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前立腺がん

執筆者:

J. Ryan Mark

, MD, Sidney Kimmel Cancer Center at Thomas Jefferson University

最終査読/改訂年月 2018年 1月
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  • 前立腺がんのリスクは年齢とともに高くなります。

  • 排尿困難、頻尿や急な尿意、血尿などの症状は通常、がんが進行するまで現れません。

  • この種のがんは転移する可能性があり、最も転移しやすい部位は骨とリンパ節です。

  • スクリーニング検査には議論の余地がありますが、症状のない男性で前立腺がんの可能性をチェックするためには、手袋をはめた指で直腸内から前立腺を診察する直腸指診や血液検査(PSA)を行います。

  • がんが疑われる場合には、超音波検査や前立腺組織の生検を行います。

  • 治療では、積極的サーベイランス、前立腺の切除、放射線療法、がんの成長を遅くするための新規薬剤やホルモン剤投与などを行います。

前立腺がんは、米国では男性に発症するがんの中で数が最も多く、がんによる死亡の最も一般的な原因の1つです。毎年161,360例を超える症例が新たに診断され、26,730人が前立腺がんで死亡しています(2017年の推定値)。前立腺がん発症の確率は、年齢とともに増加し、以下の男性では高くなります。

  • 黒人またはヒスパニック系の男性

  • 近親者に前立腺がん患者がいる男性

  • 近親者に他のがん(乳がんや卵巣がんなど)の患者がいる男性

前立腺がんは通常、極めてゆっくりと増殖し、症状を引き起こすまでに数十年かかることもあります。特に前立腺がんは高齢の男性に生じるため、前立腺がんがある人はこの病気で死亡する人よりはるかに多くいます。前立腺がんがあっても、そのことに気づかないまま、別の原因で亡くなる男性も数多くいます。

前立腺がんは、まず前立腺の小さな領域で発生します。ほとんどの前立腺がんは増殖が非常に遅く、何の症状も引き起こしません。しかし、なかには増殖が速いがんや、前立腺以外の部位に転移するがんもあります。前立腺がんの原因は明らかになっていません。

症状

前立腺がんは進行期になるまで症状が現れません。尿が出にくくなる、排尿回数が増える、尿意が切迫するなど、前立腺肥大症によく似た症状が現れることがあります。ただし、これらの症状も、前立腺がんが大きくなって尿道を圧迫し、尿の流れが部分的に妨げられるようになるまで現れません。その後、血尿が出たり、突然尿が出なくなるといった症状が出ることもあります。

患者の中には、前立腺がんが転移した後に症状が現れる人もいます。がんの転移が最もよくみられる領域は骨で、典型的には骨盤、肋骨、脊椎です。骨のがんは痛みを伴うことが多く、容易に骨折するほど骨がもろくなります。脊椎の骨(椎骨)への転移では、脊髄に影響が及び、痛み、しびれ、筋力低下、尿失禁などがみられます。がんが転移すると貧血がよく起こります。

知っていますか?

  • 前立腺がんがあっても、その存在に気づかないまま、別の原因で亡くなる男性も数多くいます。

  • 一部の前立腺がんは増殖が非常に遅く、治療の必要はありません。一方、進行が速く、急速に増殖して広がる前立腺がんもあります。個々の前立腺がんが進行の速いがんかどうかは、医師でも常に判別できるわけではありません。

診断

  • 生検

  • ときに直腸指診、血液検査、またはこの両方によるスクリーニング

医師は、症状や直腸指診の結果やスクリーニングの血液検査の結果に基づいて、前立腺がんを疑います。スクリーニングの血液検査では、前立腺特異抗原(PSA)の濃度を測定します。PSAとは、前立腺の組織でのみ作られる物質です。

これらの検査によりがんの可能性が示唆された場合、通常は超音波検査を行います。前立腺がんがある男性に対する超音波検査でがんが見つかるかどうかは分かりませんが、超音波画像をガイドにして前立腺の生検を行います。

