈疾患の原因としては以下のものがあります。
動脈が徐々に狭まる
動脈が突然閉塞する
動脈が狭まると、その先の部位に十分な量の血液が供給されない可能性があります。血液の供給量が不足すると、体の組織の酸素レベルが不十分な状態(虚血)になります。虚血は急に発生する場合もゆっくり生じる場合もあります。動脈が突然、または完全に閉塞すると、そこから血液を供給されている部位の組織が壊死(えし)することがあります。
動脈が徐々に狭まる場合
動脈が徐々に狭まる場合、原因は通常、動脈硬化です。 動脈硬化 プラークの形成 アテローム性動脈硬化とは、太い動脈や中型の動脈の壁の中に主に脂肪で構成されるまだら状の沈着物(アテロームあるいはアテローム性プラーク)が形成され、それにより血流が減少ないし遮断される病気です。 アテローム性動脈硬化は、動脈の壁が繰り返し損傷を受けることによって引き起こされます。... さらに読む では動脈壁にコレステロールやその他の脂質が沈着します(アテロームまたはアテローム性プラーク)。アテロームにより動脈の内腔が徐々に狭くなり、血流が減少します。血管の壁にカルシウムが蓄積することがあり、その結果、動脈が硬くなります。
まれに、動脈壁の筋肉が異常に増殖したり(線維筋性異形成 線維筋性異形成 線維筋性異形成は、動脈壁が異常に厚くなる病気で、動脈硬化や炎症とは関連しませんが、動脈の狭窄や閉塞を引き起こします。 線維筋性異形成は、 閉塞性の末梢血管疾患の一種です。 線維筋性異形成は、通常は40~60歳の女性に発生します。原因は不明です。しかし、おそらく遺伝的要素があり、喫煙は危険因子であると考えられます。線維筋性異形成は、特定の結合組織疾患( エーラス-ダンロス症候群、嚢胞性中膜壊死[大動脈の壁が変性する病気]、... さらに読む )、炎症を起こしたり(血管炎 血管炎の概要 血管炎疾患は、血管の炎症(血管炎)を原因とする病気です。 血管炎は、特定の感染症や薬によって引き起こされる場合もあれば、原因不明の場合もあります。 発熱や疲労などの全身症状がみられることがあり、その後、侵された臓器に応じて他の症状がみられます。 診断を確定するために、患部の臓器の組織から採取したサンプルの生検を行い、血管の炎症を確認します... さらに読む )、腫瘍や嚢腫など膨張するかたまりによって外部から圧迫されたりして、次第に動脈が狭められることもあります。
動脈が突然閉塞する場合
すでに狭くなっている動脈に血栓(血液のかたまり)が形成されると、動脈が突然かつ完全にふさがることがあります。このような突然の閉塞は、心臓や大動脈で形成された血栓が流れ出して他の部位で動脈を詰まらせることによっても起こります(この現象を塞栓といいます)。一部の病気では、血栓ができるリスクが上昇します。そのような病気としては、 心房細動 心房細動と心房粗動 心房細動と心房粗動は、非常に速い電気刺激が発生することにより、心房(心臓の上側にある部屋)が急速に収縮すると同時に、一部の電気刺激が心室まで到達することで、ときに心室の収縮も正常より速くかつ非効率になる病態です。 これらの病気は、しばしば心房を拡張させる病態によって引き起こされます。 症状は心室がどれくらい速く収縮するかに応じて、動悸、脱力感、めまい、ふらつき、息切れ、胸痛などがみられます。... さらに読む 、その他の心疾患、 凝固障害 血液凝固障害の概要 血液凝固障害は、血栓の形成を制御する身体機能の障害です。これらの機能障害は、以下を引き起こす可能性があります。 血液の凝固が不十分な場合は、 異常出血(出血)が生じる 血液の凝固が過剰な場合は、血栓(血栓症)が発生する 異常な出血とは、あざや出血が起こりやすい状態を意味します(... さらに読む などがあります。自己免疫疾患によって起こることのある 血管の炎症 血管炎の概要 血管炎疾患は、血管の炎症(血管炎)を原因とする病気です。 血管炎は、特定の感染症や薬によって引き起こされる場合もあれば、原因不明の場合もあります。 発熱や疲労などの全身症状がみられることがあり、その後、侵された臓器に応じて他の症状がみられます。 診断を確定するために、患部の臓器の組織から採取したサンプルの生検を行い、血管の炎症を確認します... さらに読む (血管炎)も、突然の動脈閉塞の原因になる可能性があります。
