抗リン脂質抗体症候群(APS)

(抗カルジオリピン抗体症候群;ループスアンチコアグラント症候群)

執筆者:Joel L. Moake, MD, Baylor College of Medicine
レビュー/改訂 2021年 1月
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抗リン脂質抗体症候群は自己免疫疾患であり,患者にはリン脂質結合タンパク質に対する自己抗体がみられる。静脈または動脈に血栓が生じることがある。病態生理は正確にはわかっていない。診断は血液検査による。予防および治療にはしばしば抗凝固薬が用いられる。

血栓性疾患の概要も参照のこと。)

抗リン脂質抗体症候群(APS)は,1つまたは複数のリン脂質結合タンパク質(例,β2糖タンパク質1,プロトロンビン,アネキシンA5)に対する種々の抗体によって引き起こされる自己免疫疾患であり,血栓症と(妊娠中の)胎児死亡がみられる。

アネキシンA5はリン脂質の膜成分に結合し,凝固系活性化への細胞膜の関与を阻止している。自己抗体がアネキシンA5に取って代わると,凝血促進作用のある内皮細胞表面が露出し,動脈または静脈血栓症が誘発される可能性がある。

リン脂質に結合したβ2糖タンパク質1に対する自己抗体がみられる患者における血栓形成の正確な機序は不明である。

In vitroの凝固検査の結果では,検査開始時にリン脂質成分を血漿に加えると,リン脂質結合タンパク質に対する自己抗体が凝固因子の集合および活性化を妨げるため,逆に凝固が遅延する場合がある。ループスアンチコアグラントは,リン脂質結合タンパク質複合体に結合する自己抗体である。全身性エリテマトーデス(SLE)の患者で初めて認められたが,現在,この自己抗体をもつ人の中でSLE患者の占める割合は小さい。

静脈または動脈血栓症の別の症状がみられることもある。リン脂質に結合したプロトロンビンに対する自己抗体がみられる患者では,循環血中のプロトロンビン値が出血リスクを増大させるレベルにまで低下している場合がある。血小板減少症がみられる患者もいる。

劇症型抗リン脂質抗体症候群

ごく少数のAPS患者では,複数の臓器に血液を供給する細い血管に広範な血栓症が生じる(しばしば脳を含み,神経脱落症状が引き起こされる)。この症候群は劇症型抗リン脂質抗体症候群(CAPS)と呼ばれ,播種性血管内凝固症候群(DIC),ヘパリン起因性血小板減少症(HIT),および血栓性微小血管症(TMA)と混同されることがある。治療法としては,高用量のコルチコステロイド,抗凝固療法,プラズマフェレーシスなどがあるほか,ときにリツキシマブ(抗CD20モノクローナル抗体)またはエクリズマブ(抗補体成分C5モノクローナル抗体)も使用される。

抗リン脂質抗体症候群の診断

  • 臨床検査,部分トロンボプラスチン時間(PTT)から開始

侵襲的手技の施行が予測される患者または原因不明の出血もしくは凝固を認める患者では,PTT検査を実施する。PTTの延長がみられ,正常な血漿と1:1で混合しても直ちに是正されないが,過量のリン脂質を加えると正常に戻る場合は,ループスアンチコアグラントを疑う。

次に,リン脂質/β2糖タンパク質1複合体に結合するIgGおよびIgM抗体の免疫測定法により患者血漿中の抗リン脂質抗体を直接測定する。

抗リン脂質抗体症候群の治療

  • 抗凝固療法

ヘパリン,ワルファリン(妊婦を除く),およびアスピリンが予防および治療に使用されている。

トロンビン(ダビガトラン)または第Xa因子(例,リバーロキサバン,アピキサバン)を阻害する直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)が本疾患に対してヘパリンまたはワルファリンの代わりに使用できる可能性があるが,依然として確実ではない。

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