(酸塩基の調節 酸塩基の調節 代謝過程では酸,およびより少量の塩基が持続的に産生される。水素イオン(H+)は特に反応性が高い;これは負電荷をもつタンパク質に接着し,高濃度ではタンパク質全体の電荷,構造,機能を変えてしまうこともある。細胞の機能を維持するために,生体は血中H+濃度を狭い範囲内に維持する精巧な機序を備えており,そ... さらに読む および 酸塩基平衡障害 酸塩基平衡障害 酸塩基平衡障害は,二酸化炭素分圧(Pco2)または血清中の重炭酸イオン(HCO3−)濃度が病的に変化した状態であり,その結果,典型的には動脈血のpHが異常値を示す。 アシデミアは血清pHが7.35未満の状態である。 アルカレミアは血清pHが7.45を上回ることである。 アシドーシスは酸の蓄積またはアルカリの欠乏を引き起こす生理的過程を指す。 アルカローシスはアルカリの蓄積または酸の欠乏を引き起こす生理的過程を指す。 さらに読む も参照のこと。)
病因
代謝性アルカローシスは,以下による重炭酸イオン(HCO3−)の蓄積である:
酸の喪失
アルカリの投与
腎臓へのHCO3−の貯留
HCO3−は正常では腎臓によって自由に濾過され,したがって自由に排泄されるため,最初の原因にかかわらず,代謝性アルカローシスの持続は腎臓でのHCO3−再吸収の増加を示す。HCO3−再吸収を増大させる刺激として最も多いものは体液量減少および低カリウム血症であるが,アルドステロンまたはミネラルコルチコイド(ナトリウム[Na]の再吸収ならびにカリウム[K]および水素イオン[H+]の排泄を促進する)が増加するあらゆる病態でHCO3−は増加しうる。したがって,低カリウム血症は代謝性アルカローシスの原因であると同時にしばしば結果でもある。
代謝性アルカローシスの最も一般的な原因は以下のものである:
体液量減少(特に反復性嘔吐または経鼻胃管吸引による胃酸および塩化物イオン[Cl]の喪失があるとき)
利尿薬の使用
その他の原因( Professional.see table 代謝性アルカローシスの原因 代謝性アルカローシスの原因 )として,以下を引き起こす疾患がある:
腎臓からの酸の喪失
重炭酸イオンの過剰
代謝性アルカローシスには以下の2種類がある:
Cl反応性:Clの喪失または過剰分泌を伴う;通常は,NaClを含む輸液の静注によって是正される。
Cl不応性:NaClを含む輸液の静注では是正されず,通常は重度のマグネシウムおよび/またはカリウム欠乏,あるいはミネラルコルチコイド過剰を伴う。
これら2つの病型は併存することがあり,例えば体液量過剰の患者に投与した高用量の利尿薬が低カリウム血症を引き起こした場合になどにみられる。
症状と徴候
軽度アルカレミアの症状および徴候は,通常は基礎疾患と関連している。より重度のアルカレミアではカルシウム(Ca2+)へのタンパク質結合が亢進して, 低カルシウム血症 低カルシウム血症 低カルシウム血症とは,血漿タンパク質濃度が正常範囲内にある場合に血清総カルシウム濃度が8.8mg/dL(2.20mmol/L)未満であること,または血清イオン化カルシウム濃度が4.7mg/dL(1.17mmol/L)未満となった状態である。原因には,副甲状腺機能低下症,ビタミンD欠乏症,および腎疾患がある。症状としては,錯感覚,テタニーのほか,重度であれば痙攣,脳症,心不全などがある。診断には,血清アルブミン値で補正された血清カルシウム... さらに読む およびそれに続く頭痛,嗜眠,神経筋の興奮性亢進を来し,ときにせん妄,テタニー,痙攣発作を伴う。アルカレミアは狭心症症状および不整脈の閾値も下げる。共存する低カリウム血症が脱力を引き起こすことがある。
診断
動脈血ガスおよび血清電解質
原因の診断は通常臨床的に行う
ときに,尿中のCl−およびK+の測定
代謝性アルカローシスおよび適正な呼吸性代償の確認は, Professional.page numonly 診断 診断 酸塩基平衡障害は,二酸化炭素分圧(Pco2)または血清中の重炭酸イオン(HCO3−)濃度が病的に変化した状態であり,その結果,典型的には動脈血のpHが異常値を示す。 アシデミアは血清pHが7.35未満の状態である。 アルカレミアは血清pHが7.45を上回ることである。 アシドーシスは酸の蓄積またはアルカリの欠乏を引き起こす生理的過程を指す。 アルカローシスはアルカリの蓄積または酸の欠乏を引き起こす生理的過程を指す。 さらに読む で考察されており,動脈血ガスおよび血清電解質(CaおよびMgを含む)の測定を必要とする。
一般的な原因は病歴および身体診察から明らかになることが多い。病歴から明らかにならず腎機能が正常であれば,尿中のCl−濃度およびK+濃度を測定する(腎機能不全の患者ではこれらの測定値は診断に役立たない)。