ときに、アテロームが血管内で破裂して血栓の形成を誘発し、動脈が突然閉塞することがあります。アテロームから脂肪のかたまりが剥がれ落ち、動脈を突然詰まらせることもあります。突然の閉塞は 大動脈解離 大動脈解離 大動脈解離は、しばしば死に至る病気で、大動脈の壁の内層(内膜)が破れて、壁の中間層から剥がれる病態です。 ほとんどの大動脈解離は、高血圧によって動脈の壁が劣化することが原因で発生します。 一般的には、耐えがたい激痛が突然胸部に起こりますが、背中の肩甲骨の間に痛みが生じることもあります。 診断を確定するには、通常はX線検査またはCT検査を行います。 通常は血圧を下げる薬を投与するとともに、外科手術を行って裂けた部分を修復するか、ステントグ... さらに読む が原因の場合もあります。大動脈解離では大動脈の内層が裂け、その裂け目に血液が勢いよく流れ込み、内層が中間層から解離します。解離が広がると、大動脈から枝分かれした動脈がふさがる場合があります。
症状
末梢閉塞性動脈疾患は、以下の要因に応じて異なる症状を示します。
どの動脈が閉塞しているか
どの程度閉塞しているか
徐々に狭くなったのか突然閉塞したのか
通常は、動脈の内腔の約70%がふさがれなければ症状は起こりません。急に閉塞する場合と比べて徐々に狭くなる方が症状は軽く、たとえ最終的に動脈が完全に閉塞したとしてもその傾向がみられます。徐々に狭まる場合に症状が軽いことがある理由は、近くにある動脈が拡張したり、新しい血管(側副血管)が発達したりする時間があるためです。その結果、患部組織への血液の供給は継続されます。一方、血管が急に閉塞すると側副血管が発達する時間がないため、通常、症状は重くなります。
脚や腕の動脈が突然完全に閉塞すると、重度の痛み、冷感、しびれが起こることがあります。脚や腕の皮膚が青白くなるチアノーゼが生じます。動脈が閉塞した部分から先では脈がとれなくなります。脚や腕への血流が突然、劇的に減少した場合は、緊急に治療する必要があります。脚や腕への血流が途絶えると、急速に感覚の消失や麻痺が起こります。血流の遮断が長引くと組織は壊死し、腕や脚を切断しなければならない場合もあります。
間欠性跛行(はこう)は末梢動脈疾患の最もよくみられる症状で、脚の動脈が徐々に狭くなるために起こります。脚の筋肉にうずくような痛み、けいれん、疲労感が起こりますが、関節の症状はありません。間欠性跛行は運動中に定期的に起こることが予測でき、休息すればすぐに軽減します。歩行中の筋肉の痛みは、患者が速く歩いたり坂を登ったりすると早く現れ、より悪化します。間欠性跛行の痛みは1~5分休息すると治まり(座る必要はありません)、また歩くことができますが、それまでに歩いた距離と同じくらいの距離を歩くと再び痛みが出ます。最もよく痛むのはふくらはぎですが、閉塞が起きた位置に応じて、太もも、股関節、殿部が痛むこともあります。非常にまれですが、足が痛むこともあります。
脚の動脈がさらに狭くなると、痛みを感じずに歩ける距離が短くなります。最終的に、病気が非常に重くなると、休んでいるときでさえも筋肉が痛み、特に横になると痛みます。この痛みは、通常は下腿や足の甲から始まり、耐えがたいほどひどい痛みで、脚を上げるとさらに悪化します。しばしば痛みのために眠れなくなります。痛みを和らげるためにベッドの横から足を垂らしたり、脚が垂れ下がるように腰掛けた状態で休む人もいます。
腕の動脈が大規模に閉塞することはまれですが、閉塞した場合は、腕を繰り返し動かすと筋肉の疲労、けいれん、痛みを感じます。
