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妊娠高血圧腎症および子癇

執筆者:

Antonette T. Dulay

, MD, Main Line Health System

最終査読/改訂年月 2014年 1月
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妊娠高血圧腎症は妊娠20週以降の新規発症の高血圧およびタンパク尿である。子癇は妊娠高血圧腎症の患者における原因不明の全身痙攣である。診断は臨床的に行い,尿タンパク測定による。治療は通常,硫酸マグネシウム静注および満期での分娩である。

妊娠高血圧腎症は妊婦の3~7%に生じる。妊娠高血圧腎症および子癇は妊娠20週以降に発生する;最大25%の症例は分娩後に発生し,最も頻繁には初めの4日間に起こるが,ときに分娩後6週間までに起こることがある。

無治療の妊娠高血圧腎症は,通常はくすぶり続け(期間はばらつきがある),その後突然に子癇に進行するが,子癇となるのは妊娠高血圧腎症の患者200人当たり1人の割合である。子癇は治療しないと通常死に至る。

病因

病因は不明である;しかしながら危険因子としては以下のものがある:

  • 未経産

  • 既存の慢性高血圧

  • 血管疾患(例,腎疾患,糖尿病性血管障害)

  • 既存糖尿病のまたは妊娠糖尿病

  • 高齢(35歳以上)または非常に若年(例,17歳未満)の母体

  • 妊娠高血圧腎症の家族歴

  • 以前の妊娠での妊娠高血圧腎症または不良な転帰

  • 多胎妊娠

  • 肥満

  • 血栓性疾患(例,抗リン脂質抗体症候群— 抗リン脂質抗体症候群(APS)

病態生理

妊娠高血圧腎症および子癇の病態生理はよくわかっていない。要因として,子宮胎盤のらせん動脈の発達不良(これにより妊娠後期に子宮胎盤血流が減少する),13番染色体の遺伝子異常,免疫異常,および胎盤の虚血や梗塞がある。フリーラジカルが誘発する細胞膜の脂質過酸化は,妊娠高血圧腎症に寄与している可能性がある。

合併症

胎児発育不全または死亡が起こりうる。びまん性または多病巣性の血管攣縮により母体の虚血が起こり,最終的には多臓器,特に脳,腎臓,肝臓が損傷する。血管攣縮に寄与する可能性のある因子として,プロスタサイクリン(内皮由来の血管拡張物質)の減少,エンドセリン(内皮由来の血管収縮物質)の増加,および可溶性Flt-1(血中を循環する血管内皮増殖因子受容体)の増加などが考えられる。妊娠高血圧腎症をもつ女性は現在および将来の妊娠で常位胎盤早期剥離のリスクがあり,これはおそらく両方の疾患が胎盤機能不全に関連していることによる。

凝固系が活性化されるが,これはおそらく内皮細胞機能障害に続発するもので,血小板活性化の原因となる。HELLP症候群(溶血,肝機能検査値上昇,および血小板数低値)が重症の妊娠高血圧腎症または子癇の女性の10~20%に発生する;この発生頻度は全妊娠における発生頻度(1 to 2/1000)の約100倍である。この症候群を有する大部分の妊婦に高血圧およびタンパク尿がみられるが,一部にどちらもみられない妊婦もいる。

症状と徴候

妊娠高血圧腎症は無症候性であるか,浮腫や過度の体重増加を起こすことがある。顔面または手の腫脹(患者の指輪が指に合わなくなる)などの就下性でない浮腫(nondependent edema)は,就下性の浮腫(dependent edema)よりも特異的である。反射の亢進がみられることがあり,これは神経筋の易刺激性(痙攣発作[子癇]へ進行しうる)を示唆する。他の凝固障害の徴候同様,点状出血が発生することがある。

パール&ピットフォール

  • 妊娠高血圧腎症の所見の中でもより特異的な場合のある,手(例,指輪が合わなくなる)または顔面の腫脹や反射亢進を調べる。

重症の妊娠高血圧腎症では臓器障害を来すことがあり,その症状としては,頭痛,視覚障害,錯乱,心窩部痛や右上腹部痛(肝虚血や肝被膜の伸展を反映),悪心,嘔吐,呼吸困難(肺水腫,急性呼吸窮迫症候群[ARDS],または後負荷の増大に続発する心機能障害を反映),脳卒中(まれ),乏尿(血漿量低下または虚血性急性尿細管壊死を反映)などがある。

診断

  • 20週以降に新たに発症した高血圧(血圧 > 140/90mmHg)に加え,新たな原因不明のタンパク尿 > 300mg/24時間

診断は高血圧の症状または高血圧(収縮期血圧 > 140mmHg,拡張期血圧 > 90mmHgと定義される),あるいはその両方の存在で示唆される。緊急時を除き,高血圧は少なくとも4時間空けて2回以上の測定を記録しなければならない。尿タンパク排泄は24時間蓄尿で測定する。タンパク尿は > 300mg/24時間と定義される。代わりに,タンパク尿はタンパク/クレアチニン比 ≥ 0.3または試験紙で1+(他の定量的方法が利用できない場合にのみ用いる)に基づいて診断される。精度の低い検査(例,尿試験紙検査,ルーチンの尿検査)でタンパク尿が認められなくても妊娠高血圧腎症を除外しない。

