(移植の概要も参照のこと。)
肺移植または心肺同時移植は,呼吸機能不全または呼吸不全があり,最適な医療にもかかわらず死亡リスクが残る患者における選択肢の1つである。
最も頻度が高い肺移植の適応は以下のものである:
頻度の低い適応には,間質性肺障害(例,サルコイドーシス),気管支拡張症,先天性心疾患が含まれる。
心臓が関与しないほとんどの肺疾患に対して単肺および両肺の移植は等しく適している;例外は慢性で広範性の感染症(例,気管支拡張症)で,これに対しては両肺移植が最も適している。
心肺同時移植の適応は,以下の通りである:
肺性心は,肺単独移植の後に再発することが多いため,心肺同時移植が適応となることはまれである;しかしながら,ときには心肺同時移植が必要になることがある。
相対的禁忌には,年齢(単肺移植レシピエントは65歳以下,両肺移植レシピエントは60歳以下,心肺同時移植レシピエントは55歳以下でなければならない),現在喫煙,胸部手術の既往,ならびに一部の嚢胞性線維症患者,および一部の医療施設では,死亡リスクを大幅に上昇させるBurkholderia cepaciaの耐性株による肺感染などがある。
単肺および両肺移植はほぼ等しく普及しており,心肺同時移植より少なくとも8倍は多く施行されている。
肺ドナー
移植紹介のタイミング
手技
ドナーに抗凝固薬を投与して,プロスタグランジンを含んだ冷晶質保存溶液を肺動脈から肺に流す。ドナー臓器をその場で氷冷した生理食塩水スラッシュで冷却するか,または人工心肺を介して冷却してから摘出する。予防的抗菌薬投与を行うことが多い。
片肺移植
両肺移植
心肺同時移植
免疫抑制
一般的な3剤併用免疫抑制療法のレジメンでは,以下の薬剤を組み合わせる:
まず,術前に高用量を投与する;移植した肺の再灌流に先立って,手術中にしばしばメチルプレドニゾロンの静注が行われる。その後の維持療法では,用量を減量する( 移植の拒絶反応を治療するために用いられる免疫抑制薬)。
導入薬として,抗胸腺細胞グロブリン(ATG)またはアレムツズマブがしばしば投与される。これらの薬剤には,移植後の免疫抑制療法を最低限に抑える効果もある。導入療法が行われた場合,タクロリムスの単剤療法で十分であることが多い。
気管支吻合の治癒を促進するためにコルチコステロイドを割愛することがある;その代わりに,他の薬剤(例,シクロスポリン,アザチオプリン)を高用量で用いる。免疫抑制薬は無期限に継続する。
合併症
拒絶反応
免疫抑制療法にもかかわらず,ほとんどの患者で拒絶反応が起こる。症状と徴候は,超急性,急性,および慢性拒絶反応で類似しており,発熱,呼吸困難,咳嗽,SaO2(動脈血酸素飽和度)低下,およびFEV1の10~15%を超える減少などがある( カテゴリー別肝移植拒絶反応の症状)。
超急性拒絶反応は,移植手術中の虚血性損傷による早期の移植片機能不全と区別しなければならず,また急性拒絶反応は,感染症と区別しなければならない。胸部X線でみられる間質浸潤は,促進性または急性拒絶反応を起こしている患者でよくみられる。拒絶反応は通常,気管支鏡下の経気管支生検を含む気管支鏡検査によって診断する。拒絶反応が発生した場合は,生検によって小型血管の周囲にリンパ球浸潤が認められる;肺胞浸潤部の多形核白血球および感染性病原体から感染症が示唆される。静注コルチコステロイドは通常,超急性,促進性,または急性拒絶反応に効果的である。再発または抵抗性の症例の治療は多様で,より高用量のコルチコステロイド,エアロゾル化シクロスポリン,およびATGなどがある。
慢性拒絶反応は,移植後1年経過して最大50%の患者にみられる;閉塞性細気管支炎または頻度は高くないが動脈硬化として発現する。急性拒絶反応により慢性拒絶反応のリスクが高まることがある。閉塞性細気管支炎を発症した患者では,咳嗽,呼吸困難,ならびに気道経路の理学的および放射線学的所見の有無にかかわらず,FEF25-75%またはFEV1の低下がみられる。鑑別診断には肺炎が含まれる。診断は通常,生検を含めた気管支鏡検査による。効果的であることが証明された治療法はないが,選択肢として,コルチコステロイド,ATG,吸入型シクロスポリン,および再移植などがある。
手術の合併症
予後
患者の生存率は以下の通りである:
死亡率は,原発性肺高血圧症,特発性肺線維症,またはサルコイドーシスの患者でより高く,COPDまたはα1-アンチトリプシン欠乏症の患者でより低い。死亡率は,単肺移植の方が両肺移植より高い。
死亡で最も多い原因は以下のものである:
死亡の危険因子には,サイトメガロウイルス感染の不一致(ドナーが陽性,レシピエントが陰性),ヒト白血球抗原(HLA-DR)不適合,糖尿病,および以前に機械的人工換気または強心薬による補助が必要であったことなどがある。
まれに,元の疾患,特に一部の間質性肺疾患が再発する。運動耐容量は,過換気反応のためにわずかに制限される。
心肺同時移植で,1年後の全生存率(または全生着率)は患者および移植片ともに60%である。