腕や脚は、血液供給量が軽度から中等度まで減少してもほとんど正常にみえます。足への血液供給量がひどく減少した場合は、足が冷たくなり、足の脈を検出するために特別な装置が必要になることがあります。足や脚の皮膚は、乾燥したり、うろこ状になったり、つやが出たり、ひび割れた状態になったりします。爪が正常に伸びなかったり、脚の毛が伸びないこともあります。動脈がさらに狭まると、なかなか治らない潰瘍ができることがあり、典型的には足の指やかかと、ときに下腿にも起こり、特にけがをした後によく発生します。また、感染症にかかりやすくなり、すぐに重篤化します。重症の末梢閉塞性動脈疾患では皮膚の傷が治るのに数週間から数カ月かかり、治らないこともあります。足に潰瘍が発生することもあります。通常、脚の筋肉が萎縮します。大きな閉塞は壊疽(えそ)を引き起こすことがあります。
跛行が予測可能で安定していた人でも、跛行が突然悪化することがあります。例えば、それまでは10ブロックは歩けていたのに、1ブロック歩いただけで突然ふくらはぎが痛くなることがあります。この変化は脚の動脈に新しく血栓ができたことを示唆します。このような場合は、直ちに医師の診察を受ける必要があります。
診断
身体診察および症状
血圧および血流量の測定
身体診察
末梢閉塞性動脈疾患の診断は、症状と身体診察の結果に基づいて下されます。医師は腕や脚の皮膚を調べ、色や温度を確認するほか、皮膚を静かに押してから手を離し、元の色に戻る速さを調べます。こうした観察により、十分な血液が循環しているかどうかを判断できます。血圧や血流量を直接測定する検査も行います。
血圧測定は、標準的な血圧測定カフと特別な電子聴診器を用いて行います。収縮期血圧を両腕と両脚で測定します。収縮期血圧は両腕と両脚で同じであるべきです。足首の血圧が腕の血圧と比べて一定の値より低い場合は(腕の血圧の90%未満)、脚への血流が不十分であり、末梢閉塞性動脈疾患と診断できます。腕の動脈の閉塞が疑われる場合は、両腕の収縮期血圧を測定して比べます。片方の腕の血圧が常に高いようであれば、血圧が低い方の腕の閉塞が示唆され、末梢閉塞性動脈疾患と診断されます。
脈拍の評価も血流を評価する上で有用です。医師や看護師は、まず左右のわきの下、肘、手首、脚の付け根、足首、足、膝の裏側の脈を調べます。動脈が詰まると、そこから先の脈は弱くなるか、まったく感じられなくなります。例えば、脚の動脈の閉塞が疑われる場合は、脚の特定の部位から下の脈をチェックします。腎動脈など脈拍を確認できない動脈に対しては、血流を画像化する検査を行います。狭くなった動脈を血流が通過するときに生じる異常な雑音(血管雑音)を、聴診器で聞くことができます。
組織内酸素の測定
経皮的酸素分圧測定は、皮膚の下の組織の酸素レベルを測定します。酸素は血液によって組織に運ばれることから、この検査は血流量を間接的に測定します。この検査は痛むことはなく、患部の脚や腕の皮膚と胸の上部にセンサーをあてて行われます。センサーの電極が皮膚の下の領域を温めることで血管が一時的に拡張するため、センサーで酸素レベルを簡単に測定できます。
画像検査
ドプラ超音波検査 心エコー検査とその他の超音波検査 を用いて、血流を直接測定し、末梢閉塞性動脈疾患の診断を確定することができます。この検査では、血管の狭窄部位や閉塞部位が正確に描出されます。運動中にしか現れない異常もあるため、ドプラ超音波検査による血流の測定を 運動負荷試験 負荷試験 心臓に(運動や心拍を速く強くする薬剤で)負荷をかけると、 冠動脈疾患を特定しやすくなります。冠動脈疾患では、心筋に血液を供給する冠動脈の血流が、部分的に、または完全に遮断されます。冠動脈の一部だけがふさがっている場合、安静時には心臓に十分な量の血液が供給されていても、心臓が激しく働いているときには供給が不足することがあります。したがって、運動中に心臓の検査を行うことで、冠動脈疾患の特定に役立ちます。... さらに読む