直腸指診やPSA検査の結果から前立腺がんの疑いがある場合は、前立腺から組織サンプルを採取して分析します(生検)。生検を行う際には、通常はまず、超音波を発生させる装置(プローブ)を直腸に挿入して前立腺の画像を確認します(経直腸的超音波検査)。この画像を見ながらプローブを介して針を挿入し、組織を数点採取します(経直腸的超音波ガイド下前立腺生検)。通常は、前立腺の左右両側から5~6点のサンプルを採取します。多くのサンプルを採取すれば、小さながんを発見できる可能性が高まります。この手順は数分程度で終わり、通常は局所麻酔で行われます。

悪性度の分類と病期診断が、がんの経過の見極めと最適な治療法の選択に役立ちます。

悪性度

前立腺がんの悪性度を表すために最もよく用いられる指標は、グリソンスコアによる分類です。生検で採取した組織を顕微鏡で検査した結果に基づき、細胞の形態的な異常の程度に応じてスコアが判定されます。このスコアシステムの最新版では、それぞれのがんに1~5点の悪性度スコアが割り当てられます。数値が大きい(悪性度が高い)ほど進行が速く、がんが広がる確率も高くなります。

病期診断

前立腺がんの病期は、次の3つの基準によって診断されます。

  • 前立腺内での広がりの範囲

  • 前立腺付近のリンパ節への転移の有無

  • 骨もしくは前立腺から離れた他の臓器への転移の有無

がんの診断が確定したら、病期を診断するための検査を行います。しかし、前立腺以外に転移している可能性が極めて低い場合は、この検査は必ずしも必要ではありません。悪性度を示すスコアが2点以下で、PSA値が10ng/mL未満であり、がんが前立腺の表面を越えていない場合は、転移している可能性は低くなります。直腸指診、超音波検査、生検の結果から、前立腺内でのがんの広がりの範囲が分かります。

転移の可能性が低くない場合には、通常は腹部や骨盤内のCT(コンピュータ断層撮影)検査またはMRI(磁気共鳴画像)検査が行われます。直腸内に特殊なコイルを挿入してMRI検査を行う場合もあります。骨に痛みがある人、PSA値またはグリソンスコアが極めて高い人では、骨シンチグラフィーを行う場合もあります。

脳や脊髄への転移が疑われる場合は、これらの臓器のCT検査かMRI検査を行います。

スクリーニング

前立腺がんは一般的な病気で、ときに死に至り、がんが進行するまで症状が出ないこともあるため、多くの医師は症状のない男性にスクリーニング検査を勧めます。スクリーニングには、進行の速いがんを早期で治療可能なうちに発見できる利点があります。しかし、スクリーニング検査はがんのない人でも陽性となる場合が多く、また進行が極めて遅い前立腺がんには治療が不要な場合もあることから、専門家の間でもスクリーニング検査が本当に有用なのか、有用ならばいつ行うべきかについては意見が分かれています。

スクリーニングは、50歳以上の人と危険因子(例、アフリカ系アメリカ人であること、前立腺がんの家族歴があること)をもつ40歳以上の人に対して検討されます。スクリーニングの効果は年齢とともに下がります。例えば、ある医療専門家団体は、75歳以上の人または10年以上の生存が期待できない人にスクリーニングを実施しないことを推奨しています。スクリーニングは、一度始めると通常は毎年行います。

前立腺がんのスクリーニングでは、直腸指診とPSA値を測定する血液検査を行います。前立腺が硬い、不規則に肥大している、またはしこりがある場合やPSA値が上昇している場合は、前立腺がんの可能性が高くなります。ただし、PSA値は誤った解釈を招くことがあります。前立腺がんがあってもPSA値が正常になる場合や、前立腺がん以外の原因でPSA値の上昇がみられる場合があります。PSA値は通常、年齢とともに上昇するほか、前立腺肥大症前立腺炎などの病気によっても上昇します。医師は、PSA値の上昇や前立腺のしこりががんの徴候かどうかを見極めるために、経直腸的前立腺生検を行います。スクリーニング検査でPSA値が上昇していた人の大部分は前立腺がんではないため、生検の結果は大半の場合に陰性です(しかし、検査は男性に不快感を与え、また感染症などの合併症のリスクもあります)。また、生検によって前立腺がんが判明しても、医師は治療が必要ながんを常に判別できるわけではありません。例えば、生検で判定されたグレードグループのスコアが高い場合や、がんが前立腺の広範囲に広がっている場合は、がんを原因とする症状が生じる可能性が高いため、治療を行うべきです。実際、このような治療で命が助かる場合もあります。一方、生検で判定されたグレードグループのスコアが低く、がんの広がりが前立腺のごく一部に限られている場合は、がんを原因とする症状が生じない可能性があり、治療は不要かもしれません。

