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エンテロウイルス感染症の概要

執筆者:

Brenda L. Tesini

, MD, University of Rochester School of Medicine and Dentistry

医学的にレビューされた 2019年 9月
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エンテロウイルスは,ライノウイルス(感冒 感冒 感冒は,鼻漏,咳嗽,咽頭痛などの上気道症状を引き起こし,通常は発熱を伴わずに自然に軽快する急性ウイルス感染症である。診断は臨床的に行う。手洗いは感染拡大の防止に役立つ。治療は対症療法である。 全感冒の約50%は100を超えるライノウイルスの血清型のいずれかによって引き起こされる。... さらに読む を参照)およびヒトパレコウイルスとともに,ピコルナウイルス科(小さな[pico]RNAウイルス)に属する。ヒトパレコウイルス1型および2型は,かつてはエコーウイルス22型および23型と呼ばれていたが,現在ではパレコウイルスに再分類されている。全てのエンテロウイルスは不均一な抗原性を有し,地理的に広く分布する。

エンテロウイルスには以下のものが含まれる:

  • コクサッキーウイルスA1~A21,A24,およびB1~B6

  • エコーウイルス(enteric cytopathic human orpahn viruses)1~7型,9型,11~21型,24~27型,および29~33型

  • エンテロウイルス68~71型,73~91型,および100~101型

  • ポリオウイルス1~3型

エンテロウイルスは,気道分泌物中ならびに便中に排泄され,ときに感染者の血液および髄液中に認められる。感染症は通常,気道分泌物または便への直接的接触により伝播するが,汚染された環境因子(例,水)によって伝播することもある。

エンテロウイルスによる疾患や流行は,米国では夏期と秋期に多くみられる。

液性免疫およびB細胞が正常に機能することが,エンテロウイルスによる疾患の制御に必要である。重度のエンテロウイルス感染症(しばしば緩徐に進行する髄膜脳炎,皮膚筋炎,および/または肝炎として現れる)は, X連鎖無ガンマグロブリン血症 X連鎖無ガンマグロブリン血症 X連鎖無ガンマグロブリン血症は,免疫グロブリンの低値または欠如,およびB細胞の欠如を特徴とし,莢膜を有する細菌による反復性感染症を招く。 ( 免疫不全疾患の概要および 免疫不全疾患が疑われる患者へのアプローチも参照のこと。) X連鎖無ガンマグロブリン血症は, 液性免疫不全が関与する... さらに読む などのBリンパ球の機能に異常がある患者に発生するが,それ以外の免疫不全症患者には通常発生しない。

エンテロウイルスによって引き起こされる疾患

エンテロウイルスは様々な症候群を引き起こす(エンテロウイルスによって引き起こされる症候群 エンテロウイルスによって引き起こされる症候群 エンテロウイルスによって引き起こされる症候群 の表を参照)。以下の病態は,ほぼ全例がエンテロウイルスによって引き起こされる:

無菌性髄膜炎

無菌性髄膜炎 髄膜炎の概要 は乳児および小児に最もよくみられる。乳幼児では,以下のものが原因となることが多い:

