原発性硬化性胆管炎

執筆者:Christina C. Lindenmeyer, MD, Cleveland Clinic
レビュー/改訂 2021年 9月
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やさしくわかる病気事典

原発性硬化性胆管炎では肝臓内外の胆管に炎症が生じ、瘢痕化や胆管の狭窄が進行します。最終的には影響を受けた胆管が完全に詰まります。肝硬変、肝不全、またときには胆管がんが発生します。

  • 症状は徐々に現れ、疲労やかゆみの悪化がみられるほか、後に黄疸が生じます。

  • 画像検査で診断を確定します。

  • 治療では、症状の緩和に重点が置かれますが、肝移植によって余命を延長することも可能です。

胆汁は、肝臓で作られ消化を助ける液体です。胆汁は、胆汁を送り出すための細い管(胆管)を通って、最初に肝臓内を、続いて肝臓から胆嚢へ、そこからさらに小腸へと送られます。(胆嚢と胆管の病気の概要も参照のこと。)

原発性硬化性胆管炎では、胆管が炎症を起こし、これにより胆管や肝臓の組織の瘢痕化が進行していき、最終的に重症(肝硬変)になります。瘢痕組織は胆管を狭め、ふさいでしまいます。その結果、脂肪の吸収を促す胆汁酸塩が正常に分泌されなくなります。この病気は原発性胆汁性胆管炎に似ていますが、肝臓内だけでなく、肝臓外の胆管にも影響が及ぶ点で異なっています。原因ははっきりしていませんが、自己免疫(免疫系が自分自身の組織を攻撃する反応)が関与していると考えられています。

原発性硬化性胆管炎は若い男性に多くみられ、診断時の平均年齢は40歳です。また炎症性腸疾患、特に潰瘍性大腸炎の患者によくみられます。家族内で起こる傾向があり、遺伝子が関与している可能性が示唆されています。この病気にかかりやすい遺伝子をもつ人では、胆管の感染または損傷が発症の引き金となることがあります。

原発性硬化性胆管炎の症状

症状は通常、悪化する疲労とかゆみとして徐々に始まります。その後、黄疸(皮膚や白眼の部分が黄色くなる症状)が生じます。

胆管の炎症や繰り返す感染(細菌性胆管炎)が起こることもあります。細菌性胆管炎は上腹部の痛み、黄疸、発熱を引き起こします。

胆汁酸塩が正常に分泌されないと、脂肪と脂溶性ビタミン(A、D、E、K)の吸収が不十分になります。胆汁分泌に障害が起きると骨粗しょう症になり、あざや出血が生じやすくなり、脂っぽく悪臭のある便(脂肪便)が出るようになります。原発性硬化性胆管炎患者の約4分の3に、胆石や胆管結石が生じます。肝臓や脾臓の腫大もみられることがあります。

病気が進行すると、肝硬変の症状が現れます。進行した肝硬変は以下の症状を引き起こします。

病気が進行して肝硬変が生じるまで症状が現れない人もいます。長ければ10年間、症状がみられないことがあります。

原発性硬化性胆管炎を発症すると、10~15%の人に胆管のがん(胆管がん)が発生します。

この病気は通常、徐々に悪化します。典型的には、平均で診断から12年ほどで肝不全が起こります。

原発性硬化性胆管炎の診断

  • 肝臓の血液検査

  • 超音波検査に続いて、その他の画像検査

定期健診での診察や別の理由で行われた肝臓の検査の結果、異常が見つかり、この病気が疑われることがあります。まず超音波検査を行い、肝臓外の胆管に閉塞があるかどうかを確認します。以下の検査を行って診断を確定します。

  • 磁気共鳴胆道膵管造影(MRCP)検査:MRIで胆管と膵管の画像を撮影します。この検査は、原発性硬化性胆管炎の診断を確定し、胆管閉塞の他の原因を除外するために有用です。

  • 内視鏡的逆行性胆道膵管造影(ERCP)検査:内視鏡を介して胆管内に造影剤(X線画像に写る物質)を注入してから、X線撮影を行います(図「内視鏡的逆行性胆道膵管造影検査について」を参照)。ERCPは体への負担が大きく、また造影剤を注入する必要があるため、MRCPの方がより望ましい方法といえます。しかし、ERCPは合併症の治療に用いることもできます。

胆管や肝臓の組織のがんがないか調べるため、血液検査とMRCPが定期的に行われることもあります。

原発性硬化性胆管炎と診断された場合は、炎症性腸疾患を合併していないか調べるために、生検を伴う大腸内視鏡検査も行う必要があります(内視鏡検査を参照)。

原発性硬化性胆管炎の治療

  • 症状を改善する治療と合併症の治療

  • ときに肝移植

症状がなければ、治療は必要ありません。しかし、少なくとも年2回は身体診察と血液検査を受けて、病気の進行をモニタリングする必要があります。

ウルソデオキシコール酸とコレスチラミンという薬が、かゆみの軽減に役立ちます。繰り返す細菌性胆管炎は抗菌薬で治療します。閉塞した胆管を広げる(拡張する)ために、必要に応じて、ERCPを行います。場合により、胆管を広げておくためのチューブ(ステント)を一時的に挿入することもあります。

肝移植は、余命を伸ばすことができ、治癒が得られる可能性がある唯一の治療法です。肝硬変や関連する重篤な合併症が発生している患者、細菌性胆管炎が再発した患者、胆管がんや肝臓がんがある患者には、肝移植が必要になることがあります。

胆管がんが生じており、それを切除する手術ができない場合は、がんによってふさがれている胆管内に内視鏡を介してステントを設置します。このステントによって、胆管が開かれ、黄疸が改善し、繰り返し感染症が起こることを予防できます。胆管がんが肝臓の底部(肝臓外の胆管と肝臓内の胆管が合流する部分)に限局している場合、肝移植が治癒を期待できる選択肢となることがあります。

さらなる情報

役立つ可能性がある英語の資料を以下に示します。こちらの情報源の内容について、MSDマニュアルでは責任を負いませんのでご了承ください。

  1. 国際機能性消化管疾患財団(IFFGD)(International Foundation for Functional Gastrointestinal Disorders[IFFGD]):消化器疾患の患者が自身の健康を管理していく上で役立つ信頼できる情報源。

  2. 米国国立糖尿病・消化器・腎疾患研究所(NIDDK)(National Institute of Diabetes and Digestive and Kidney Diseases[NIDDK]):消化器系の仕組みに関する包括的な情報と、研究や治療選択肢など関連するトピックへのリンク。

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