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酸塩基平衡障害

執筆者:

James L. Lewis, III

, MD, Brookwood Baptist Health and Saint Vincent’s Ascension Health, Birmingham

最終査読/改訂年月 2016年 5月
本ページのリソース

酸塩基の調節も参照のこと。)

酸塩基平衡障害は,動脈血のpHおよび二酸化炭素分圧(Pco2)と血清中の重炭酸イオン(HCO3)濃度が病的に変化した状態である。

  • アシデミアは血清pHが7.35未満の状態である。

  • アルカレミアは血清pHが7.45を上回ることである。

  • アシドーシスは酸の蓄積またはアルカリの欠乏を引き起こす生理的過程を指す。

  • アルカローシスはアルカリの蓄積または酸の欠乏を引き起こす生理的過程を指す。

pHの実際の変化は,生理的代償の程度や,複数の過程が存在するかどうかに左右される。

分類

一次性の酸塩基平衡異常は,臨床状況のほか,pHの一次性変化が血清中HCO3の変化かPco2の変化のいずれに起因するかに基づいて,代謝性または呼吸性と定義される。

代謝性アシドーシスでは,血清HCO3 は24mEq/L未満である。原因は以下のものである:

  • 酸の産生増加

  • 酸の摂取

  • 腎臓からの酸排泄減少

  • 消化管または腎臓からのHCO3喪失

代謝性アルカローシスでは,血清HCO3は24mEq/Lを上回る。原因は以下のものである:

  • 酸の喪失

  • HCO3の貯留

呼吸性アシドーシスでは,Pco2は40mmHgを上回る(高炭酸ガス血症)。原因は以下のものである:

  • 分時換気量の減少(低換気)

呼吸性アルカローシスではPco2は40mmHg未満である(低炭酸ガス血症)。原因は以下のものである:

  • 分時換気量の増加(過換気)

酸塩基平衡障害が存在する場合は常に,pHを是正する代償機構が働きはじめる( 単純性酸塩基平衡障害における一次性変化および代償)。代償ではpHを完全に正常化できず,オーバーシュートすることは決してない。

単純性酸塩基平衡障害とは,代償反応を伴う単一の酸塩基平衡異常である。

混合性酸塩基平衡障害は2つ以上の一次性障害からなる。

パール&ピットフォール

  • 酸塩基平衡異常に対する代償機構では,pHを完全には正常化できず,オーバーシュートすることは決してない。

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単純性酸塩基平衡障害における一次性変化および代償

一次性病態

pH

重炭酸イオン(HCO3

Pco2

予想される

代償性変化

代謝性アシドーシス

< 7.35

一次性の減少

代償性の低下

HCO3の1 mmol/Lの減少につき,Pco2の1.2mmHgの低下

  または*

Pco2= (1.5 × HCO3) + 8 (± 2)

  または

Pco2= HCO3+ 15

または

Pco2= pHの下2桁 × 100

代謝性アルカローシス

> 7.45

一次性の増加

代償性の上昇

HCO3の1 mmol/Lの増加につき,Pco2の0.6~0.75mmHgの上昇(Pco2が代償性に55mmHgを超えて上昇することはない)

呼吸性アシドーシス

< 7.35

代償性の増加

一次性の上昇

急性:Pco2の10mmHgの上昇につき,HCO3の1~2mmol/Lの増加

慢性:Pco2の10mmHgの上昇につき,HCO3の3~4mmol/Lの増加

呼吸性アルカローシス

> 7.45

代償性の減少

一次性の低下

急性:Pco2の10mmHgの低下につき,HCO3の1~2mmol/Lの減少

慢性:Pco2の10mmHgの低下につき,HCO3の4~5mmol/Lの減少

*正確ではないが,便利な経験則である。

症状と徴候

酸塩基平衡障害でも代償性のものや軽度のものでは,症状や徴候はほとんどない。重度の非代償性障害では,心血管,呼吸器,神経,および代謝系が複数侵される( 酸塩基平衡障害の臨床的影響および 酸素解離曲線)。

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酸塩基平衡障害の臨床的影響

臓器系

アシデミア

アルカレミア

心血管系

心臓の収縮能障害

細動脈の拡張

静脈収縮

中心性血液貯留

肺血管抵抗の上昇

心拍出量の減少

全身血圧の低下

肝・腎血流の低下

不整脈の閾値低下

カテコールアミンに対する反応性の減弱

細動脈の収縮

冠血流の低下

狭心症の閾値低下

不整脈の閾値低下

代謝系

インスリン抵抗性

嫌気性解糖の阻害

ATPの合成低下

高カリウム血症

タンパクの分解

骨の脱灰(慢性)

