高浸透圧性高血糖状態(HHS)

執筆者:Erika F. Brutsaert, MD, New York Medical College
レビュー/改訂 2020年 9月
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高浸透圧性高血糖状態は糖尿病の代謝性合併症で,重度の高血糖,極度の脱水,血漿浸透圧高値,および意識変容を特徴とする。2型糖尿病で最も頻度が高く,しばしば生理的ストレス下で生じる。高浸透圧性高血糖状態の診断は,重度高血糖,血漿浸透圧高値,および有意なケトーシスがないことによる。治療は生理食塩水およびインスリンの静注である。合併症には昏睡,痙攣発作,死亡などがある。

糖尿病および糖尿病の合併症も参照のこと。)

高浸透圧性高血糖状態(以前は高血糖性高浸透圧性昏睡[HHNK],非ケトン性高浸透圧症候群[NKHS]と呼ばれていた)は,2型糖尿病の合併症であり,推定死亡率は最大20%と,糖尿病性ケトアシドーシスの死亡率(現在では1%未満)と比べて有意に高い。通常は症候性高血糖の期間を経て発症し,この期間中の水分摂取が不十分であるため,高血糖誘発性の浸透圧利尿による極度の脱水が生じると考えられる。

誘発因子としては以下のものがある:

  • 急性感染症およびその他の病態

  • 耐糖能を障害する薬剤(グルココルチコイド)または体液喪失を促進する薬剤(利尿薬)

  • 糖尿病治療に対するアドヒアランス不良

大半の2型糖尿病患者では,ケトン体生成を抑制するのに十分な量のインスリンがあるため,血清ケトン体は存在しない。アシドーシスの症状は存在しないため,大半の患者は発症前にかなり長期間にわたって浸透圧性の脱水に耐え,ゆえに,血漿血糖値(> 600mg/dL[> 33.3mmol/L])および浸透圧(> 320mOsm/L)は,糖尿病性ケトアシドーシスよりも通常大幅に高い。

HHSの症状と徴候

高浸透圧性高血糖状態の主症状は錯乱や見当識障害から昏睡までと幅広い意識変容であり,通常は,腎前性高窒素血症,高血糖,極度の脱水(高浸透圧を伴う場合と伴わない場合とがある)の結果生じる。糖尿病性ケトアシドーシスとは対照的に,焦点発作または全般発作および一過性の片麻痺が生じうる。

HHSの診断

  • 血糖値

  • 血清浸透圧

通常,高浸透圧性高血糖状態が最初に疑われるのは,意識変容のある患者の精査で指先採血の血糖値が著明に上昇しているのを認めたときである。血清電解質,血中尿素窒素(BUN)およびクレアチニン,グルコース,ケトン体,ならびに血漿浸透圧をまだ測定してなければ測定すべきである。尿中のケトン体を検査すべきである。血清カリウム濃度は通常は正常範囲内であるが,ナトリウムは循環血液の不足量に応じて低値または高値となる。高血糖は希釈性低ナトリウム血症を引き起こすことがあるため,血清血糖値が100mg/dL(5.6mmol/L)を超える場合,100mg/dL(5.6mmol/L)の上昇毎に血清ナトリウムの測定値に1.6mEq/L(1.6mmol/L)を加算することで補正する。BUNおよび血清クレアチニンの濃度は著明に上昇している。動脈血pHは通常7.3を上回るが,ときに乳酸が蓄積して軽度の代謝性アシドーシスが生じる。

水分欠乏量は10Lを超えることがあり,急性循環虚脱が一般的な死因である。広範な血栓症は剖検でしばしば認められる所見であり,一部の症例では播種性血管内凝固症候群の結果,出血を来すことがある。その他の合併症には,誤嚥性肺炎急性腎不全,および急性呼吸窮迫症候群などがある。

医学計算ツール(学習用)

HHSの治療

  • 生理食塩水の静注

  • 低カリウム血症があればその是正

  • インスリンの静注(血清カリウムが3.3mEq/L[3.3mmol/L]以上である場合)

治療は生理食塩水の静注,低カリウム血症の是正,およびインスリンの静注である(1)。

最初の数時間は,生理(等張)食塩水を15~20mL/kg/時で投与する。その後,ナトリウムの補正値を計算すべきである。ナトリウムの補正値が135mEq/L(135mmol/L)未満であれば,等張食塩水を250~500mL/時で続けるべきである。ナトリウムの補正値が正常または上昇していれば,0.45%食塩水(半生食)を使用すべきである。

一旦血糖値が250~300mg/dL(13.9~16.7mmol/L)になったら,ブドウ糖を追加すべきである。輸液速度は,血圧,心臓の状態,水分の出納バランスに応じて調節すべきである。

インスリンは,最初の1Lの生理食塩水静注後に0.1単位/kgをボーラス投与し,続いて0.1単位/kg/時を静注する。輸液単独でも,ときに血漿血糖値が急激に低下しうるため,インスリンの減量が必要になることがある。浸透圧があまりに急激に低下すると,脳浮腫を来す恐れがある。ときに,高浸透圧性高血糖状態を呈するインスリン抵抗性2型糖尿病患者ではより高用量のインスリンを要する。血漿血糖値が300mg/dL(16.7mmol/L)に下がれば,インスリン投与速度を基礎レベル(1~2単位/時)まで低下させ,輸液が完了し患者が食事を摂れるようになるまで続けるべきである。

目標血漿血糖値は250~300mg/dL(13.9~16.7mmol/L)とする。通常は急性エピソードからの回復後,用量を調整したインスリン皮下注射に切り替える。

カリウムの補充は糖尿病性ケトアシドーシスの場合と同様である:血清カリウム値が3.3mEq/L(3.3mmol/L)未満であれば40mEq/時,3.3~4.9mEq/L(3.3および4.9mmol/L)であれば20~30mEq/時で投与し,5mEq/L(5mmol/L)以上であれば投与は行わない。

治療に関する参考文献

  1. 1.Kitabchi AE, Umpierrez GE, Miles JM, et al: Hyperglycemic crises in adult patients with diabetes.Diabetes Care 32: 1335–1343, 2009.

HHSの要点

  • 2型糖尿病患者では,感染症,アドヒアランス不良,および特定の薬剤が,血糖値の著明な上昇,脱水,および意識変容を誘発する恐れがある。

  • 患者にはケトアシドーシスを予防するのに十分なインスリンが存在する。

  • 水分欠乏量は10Lを超えることがある;その場合の治療は,生理食塩水の静注とインスリンの点滴である。

  • 急性期の治療における血漿血糖値の目標値は250~300mg/dL(13.9~16.7mmol/L)である。

  • 血清カリウム濃度に応じてカリウムを補充する。

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