そのため、検出されなくても健康を害したり死に至ったりする可能性の低いがんが、スクリーニング検査によって見つかることもあります。そのようながんを治療すると、副作用(勃起障害尿失禁など)が起きて、治療せずに放置した場合よりも大きな不利益を被るおそれがあります。見つかった前立腺がんが進行の速いがんであるかどうかは、早期には分からないこともあるため(例えば、グレードグループのスコアが低く、前立腺のごく一部でのみ認められるがん)、医師は一般に、生検でがんが示された男性全員に治療を推奨します。このため、そうした治療の恩恵を受ける患者よりも多くの男性が治療を受けることになります。その結果、多数の男性が有益でない治療を受けた上に、副作用のリスクにもさらされます。治療が有用でない可能性があるため、生検の結果が陽性であった男性の一部に対し、医師は定期的な健診と検査で様子を見ながら治療を先送りにする対応を提案する場合があります( 治療)。最善の結果が得られる行動方針は現在も明確ではなく、人によって価値観や優先事項が異なることから、スクリーニング、生検、治療それぞれのリスクとベネフィット(メリット)について主治医と話し合うべきです。例えば、治療によって相当の確率でもたらされる副作用のリスクより、前立腺がんによって死亡する非常に小さなリスクの方が自分にとっては重要と考える人は、スクリーニングを選択するでしょう。一方、絶対に治療が必要になるまでは治療の副作用というリスクを冒したくないと考える人は、スクリーニングを受けないことを選ぶでしょう。

予後(経過の見通し)

前立腺がんのある人の大半では、予後は非常に良好です。前立腺がんのある高齢者のほとんどは、同じ年齢で同様の健康状態にある前立腺がんのない人と比べて、同じくらい長く生きる傾向があります。多くの人では、長期間の寛解や治癒も期待できます。予後はがんの悪性度と病期によって異なります。悪性度の高いがんは、できるだけ早期に治療しなければ、予後も悪くなります。周囲の組織に広がっているがんも、予後は不良です。転移した前立腺がんを完全に治す方法はありません。転移性前立腺がん患者の大部分の生存期間は診断後1~3年ですが、長期間生存する人もいます。

治療

  • 手術

  • 放射線療法

  • ホルモン療法

治療法を複数の選択肢の中から選ぶのは難しいものです。1つの治療法を他のものと直接比較する試験が行われていないため、どの治療法が最も効果的かは医師にも明確ではありません。さらに、治療によって生存期間が延びるかどうかは、医師にもはっきりしない場合があります。そのような状況としては、あまり余命が期待できない場合(高齢や深刻な健康問題のため)や、PSA値が低く、悪性度の低いがんが前立腺内にとどまっている場合などがあります。そのため多くの患者は、常に害をもたらすとは限らないがんとともに生きていく上での不快感と起こりうる治療の副作用とのバランスに基づいて、決定を下すことになります。手術、放射線療法、ホルモン療法は、尿失禁や勃起障害(インポテンス)などの問題を引き起こすことがあります。こうした理由から、前立腺がんの治療法を選択する際には、他の多くの病気と比べて、患者の希望が大きく考慮されます。