の実施中に行うこともあります。
通常、 血管造影検査 血管造影 血管造影検査は、X線を用いて血管の詳細な画像を描出する検査で、 CT血管造影検査や MRアンギオグラフィー検査と区別するために「従来の血管造影」と呼ばれることもあります。血管造影の撮影を行いながら、医師が血管の異常を治療することも可能です。血管造影は体に負担をかける検査法ですが、それでも比較的安全です。 血管造影では静止画像だけでなく動画(シネアンギオグラフィーといいます)も撮影でき、血液が血管内を流れる速さを測ることも可能です。(... さらに読む (柔軟な合成樹脂製の管[カテーテル]を太ももの上部にある太い動脈に挿入して行う、体に負担をかける検査)は、外科手術または血管形成術(動脈内で小さな風船[バルーン]を膨らませて、閉塞した部分を開通させる処置)が必要な場合にのみ行われます。この場合の目的は、手術や血管形成術を行う前に、異常のある動脈の鮮明な画像を撮影することです。まれに、外科手術や血管形成術が実施可能かどうかを判断するために血管造影検査が必要になることもあります。血管造影検査では、造影剤(X線画像に写る物質)をカテーテル(柔軟な合成樹脂製の管)から動脈に注入します。その造影剤により、動脈の内側の輪郭がX線画像上に映し出されます。その結果、血管造影検査では動脈の内径を正確に調べることができ、一部の閉塞はドプラ超音波検査よりも正確に検出されます。
最近では、ほとんどの病院で、CT血管造影検査や MRアンギオグラフィー検査 MRアンギオグラフィー検査(MRA) MRI(磁気共鳴画像)検査は、強力な磁場と非常に周波数の高い電磁波を用いて極めて詳細な画像を描き出す検査です。X線を使用しないため、通常はとても安全です。( 画像検査の概要も参照のこと。) 患者が横になった可動式の台が装置の中を移動し、筒状の撮影装置の中に収まります。装置の内部は狭くなっていて、強力な磁場が発生します。通常、体内の組織に含まれる陽子(原子の一部で正の電荷をもちます)は特定の配列をとっていませんが、MRI装置内で生じるよう... さらに読む など、体への負担が少ない方法で血管造影検査が行われています。これらの検査は、柔軟なカテーテルを主要な動脈まで挿入する必要がなく、腕の静脈に挿入した標準的なカテーテルから少量の造影剤を血流中に注入して行います。
末梢閉塞性動脈疾患に必要なその他の検査
動脈硬化がある患者の場合は、血液検査を行ってコレステロール値、血糖値、ときにホモシステイン値などを測定し、危険因子がないか調べます。血圧が一貫して高いかどうかを判定するために、何回か血圧を測定します。
自己免疫疾患による血管の炎症など、動脈の狭窄や閉塞の他の原因を突き止めるために血液検査を行うこともあります。このような検査では赤血球沈降速度(赤沈)や、炎症を起こしているときにだけ産生されるC反応性タンパク質を測定します。腕の動脈が閉塞している場合は、原因が動脈硬化か、 胸郭出口症候群 胸郭出口症候群(TOS) 胸郭出口症候群は、首と胸の間を通る神経、動脈、または太い静脈が圧迫されて起こる一群の病気を指します。神経が圧迫されると、手、首、肩、腕に痛みやチクチクする感覚(錯感覚)が起こります。動脈が圧迫されると、腕が青白く冷たくなります。静脈が圧迫されると、腕が腫れ、その上の皮膚が青みを帯びて見えることがあります。 神経と血管が、首から胸への狭い通路を抜けるところで、締めつけられます。... さらに読む か、動脈の炎症(動脈炎)かの判断を試みます。
脊柱管が狭くなる脊柱管狭窄症も運動中の痛みを引き起こす可能性があるため、MRI検査でその可能性を否定します。ただし、この場合の痛みは間欠性跛行とは異なり、休息するだけでなく座らないと軽快しません。
予防