タンパク尿がみられない場合,妊婦が新規発症の高血圧に加えて,以下のいずれかの新規発症を認める場合にも妊娠高血圧腎症と診断される:

  • 血小板減少(血小板 < 100,000/μL)

  • 腎機能不全(血清クレアチニン > 1.1mg/dLまたは腎疾患のない女性で血清クレアチニンが倍増)

  • 肝機能障害(アミノトランスフェラーゼが正常の2倍を超える)

  • 肺水腫

  • 脳症状または視覚症状

妊婦における高血圧疾患を鑑別するのに,以下のポイントが役立つ:

  • 慢性高血圧は高血圧が妊娠に先行する,妊娠20週より前に存在する,または分娩後6週間(通常12週間)を過ぎても持続する場合(高血圧が妊娠20週以降に初めて記録された場合であっても)に同定される。慢性高血圧は妊娠初期には生理的な血圧低下によりマスクされることがある。

  • 妊娠高血圧はタンパク尿または他の妊娠高血圧腎症の所見がみられない高血圧である;妊娠前に既知の高血圧がない女性で,妊娠20週以降に初めて起こり,分娩後12週間までに(通常6週間までに)解消する。

  • 妊娠高血圧腎症は新規発症の高血圧(血圧 > 140/90mmHg)に加えて,妊娠20週以降に新たな原因不明のタンパク尿(> 300mg/24時間)が起こる場合か,または他の基準による(上記参照)。

  • 慢性高血圧が合併して発症する妊娠高血圧腎症は,高血圧を有する女性に20週以降に新規の原因不明のタンパク尿が生じる場合,または高血圧およびタンパク尿を有する女性に20週以降に血圧の上昇または重症の妊娠高血圧腎症の徴候がみられる場合に診断される。

さらなる評価

妊娠高血圧腎症と診断された場合,検査には,尿検査,血算,血小板数,尿酸,肝機能検査,および血清電解質,BUN,クレアチニン,およびクレアチンクリアランスの測定を含む。胎児をノンストレステストまたはバイオフィジカルプロファイル(羊水量の評価を含む),および胎児体重を推測する検査を用いて評価する。

HELLP症候群は,末梢血塗抹標本での微小血管障害の所見(例,破砕赤血球,ヘルメット細胞),肝酵素値の上昇,および血小板数の低値から示唆される。

重症の妊娠高血圧腎症は以下の1つ以上により軽症のものと鑑別される:

  • 中枢神経系機能障害(例,霧視,暗点,精神状態の変化,アセトアミノフェンで改善しない重度の頭痛)

  • 肝被膜伸展の症状(例,右上腹部痛または心窩部痛)

  • 悪心および嘔吐

  • 血清ASTまたはALTが正常の2 倍を超える

  • 4時間以上空けて2回,収縮期血圧 > 160mmHgまたは拡張期血圧 > 110mmHg

  • 血小板数 < 100,000/μL

  • 尿量 < 500mL/24時間

  • 肺水腫またはチアノーゼ

  • 脳卒中

  • 進行性の腎機能不全(血清クレアチニン > 1.1mg/dLまたは腎疾患のない女性で血清クレアチニンが倍増)

治療

  • 通常,入院およびときに降圧治療

  • 在胎期間,胎児成熟の所見,および妊娠高血圧腎症の重症度などの因子に応じて,分娩

  • 痙攣の予防または治療のために硫酸マグネシウム投与

一般的アプローチ

根治的治療は分娩である。しかしながら,早産のリスクについて,在胎期間,妊娠高血圧腎症の重症度,および治療に対する反応性と比較して,両者のバランスを評価する。通常,母体を安定させた後(例,痙攣がコントロールされている,血圧がコントロールされつつある)の早急な分娩は以下の場合に適応となる:

  • 37週以降の妊娠

  • 子癇

  • 重症の妊娠高血圧腎症で34週以降,または胎児の肺成熟が確認されている

  • 腎臓,肺,心臓,または肝臓の機能の悪化

  • 胎児のモニタリングで結果がnonreassuring

他の治療の目的は母体の健康状態をできるだけ高めることであり,これにより通常,胎児の健康も最良となる。妊娠32~34週頃で分娩を遅らせることが可能な場合は,胎児の肺成熟を促進するために48時間コルチコステロイドを投与する。

大部分の患者は入院管理とする。子癇または重症の妊娠高血圧腎症の患者はしばしば周産期専門施設(maternal special care unit)またはICUに入院となる。