嫌気性解糖の刺激

有機酸の形成

酸化型ヘモグロビンの解離減少

イオン化カルシウムの減少

低カリウム血症

低マグネシウム血症

低リン血症

神経系

代謝および細胞容積調節の阻害

昏睡を含む意識障害

テタニー

痙攣発作

嗜眠

せん妄

昏迷

呼吸器系

代償性の過換気により,呼吸筋の疲労を来すことがある

代償性の低換気による高炭酸ガス血症および低酸素血症

診断

  • 動脈血ガス

  • 血清電解質

  • アニオンギャップの算出

  • 代謝性アシドーシスが存在する場合,デルタギャップを算出し,Winterの式を適用する

  • 代償性変化の検索

評価は動脈血ガスおよび血清電解質による。動脈血ガスにより,動脈血のpHおよびPco2を直接測定する。動脈血ガスのHCO3濃度はHenderson-Hasselbalchの式を用いて算出する;血清生化学検査では,HCO3濃度を直接測定できるため,計算値との乖離がみられる場合はこちらの方がより正確である。動脈血のpHおよびPco2を測定することにより,酸塩基平衡の最も正確な評価ができる。しかし循環不全がみられる場合または心肺蘇生時には,静脈血の測定値の方が組織レベルの状態をより正確に反映する可能性があり,重炭酸の投与の決定や,適切な換気が行われているか判断する際の有用な指標となりうる。

pHによって一次性の病態(アシドーシスまたはアルカローシス)が決まるが,pHは代償によって正常範囲に近づく。Pco2の変化は呼吸性成分を,HCO3の変化は代謝性成分を反映する。

混合性の酸塩基平衡異常では,複数の一次過程が関与する。こうした混合性の障害では,数値が一見正常な場合がある。そのため,酸塩基平衡障害を評価する際には,Pco2およびHCO3の変化が予測される代償変化に当てはまるかを判定することが重要である( 単純性酸塩基平衡障害における一次性変化および代償)。予測される代償性変化が生じていない場合,別の一次過程が異常な代償を引き起こしていることを疑うべきである。解釈の際には臨床状態(例,慢性肺疾患,腎不全,薬剤の過量投与)も考慮しなければならない。

アニオンギャップアニオンギャップ)は必ず算出すべきであり,その上昇はほぼ常に代謝性アシドーシスを示す。アニオンギャップが正常で,HCO3の低値(例,< 24mEq/L)と血清クロール(Cl)の高値を伴う場合は,アニオンギャップ正常の(高クロール性)代謝性アシドーシスが示唆される。代謝性アシドーシスが存在するならば,デルタギャップを算出して( アニオンギャップ)代謝性アルカローシスが随伴するかを明らかにし,Winterの式を使用して呼吸性の代償が適正であるか,それとも別の酸塩基平衡障害を反映しているのかを判定する(推定Pco2 = 1.5[HCO3+ 8 ± 2; Pco2がこの推定値より高ければ一次性呼吸性アシドーシスが併存し,これより低ければ呼吸性アルカローシスが併存する)。

アニオンギャップ

アニオンギャップとは,血清中ナトリウム(Na)濃度から塩化物イオン(Cl)濃度と重炭酸イオン(HCO3)濃度の合計を差し引いたもの(Na+ (Cl+ HCO3))と定義される。

電気的中性の原理によると,開放系において陽電荷と負電荷の数は同じでなければならないため,「ギャップ」という用語は紛らわしい;一部の陽イオン(+)および陰イオン(−)はルーチンの臨床生化学検査では測定されないため,臨床検査ではギャップが発生する。すなわち,

Na++ 未測定陽イオン(UC) = Cl+ HCO3+ 未測定陰イオン(UA)

また,

アニオンギャップは,Na+ (Cl+ HCO3= UAUC

「未測定」陰イオンの大半はリン酸(PO43),硫酸(SO4),負電荷をもつ種々のタンパク,および一部の有機酸であり,20~24mEq/Lを占める。細胞外の「未測定」陽イオンの大半はカリウム(K+),カルシウム(Ca2+),マグネシウム(Mg2+)であり,約11mEq/Lを占める。したがって,典型的なアニオンギャップは,23 11 = 12mEq/Lである。アニオンギャップは,UCまたはUAの増減に影響されうる。

アニオンギャップの増加は,代謝性アシドーシスの中でも,負電荷をもつ酸(大半がケトン体,乳酸,硫酸,またはメタノール,エチレングリコール,もしくはサリチル酸の代謝物)がHCO3を消費する(すなわち,緩衝される)場合に引き起こされることが最も多い。アニオンギャップの増加のその他の原因には,高アルブミン血症および尿毒症(陰イオンの増加)ならびに低カルシウム血症または低マグネシウム血症(陽イオンの減少)などがある。

アニオンギャップの減少は代謝性アシドーシスには関連しないが,低アルブミン血症(陰イオンの減少);骨髄腫でみられる高カルシウム血症,高マグネシウム血症,リチウム中毒,および高ガンマグロブリン血症(陽イオンの増加);または過粘稠もしくはハロゲン化物(臭化物またはヨウ化物)中毒により引き起こされる。低アルブミンの影響を考慮するには,アルブミンの1g/dLの減少につき,アニオンギャップの正常範囲を2.5mEq/L低値に調整する。

