百日咳は,グラム陰性細菌である百日咳菌(Bordetella pertussis)を原因菌として主に小児および青年に発生する,感染性の強い疾患である。 まず非特異的な上気道感染症状が出現した後,通常は長い吸気性笛声(whoop)で終わる発作性ないし痙攣性の咳嗽(痙咳)がみられるようになる。診断は上咽頭培養,PCR検査,および血清学的検査による。治療はマクロライド系抗菌薬による。予防法には,予防接種と,必要に応じて曝露後予防がある。
百日咳菌(B. pertussis)による感染症はヒトにのみ発生し,病原体保有生物となる動物はいない。B. bronchisepticaは,イヌやネコでケンネルコフを引き起こす細菌であり,易感染状態の患者で感染症を引き起こすことがある(1)。
主な伝播経路は,感染患者(特にカタル期と痙咳期早期)に由来する百日咳菌(B. pertussis)(非運動性の小さなグラム陰性球桿菌)を含む呼吸器飛沫を介するものである。伝染力が高く,濃厚な接触がある場合には80%以上が発症する。汚染物との接触による感染はまれである。通常,痙咳期の3週目より後の患者は感染源とならない。
百日咳はワクチンで予防可能な小児疾患であるが,世界中で流行しており,発生率が上昇している。米国での発生には周期性があり,3~5年毎に発生のピークを迎えている。米国では,1980年代の発生率は人口10万人当たり1例であったが,2014年には人口10万人当たり10例まで上昇した。米国疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)が2022年に公表したサーベイランス報告書によると,発生率は10万人当たり0.7例であった(2)。1980年代から2014年までに観察された増加は,以下が原因である可能性がある:
過去に予防接種を受けた青年および成人の免疫が減弱している
一部の親が子供の予防接種を拒否している(ワクチン忌避を参照)
このような免疫のない患者が発症するほか,免疫のない青年および成人は百日咳菌(B. pertussis)の重要な病原体保有生物となっており,しばしば,免疫のない1歳未満の乳児(年間発生率を最も大きく押し上げており,致死率が最も高い)への感染源となる。百日咳は高齢者でも重篤化する。アウトブレイクを起こす菌株の病原性が高まっている可能性がある。
米国では,2022年に2388例の百日咳症例が報告されており,3人が死亡している。2014年から2022年にかけての発生率低下については,予防接種の増加が寄与因子の1つと考えられており,特に成人と妊婦でそうである可能性が高い。10万人当たりの発生率は6カ月未満の乳児で最も高かった(7.8例)(2)。報告症例の45.6%が20歳以上であった(2)。
最初の曝露では終生免疫の獲得には至らないが,過去にワクチン接種を受けたが免疫が減弱している青年および成人では,2回目の曝露と感染では通常軽症となり,気づかれないことが多い。
百日咳菌による合併症
呼吸器合併症(乳児の窒息を含む)が最も多くみられる。しばしば中耳炎が生じる。年齢を問わず,気管支肺炎(高齢者に多い)から死に至ることがある。
痙攣発作は乳児でよくみられるが,より年長の小児ではまれである。
重度の発作とそれに起因する低酸素症の結果により,脳,眼,皮膚,粘膜への出血が起こることがある。脳出血,脳浮腫,および毒素による脳炎の結果として,痙性麻痺,知的障害,またはその他の神経学的障害を来すことがある。
ときに臍ヘルニアや直腸脱もみられる。
パラ百日咳
これはパラ百日咳菌(B. parapertussis)を原因菌とする疾患で,臨床的に百日咳と鑑別できないことがあるが,通常は比較的軽症で致死率も低い。
総論の参考文献
1.Yacoub AT, Katayama M, Tran J, Zadikany R, Kandula M, Greene J.Bordetella bronchiseptica in the immunosuppressed population - a case series and review. Mediterr J Hematol Infect Dis.2014;6(1):e2014031.Published 2014 Apr 7.doi:10.4084/MJHID.2014.031
2.National Center for Immunization and Respiratory Diseases Division of Bacterial Diseases: 2022 Provisional Pertussis Surveillance Report.Centers for Disease Control and Prevention, 2023.
