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サラセミア

(地中海貧血;サラセミアメジャーおよびマイナー)

執筆者:

Evan M. Braunstein

, MD, PhD, Johns Hopkins University School of Medicine

最終査読/改訂年月 2019年 3月
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サラセミアは,ヘモグロビン合成障害を特徴とする先天性小球性溶血性貧血の一群である。αサラセミアは,アフリカ,地中海沿岸,または東南アジアに祖先をもつ人々に特に多くみられる。βサラセミアは,地中海沿岸,中東,東南アジア,またはインドに祖先をもつ人々に多くみられる。症状および徴候は,貧血,溶血,脾腫,骨髄過形成の加え,輸血を複数回経験している場合は鉄過剰に起因する。診断は遺伝子検査およびヘモグロビンの定量分析に基づく。重症型に対する治療として,輸血,脾臓摘出,キレート療法,および幹細胞移植がある。

病態生理

サラセミアは,異常ヘモグロビン症 異常ヘモグロビン症の概要 異常ヘモグロビン症は,ヘモグロビン分子の構造または産生に影響を及ぼす遺伝性疾患である。 ヘモグロビン分子はポリペプチド鎖で構成され,ポリペプチド鎖の化学構造は遺伝的に制御されている。電気泳動の移動度で識別される各種ヘモグロビンは,発見された順にアルファベット(例,A,B,C)で命名されているが,最初に発見された異常ヘモグロビンである鎌状赤血球ヘモグロビンは,ヘモグロビンSと命名された。... さらに読む であり,最も一般的な先天性ヘモグロビン産生障害の1つである。正常な成人型ヘモグロビン分子(ヘモグロビンA)は,α鎖およびβ鎖と命名された2組の分子鎖から構成される。正常な成人の血液には,2.5%以下の割合でヘモグロビンA2(α鎖とδ鎖から成る)も,また2%未満の割合でヘモグロビンF(胎児型ヘモグロビン,β鎖の部位をγ鎖が占めている)も含まれている。サラセミアは,グロビンのポリペプチド鎖(β,α,γ,δ)のうち1つ以上の産生低下に起因するヘモグロビン合成の不均衡によりもたらされる。

αサラセミア

αサラセミアは,α遺伝子の欠失によりαポリペプチド鎖の産生が低下することで発生する。α遺伝子は複製されているため,健常者は4つのαアレルをもっている(1対の染色体のそれぞれに2つずつ)。疾患の分類は欠失の数および位置に基づく:

  • α+サラセミア:1つの染色体上の1つの遺伝子が欠失(α/--)

  • α0サラセミア:同じ染色体上の両方の遺伝子が欠失(--/--)

βサラセミア

βサラセミアは,βグロビン遺伝子の変異または欠失によりヘモグロビンβポリペプチド鎖の産生が低下することで発生し,結果としてヘモグロビンAの産生障害が生じる。変異または欠失により,βグロビンの部分的な機能喪失(β+アレル)または完全な機能喪失(β0アレル)が生じる。βグロビン遺伝子は2つあり,患者の変異はヘテロ接合性,ホモ接合性,複合ヘテロ接合性の場合がある。加えて,2つの異なるグロビン遺伝子(例,βとδ)の異常についてのヘテロ接合体またはホモ接合体である可能性もある。

βδサラセミアは,βサラセミアの比較的まれな亜型であり,δ鎖とβ鎖の両方の産生が障害される。これらの変異はヘテロ接合性の場合もホモ接合性の場合もある。

症状と徴候

サラセミアの臨床的特徴はいずれも類似しているが,正常ヘモグロビンの量に応じて重症度が異なる。

αサラセミア

α+アレルを1つだけ有する(α/α;α/--)患者は,臨床的に正常であり,サイレント保因者と呼ばれる。

α+アレルが2つ(α/--;α/--)またはα0アレルが1つ(α/α;--/--)など,4つの遺伝子のうち2つに欠損があるヘテロ接合体は,自覚症状のない軽度から中等度の小球性貧血を引き起こす傾向がある。このような患者はαサラセミアトレイト(形質)の保有者である。