末梢閉塞性動脈疾患の予防で最もよい方法は、 動脈硬化 危険因子 の 危険因子 アテローム性動脈硬化の危険因子 アテローム性動脈硬化とは、太い動脈や中型の動脈の壁の中に主に脂肪で構成されるまだら状の沈着物(アテロームあるいはアテローム性プラーク)が形成され、それにより血流が減少ないし遮断される病気です。 アテローム性動脈硬化は、動脈の壁が繰り返し損傷を受けることによって引き起こされます。... さらに読む
を改善するか、取り除くことです。以下の予防法があります。
高血圧 高血圧 高血圧とは、動脈内の圧力が恒常的に高くなった状態のことです。 高血圧の原因は不明のことも多いですが、腎臓の基礎疾患や内分泌疾患によって起こる場合もあります。 肥満、体を動かさない生活習慣、ストレス、喫煙、過度の飲酒、食事での過剰な塩分摂取などはすべて、遺伝的に高血圧になりやすい人の高血圧の発症に何らかの形で関与しています。... さらに読む
や コレステロール高値 脂質異常症 脂質異常症とは、 脂質(コレステロール、中性脂肪[トリグリセリド]、または両方)の濃度が高いか、高比重リポタンパク質(HDL)コレステロールの濃度が低い状態をいいます。 生活習慣、遺伝、病気(甲状腺ホルモン低値や腎疾患など)、薬、またはそれらの組合せが影響します。 動脈硬化をもたらし、狭心症、心臓発作、脳卒中、末梢動脈疾患の原因になります。 中性脂肪と各種コレステロールの血中濃度が測定されます。... さらに読む
があれば、それらの値を下げる
体重を減らす
定期的に運動する
糖尿病をうまくコントロールできれば、末梢閉塞性動脈疾患の発症を遅らせたり予防したりできるだけでなく、その他の 合併症 糖尿病の合併症 糖尿病では、体の様々な部位、特に血管、神経、眼、腎臓に重篤で長期に及ぶ多くの合併症がみられます。 ( 糖尿病も参照のこと。) 糖尿病には、以下の2つの種類があります。 1型糖尿病:体の免疫系が膵臓のインスリン産生細胞を攻撃し、90%を超える細胞が破壊されて回復不能になる 2型糖尿病:体がインスリンの効果に抵抗性を示す さらに読む のリスクを減らすこともできます。
治療
危険因子をコントロールする
運動
薬剤
血管形成術
閉塞を軽減またはバイパスする手術
組織が壊死した場合は腕や脚の切断
治療は以下の目的で行われます。
病気の進行を予防する
広範囲の動脈硬化による心臓発作、脳卒中、死亡のリスクを低下させる
腕や脚の切断を回避する
間欠性跛行などの症状を軽減して生活の質を改善する
治療法には、跛行を軽減する薬剤や血栓を溶かす薬剤(血栓溶解薬 血栓溶解薬 心筋は酸素を豊富に含んだ血液を絶えず必要とします。その血液を心臓に送る血管は、大動脈が心臓から出たところで枝分かれする 冠動脈です。この血管が狭くなる 冠動脈疾患では、血流が遮断されて、 胸痛(狭心症)や 急性冠症候群が発生します( 冠動脈疾患の概要も参照)。 急性冠症候群では、冠動脈が突然ふさがることで、心筋の一部への血液供給が大きく減少または遮断されます。組織への血液供給がなくなることを虚血といいます。血液供給が2~3分以上にわたっ... さらに読む )による治療、血管形成術、手術、運動療法、フットケアなどがあります。いずれの治療法を選択するかは、以下の要素によって決まります。
閉塞が突然生じたか、徐々に起きたか
症状の重症度
閉塞の程度
閉塞している場所
治療に関連するリスク(特に手術)
患者の全般的な健康状態
使用された特定の治療法が何であれ、総合的な予後(経過の見通し)を改善するためには、動脈硬化の危険因子(高血圧、糖尿病、喫煙、コレステロール高値など)を改善する必要があります。血管形成術および手術は、直面している問題を単に物理的に修正するだけの処置です。これらの治療法は、もともと病気を引き起こしていた過程をコントロールしたり正常な状態に戻したりするものではありません。
運動
