急性腹痛

執筆者:Jonathan Gotfried, MD, Lewis Katz School of Medicine at Temple University
レビュー/改訂 2022年 1月
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腹痛はよく起こりますが、多くの場合軽度です。しかし、強い腹痛が急に起きた場合は、ほとんどが重大な問題であることを示しています。このような腹痛は、手術が必要であることを示す唯一の徴候であるかもしれず、速やかに診察を受ける必要があります。高齢者やHIV感染者、免疫抑制薬(コルチコステロイドなど)を使用している人では、同じ病気の若い成人や健康な成人よりも腹痛が弱いことがあり、病状が重篤な場合でも腹痛がよりゆっくり発症することがあります。幼い子ども、特に新生児や乳児は、腹痛が起きても、経験している苦痛の理由を伝えることができない場合があります。

腹痛の種類

腹痛には、関与している部分に応じて様々な種類があります。

内臓痛は、腹腔内の臓器(内臓と呼ばれる)から発生します。内臓の神経は、切れたり裂けたりすることや、炎症には反応しません。その代わり、臓器が伸びていること(腸がガスで膨れた場合など)や周囲の筋肉の収縮に反応します。内臓痛は一般に漠然とした鈍痛で、吐き気をもたらします。痛みの発生源を特定することが困難な場合があります。上腹部の痛みは、胃、十二指腸、肝臓、膵臓(すいぞう)などの臓器の病気が原因で生じます。中腹部(へその近く)の痛みは、小腸、結腸の上部、虫垂などの病気が原因で生じます。下腹部の痛みは、結腸の下部や泌尿生殖器の病気が原因で生じます。

体性痛は、腹腔の内側を覆う膜(腹膜)から発生します。腹膜の神経は、内臓の神経と異なり、切れたことや刺激(血液、感染、化学物質、炎症などによるもの)に反応します。体性痛は、鋭い痛みで、非常に容易に場所を特定できます。

関連痛は、発生源から離れた場所で感じる痛みです( see figure 関連痛とは)。例えば、胆嚢疾患のある人は肩甲骨に痛みを感じることがあります。痛みの発生源は腹部にある胆嚢ですが、その痛みは肩に感じられます。

関連痛とは

体のある場所で感じられた痛みは、必ずしもその場所に問題があることを意味しません。痛みは、本来の場所とは別の場所で感じられることがあるからです。例えば心臓発作による痛みであっても、腕に痛みがあるように感じられることがあります。これは心臓からの感覚情報と腕からの感覚情報が、脊髄の同じ神経経路に集まるためです。

腹膜炎

腹膜炎とは腹腔の炎症です。強い痛みを伴い、ほとんどの場合、非常に重篤な病気または生命を脅かす病気の徴候です。腹部に問題があり、臓器が炎症や感染を起こして腹膜炎になることがあります。よくみられる例として、虫垂炎憩室炎(けいしつえん)、膵炎(すいえん)などがあります。また、血液や体液(腸管の内容物や尿など)が腹腔に漏れ出すと強い刺激を生じ、腹膜炎を引き起こす可能性があります。血液や体液が漏れ出す病気には、臓器の自然な破裂(例えば腸穿孔[ちょうせんこう]や異所性妊娠の破裂)や重度の腹部損傷などがあります。腹腔内に液体がたまっている人では(このような液体を腹水といいます)、感染症が起きるリスクがあります。そのような感染症は特発性細菌性腹膜炎と呼ばれています。

腹膜炎が数時間に及ぶと、腹腔へ体液が漏れ出します。そうなると、患者は脱水を起こし、ショック状態に陥ることがあります。炎症性物質が血液中に放出されることで、様々な臓器が影響を受け、重度の肺炎、腎不全、肝不全などの問題を引き起こすことがあります。治療が成功しなければ、死亡する場合もあります。

急性腹痛の原因

腹痛の原因には、感染症、炎症、潰瘍、臓器の穿孔や破裂、閉塞によって筋収縮の協調が阻害されたり阻止されたりした場合や臓器への血流の遮断など、多くのものがあります。

直ちに生命を脅かす病気は、迅速に診断して手術する必要があり、例として以下のものが挙げられます。

重篤な病気は、以下のような緊急事態に近いものです。

ときには腹部以外の病気により腹痛が起こることがあります。例えば、心臓発作、肺炎、精巣のねじれ(精巣捻転[せいそうねんてん])などがこれに該当します。頻度は低いものの腹痛を引き起こす腹部以外の問題としては、糖尿病性ケトアシドーシス、ポルフィリン症、鎌状赤血球症、特定の咬傷や毒物(クロゴケグモによる咬み傷、重金属やメタノールによる中毒、一部のサソリによる刺し傷など)があります。