まれにアニオンギャップの値が負になることがあるが,これは高ナトリウム血症,高脂血症,および臭化物中毒の重症例において,臨床検査のアーチファクトとして認められる。

デルタギャップ:患者のアニオンギャップと正常なアニオンギャップの差をデルタギャップと呼ぶ。アニオンギャップが1増加する毎にHCO3が(緩衝により)1減少するため,デルタギャップの値はHCO3の値に相当するとみなされる。したがって,測定されたHCO3にデルタギャップを足すと,HCO3の値は正常範囲内に入る;値が正常範囲を超えていれば,さらに代謝性アルカローシスも存在することを示す。

例:嘔吐を伴い重症感がある(ill-appearing)アルコール依存症患者に,以下の臨床検査結果が認められる。

Na:137,K:3.8,Cl:90,HCO3:22

pH:7.40,Pco2:41,Po2:85

一見すると,結果に特筆すべき点はないようである。しかしながら,計算すると以下の通りアニオンギャップが上昇していることがわかる:

137 (90 + 22) = 25(正常,10~12)

これは代謝性アシドーシスを示す。Winterの式により呼吸性代償を評価する:

推定Pco2= 1.5(22) + 8 ± 2 = 41 ± 2

推定値 = 測定値であるため,呼吸性代償は適切である。

代謝性アシドーシスが存在するため,デルタギャップを算出し,その結果をHCO3の測定値に足す:

25 10 = 15

15 + 22 = 37

その結果得られた是正後のHCO3はHCO3の正常範囲を上回っており,一次性代謝性アルカローシスも存在することを示している。したがって,この患者には混合性酸塩基平衡障害がある。臨床情報を用いれば,アルコール性ケトアシドーシスに起因する代謝性アシドーシスと,反復性嘔吐によるClおよび体液量喪失に起因する代謝性アルカローシスが共存しているという仮説を立てられる可能性がある。

Pco2が40mmHgを上回ると呼吸性アシドーシスが示唆される;Pco2の上昇が4~12時間維持される場合の10mmHg上昇毎に,HCO3の3~4mEq/Lの上昇により迅速な代償が行われなければならない(上昇がない,または上昇が1~2mEq/L程度で,3~4mEq/Lになるまで数日かかることもある)。HCO3の上昇幅がより大きい場合は,一次性代謝性アルカローシスを示す;上昇幅がより小さい場合は,代償時間の不足,または一次性代謝性アシドーシスが共存することを示唆する。

HCO3が28mEq/Lを上回ると代謝性アルカローシスが示唆される。HCO3が1mEq/L上昇する毎に,Pco2の約0.6~0.75mmHgの上昇により代償が行われなければならない(最大約55mmHg)。上昇幅がより大きい場合は呼吸性アシドーシスの共存を,より小さい場合は呼吸性アルカローシスの共存を示す。

Pco2が38mmHg未満であれば呼吸性アルカローシスが示唆される。Pco2が10mmHg低下する毎に,HCO3の5mEq/Lの低下により,4~12時間かけて代償が行われなければならない。低下幅がより小さい場合は,代償の時間の不足,または一次性代謝性アルカローシスの併存を意味する。低下幅がより大きい場合は一次性代謝性アシドーシスを示す。

ノモグラム(酸塩基マップ)は混合性障害を診断する代替法であり,これを用いればpH,HCO3,およびPco2を同時にプロットできる。

要点

  • アシドーシスおよびアルカローシスは,酸および/またはアルカリの蓄積または喪失を引き起こす生理的過程を指す;血中pHが異常なこともあれば異常でないこともある。

  • アシデミアおよびアルカレミアは,血清pHが異常に酸性(pH < 7.35)またはアルカリ性(pH > 7.45)であることをいう。

  • 酸塩基平衡障害は,pHの変化が血清HCO3の一次性変化に起因する場合は代謝性,Pco2の一次性変化(換気の増加または減少)に起因する場合は呼吸性に分類される。

  • pHによって一次過程(アシドーシスまたはアルカローシス)が決まり,Pco2の変化が呼吸性成分を反映し,HCO3の変化が代謝性成分を反映する。

  • 全ての酸塩基平衡異常で代償が起こり,それによりpHが正常化される傾向がある。代謝性の酸塩基平衡障害があると呼吸性代償(Pco2の変化)が起こり,呼吸性の酸塩基平衡障害があると代謝性代償(HCO3の変化)が起こる。

  • 複数の一次性酸塩基平衡障害が同時に存在する場合がある。一次性酸塩基平衡障害の全てを特定し,それらに対処することが重要である。

  • 臨床検査によって最初に酸塩基平衡障害を評価する際は,動脈血ガスおよび血清電解質ならびにアニオンギャップの算出などを行う。

  • いくつかある式のいずれか,経験則または酸塩基ノモグラムを使用して,臨床検査の値が単一の酸塩基平衡障害(と代償)に一致するかどうか,または別の一次性酸塩基平衡障害が併存するかどうかを判定する。

  • 全ての一次性酸塩基平衡障害を治療する。

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