間欠性跛行の痛みは、ほとんどの場合、定期的な運動や薬剤によって軽減することができます。運動は最も効果的な治療で、やる気があって処方された運動プログラムを毎日実行できる人に適しています。運動によって跛行が軽減する理由は正確には分かっていませんが、おそらくは運動によって筋肉の機能が改善する、血流が改善する、あるいは新しい血管(側副血管)の発達が促されると考えられています。跛行がある人は、可能であれば、1日30分以上の歩行を少なくとも1週間に3回行うべきです。これを習慣にすることで、たいていの人は楽に歩ける距離を延ばすことができます。歩行中に感じる不快感は危険なものではありません。不快感を覚えたら立ち止まり、不快感が消えるまで待ってから再び歩くようにします。歩ける距離を延ばすには、休息している時間を除いて30分以上は歩く必要があります。
通常は、訓練を受けた療法士の指導による リハビリテーションプログラム リハビリテーションの概要 リハビリテーションサービスは、外傷、脳卒中、感染症、腫瘍、手術、進行性の病気( 関節炎など)などによって正常に機能する能力を失った人に必要となります。 慢性的な閉塞性の肺疾患にかかっている人には、多くの場合、 呼吸リハビリテーションプログラム が適しています。重症の外傷や手術後などの理由で寝たきりの生活が長く続き、体力が落ちている人にもリ... さらに読む が最も効果的な運動です。跛行がある人は、リハビリテーションプログラムを始める前に、心筋に血液が十分に供給されていることを 運動負荷試験 負荷試験 心臓に(運動や心拍を速く強くする薬剤で)負荷をかけると、 冠動脈疾患を特定しやすくなります。冠動脈疾患では、心筋に血液を供給する冠動脈の血流が、部分的に、または完全に遮断されます。冠動脈の一部だけがふさがっている場合、安静時には心臓に十分な量の血液が供給されていても、心臓が激しく働いているときには供給が不足することがあります。したがって、運動中に心臓の検査を行うことで、冠動脈疾患の特定に役立ちます。... さらに読む で確認することが勧められます。
フットケア
適切なフットケアを行うことが重要です。フットケアにより、足の傷や潰瘍に感染が起きて痛みを伴うようになり、最終的に壊疽に至る過程を予防できます。十分なフットケアは、足の切断を回避する上でも役立ちます。セルフケアの対策として以下のものがあります。
毎日、足を観察して、ひび割れ、潰瘍、うおのめ、たこができていないかどうか注意深く調べる
毎日、ぬるま湯と刺激の少ない石けんで足を洗い、やさしく拭いて完全に乾かす
皮膚が乾燥しがちなら、ラノリンなどの潤滑剤を使用する
足の乾燥を保つため、非薬用パウダーを使用する
足の爪は水平に切り、短く切りすぎない(足の専門医に切ってもらう必要がある場合もあります。その場合は、足の専門医に末梢動脈疾患があることを伝える必要があります。)
うおのめやたこの治療は足の専門医にまかせる
うおのめやたこを取り除くために貼り薬や刺激性の化学薬品を使用しない
靴下やストッキングは毎日取り替え、靴はたびたび履き替える
ゆったりとしたウールの靴下を履き、足を暖かくしておく
きつい靴下止めやゴムがきついストッキングを履かない
足によく合い、つま先に余裕がある靴を履く
サンダルや裸足で歩かない
足が変形している場合は、足の専門医に特別な靴を処方してもらう
湯たんぽや電気あんかなどは使用しない
熱いお湯や化学物質の溶液に足を浸さない
足の潰瘍には細心のケアが求められます。そのケアの目的は、感染症を治療し、皮膚をさらなる損傷から保護し、歩行能力を維持することにあります。
足の潰瘍は清潔に保つ必要があります。刺激の少ない石けんか抗菌作用のある溶液を使って毎日足を洗い、清潔な乾いた包帯で覆っておく必要があります。血流を改善するために、脚を心臓より低い位置に保つべきです。糖尿病がある人は、血糖値をできるだけコントロールしなければなりません。原則として、足の血液循環の悪い人や糖尿病がある人は誰でも、7日ほど経っても潰瘍が治らない場合には医師の診察を受ける必要があります。しばしば抗菌薬入りの軟膏が処方されます。