前立腺がんの治療では、がんの進行の速さと広がりの程度に応じた以下の3つの方針から、いずれかを選択するのが通常です。

  • 積極的サーベイランス

  • 根治的治療

  • 緩和療法

積極的サーベイランス(以前は「慎重な経過観察」)は、がんが進行したり変化したりしない限り治療を行わないということです。この方針の利点は、治療の副作用を避けたり先送りしたりできることです。積極的サーベイランスは、主にがんの転移や症状が起こりにくい高齢者に対して行われます。例えば、前立腺内の狭い範囲にとどまっていて、グレードグループのスコアが低いがんの多くは、増殖が非常に遅く、通常は何年間も転移を起こしません。そのため高齢者は、さらに別の深刻な健康問題がある場合は特に、これらのがんによって死亡したり症状が起きたりする前に別の原因で死亡する可能性がはるかに高くなります。比較的若い人では、特に健康な場合、たとえ増殖の遅いがんでも、やがて症状が現れる可能性があります。このような男性では、積極的サーベイランスはあまり好ましくありません。積極的サーベイランスの期間中、医師は定期的に症状に関する問診、PSA値の測定、直腸指診を行い、がんが症状を引き起こしているかどうかや、急速な増殖や転移がみられるかどうかを判定します。若い人に対しては、定期的に生検を実施する場合もあります。検査で増殖や転移が示された場合、根治的治療や緩和療法が勧められます。

根治的治療は、すべてのがんの除去または死滅を目指すもので、以下の治療が行われます。

  • 手術

  • 放射線療法

  • 頻度は低いものの、凍結療法(組織を凍らせる療法)、高密度焦点式超音波療法

根治的治療(根治療法)は、がんが前立腺内にとどまっているものの、深刻な症状を引き起こしたり、死を招いたりする可能性が高い場合によく選択される治療方針です。そのような状況としては、がんが急速に増殖している場合や、がんは小さくて増殖は遅いものの、患者が一定以上の期間(少なくとも10~15年)生存する可能性が高い場合などがあります。そのような患者は、一般的に健康な男性や年齢が比較的低い(特に60歳以下)男性です。根治的治療は、がんが広範囲に転移している場合には行われませんが、がんの広がりが前立腺のすぐ外側までにとどまっている状況では、有益となる可能性があります。このようながんは、比較的短期間のうちに症状を引き起こす可能性があります。しかし、根治的治療の成功の可能性が最も高いのは、がんがまだ前立腺付近の限られた範囲にとどまっている場合です。根治的治療は患者の生存期間を延ばし、がんに起因する症状を和らげたり、解消したりすることができます。最近の治療法では副作用が少なくなりましたが、それでも起こる可能性があり、生活の質が低下するおそれがあります。副作用としては、勃起障害のほか、頻度は低いものの尿失禁(ほとんどは手術が原因)、排便時の痛みや出血、排尿時の刺激や出血(放射線療法が原因)などがあります。

緩和療法は、がんそのものの治癒よりも、症状を和らげることを目標とします。緩和療法には以下のものが含まれます。

  • ホルモン療法

  • 化学療法

  • 放射線療法

緩和療法は、前立腺がんが広範囲に転移し、治癒が望めない患者に最も適しています。がんの増殖や転移の速度を遅くしたり、一時的に進行を抑えることで症状の緩和を図ります。がんの増殖と転移を遅くするだけでなく、別の臓器や組織(骨など)のがんの影響からくる症状の緩和も試みます。しかし、このような治療法ではがんの根治は望めないため、いずれは症状が悪化します。最終的にはがんが原因で死に至ります。

手術

前立腺内にとどまっているがんには、前立腺を除去する前立腺摘除術が有用です。前立腺摘除術は通常、病期診断検査でがんの転移が認められた場合には行いません。前立腺摘除術は、悪性度が低い増殖の遅いがんの治療には極めて効果的ですが、悪性度が高い増殖の速いがんにはそれほど高い効果は発揮しません。そのような悪性度の高いがんは、診断時の病期診断検査で転移が検出されなくても、高い確率ですでに転移しています。

前立腺摘除術は全身麻酔または脊髄くも膜下麻酔による開腹手術で行われ、1晩入院する必要があります。手術後は、膀胱と尿道の接合部が治癒するまでの1~2週間にわたり、陰茎にカテーテルを挿入しておきます。手術の前後に放射線療法、化学療法、ホルモン療法を画一的に行うことはありませんが、特定の患者でこれらの治療法が有益になるかどうかを調べるための研究が現在進められています。