  • コクサッキーウイルスA群またはB群

  • エコーウイルス

  • ヒトパレコウイルス

より年長の小児と成人では,他のエンテロウイルスのほか,その他のウイルスが無菌性髄膜炎を引き起こす。

エンテロウイルスD68型

健康な成人も感染するが,症状はほとんどないか,無症状である。易感染状態の成人は重度の呼吸器疾患を発症することがある。

毎年,EV-D68による呼吸器感染症が少数の小児で確認されているほか,小規模なアウトブレイクが隔年で発生する傾向にある。しかしながら,2014年の夏後半から秋にかけて,米国全域で大規模なアウトブレイクが発生し,1000例以上の症例が確認された。かなりの数の小児に重度の呼吸窮迫が発生し,少数の死亡例が出た。それと同時に,呼吸器疾患後の急性弛緩性脊髄炎(AFM)と一致する脊髄病変(MRI上)を伴って四肢に局所的な筋力低下または麻痺が生じる小児症例のクラスターが複数報告され,アウトブレイクの独立した2つのクラスターのうち3分の2の症例で呼吸器検体から,また麻痺が進行している小児1例で血液検体からEV-D68が同定された。配列決定が行われたウイルスは,互いにほぼ同一で,AFMに関連することが知られているポリオウイルスおよびエンテロウイルスD70と相同性がみられたことから,EV-D68がAFMの麻痺の発生に直接関与している可能性が裏付けられた(1 総論の参考文献 エンテロウイルスは,ライノウイルス( 感冒を参照)およびヒトパレコウイルスとともに,ピコルナウイルス科(小さな[pico]RNAウイルス)に属する。ヒトパレコウイルス1型および2型は,かつてはエコーウイルス22型および23型と呼ばれていたが,現在ではパレコウイルスに再分類されている。全てのエンテロウイルスは不均一な抗原性を有... さらに読む )。米国疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)による継続的サーベイランスにより,2014年の秋にはEV-D68のアウトブレイクと時期を同じくして120例のAFMが検出された。サーベイランスはその後も継続され,2015年には1年で16例のAFMが検出されたが,この年にEV-D68の症例は報告されなかった(2 総論の参考文献 エンテロウイルスは,ライノウイルス( 感冒を参照)およびヒトパレコウイルスとともに,ピコルナウイルス科(小さな[pico]RNAウイルス)に属する。ヒトパレコウイルス1型および2型は,かつてはエコーウイルス22型および23型と呼ばれていたが,現在ではパレコウイルスに再分類されている。全てのエンテロウイルスは不均一な抗原性を有... さらに読む )。

EV-D68に関連した呼吸器疾患の別の大きなアウトブレイクが米国では2018年9月にピークに達した。CDCによる積極的なサーベイランスにより,米国のいくつかの大規模医療施設において急性呼吸器疾患のある小児患者の13.9%で同ウイルスが検出されたが,2017年の同様の患者における検出率はわずか0.08%であった。EV-D68感染患者の3分の2で入院が必要になり,この疾患の重症度が浮き彫りにされた。また,AFMの報告症例も同時に増加し,CDCが確認した症例数は2017年にはわずか35例であったのが,2018年には200例を上回り,EV-D68感染症とAFMとの関連がさらに裏付けられた(3 総論の参考文献 エンテロウイルスは,ライノウイルス( 感冒を参照)およびヒトパレコウイルスとともに,ピコルナウイルス科(小さな[pico]RNAウイルス)に属する。ヒトパレコウイルス1型および2型は,かつてはエコーウイルス22型および23型と呼ばれていたが,現在ではパレコウイルスに再分類されている。全てのエンテロウイルスは不均一な抗原性を有... さらに読む )。

EV-D68は,他では説明できない重度の呼吸器感染症の病因として考慮すべきであり,特に夏の終わりから秋にかけての症例クラスターに関連している場合はなおさらである。アウトブレイクの発生が想定される状況での特異的検査が推奨され,公衆衛生当局を介して手配することができる。

出血性結膜炎

まれに,出血性結膜炎の流行が米国で発生している。アフリカ,アジア,メキシコ,およびカリブ海地域からウイルスが輸入されることで,アウトブレイクの頻度が高まる可能性がある。

眼瞼浮腫が急速に出現する。出血性結膜炎は,合併症のない結膜炎とは異なり,しばしば結膜下出血や角膜炎を来し,眼痛,流涙,および羞明を引き起こす。全身性疾患はまれである。しかしながら,出血性結膜炎がエンテロウイルス70型による場合は,まれに一過性の腰仙部脊髄神経根障害またはポリオ様疾患(麻痺を伴う)が発生する。通常は発症から1~2週間以内に完全に回復する。