百日咳の症状と徴候
潜伏期間は平均7~10日(最大3週間)である。百日咳菌(B. pertussis)は呼吸器粘膜に侵入して粘液の分泌を亢進させるが,その粘液は当初は希薄ながら,後に濃厚かつ粘稠となる。
合併症がない場合,症状は約6~10週間続き,以下の3期に分けられる:
カタル期
痙咳期
回復期
カタル期は潜行性に始まり,一般にくしゃみ,流涙,その他の鼻感冒の徴候;食欲不振;元気のなさ;煩わしい夜間の乾性咳嗽(徐々に日中に生じるようになる)などがみられる。嗄声がみられることがある。発熱はまれである。
10~14日後には痙咳期に移行し,咳嗽の重症度と頻度が悪化する。1回の呼気の間に立て続けに5回以上の咳嗽が連続して起こり,最後に深い吸気とともに高調の笛声(whoop)が聴かれる。発作中または発作後には,大量の粘稠な粘液が喀出されたり,外鼻孔から泡状に排出されたりすることがある。嘔吐が特徴的である。乳児では,吸気性笛声よりも窒息発作(チアノーゼはみられないこともある)の方がよくみられる。
回復期になると(通常は発症から4週間以内),症状は軽快する。平均罹病期間は約7週間(範囲は3週間から3カ月以上)である。発作性の咳嗽が数カ月にわたり反復することがあるが,これは通常,感受性が高い気道が上気道感染から刺激を受けることによって誘発される。
百日咳の診断
上咽頭培養,直接蛍光抗体法,およびPCR検査
血清学的検査
2週間以上持続する咳嗽があり,以下のうち少なくとも1つを認める患者では,百日咳を疑うべきである(1):
吸気時の笛声(whoop)
咳嗽発作
咳嗽後の嘔吐
アウトブレイクが判明しているか疑われる期間中の発症(2)
百日咳が疑われる場合は,必ず診断検査を行う。
カタル期には,気管支炎やインフルエンザとの鑑別が困難となることが多い。アデノウイルス感染症と結核も考慮すべきである。
上咽頭検体の培養では,カタル期および痙咳期早期症例の80~90%が百日咳菌(B. pertussis)陽性となる。特殊染色と長時間の培養が必要となるため,百日咳の疑いがあることを検査室に連絡しておくべきである。
上咽頭塗抹検体の特異的な蛍光抗体検査では,百日咳を正確に診断できるが,感度は培養ほど良好ではない。急性期と回復期のペア血清を用いた検査が役立つことがあり,特にカタル期の後には価値が高くなる。
上咽頭検体のPCR検査が望ましい検査であり,最初の約4週間以内(カタル期および痙咳期)に施行すれば,感度が最も高くなり(90~100%),特異度も最大100%となる(3)。
白血球数は通常15,000~20,000/μL(15~20 × 109/L)であるが,正常値となる場合もあれば,60,000/μL(60 × 109/L)まで上昇する場合(通常は60~80%が小リンパ球である)もある。生後6カ月未満の乳児における著明なリンパ球増多は予後不良の前兆である(4)。
パラ百日咳は培養または蛍光抗体法により鑑別する。
診断に関する参考文献
1.Centers for Disease Control and Prevention. Pertussis (Whooping Cough).Surveillance & Reporting.Accessed January 24, 2024.
2.Patriarca PA, Biellik RJ, Sanden G, et al.Sensitivity and specificity of clinical case definitions for pertussis. Am J Public Health.1988;78(7):833-836.doi:10.2105/ajph.78.7.833
3.Lee AD, Cassiday PK, Pawloski LC, et al.Clinical evaluation and validation of laboratory methods for the diagnosis of Bordetella pertussis infection: Culture, polymerase chain reaction (PCR) and anti-pertussis toxin IgG serology (IgG-PT). PLoS One.2018;13(4):e0195979.Published 2018 Apr 13.doi:10.1371/journal.pone.0195979
4.Coquaz-Garoudet M, Ploin D, Pouyau R, et al.Malignant pertussis in infants: factors associated with mortality in a multicenter cohort study. Ann Intensive Care.2021;11(1):70.Published 2021 May 7.doi:10.1186/s13613-021-00856-y
百日咳の治療
支持療法