前立腺摘除術によって、永久的な勃起障害尿失禁が引き起こされる場合があります。勃起障害は、前立腺を横切って陰茎につながり勃起を制御している神経が、手術時に損傷されることで起こります。尿失禁は、膀胱の底の開口部を閉める括約筋の一部を手術時に切除しなければならないために起こります。

前立腺摘除術の術式には、開腹前立腺全摘除術、腹腔鏡下前立腺全摘除術、ロボット支援下前立腺全摘除術があります。

開腹前立腺全摘除術では、下腹部や、まれに陰嚢と肛門の間の部分を切開し、前立腺全体、精嚢および精管(輸精管)の一部を切除します。リンパ節も切除し、がんをチェックすることがあります。腹腔鏡下前立腺全摘除術とロボット支援下前立腺全摘除術は、いずれも同じ部位を切除しますが、これらの方法では切開部がより小さく、術後の痛みや失血もわずかで済みます。

前立腺全摘除術は、術式にかかわらず、前立腺がんの治癒を目的に行われる手術です。がんが前立腺内にとどまっている場合、前立腺全摘除術を受けた患者の90%以上が10年以上生存します。治療時点で期待される余命が10~15年以上の若い人では、前立腺全摘除術が有益となる可能性が最も高くなります。しかし、前立腺全摘除術により最大10%の男性で尿漏れが発生します。術後の一時的な尿失禁は大半の患者にみられ、数カ月間続きます。年齢が若いと、尿失禁が起こりにくくなります。

前立腺全摘除術の後には、ほとんどの患者にある程度の勃起障害が生じ、特に術前から勃起に困難を感じていた人では可能性が高くなります。通常は、勃起に必要な神経を傷つけないように行う神経温存前立腺全摘除術を行うことができます。前立腺の神経や血管ががんに侵されている場合には、この手術は適用できません。この方法では、神経の温存を試みない通常の前立腺全摘除術と比べて、勃起障害を引き起こす確率が低くなります。大部分の患者は早期に診断されるため、神経温存前立腺全摘除術による治療が可能です。

7~20%の患者では、膀胱の一部の狭窄や尿道の瘢痕化(尿道狭窄)により、尿の流れが阻害されます。この阻害は通常、簡単に治療することができます( 尿路閉塞: 治療)。

放射線療法

放射線療法は、前立腺内のがんだけでなく、前立腺周辺の組織に広がっているがんも治療できます。放射線療法は離れた臓器に転移したがんを根治させることはできませんが、骨に転移した前立腺がんによる痛みを和らげることができます。

放射線療法は、術後の前立腺周囲の治療に用いられるほか、術後にPSAが血中で検出され、手術でがんを完全に除去できていないことが示された場合にも行われることがあります。

様々な病期の前立腺がんの患者に放射線療法を行った場合の10年生存率は、手術を行った場合とほぼ同程度です。前立腺内にとどまっているがんの場合、放射線療法を受けた患者の90%以上が10年以上生存します。放射線療法には以下の方法があります。

  • 外照射療法(前立腺内のがんと骨に転移した前立腺がんの治療に使用される)

  • 小線源療法(前立腺内のがんの治療に使用されるが、骨に転移した前立腺がんには使用されない)

  • 静脈内投与薬のラジウム233(骨に転移した前立腺がんの治療に使用されるが、前立腺内のがんには使用されない)

外照射療法では、前立腺と周囲の組織に放射線を照射する装置を使用します。がんに侵されている構造を特定して、がんに対してより正確に放射線を照射するために、しばしばCT検査が用いられます。この方法は3次元原体照射法と呼ばれます。週5日の治療を7~8週間続けます。放射線療法後に患者の最大40%である程度の勃起障害が起こりますが、放射線療法直後の発生率は、前立腺摘除術の直後よりも低いことが分かっています。しかし数カ月後または数年後でみると、勃起障害が起こる可能性は、放射線療法後と前立腺摘除術後とで同程度になるようです。3次元原体照射法を用いた場合、尿失禁はまれにしか起こりません。強度変調放射線療法(IMRT)と体幹部定位放射線治療(SBRT)は、標準の放射線療法を改良したものです。ときに、進行が速いがんには、放射線療法に加えてホルモン療法が最長2~3年間にわたって行われることもあります。