尿中のClが20mEq/L未満であれば,腎臓で著明なCl−の再吸収があり,したがって原因はCl反応性であることが示唆される( Professional.see table 代謝性アルカローシスの原因 代謝性アルカローシスの原因
)。
尿中のClが20mEq/Lを上回っていれば,クロール不応性の病型が示唆される。
尿中Kおよび高血圧の有無はクロール不応性アルカローシスの鑑別に役立つ。
尿中K30mEq/日未満は低カリウム血症または緩下薬の誤用を意味する。
高血圧のない患者で尿中Kが30mEq/日を上回れば,利尿薬の乱用, バーター症候群 バーター症候群およびギテルマン症候群 バーター症候群とギテルマン症候群は,腎臓でのカリウム,ナトリウム,クロール,および水素イオンの喪失,低カリウム血症,高血圧を伴わない高レニン血症および高アルドステロン症,代謝性アルカローシスなど,体液,電解質,尿,およびホルモンの異常を特徴とする。所見としては,電解質や発育の異常のほか,ときに神経筋症状もみられる。診断は尿中電解質測定とホ... さらに読む ,または ギテルマン症候群 バーター症候群およびギテルマン症候群 バーター症候群とギテルマン症候群は,腎臓でのカリウム,ナトリウム,クロール,および水素イオンの喪失,低カリウム血症,高血圧を伴わない高レニン血症および高アルドステロン症,代謝性アルカローシスなど,体液,電解質,尿,およびホルモンの異常を特徴とする。所見としては,電解質や発育の異常のほか,ときに神経筋症状もみられる。診断は尿中電解質測定とホ... さらに読む が示唆される。
高血圧のある患者で尿中Kが30mEq/日を上回れば,アルドステロン症,ミネラルコルチコイド過剰,および腎血管疾患の評価が必要である。
高血圧患者で通常行われる検査には,血漿レニン活性ならびにアルドステロン濃度およびコルチゾール濃度の測定などがある( Professional.see page 診断 診断 クッシング症候群は,血中のコルチゾールまたは関連するコルチコステロイドの慢性高値によって引き起こされる一群の臨床的な異常である。クッシング病は下垂体の副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)過剰産生に起因するクッシング症候群であり,通常は下垂体腺腫に続発する。典型的な症状および徴候には,満月様顔貌および中心性肥満,紫斑ができやすい,ならびにやせた四肢などがある。診断はコルチコステロイド使用歴または血清コルチゾールの上昇の確認による。治療は原因に... さらに読む および Professional.see page 診断 診断 )。
治療
原因の治療
クロール反応性の代謝性アルカローシスに対しては,生理食塩水静注
基礎疾患を治療し,循環血液量減少および低カリウム血症の是正に特に注意を払う。
クロール反応性の代謝性アルカローシスがある患者には生理食塩水を静注する;初期の重炭酸尿からの回復後,尿中の塩素値が25mEq/Lを上回り,尿pHが正常化するまで,点滴速度を一般に尿およびその他の有感・不感蒸泄による水分喪失速度よりも50~100mL/時だけ速くする。
クロール不応性の代謝性アルカローシス患者に補液が単独で有益となることはまれである。
ときに重度の代謝性アルカローシス患者(例,pH > 7.6)では,緊急での血中pH補正が必要になることがある。特に体液量過剰および腎機能障害が存在する場合は,血液濾過または血液透析が選択肢となる。アセタゾラミド250~375mg,1日1回または2回を経口投与または静注するとHCO3−排泄が増加するが,尿中へのK+およびにリン酸(PO4−)の喪失が促進される恐れもある;体液量の過剰な患者のうち,利尿薬誘発性の代謝性アルカローシスのある者,および高炭酸ガス血症後の代謝性アルカローシスのある者では特に有益となりうる。
重度の代謝性アルカローシス(pH > 7.6)および腎不全があり,そのままでは透析を受けることができないまたは受けるべきでない患者は,0.1~0.2規定の塩酸の静注が安全かつ効果的であるが,浸透圧が高く末梢静脈を硬化させるため中心カテーテルを介して投与しなければならない。投与量は0.1~0.2mmol/kg/時である。動脈血ガスおよび電解質の頻回なモニタリングが必要である。
要点
代謝性アルカローシスは,酸の喪失,アルカリ投与,水素イオンの細胞内への移動,または腎臓へのHCO3−の貯留による重炭酸イオン(HCO3−)の蓄積である。
最も一般的な原因は体液量減少(特に反復性嘔吐または経鼻胃管吸引による胃酸および塩素[Cl]の喪失があるとき)および利尿薬の使用である。
塩素の喪失または過剰分泌を伴う代謝性アルカローシスは,クロール反応性と呼ばれる。
原因を治療し,Cl反応性の代謝性アルカローシス患者に対しては生理食塩水を静注する。
クロール抵抗性の代謝性アルカローシスは,アルドステロンの作用増強に起因する。
クロール抵抗性の代謝性アルカローシスの治療には,高アルドステロン症の是正が必要である。