エリスロマイシンまたはアジスロマイシン
重篤な状態の乳児には呼吸器飛沫が届かないように隔離した状態での入院が推奨される。隔離は抗菌薬を5日間投与するまで継続する。
乳児では,吸引により咽頭の過剰な粘液を除去することが救命につながることがある。ときに,酸素投与と気管切開または経鼻気管挿管が必要となる。去痰薬,鎮咳薬,および軽い鎮静薬では効果はほとんど得られない。
わずかな刺激でも低酸素症を伴う重篤な咳嗽発作が誘発される可能性があるため,重篤な状態の乳児は暗く静かな部屋に移して,可能な限り刺激を回避するべきである。
在宅で治療する患者は,発症後少なくとも4週間が経過し,かつ症状が治まるまで隔離すべきである(特に感受性の高い乳児からの隔離)。
カタル期の抗菌薬投与は,病状の改善に役立つことが示されている。痙咳期と確認されてからの抗菌薬投与は,臨床的な効果は限定的であることが明らかにされているが,感染拡大を制限する目的で推奨される。
以下の抗菌薬が望ましい:
エリスロマイシン,14日間
アジスロマイシン,5日間
エリスロマイシンは乳児では肥厚性幽門狭窄症のリスクが高いため,生後6週未満の乳児にはアジスロマイシンが望ましい(1)。
マクロライド系抗菌薬を使用できないか過敏症を有する生後2カ月以上の患者では,トリメトプリム/スルファメトキサゾールで代用することができる。
細菌性合併症(例,気管支肺炎,中耳炎)に対しても抗菌薬を使用すべきである。
治療に関する参考文献
1.Maheshwai N.Are young infants treated with erythromycin at risk for developing hypertrophic pyloric stenosis?. Arch Dis Child.2007;92(3):271-273.doi:10.1136/adc.2006.110007
百日咳の予防
予防接種
百日咳に対する予防接種は全ての乳児,小児,青年,および成人(妊婦を含む)に推奨される。
7歳未満の小児における適応,禁忌および注意事項,用法・用量,有害作用などのより詳細な情報については,ジフテリア・破傷風・百日咳混合ワクチンを参照のこと。
7歳以上の人における適応,禁忌および注意事項,用法・用量,有害作用などのより詳細な情報については,破傷風・ジフテリア混合ワクチンを参照のこと。
自然感染後の免疫は約20年間持続する。
7歳未満でワクチン接種回数が4回未満の濃厚接触者には,推奨されている小児予防接種スケジュールを完了させるべきである。
曝露後予防
曝露後の抗菌薬は,予防接種の既往にかかわらず,発端者が咳嗽を発症してから21日以内に家庭内接触者に投与すべきである。
曝露後の抗菌薬は,予防接種の既往にかかわらず,以下に該当する重症化のリスクが高い人にも曝露後21日以内に投与すべきである:
12カ月未満の乳児
第3トリメスターの妊婦
百日咳への感染により悪化する可能性のある病態(例,免疫不全症,中等度から重度の喘息,慢性肺疾患)をもつ全ての人
12カ月未満の乳児,妊婦,または重症疾患もしくは合併症につながりうる病態をもつ患者と濃厚な接触がある人
12カ月未満の乳児や第3トリメスターの妊婦がいるなどの,リスクの高い環境(例,保育所,産科病棟,新生児集中治療室)にいる全ての人
これらの人々には,アジスロマイシンを5日間の標準コースで投与すべきである。エリスロマイシンまたはクラリスロマイシンの7~14日間コース(7日間)が代替治療である。1カ月未満の乳児の曝露後予防にはアジスロマイシンが望ましい。
要点
百日咳は,あらゆる年齢で発生しうる呼吸器感染症であるが,その発生率と致死率は幼児(特に6カ月未満の乳児)で最も高くなっている。
上気道感染症状を呈するカタル期に続く痙咳期では,立て続けに何度も咳嗽が起こり,最後に深い吸気とともに高調の笛声(whoop)が聴かれる。
罹病期間は約7週間であるが,咳嗽が数カ月続くこともある。
PCR検査または上咽頭培養により診断するが,特殊培地が必要である。
病状の改善(カタル期)または感染拡大の制限(痙咳期とそれ以降)を目的として,マクロライド系抗菌薬による治療を行う。
定期的な予防接種の一環としての無細胞百日咳ワクチンの接種と様々な間隔での追加接種によって発症を予防するとともに,濃厚接触者にはマクロライド系薬剤による治療を行う。
自然感染であれ予防接種であれ,生涯持続する免疫は獲得されないが,以降の発症時は軽症となる傾向がある。
より詳細な情報
有用となりうる英語の資料を以下に示す。ただし,本マニュアルはこれらの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。
MSD Veterinary Manual: Kennel Cough
Centers for Disease Control and Prevention (CDC): Pertussis (Whooping Cough): Clinicians