約7%の患者では、瘢痕組織によって尿道が狭くなり尿の流れが妨げられる異常(尿道狭窄)が発生します。このほかにも、外照射療法で起きる煩わしいが通常は一時的な副作用として、排尿時の灼熱感、頻尿、血尿、下痢(ときに血が混じる)、放射線直腸炎(通常は直腸の炎症と下痢が生じる)、突然起こる切迫した便意などがあります。

別の種類の外照射療法として陽子線治療がありますが、これは特殊な放射線を使用することによって、より精密にがん細胞に放射線を照射し、健康な細胞には放射線が当たらないようにするものです。陽子線治療は他のがんに対して有益であることが示されていますが、標準的な外照射療法と比べて前立腺がんにおける副作用が少ないかどうかは明らかにされていません。

前立腺内に小線源を埋め込む治療法があります(密封小線源治療)。埋め込まれる小線源は小さく、種のような形の放射性物質です。超音波検査やCT検査をガイドとして用いながら、陰嚢と肛門の間から前立腺に小線源を注入します。密封小線源治療は2時間未満で完了し、何度も通院治療をする必要がなく、脊髄くも膜下麻酔で行うことができます。密封小線源治療は、正常な周辺組織を温存しながら高用量の放射線を前立腺に照射でき、副作用も少なくて済みます。しかし、密封小線源治療では尿道狭窄の発生率が10%に達しています。小線源から出る放射線は時間とともに減少していきます。小線源はその後、尿中に排出される場合もあります。これらの小線源による治療を受けている男性は、放射性物質が胎児または乳幼児に有害な影響を及ぼす可能性があるため、実施後は一定期間にわたり、妊婦や乳幼児との緊密な接触を避けなければなりません。密封小線源治療による10~15年後の治癒率は、その他の治療法による治癒率と同等です。より進行の速いがんに対しては、密封小線源治療と外照射療法の併用が推奨される場合もあります。一部の医療機関では、密封小線源治療用の一時的なインプラント(一晩の入院が必要です)が使用できます。

ラジウム233は、静脈内に投与される薬で、特定の種類の放射線(アルファ線)を放射します。外照射療法や密封小線源治療とは異なり、特定の目標を標的とはしません。ラジウム233は、前立腺内の前立腺がんの治療ではなく、骨に転移した前立腺がんの治療に使用されます。血流に入ったラジウム233は、前立腺がんによって影響を受けている骨の領域に到達し、がん細胞の破壊を補助します。ラジウム233は骨組織を標的とし、また外照射療法や密封小線源治療と違って放射線が散乱しないため、近隣の組織に放射線による損傷を与えにくい薬です。

高密度焦点式超音波療法(HIFU)では、直腸内に置いたプローブという機器から高エネルギーの超音波を照射することによって、前立腺の組織を破壊します。この治療法は、欧州とカナダでは長年にわたり用いられてきましたが、米国では最近になって利用可能になりました。前立腺がんの管理におけるこの技術の役割は、まだ検討の段階にあり、現時点では、放射線による治療後に再発した前立腺がんに使用するのが最適と考えられています。

ホルモン療法

前立腺がんの増殖や転移には テストステロンが必要なので、このホルモンの作用を妨げる治療(ホルモン療法)で、がんの進行を遅らせることができます。一般にホルモン療法は、手術や放射線療法の後に再発したがんの転移を遅らせたり、広範囲に転移した前立腺がんを治療したりするために行われます。他の治療法と併用されることもあります。この治療法ではがんは治癒しません。ホルモン療法はがんの症状を改善するだけでなく、患者の生存期間を延ばす可能性もあります。ただし、ホルモン療法はやがてその効果を失い、その後はがんが進行します。

米国で前立腺がんの治療に用いられるホルモン療法薬にはリュープロレリン、ゴセレリン、トリプトレリン(triptorelin)、ブセレリン、ヒストレリン(histrelin)、デガレリクスがあり、いずれも下垂体が精巣を刺激して テストステロンを分泌させる働きを抑えます。これらの薬は、1カ月、3カ月、4カ月または12カ月に1度の頻度で通院して注射し、通常は生涯にわたって注射を続けます。なかにはこの治療を1~2年だけ行い、しばらく経ってから再開する人もいます。

