細菌性腟症は,乳酸桿菌が減少し,嫌気性病原体が過剰増殖する腟内細菌叢の複雑な変化による腟炎である。症状は,灰色で粘稠度が低く,魚のような臭いのある帯下である。診断は腟分泌物の検査により確定される。治療は通常,経口または外用メトロニダゾールもしくは外用クリンダマイシンによる。
(腟炎の概要も参照のこと。)
細菌性腟症は最も頻度の高い感染性腟炎である。発生機序は明らかではないが,複数の病原細菌の異常増殖と通常の乳酸桿菌(腟内細菌叢の主たる構成菌)の減少が関与している(1)。
過剰増殖する嫌気性病原体として,Prevotella属,Peptostreptococcus属,Gardnerella vaginalis,Mobiluncus属,およびMycoplasma hominisなどがあり,これらは濃度にして10~100倍増加し,正常時に防御的に働く乳酸桿菌に取って代わる。
細菌性腟症の危険因子には,性感染症に関するものが含まれる。女性と性交渉をもつ女性では,セックスパートナーの数が増えるにつれてリスクが高まる。しかしながら,細菌性腟症は処女で起こることがあり,さらに性的に活動的な異性愛の女性では,男性のセックスパートナーを治療してもその後の発生率に影響しないようである。子宮内避妊器具の使用も危険因子である。
細菌性腟症は,骨盤内炎症性疾患,流産後と分娩後の子宮内膜炎,子宮摘出後の腟断端感染,絨毛膜羊膜炎,前期破水,切迫早産,および早産のリスクを高めると考えられる。
総論の参考文献
1.Muzny CA, Schwebke JR: Pathogenesis of bacterial vaginosis: Discussion of current hypotheses.J Infect Dis 214(Suppl 1):S1–S5, 2016.doi: 10.1093/infdis/jiw121.
症状と徴候
細菌性腟症による腟分泌物は悪臭を伴い,灰色で粘稠度が低い。通常,魚のような臭いがあり,性交や月経後に分泌物のアルカリ性が増すと,その臭いはしばしば強くなる。そう痒,刺激症状,発赤,および浮腫はあまりみられない。
診断
臨床基準
腟pHおよびウェットマウント
細菌性腟症の診断のためには,次の4つの基準のうち3つを必要とする:
灰色の分泌物
腟分泌物のpH > 4.5
臭気テストで魚のような臭い
クルー細胞
By permission of the publisher. From Spitzer M, Mann M.In Atlas of Clinical Gynecology: Gynecologic Pathology.Edited by M Stenchever (series editor) and B Goff.Philadelphia, Current Medicine, 1998.
Image obtained from the Public Health Image Library of the Centers for Disease Control and Prevention.
クルー細胞(細菌が上皮細胞に付着し,ときに細胞の辺縁をぼやけさせている)は,生理食塩水によるウェットマウントの顕微鏡検査により同定される。生理食塩水によるウェットマウント標本に白血球を認めれば,同時感染(可能性としてトリコモナス,淋菌感染症またはクラミジア子宮頸管炎)が起こり,さらなる検査が必要であることが示唆される。
また,臨床で利用できる比較的新しい診断検査法もいくつか市販されている(1,2,3,4)。
診断に関する参考文献
1.Cartwright CP, Lembke BD, Ramachandran K, et al: Development and validation of a semiquantitative, multitarget PCR assay for diagnosis of bacterial vaginosis.J Clin Microbiol 50(7):2321–2329, 2012.doi: 10.1128/JCM.00506-12.Epub 2012 Apr 25.
2.Schwebke JR, Gaydos CA, Nyirjesy P, et al: Diagnostic performance of a molecular test versus clinician assessment of vaginitis.J Clin Microbiol 56(6):e00252-18, 2018.doi: 10.1128/JCM.00252-18.Print 2018 Jun.
3.Gaydos CA, Beqaj S, Schwebke JR, et al: Clinical validation of a test for the diagnosis of vaginitis.Obstet Gynecol 130(1):181–189, 2017.doi: 10.1097/AOG.0000000000002090.
4.Coleman JS, Gaydos CA: Molecular diagnosis of bacterial vaginosis: An update.J Clin Microbiol 56(9):e00342–e00318, 2018.doi: 10.1128/JCM.00342-18.Print 2018 Sep.
治療
メトロニダゾールまたはクリンダマイシン
細菌性腟症に対する以下の治療は同等に効果的である:
経口メトロニダゾール500mg,1日2回,7日間または2g,1回
メトロニダゾール0.75%ゲル5g(フル充填アプリケーター1本),経腟投与,1日1回,7日間
2%クリンダマイシン腟クリーム,1日1回,7日間
妊娠していない女性では,経口メトロニダゾール(500mg,1日2回,7日間)が選択すべき治療であるが,経口薬は全身作用をもたらす可能性があるため,妊婦では外用薬の方が望ましい。クリンダマイシンクリームを使用する女性は,避妊用のラテックス製品(すなわち,コンドームやペッサリー)を使用できないが,それは薬剤がラテックスを弱めるためである。
セクニダゾール2g,経口,1回は細菌性腟症の治療の別の選択肢である(1,2)。1回のみの服用であるため,セクニダゾールは患者のコンプライアンスを改善する可能性がある。
無症状のセックスパートナーを治療する必要はない。
妊娠第1トリメスター中の腟炎に関しては,メトロニダゾール腟用ゲルを使用すべきであるが,妊娠中の治療による妊娠合併症リスクの低下は示されていない。子宮内膜炎を防ぐため,医師は人工中絶前に,全患者または細菌性腟症の検査が陽性である患者に対してのみ,予防的に経口メトロニダゾールを投与することがある。
治療に関する参考文献
1.Schwebke JR, Morgan FG Jr, Koltun W, Nyirjesy P: A phase-3, double-blind, placebo-controlled study of the effectiveness and safety of single oral doses of secnidazole 2 g for the treatment of women with bacterial vaginosis.Am J Obstet Gynecol 217(6):678.e1–678.e9, 2017.doi: 10.1016/j.ajog.2017.08.017.Epub 2017 Sep 1.
2.Hillier SL, Nyirjesy P, Waldbaum AS, et al: Secnidazole treatment of bacterial vaginosis: A randomized controlled trial.Obstet Gynecol 130(2):379-386, 2017.doi: 10.1097/AOG.0000000000002135.