コクサッキーウイルスA24も出血性結膜炎を引き起こすが,結膜下出血の頻度は低く,神経系の合併症は報告されていない。ほとんどの患者が1~2週間で回復する。

心筋心膜炎

心臓感染症はあらゆる年齢で発生するが,多くの患者は20~39歳である。 胸痛 胸痛 胸痛は非常に一般的な愁訴である。多くの患者は,胸痛が生命を脅かす可能性がある疾患の警告であることをよく意識しており,ごく軽微な症状でも医療機関を受診する。一方で,重篤な疾患のある多くの患者を含めて,この警告を過小評価したり無視したりする患者もいる。疼痛の知覚(特徴と重症度の両方)は個人間あるいは男女間で大きく異なる。胸痛の訴えがどのような... さらに読む 不整脈 不整脈の概要 正常な心臓は規則正しく協調的に拍動するが,これは固有の電気的特性を有する筋細胞によって電気パルスが生成・伝達され,それにより一連の組織化された心筋収縮が誘発されることによって生じる。不整脈と伝導障害は,そうした電気パルスの生成,伝導,またはその両方の異常により引き起こされる。 先天的な構造異常(例,房室副伝導路)や機能異常(例,遺伝性のイ... さらに読む 不整脈の概要 心不全 心不全 心不全は心室機能障害により生じる症候群である。左室不全では息切れと疲労が生じ,右室不全では末梢および腹腔への体液貯留が生じる;左右の心室が同時に侵されることもあれば,個別に侵されることもある。最初の診断は臨床所見に基づいて行い,胸部X線,心エコー検査,および血漿ナトリウム利尿ペプチド濃度を裏付けとする。治療法としては,患者教育,利尿薬,ア... さらに読む 心不全 ,または突然死を来すことがある。通常は完全に回復するが,一部の患者は 拡張型心筋症 拡張型心筋症 拡張型心筋症は,心室拡大と収縮機能障害を主体とする心不全を引き起こす心筋機能障害である。症状としては,呼吸困難,疲労,末梢浮腫などがある。診断は臨床的に行われ,ナトリウム利尿ペプチド高値,胸部X線,心エコー検査,およびMRIによる。治療は原因に対して行う。心不全が進行性かつ重度の場合には,心臓再同期療法,植込み型除細動器,中等度から高度の... さらに読む 拡張型心筋症 を発症する。心筋心膜炎の診断には,心筋組織での逆転写PCR(RT-PCR)検査が必要になることがある。

新生児感染症

発疹

特定のコクサッキーウイルス,エコーウイルス,およびヒトパレコウイルスは,しばしば流行中に発疹を引き起こすことがある。発疹は通常そう痒を伴わず,落屑はなく,顔面,頸部,胸部,および四肢に現れる。発疹はときに斑状丘疹状または麻疹様を呈するが,出血,点状出血,または小水疱を認めることもある。発熱はよくみられる。 無菌性髄膜炎 髄膜炎の概要 が同時に発生することもある。

通常,経過は良好である。

呼吸器感染症

総論の参考文献

  • 1.Greninger AL, Naccache SN, Messacar K, et al: A novel outbreak enterovirus D68 strain associated with acute flaccid myelitis cases in the USA (2012-14): A retrospective cohort study.Lancet Infect Dis 15(6):671–682, 2015.doi: 10.1016/S1473-3099(15)70093-9.

  • 2.Sejvar JJ, Lopez AS, Cortese MM, et al: Acute flaccid myelitis in the United States, August-December 2014: Results of nationwide surveillance.Clin Infect Dis 63(6):737-745, 2016.doi: 10.1093/cid/ciw372.

  • 3.Kujawski SA, Midgley CM, Rha B, et al: Enterovirus D68-associated acute respiratory illness - New Vaccine Surveillance Network, United States, July-October, 2017 and 2018.MMWR Morb Mortal Wkly Rep 68(12):277-280,2019.doi: 10.15585/mmwr.mm6812a1.

エンテロウイルス感染症の診断

  • 臨床的評価

  • ときに培養または逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)検査

エンテロウイルス感染症の診断は通常,臨床的に行う。

臨床検査による診断は通常不要であるが,行うとすれば多くの場合,以下の検査による:

  • ウイルスの培養

  • RT-PCR法によるウイルスRNAの同定

  • ときにセロコンバージョンの証明

無菌性髄膜炎 髄膜炎の概要 を引き起こすエンテロウイルスは,咽頭拭い液,便,血液,または髄液検体の培養か,血液および髄液でのRT-PCR検査によって検出することができる。しかしながら,ヒトパレコウイルスは,エンテロウイルスを対象とする標準的なRT-PCR検査の大半では検出できず,検出するにはパレコウイルスに特異的なRT-PCR検査が必要である。呼吸器病原体を対象とする市販のマルチプレックスPCR用パネルでは,しばしばライノウイルスとエンテロウイルスを鑑別することができない。

エンテロウイルス感染症の治療

  • 支持療法

エンテロウイルスによる疾患の治療は支持療法による。

治療に関する参考文献

  • 1.Abzug MJ, Michaels MG, Wald E, et al: A randomized, double-blind, placebo-controlled trial of pleconaril for the treatment of neonates with enterovirus sepsis.J Pediatric Infect Dis Soc 5 (1):53–62, 2016.doi: 10.1093/jpids/piv015.

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