α+とα0の共遺伝により4遺伝子中3つの欠陥(α/--;--/--)が生じると,α鎖の産生が重度に阻害される。その結果,ヘモグロビンHと呼ばれるβ鎖の四量体か,乳児の場合はヘモグロビンBartと呼ばれるγ鎖の四量体が過剰に形成される。ヘモグロビンH症の患者では,症候性の溶血性貧血および脾腫がしばしばみられる。

α鎖を欠いたヘモグロビンは酸素を輸送しないため,α0アレル2つ(--/--;--/--)により4つの遺伝子が全て欠損すると,子宮内で死に至る(胎児水腫)。

βサラセミア

βサラセミアでは,βグロビンの産生障害の程度によって臨床的な表現型が3つのグループに分類される:

  • マイナー(またはトレイト)

  • 中間型

  • メジャー

βサラセミアマイナー(トレイト)は,ヘテロ接合体(β/β+またはβ/β0)に生じ,通常は自覚症状がなく,軽度から中等度の小球性貧血がみられる。この表現型は,β+/β+の軽度の症例でみられることもある。

βサラセミア中間型は,サラセミアメジャーとマイナーの中間の様々な臨床像を生じ,これは2つのβサラセミアアレル(β+/β0またはβ+/β+重症例)の遺伝により引き起こされる。

βサラセミアメジャー(またはCooley貧血)は,ホモ接合体(β0/β0)または重度の複合ヘテロ接合体(β0/β+)に生じ,重度のβグロビンの欠乏に起因する。そのような患者では,重度の貧血および骨髄の造血亢進が生じる。βサラセミアメジャーは,1~2歳までに発症し,重度の貧血に加え,輸血および吸収増加による鉄過剰症を呈する。黄疸がみられ,下肢潰瘍および胆石症が生じる(鎌状赤血球症 鎌状赤血球症 鎌状赤血球症(異常ヘモグロビン症)は,ほぼ黒人だけに生じる慢性溶血性貧血である。ヘモグロビンS遺伝子がホモ接合性に遺伝することによって生じる。鎌状の赤血球は血管の閉塞を引き起こし,溶血を起こしやすいことから,重度の疼痛発作,臓器虚血,および他の全身性合併症につながる。急性増悪(クリーゼ)が頻繁に起こることがある。感染症,骨髄無形成,または肺病変(急性胸部症候群)を急性発症し,死に至ることがある。貧血がみられ,通常は末梢血塗抹標本で鎌状赤... さらに読む 鎌状赤血球症 と同様)。脾腫が多くみられ,しばしば巨大となる。Splenic sequestrationが生じ,輸血した正常赤血球の破壊が促進されることがある。骨髄の造血亢進は,頭蓋骨の肥厚および頬骨の隆起を引き起こす。長管骨の障害は,病的骨折および成長障害に加え,場合により思春期の遅延または欠如の素因となる。

診断

  • 溶血性貧血が疑われる場合に,その評価

  • 末梢血塗抹標本

  • ヘモグロビン電気泳動

  • DNA検査(出生前診断)

サラセミアトレイトは,ルーチンの末梢血塗抹標本および血算で小球性貧血および赤血球数増加で発見されることが多い。希望がある場合は,ヘモグロビンの定量分析によりβサラセミアトレイトの診断を確定できる。介入は必要ないが,女性では妊娠により貧血が悪化する可能性がある。

より重度のサラセミアは,家族歴を有する患者,示唆的な症状もしくは徴候がみられる患者,または小球性溶血性貧血の患者で疑われる。サラセミアが疑われる場合,小球性貧血および溶血性貧血に関する臨床検査およびヘモグロビンの定量分析を行う。血清ビリルビン,鉄,およびフェリチンは高値となる。

αサラセミアでは,ヘモグロビンFおよびヘモグロビンA2の割合が概ね正常で,遺伝子欠損が1つまたは2つのサラセミアの診断は,比較的新しい遺伝子検査を用いて行われることがある。診断は小球性貧血の他の原因を除外することによる場合が多い。