テストステロンの作用を阻害する薬(フルタミド、ビカルタミド、ニルタミド[nilutamide]など)も用いられます。これらの薬は毎日内服して使用します。

ホルモン療法の副作用には、ほてり(ホットフラッシュ)や骨粗しょう症、気力の低下、筋肉量の減少、むくみによる体重増加、性的欲求の低下、体毛の減少、勃起障害乳房の肥大(女性化乳房)などがあります。

古くからあるホルモン療法の形は、左右両方の精巣を摘出する手術(両側精巣摘除術)です。両側精巣摘除術が テストステロン値に及ぼす影響は、リュープロレリン、ゴセレリン、ブセレリン、関連薬剤による効果と同程度です。両側精巣摘除術やその他のホルモン療法による肉体的、精神的影響は、人によっては受け入れがたいものです。

症状を最小限に抑えるため、ホルモン療法を受けている男性には、適度に運動をすること、ビタミンDとカルシウムのサプリメントを服用すること、喫煙をやめること(禁煙)、過度の飲酒を控えることが推奨されます。

前立腺がんが広範に転移している場合、ホルモン療法は数年後に効果がなくなる可能性があります。ホルモン療法を続けていてもがんが進行する患者は、ほんの数年で死に至る場合があります。

その他の薬

ホルモン療法により テストステロン値が良好に低下したにもかかわらず効き目が現れないがんは、去勢抵抗性前立腺がんと呼ばれます。化学療法薬のドセタキセルは、ホルモン療法にがんが反応しない場合に延命効果があります。

近年、延命効果のある多くの治療法が新たに利用できるようになり、より早い段階から去勢抵抗性前立腺がんの治療に用いられつつあります。そのような治療としては、シプロイセルT(sipuleucel-T、前立腺がんの細胞を標的とするワクチン)、アビラテロンおよびエンザルタミド(経口ホルモン療法の一種)、カバジタキセル(化学療法薬)などがあります。ラジウム233は、骨転移による重篤な合併症(脊髄損傷など)を治療または予防することで延命効果をもたらします。

骨粗しょう症治療薬のゾレドロン酸やデノスマブなどは、がんやホルモン療法(骨を脆弱化する傾向がある)により弱くなった骨を強くするために用いることができます。これらの薬は、痛みや骨折しやすくなるなどの問題の治療と予防に役に立ちます。

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一般的な前立腺がん治療の方法と戦略

がんの特徴

治療戦略

治療方法

がんが前立腺にのみ存在し、患者の推定余命が長い

根治的治療(がんを完全に取り除く)

手術または放射線療法

増殖の遅い小さながんが前立腺にのみ存在し、患者の推定余命が短い

積極的サーベイランス(患者の状態をモニタリングして、がんの症状や変化を観察し、必要な場合のみ治療する)

治療を行わない

大きいがんまたは増殖の速いがんが前立腺にのみ存在する

根治的治療

手術または放射線療法

がんが前立腺の外部に広がっているが、離れた部位には転移していない

根治的治療

放射線療法

がんが広範囲に広がっている

緩和療法(進行を遅らせて症状を軽減することを目標とし、延命の可能性はあるが、がんを治癒させることはない)

ホルモン療法

ホルモン療法に反応しなくなったがん(去勢抵抗性前立腺がん)

緩和療法

化学療法、新しいホルモン療法、シプロイセルT(sipuleucel-T)、ラジウム233

フォローアップ

どの方法であれ治療後は、定期的にPSA値の測定を繰り返します(最初の1年は3~4カ月毎、その後生涯にわたり6カ月毎)。手術を受けた場合は、1カ月後までにPSAが検出されなくなります。放射線療法を受けた場合は、PSA値はよりゆっくり低下し、通常は検出不能なレベルまでは下がらないものの、低いレベルで安定します。PSA値が上昇した場合は、がんが再発した可能性があります。

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