アルコール性ケトアシドーシス

執筆者:Erika F. Brutsaert, MD, New York Medical College
レビュー/改訂 2020年 9月
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アルコール性ケトアシドーシスはアルコール摂取および飢餓の代謝性合併症で,高ケトン体血症およびアニオンギャップ増大を伴う代謝性アシドーシスを特徴とし,有意な高血糖は伴わない。アルコール性ケトアシドーシスは悪心,嘔吐,および腹痛を引き起こす。診断は病歴,および高血糖を伴わないケトアシドーシスの所見による。治療は生理食塩水およびブドウ糖液の静注である。

アルコール性ケトアシドーシスは,アルコールと飢餓がブドウ糖代謝に及ぼす複合作用に起因する。

アルコール性ケトアシドーシスの病態生理

アルコールは肝臓での糖新生を減少させ,インスリン分泌の低下,脂肪分解の亢進,脂肪酸酸化障害,およびそれに続くケトン体産生を招き,これらによりアニオンギャップ増大を伴う代謝性アシドーシスが生じる。成長ホルモン,アドレナリンコルチゾール,およびグルカゴンが全て増加する。血漿血糖値は通常低値または正常範囲内であるが,ときに軽度の高血糖が生じる。

アルコール性ケトアシドーシスの症状と徴候

典型的には,アルコール多飲は嘔吐につながり,24時間以上アルコールまたは食事が摂れない状態を来す。この絶食期間中にも嘔吐が続いて腹痛が生じ,患者は治療を求めるようになる。膵炎が生じることもある。

アルコール性ケトアシドーシスの診断

  • 臨床的評価

  • アニオンギャップの算出

  • 他の疾患の除外

診断には強く疑うことが必要である;アルコール使用障害の患者では,急性膵炎,メタノール中毒,エチレングリコール中毒(特定の毒物の症状と治療法の表を参照),または糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)によっても同様の症状が生じることがある。患者がアルコール性ケトアシドーシスを呈すると,しばしば血中アルコール濃度はもはや上昇しない。アルコール性ケトアシドーシスが疑われる患者では,血清電解質(マグネシウムを含む),血中尿素窒素(BUN)およびクレアチニン,グルコース,ケトン体,アミラーゼ,リパーゼ,ならびに血漿浸透圧を測定すべきである。尿中のケトン体を検査すべきである。重篤な容態の患者およびケトン体が陽性の患者では,動脈血ガスおよび血清乳酸濃度の測定を行うべきである。

高血糖がなければ糖尿病性ケトアシドーシスは考えにくい。軽度の高血糖がみられる患者には,基礎に糖尿病が存在する可能性があり,これは糖化ヘモグロビン(HbA1C)の高値によってわかることがある。

典型的な臨床検査所見としては以下のものがある:

嘔吐による代謝性アルカローシスが同時に存在し,それによりpHが比較的正常化することでアシドーシスの検出が難しくなることがある;主な手がかりはアニオンギャップの上昇である。アニオンギャップ上昇の原因としてアルコールの乱用が病歴から除外されなければ,メタノールおよびエチレングリコールの血清中濃度を測定すべきである。尿中のシュウ酸カルシウム結晶からもエチレングリコール中毒が示唆される。肝臓での血流低下および酸化還元反応の平衡異常が原因で,乳酸濃度はしばしば上昇する。

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アルコール性ケトアシドーシスの治療

  • チアミンおよび他のビタミンとマグネシウムの静注

  • 5%ブドウ糖含有生理食塩水の静注

ウェルニッケ脳症またはコルサコフ精神病の発生を予防するため,まずチアミン100mgを静注する。次に生理食塩水に5%ブドウ糖を混ぜたものを点滴する。初期の輸液には水溶性ビタミンおよびマグネシウムを追加すべきであり,必要に応じてカリウムを補充する。

ケトアシドーシスおよび消化管症状は通常迅速に反応する。インスリンの使用は,非典型的な糖尿病性ケトアシドーシスが疑われる場合,または300mg/dL(16.7mmol/L)を上回る高血糖の場合のみ妥当である。

アルコール性ケトアシドーシスの要点

  • アルコール性ケトアシドーシスはアルコールおよび飢餓がグルコース代謝に与える相加作用に起因し,高ケトン体血症およびアニオンギャップ増大を伴う代謝性アシドーシスを特徴とし,有意な高血糖は伴わない。

  • 血清中および尿中のケトンおよび電解質を測定し,血清アニオンギャップを計算する。

  • まず,ウェルニッケ脳症またはコルサコフ精神病を予防するためにチアミンの静注で治療し,その後生理食塩水にブドウ糖を混ぜたものの静注で継続する。

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