足の潰瘍が治らない場合は、ベッドで安静にしている必要があります。その場合は足に床ずれができないように、ヒールパッド付きの包帯をするか、フォームラバーのブーツを履く必要があります。ベッドは頭の方を約15~20センチメートルほど高くし、脚を心臓の高さと同じか、それより低くして、重力の作用で脚の動脈に血液が流れるようにします。潰瘍に感染が起こった場合は、通常は経口抗菌薬が処方され、入院する必要があることもあります。
薬剤
末梢閉塞性動脈疾患を引き起こす病気(高血圧、糖尿病、コレステロール高値など)を治療する薬剤も投与されます。血栓を溶かしたり、新たな血栓の形成を予防したりするため、他の薬剤が投与されることもあります。最もよく使用される薬剤はアスピリンとクロピドグレルで、これらの薬剤は血栓が形成されるリスクを低下させます。
アスピリンやクロピドグレルは、血栓(血液のかたまり)の形成を防ぎ、心臓発作や脳卒中のリスクを減らすことから、通常はこれらの薬剤が投与されます。これらの薬剤は血小板に作用して、血管の壁に付着しないようにします。正常な状態では、血小板は血液に含まれて体内を循環しており、血管が傷つくと出血を止めるために凝集して血栓を作ります。
跛行の治療では、ペントキシフィリンやシロスタゾールなどの薬剤を服用します。これらの薬剤は血流量を増加させるため、筋肉への酸素供給量が増えます。どちらの薬剤も2~3カ月間服用しなければ有効かどうか判定できません。しかし最近ではペントキシフィリンの有効性に疑問がもたれるようになり、多くの専門家がこの薬剤を推奨しなくなっています。対照的に、シロスタゾールでは痛みを伴わずに歩ける距離が1.5~2倍に延びるという結果が出ています。この薬剤は心不全のある人には使えません。
ラミプリル(アンジオテンシン変換酵素阻害薬と呼ばれる種類の薬剤で、血管の拡張を促し、ときに血流を改善します)によっても、痛みを伴わずに歩ける距離が延長することが、研究によって示されています。
血管形成術
血管を広げる血管形成術は、血管造影検査の直後に行われることがあります。閉塞が突然起きた場合は、四肢の不可逆的な機能喪失や切断を回避するために、できるだけ早く血管形成術を行う必要があります。血管形成術は症状を軽減するために行われ、手術を延期したり回避したりすることが可能です。ときには、手術や血栓を除去する処置と併用することもあります。 血管形成術 では、先端に小さな風船(バルーン)の付いたカテーテルを動脈の狭窄部位に挿入し、バルーンを膨らませて閉塞を開通させます。広げた動脈をそのまま開いた状態にしておくため、ステント(網目状のワイヤーでできた筒)を動脈内に留置します。現在では、薬剤を徐々に放出するタイプのステント(薬剤溶出性ステント)もあり、閉塞の再発を予防する効果があります。
血管形成術は通常は外来で行われます。血管形成術による痛みはめったにありませんが、硬い台の上に寝ていなくてはならないため、いくぶん不快感はあるかもしれません。全身麻酔は行わずに弱い鎮静薬を使用します。
血管形成術がどの程度成功するかは、閉塞している部位と末梢動脈疾患の重症度によります。血管形成術を行った後はアスピリンやクロピドグレルなどを投与して、脚や腕の動脈で血栓が形成されるのを防ぎ、心臓発作や脳卒中を予防します。また、ドプラ超音波検査を定期的に行って動脈を通る血流を監視し、動脈が再び狭くなっていないかどうかを確認します。
動脈の狭窄部位が多すぎる場合、狭窄部位が長すぎる場合、動脈が広範囲にわたってひどく硬化している場合には、血管形成術を行っても効果はありません。血管形成術の後に、狭窄部位に血栓が形成された場合や、血栓の破片が流れ出して他の部位で詰まった場合(塞栓)、動脈解離(血液が動脈の内層にしみこんでたまり、内側に突き出て血流を遮断する)がみられる場合、またはひどい出血がみられる場合には、手術が必要です。
