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腸チフス

執筆者:

Larry M. Bush

, MD, FACP, Charles E. Schmidt College of Medicine, Florida Atlantic University;


Maria T. Perez

, MD, Wellington Regional Medical Center, West Palm Beach

最終査読/改訂年月 2016年 5月
本ページのリソース

腸チフスは,チフス菌(Salmonella血清型Typhi,S. Typhi— サルモネラ( Salmonella )感染症の概要)を原因菌とする全身性疾患である。症状は高熱,極度の疲労,腹痛,およびバラ色の発疹がある。診断は臨床的に行い,培養により確定する。治療はセフトリアキソン,シプロフロキサシン,またはアジスロマイシンによる。

疫学

米国では,流行地域から帰国した米国人旅行者を中心に,毎年約400~500の腸チフス症例が報告されている。

ヒトが唯一の自然宿主および病原体保有生物である。腸チフス菌は無症候性保菌者の便中と,活動性疾患の患者の便中および尿中に排出される。感染は便によって汚染された食品または水を介して広がる。排便後の処理が不衛生であると,チフス菌が地域社会の食物や飲用水に拡散することがある。衛生対策が概して不十分な流行地域においては,チフス菌は食物よりも水を介して伝播することが多い。先進国では,主に健康保菌者によって調理中に汚染された食物を介して伝播する。ハエは便から食物へ菌を拡散させる可能性がある。

ときに小児の遊びや成人の性行為の過程で,直接接触による伝播(糞口感染)が起こることがある。まれに,腸管感染症に対して十分な予防措置を受けていない病院スタッフが汚れたベッドシーツを交換する際に感染することがある。

チフス菌は消化管から体内に侵入し,リンパ管を介して血流中に移行する。重症例では腸潰瘍,腸出血,および腸穿孔が起こりうる。

保菌状態

無治療患者の約3%は,胆嚢に菌を保有して1年以上にわたり便中に菌を排出し,腸管慢性保菌者と呼ばれる。一部の保菌者には臨床的な腸チフスの既往がみられない。2000人いると推定される米国の保菌者の大半は,慢性胆道疾患を有する高齢女性である。住血吸虫症または腎結石症に関連した閉塞性尿路疾患があると,一部のチフス患者では尿路内での保菌が起きやすくなる。

疫学データからは,腸チフス菌の保菌者では一般集団と比べて肝胆道癌を発症する可能性が高いことが示唆されている。

症状と徴候

潜伏期間(通常8~14日)は摂取菌数と負の相関を示す。発症は通常緩徐であり,発熱,頭痛,関節痛,咽頭炎,便秘,食欲不振,腹痛,および腹部圧痛がみられる。比較的頻度は低いが,排尿困難,乾性咳嗽,鼻出血などもみられる。

無治療の場合,体温が2~3日かけて次第に上昇していき,その後10~14日間にわたり高熱(通常39.4~40℃)が持続し,3週目の終わりから徐々に解熱して,4週目には正常体温となる。長引く発熱には,しばしば相対的徐脈と極度の疲労が随伴する。重症例では,せん妄,昏迷,昏睡などの中枢神経系症状がみられる。約10~20%の患者では,2週目に圧迫により退色するピンク色の不連続な病変(ばら疹)が胸部および腹部に群発し,2~5日で消失する。

脾腫,白血球減少,貧血,肝機能異常,タンパク尿,および軽度の消費性凝固障害がよくみられる。急性胆嚢炎および肝炎が起こりうる。

腸管病変が最も著明となる感染後期には,鮮紅色の下痢がみられることがあり,便に血液が混入することもある(20%で潜血便,10%で肉眼的血便)。約2%の患者では,3週目に重度の出血が起こり,その場合の死亡率は約25%である。3週目にみられる急性腹症と白血球増多は腸穿孔を示唆し,これは遠位回腸に生じるのが通常で,1~2%の患者で発生する。

肺炎が2~3週目に発生することがあり,腸チフス菌そのものも肺炎を引き起こしうるものの,これは続発性の肺炎球菌感染症によるものであると考えられる。菌血症はときに,骨髄炎,心内膜炎,髄膜炎,軟部組織膿瘍,糸球体炎,泌尿生殖器病変など,局所感染症につながることがある。