軽症の妊娠高血圧腎症

妊娠高血圧腎症が軽症であれば,外来治療が可能である;これには,徹底した床上安静(可能な場合は常に左側を下にして横になる),および血圧測定,検査所見のモニタリング,および1週間に2~3回の来院を含む。

しかしながら,軽症の妊娠高血圧腎症を有する多くの患者では,少なくとも最初は入院が必要となる;一部の患者では,状態を安定させるため,また収縮期血圧を140~155mmHgまで,拡張期血圧を90~105mmHgまで下げるために数時間の薬物治療も必要となる。高血圧は必要に応じて経口薬で治療できる。重症の妊娠高血圧腎症の基準を満たさない限り,37週での分娩が可能である(例,誘発による)。

モニタリング

外来患者は通常2~3日毎に,痙攣の所見,重症妊娠高血圧腎症の症状,および性器出血の評価を行う;血圧,反射,および胎児心拍の状態(ノンストレステストまたはバイオフィジカルプロファイルを用いる)も確認する。血小板数,血清クレアチニン,および血清肝酵素を安定するまでは頻回に,その後は少なくとも毎週測定する。

全ての入院患者は産科医または母体・胎児専門医がフォローアップし,外来患者同様に評価する(上述);重症の妊娠高血圧腎症と診断された場合や妊娠期間が34週未満の場合には評価をより頻回に行う。

硫酸マグネシウム

子癇または重症の妊娠高血圧腎症と診断されたらすぐに,痙攣の停止または予防,および反射反応の軽減のため硫酸マグネシウムを投与しなければならない。軽症の妊娠高血圧腎症患者に,分娩前の硫酸マグネシウムの投与が常に必要か否かについては議論がある。

硫酸マグネシウム4gを20分かけて静注した後,約1~3g/時で持続静注し,必要に応じて追加投与する。用量は患者の反射に基づき調節する。マグネシウム値の異常高値(例,マグネシウム値 > 10mEq/Lまたは反射反応の突然の減少),心機能障害(例,呼吸困難または胸痛),または硫酸マグネシウム治療後の低換気がみられる患者では,グルコン酸カルシウム1g静注で治療しうる。

硫酸マグネシウムの静注は,新生児に嗜眠,筋緊張低下,および一過性呼吸抑制を引き起こしうる。しかしながら,新生児の重篤な合併症はまれである。

支持療法

入院患者は乳酸リンゲルまたは生理食塩水を静注し,約125mL/時から始める(尿量を増加するため)。持続する乏尿は注意深くモニタリングしながら輸液負荷を行い治療する。利尿薬は通常用いられない。肺動脈カテーテルを用いたモニタリングが必要となることはまれであり,必要になった場合は,集中治療専門医へのコンサルテーションを行った上でICUで実施する。正常血液量の無尿患者には,腎血管拡張薬または透析が必要となる場合がある。

マグネシウム療法にもかかわらず痙攣が発生する場合,痙攣を止めるためジアゼパムまたはロラゼパムを静注し,収縮期血圧が140~155mmHgおよび拡張期血圧が90~105mmHgまで低下するよう,ヒドララジンまたはラベタロールを漸増しながら静注する。

分娩方法

最も効率的な分娩方法を用いるべきである。子宮頸部が熟化して迅速な経腟分娩が行えるようであれば,オキシトシンを希釈静注して陣痛を促進する;陣痛が有効であれば破水させる。頸部の熟化が不良で,迅速な経腟分娩が望めそうにない場合,帝王切開を考慮することができる。妊娠高血圧腎症および子癇の症状は,分娩前に消失しなかった場合,通常,分娩後6~12時間以内に急速に消失し始める。

全ての患者に典型的には分娩後24時間,硫酸マグネシウムを投与する。

フォローアップ

分娩後は1~2週間毎に定期的な血圧測定を行い,患者を評価すべきである。分娩後6週間以降も血圧高値が続く場合は,患者は慢性高血圧を有する可能性があり,管理のためプライマリケア医に紹介すべきである。

要点

  • 妊娠高血圧腎症は妊娠20週以降に発生する;25%の症例では分娩後に発生する。

  • 顔面または手の腫脹および反射の亢進は妊娠高血圧腎症に比較的特異的な所見である。

  • 妊娠高血圧腎症が著明な臓器機能障害を引き起こしている場合は,重症である(臨床的に,または検査により検出される)。

  • HELLP症候群は重症の妊娠高血圧腎症または子癇を有する女性の10~20%に起こる。

  • 通常,病院またはICUで,厳重に母体および胎児をモニタリングする。

  • 重症の妊娠高血圧腎症または子癇と診断されたらすぐに,高用量の硫酸マグネシウムで治療する;軽症の妊娠高血圧腎症での硫酸マグネシウムの使用についてはあまり明らかでない。

  • 妊娠37週以降の場合,重度の障害が発生した場合,または胎児の肺が成熟している場合は通常,分娩の適応となる。

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