血管形成術の際にバルーンカテーテルの代わりに使用できる器具には、レーザー、機械的なカッター、超音波カテーテル、回転やすりなどがありますが、いずれもバルーンカテーテル以上の効果はないようです。
手術
他の治療では跛行が軽減しない場合は、血栓を取り除く手術かバイパス術を行います。通常、これらの手術は血流が大幅に減少している場合(すなわち、日常生活が困難な跛行がある場合、安静にしていても痛みがある場合、傷が治らない場合、壊疽が起きた場合)に、脚の切断を回避するために行われます。
血栓溶解薬が効果がない場合や危険すぎて使用できない場合には、手術を行って血栓を取り除きます(血栓内膜摘除術)。アテロームを取り除く手術(動脈内膜剥離術)やその他の閉塞を解除する手術を行うこともあります。
また、それらの代わりにバイパス術を行う場合もあります。バイパス術では、合成素材のチューブか他の部位の静脈の一部を、閉塞部位の前後の動脈につなぎ合わせます。これにより、血液は閉塞部位を迂回することになります。
また、狭窄または閉塞部位を切除して、その間をグラフトでつなぐ手術を行うこともあります。末梢閉塞性動脈疾患の患者は 冠動脈疾患 冠動脈疾患(CAD)の概要 冠動脈疾患とは、心臓の筋肉(心筋)への血液供給が部分的または完全に遮断されることで起きる病気です。 心筋は酸素を豊富に含んだ血液を絶えず必要とします。その血液を心臓に送る血管は、大動脈が心臓から出たところで枝分かれする 冠動脈です。この血管が狭くなる冠動脈疾患では、血流が遮断されて、... さらに読む も患っていることが多いため、通常は手術前に心臓の機能と心臓を通る血流の状態を調べて、手術の相対的な安全性を判定します。
まれに、脚の一部が壊死した場合や、その領域への血流を回復できるよい方法がない場合には、脚の切断が必要になります。脚の切断は、感染組織を取り除くため、長期間続く痛みを軽減するため、または壊疽の悪化を止めるために行われます。外科医はできるだけ切断部分を最小限にとどめます。義足を装用するには、膝の関節を残しておくことが特に重要です。 脚の切断 腕や脚の切断後のリハビリテーション 手術前に、外科医、義肢装具士、理学療法士は切断が必要な患者のリハビリテーションの計画と目標を話し合います。義肢装具士は、義手や義足の取り付けや組み立て、調整を行い、使い方の説明なども行います。リハビリテーションで行われる訓練は、切断前に開始する場合もあります。( リハビリテーションの概要および 義肢の概要も参照のこと。) 義手や義足は、堅牢なフレーム内のソケット(インターフェイス)、部品、カバーで構成されます。義手や義足はインターフェイ... さらに読む 後は、リハビリテーションが重要になります。
脚のバイパス術
バイパス術は狭窄や閉塞のある動脈を治療するために行います。この手術を行うことによって、血液は動脈の病変部、例えば太ももの大腿動脈の一部や膝の膝窩動脈の一部を迂回することになります。合成素材のチューブか他の部位の静脈の一部を、閉塞部位の前後の動脈につなぎ合わせます。 ![]() |
その他の治療
寒気に曝露すると、血管が狭くなり(収縮)、組織に送られる血液がさらに制限されるため、最小限にとどめるべきです。
血管を収縮させる薬剤の使用を避けることも重要です。該当する薬剤としては、エフェドリン、プソイドエフェドリン、フェニレフリンなどがあり、これらは副鼻腔の閉塞やかぜに対する一部の医薬品に成分として含まれています。
現在、血流が顕著に不足している人の脚に幹細胞を注入する研究が進められています。幹細胞により新たな血管の形成が促進され、切断の必要性が減る可能性があります。
さらなる情報
バスキュラー・キュア(Vascular Cures)