非定型の臨床像(肺炎,発熱のみ,非常にまれであるが,尿路感染症と一致する症状など)により,診断が遅れることがある。

回復期は数カ月間続くことがある。

治療を受けない患者の8~10%では,解熱から約2週間後に初発時の臨床症候群と同様の症候が再発する。理由は明らかでないが,初発時に抗菌薬治療を行うと,発熱を伴った再発の頻度が15~20%に上昇する。再発時に抗菌薬治療を再開すると,初発時の緩徐な解熱とは異なり,発熱は急速に消失する。ときに,2度目の再発が起こる。

診断

  • 培養

同様の臨床像を呈する他の感染症として,他のSalmonella属細菌による感染症,主要なリケッチア症,レプトスピラ症,播種性結核,マラリア,ブルセラ症,野兎病,感染性肝炎,オウム病,腸炎エルシニア(Yersinia enterocolitica)感染症,リンパ腫などがある。

血液,便,および尿培養を行うべきである。薬剤耐性がよくみられるため,標準的な感受性試験が必須である。ナリジクス酸感受性試験によるスクリーニングは,シプロフロキサシンへの感受性を予測する上で信頼性が高くないので,もはや推奨されない。通常,血液培養が陽性となるのは発症後最初の2週間のみであるが,便培養は通常3~5週目に陽性となる。これらの培養結果が陰性で,腸チフスが強く疑われる場合は,骨髄生検検体の培養により本菌が検出されることがある。

腸チフス菌の抗原には,宿主を刺激して対応する抗体の産生をもたらすもの(OおよびH抗原)がある。2週間の間隔を空けて採取したペア検体でOおよびH抗体価に4倍の上昇が認められれば,チフス菌感染が示唆される。しかしながら,この検査の感度は中程度(70%)に過ぎず,特異度は低く,チフス菌以外のサルモネラ(Salmonella)属細菌の多くの菌株が交差反応し,また肝硬変では偽陽性がみられる。

予後

抗菌薬を使用しない場合の死亡率は約12%である。速やかに治療を開始した場合の死亡率は1%である。死亡例の大半は,栄養不良患者,乳児,または高齢者である。

昏迷,昏睡,またはショックは重症および予後不良を反映する症状である。

合併症は主に治療を受けない患者と治療が遅れた患者に発生する。

治療

  • セフトリアキソン

  • ときにフルオロキノロン系薬剤またはアジスロマイシン

流行地域をはじめとして抗菌薬耐性菌の頻度が高く,増加を続けていることから,感受性試験の結果に基づいて薬剤を選択すべきである。

一般に選択される抗菌薬としては以下のものがある:

  • セフトリアキソン1g,筋注または静注,12時間毎(小児では25~37.5mg/kg),14日間

  • 種々のフルオロキノロン系薬剤(例,シプロフロキサシン500mg,経口,1日2回,10~14日間,レボフロキサシン500mg,経口または静注,1日1回,14日間,モキシフロキサシン400mg,経口または静注,1日1回,14日間)

クロラムフェニコール500mg,経口または静注,6時間毎は依然として広く使用されているが,耐性菌が増加している。フルオロキノロン系薬剤は小児にも使用してよいが,注意が必要である。フルオロキノロン耐性株に対しては,アジスロマイシンを1日目に1g投与した後,500mg,1日1回を6日間続ける。代替薬(例,アモキシシリン,トリメトプリム/スルファメトキサゾール[TMP/SMX])への耐性率が高いため,これらの薬剤を使用するかどうかは,in vitroでの感受性によって決定する。

重度の中毒症状には,抗菌薬に加えてコルチコステロイドを投与してもよい。通常はその後に解熱と臨床的改善がみられる。プレドニゾン20~40mg,経口,1日1回(または同等のコルチコステロイド)を治療開始後最初の3日間投与すれば通常は十分である。著明なせん妄,昏睡,またはショックがみられる患者には,高用量のコルチコステロイド(最初はデキサメタゾン3mg/kg,静注,その後は合計48時間まで1mg/kg,6時間毎)を使用する。