βサラセミアメジャーでは,貧血が重度で,しばしばヘモグロビンが6g/dL(60g/L)以下である。赤血球が極めて小球性であるため,赤血球数はヘモグロビン値と比べて相対的に上昇する。血液塗抹標本でほぼ診断可能であり,多数の有核赤芽球,標的赤血球,小型蒼白赤血球,および点状でびまん性の好塩基性亢進がみられる。

ヘモグロビンの定量分析では,ヘモグロビンA2の増加によりβサラセミアマイナーが診断可能である。βサラセミアメジャーでは,通常ヘモグロビンFが増加して,ときに90%に達することもあり,ヘモグロビンA2も通常は3%を超える増加を示す。

ヘモグロビンH症は,ヘモグロビン電気泳動で移動の速いヘモグロビンHまたはヘモグロビンBartの分画を証明することにより診断可能である。特異的な分子生物学的異常の特徴を明らかにできるが,それによって臨床的アプローチが変わることはない。

出生前診断および遺伝カウンセリングでは,遺伝子マッピングによる組換えDNAを用いるアプローチ(特にポリメラーゼ連鎖反応法[PCR法])が標準となっている。

貧血に対して骨髄検査を行った場合(例,他の原因を除外するため),著明な赤血球過形成がみられる。βサラセミアメジャー患者において他の理由でX線検査を行った場合,慢性的な骨髄機能亢進による変化がみられる。頭蓋骨では,骨皮質の菲薄化,板間層の拡大,太陽光線様の骨梁形成,および顆粒状またはスリガラス状の外観を呈することがある。長管骨では,骨皮質の菲薄化,骨髄腔の拡大,および骨粗鬆症の領域がみられることがある。椎体では,顆粒状またはスリガラス状の外観を呈することがある。指節骨では,長方形または両凸形を呈することがある。

予後

βサラセミアマイナーまたはαサラセミアマイナーの患者では,期待余命は正常である。ヘモグロビンH症およびβサラセミア中間型の予後は様々である。

βサラセミアメジャー患者の期待余命は短く,その主な理由は長期的な輸血の合併症である。

治療

  • しばしば赤血球輸血,場合により鉄キレート療法を併用

  • 脾腫がある場合は脾臓摘出

  • 可能な場合,同種造血幹細胞移植

αサラセミアトレイトまたはβサラセミアトレイトの患者では,治療は必要ない。

ヘモグロビンH症では,貧血が重度の場合または脾腫がある場合に脾臓摘出が役立つことがある。

鉄過剰による合併症の予防または遅延のため,過剰の(輸血による)鉄は除去しなければならない(例,長期的な鉄キレート療法 治療 二次性鉄過剰症は,特に赤血球産生障害の患者における過剰な鉄吸収,頻回の輸血,または過剰な鉄摂取に起因する。結果として,全身症状,肝疾患,心筋症,糖尿病,勃起障害,および関節障害がみられることがある。診断は,血清フェリチン,鉄,およびトランスフェリン飽和度の高値により行う。鉄キレート薬による治療が一般的である。 (鉄過剰症の概要も参照のこと。) 二次性鉄過剰症は,典型的に以下の患者にみられる:... さらに読む )。キレート療法は,一般的に血清フェリチン値が1000ng/mL(1000μg/L)を上回ったときか,または約1~2年にわたる定期的な輸血の後に開始する。脾臓摘出は,有意な脾腫がみられる患者で輸血の必要性を減らすのに役立つ場合がある。

要点

  • サラセミアは,グロビンの1種類以上のポリペプチド鎖(β,α,γ,δ)の産生低下に起因する;その結果生じた異常赤血球は小球性で,しばしば異常な形状を有し,溶血を生じやすい(貧血を引き起こす)。

  • 脾腫(しばしば巨大)がよくみられ,それによりsplenic sequestrationが生じて赤血球(輸血された赤血球を含む)の破壊が加速することがある。

  • 吸収亢進(赤血球産生障害による)と頻回の輸血のために,鉄過剰が多くみられる。

  • ヘモグロビン電気泳動を用いて診断する。

  • 必要に応じて輸血を行うが,鉄過剰をモニタリングしながらキレート療法を行う。

  • 脾臓摘出は,脾腫がみられる患者で輸血の必要性を減らすのに役立つ場合がある。

  • 同種造血幹細胞移植により治癒が得られる。

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