新生児、乳児、幼児における腹痛には、成人ではみられない原因が数多く存在します(表「新生児、乳児、幼児の腹痛」も参照)。

急性腹痛の評価

以下では、どのようなときに医師の診察を受ける必要があるかと、診察を受けた場合に何が行われるかについて説明しています。

警戒すべき徴候

急性の腹痛がみられる場合は、特定の症状や特徴に注意が必要です。具体的には以下のものがあります。

  • 重度の痛み

  • ショックの徴候(例えば、心拍数の増加、低血圧、発汗、錯乱)

  • 腹膜炎の徴候(例えば、体を折り曲げるような持続的な痛みや、軽く触れたり、ベッドにぶつかったりすると悪化する痛み)

  • 腹部の腫れ

受診のタイミング

警戒すべき徴候がみられる人は、直ちに医療機関を受診する必要があります。警戒すべき徴候がなければ、1日以内に医師の診察を受ける必要があります。

医師が行うこと

医師は、症状と病歴について質問し、身体診察を行います。病歴聴取と身体診察で得られた情報は、検査が必要な場合、どのような検査を行うか判断するのに役立てられます。医師は、評価する痛みが軽度でも重度でも、同じプロセスに従いますが、重度の腹痛の評価では外科医が早期に関与することがあります。

病歴聴取( see table 急性腹痛患者の病歴聴取)で医師は、痛みの場所( see figure 腹痛の位置別の原因)と特徴、過去に同じような症状があったかどうか、腹痛と併せてほかにどのような症状があるかを尋ねます。胸やけ、吐き気、嘔吐、下痢、便秘、黄疸(おうだん)、血便、血尿、喀血(かっけつ)、体重減少などの症状は、医師の評価の指針として役立ちます。医師は、飲酒に加え、処方薬や違法薬物を含めて、摂取している薬について尋ねます。

また、分かっている医学上の状態や過去の腹部手術についても尋ねます。女性では、妊娠していないか、その可能性がないかを尋ねます。

医師は、身体診察を行うとき、まず全身の外見に注目します。不安、蒼白、発汗がみられる人、または明らかに痛がっている人と異なり、快適そうに見える人が深刻な問題を抱えていることはまれです。診察では腹部に重点が置かれ、医師は腹部を視診したり、軽くたたいたり触れたりします(触診)。通常は直腸診や内診(患者が女性の場合)を行って、圧痛、腫瘤、出血の位置を調べます。

医師は腹部全体にやさしく触れて、筋性防御、筋硬直、反跳痛、腫瘤の有無に加えて、具体的な圧痛の位置を特定します。筋性防御は、医師が腹部に触れたときに腹筋が不随意収縮を起こすことです。筋硬直は、医師が腹部に触れていなくても、腹筋が固く収縮したままになることです。反跳痛は、医師が手をさっと離したときに痛みを覚えることです。筋性防御、筋硬直、反跳痛は、腹膜炎の徴候です。

腹痛の位置別の原因

検査

ときに、手術が必要だとすぐに医師が判断できるほど重大な所見がみられることがあります。そのような場合、医師は検査のために手術を遅らせないようにします。しかし、医師は、患者の症状や身体診察の結果から疑われる複数の原因の中から1つを選択するために、検査を行わなければならない場合の方がよくあります。医師は、以下のように疑われるものに基づいて検査を選択します。

  • 妊娠可能年齢のすべての女児と女性に対して尿妊娠検査

  • 疑われる診断に基づく画像検査

腹部のCT検査は、腹痛の多くの原因を特定する役に立ちますが、すべての原因が特定できるわけではありません。尿検査(例えば、検尿)は、尿路感染や腎結石の徴候がないか調べるためにしばしば行われます。血液検査は、よく行われますが、具体的な原因を特定できるのはまれです(ただし、血液検査は膵炎の診断のために用いられることがあります)。胆嚢の病気や婦人科の病気が疑われる場合は、超音波検査が役立ちます。消化管の内部を観察するためのカメラを使用する内視鏡検査が必要になることもあります。

急性腹痛の治療

腹痛の具体的な原因を治療します。最近まで医師は、重い腹痛がみられる患者に診断がつく前に鎮痛薬を投与するのは、重要な症状を鎮痛薬が隠すことがあるため、賢明でないと考えていました。しかし、現在では検査法が進歩してきたため、通常は低用量ですが鎮痛薬を投与することもあります。

要点

  • 医師は、最初に痛みの原因として生命を脅かすものがないか調べます。

  • 医師は、妊娠可能年齢の女児と女性に対しては妊娠していないことを確認します。

  • 血液検査で急性腹痛の具体的な原因が特定されるのはまれです。

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