頻回の栄養補給により栄養状態を維持する。通常,発熱が続く間は床上安静とする。サリチル酸系薬剤(低体温および低血圧を引き起こす可能性がある)ならびに緩下薬および浣腸の使用は避けるべきである。clear liquid dietにより下痢を最小限に留めることができるが,一時的に静脈栄養が必要となる可能性がある。輸液および電解質療法と血液交換が必要になることもある。

腸穿孔とそれに合併した腹膜炎には,外科的介入とBacteroides fragilisおよびグラム陰性菌を広くカバーする治療が必要である。

再発時の治療は初発時と同様であるが,抗菌薬療法が5日間を超えて必要になることはほとんどない。

地域の保健局に報告するとともに,患者には菌の保有がないことが証明されるまで食品の取扱いを禁止する必要がある。保菌者にならない患者においても,急性期から3~12カ月にもわたって腸チフス菌が分離されることがある。そのため,保菌状態を否定するには,1カ月毎の便培養が3回連続で陰性となる必要がある。

保菌者

胆道に異常がない保菌者には抗菌薬を投与すべきである。アモキシシリン,TMP/SMX,またはシプロフロキサシンの4~6週間投与による治癒率は約80%である。

胆嚢疾患を有する一部の保菌者では,TMP/SMXとリファンピシンで除菌を達成できる。その他の症例では,胆嚢摘出術を施行して,術前1~2日間と術後2~3日間に抗菌薬を投与する治療法が効果的である。ただし,胆嚢摘出術を施行しても,おそらくは肝胆道系のどこかにある感染病巣のため,必ずしも保菌状態は解消されない。

予防

飲用水の浄化,および効果的な下水処理の整備を導入すべきである。慢性保菌者は食品の取扱いを避けるべきであり,菌を保有していないことが証明されるまで患者や幼児の世話をしてはならない;患者には十分な隔離予防策を講じるべきである。腸管感染症の予防に特別な注意を払うことが重要である。

流行地域への旅行者は,生の葉野菜,室温で保存または給仕された食物,および未処理の水(氷を含む)の摂取を避けるべきである。水の安全性が不明な場合が,摂取する前に煮沸または塩素処理を行うべきである。

腸チフスに対する弱毒経口生ワクチンが利用可能であり(Ty21a株),流行地域への旅行者に使用され,その有効性は約70%である。保菌者との家庭内接触者や他の濃厚接触者への接種も考慮してよい。2日毎に計4回接種し,旅行の1週間以上前に完了すべきである。感染リスクが続く人には,5年後に追加投与が必要である。患者が何らかの抗菌薬を服用した場合は,服用後72時間以上ワクチン接種を遅らせるべきであり,また,抗マラリア薬のメフロキンとともに接種してはならない。ワクチンはチフス菌の生菌を含有するため,免疫抑制状態の患者では禁忌である。米国では,6歳未満の小児に対してTy21aワクチンは使用されていない。

代替品として単回筋注接種のVi多糖体ワクチンがあり,有効性は64~72%で,忍容性も良好であるが,2歳未満の小児には使用されていない。感染リスクが続く人には,2~3年後に追加投与が必要である。

要点

  • 腸チフスは腸管を介して全身に伝播し,発熱やその他の全身症状(例,頭痛,関節痛,食欲不振,腹痛,腹部圧痛)を引き起こし,より進行すると,一部の患者では,重度でときに血性の下痢や特徴的な発疹(ばら疹)がみられる。

  • 菌血症は,ときに局所感染症(例,骨髄炎,心内膜炎,髄膜炎,軟部組織膿瘍,糸球体炎)につながる。

  • 治療を受けない患者の約3%が慢性保菌状態となり,胆嚢に菌を保有して,1年以上にわたって便中に菌を排出する。

  • 血液および便培養により診断するが,薬剤耐性菌の頻度が高いため,感受性試験が必須である。

  • 感受性試験の結果に基づいて,セフトリアキソン,フルオロキノロン系薬剤,またはアジスロマイシンで治療するが,重度の症状を軽減する目的でコルチコステロイドを投与してもよい。

  • 保菌者には長期の抗菌薬療法を行うが,ときに胆嚢摘出術が必要となる。

  • 地域の保健局に報告するとともに,患者には菌の保有がないことが証明されるまで食品の取扱いを禁止する必要がある。

  • 流行地域への特定の旅行者には,ワクチン接種が適切となる場合がある。

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