中枢性尿崩症

(バソプレシン感受性尿崩症)

執筆者:John D. Carmichael, MD, Keck School of Medicine of the University of Southern California
レビュー/改訂 2021年 3月
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尿崩症は,視床下部-下垂体疾患によるバソプレシン(抗利尿ホルモン[ADH])の欠乏(中枢性尿崩症)または腎臓のバソプレシンに対する抵抗性(腎性尿崩症)に起因する。多尿および多飲が発生する。水制限試験で尿が最大限に濃縮されないことによって診断がつく;バソプレシン値および外因性バソプレシンに対する反応が,中枢性尿崩症と腎性尿崩症との鑑別に役立つ。治療はデスモプレシンによる。非ホルモン療法としては,利尿薬(主にサイアザイド系)の使用や,クロルプロパミドなどのバソプレシン分泌を促進する薬剤などがある。

ADH不適合分泌症候群および腎性尿崩症も参照のこと。)

中枢性尿崩症の病態生理

バソプレシンは遠位尿細管上皮の水に対する透過性を亢進させることより,主に腎臓での水分保持を促進する。高濃度では,バソプレシンは血管収縮も引き起こす。アルドステロンと同様に,バソプレシン体液の恒常性,ならびに血管および細胞の水分保持に重要な役割を果たしている。バソプレシン分泌に対する主な刺激は体液浸透圧の上昇(視床下部浸透圧受容器で感知される)および体液量減少である(血管の圧受容器で感知される)。

バソプレシンは主に下垂体後葉で貯蔵されそこから放出されるが,バソプレシンの合成が行われるのは視床下部内である。視床下部神経核および神経下垂体経路(神経分泌路)の一部が損傷されない限り,新たに合成されたホルモンは循環血液中に放出される。神経分泌ニューロンのわずか10%程度が障害されずに温存されていれば,中枢性尿崩症は回避される。したがって,中枢性尿崩症がある場合は常に,視床下部の視索上核および室傍核,または下垂体茎の大部分が障害されている。

中枢性尿崩症には以下の型がある:

  • 完全型(バソプレシンの欠如)

  • 部分型(バソプレシン量の不足)

また,中枢性尿崩症には以下の場合がありうる:

  • 原発性(その場合,神経下垂体系の視床下部神経核に著明な減少がみられる)

  • 続発性(後天性)

中枢性尿崩症の病因

原発性中枢性尿崩症

20番染色体におけるバソプレシン遺伝子の異常が常染色体優性遺伝形式の原発性中枢性尿崩症の原因であるが,多くの場合特発性である。

続発性中枢性尿崩症

中枢性尿崩症は続発性(後天性)のこともあり,種々の病変によって引き起こされるが,この中には下垂体切除術,頭部損傷(特に頭蓋底骨折),トルコ鞍の上部および内部の腫瘍(原発性または転移性),ランゲルハンス細胞組織球症,リンパ球性下垂体炎,肉芽腫(サルコイドーシスまたは結核),血管病変(動脈瘤,血栓症),ならびに感染症(脳炎髄膜炎)がある。

中枢性尿崩症の症状と徴候

中枢性尿崩症は潜行性または突然に発症し,いかなる年齢でも生じる。原発性中枢性尿崩症の唯一の症状は多飲および多尿である。続発性中枢性尿崩症では,関連病変の症状および徴候も認められる。

多量の水分が摂取され,大量(3~30L/日)の極めて薄い尿(比重は通常1.005未満,浸透圧200mOsm/kg[200mmol/kg]未満)が排泄される。夜間頻尿がほぼ必ず発生する。尿中への喪失が持続的に補充されなければ,脱水および循環血液量減少が急激に生じる恐れがある。

多尿の一般的な原因としては以下のものがある:

  • 糖尿病(最も一般的)

  • 中枢性尿崩症(バソプレシンの欠乏)

  • 腎性尿崩症(腎臓のバソプレシンに対する抵抗性)

  • 強迫的または習慣的な飲水(心因性多飲

中枢性尿崩症の診断

  • 水制限試験

  • ときに,バソプレシン

中枢性尿崩症は多尿のその他の原因,特に心因性多飲症(多尿の一般的な原因の表を参照)および腎性尿崩症と鑑別しなければならない。中枢性尿崩症(および腎性尿崩症)に対する全ての試験は,健常者における血漿浸透圧上昇は尿浸透圧上昇を伴う尿排泄量減少をもたらすという原則に基づく。

表&コラム

水制限試験は最も単純で信頼性が高い中枢性尿崩症の診断法であるが,患者が常に監視下にあるときのみ行うべきである。重篤な脱水が起こりうるためである。さらに,心因性多飲症が疑われる場合は,隠れて飲水しないよう患者を観察しなければならない。

この試験は朝に開始し,はじめに体重測定,電解質濃度測定および浸透圧測定用の静脈血採血,ならびに尿浸透圧測定を行う。尿を1時間毎に採取し比重または浸透圧(後者が望ましい)を測定する。水制限は,起立性低血圧および体位性頻脈が出現するまで,体重が開始時より5%以上減少するまで,または連続採取された尿検体の比重が0.001を超えてもしくは浸透圧が30mOsm/Lを超えて上昇しなくなるまで継続する。そして血清電解質および浸透圧を再測定する。続いて外因性バソプレシンを投与する(バソプレシン水性注射剤5単位を皮下注射,デスモプレシン10μg[DDAVP]を経鼻投与,または4μgを筋中もしくは静注)。注射60分後に比重測定または浸透圧測定用に最後の採尿を行い,試験を終了する。

正常反応では,水制限後の最大尿浸透圧(通常は比重1.020または浸透圧700mOsm/kg[700mmol/kg]を上回る)は血漿浸透圧より高値となる;バソプレシン投与後に浸透圧がさらに5%以上上昇することはない。一般に,中枢性尿崩症の患者では血漿浸透圧以上の尿の濃縮はみられないが,外因性バソプレシン投与後には尿浸透圧が50~100%を超えて上昇する。部分型中枢性尿崩症の患者では,しばしば血漿浸透圧以上の尿の濃縮がみられるが,バソプレシン投与後は,15~50%の尿浸透圧の上昇となる。腎性尿崩症の患者では血漿浸透圧以上の尿の濃縮はみられず,バソプレシン投与にも全く反応がみられない(水制限試験の結果の表を参照)。

血中バソプレシンの測定は中枢性尿崩症の最も直接的な診断法である;水制限試験終了時(バソプレシン投与前)の値は,中枢性尿崩症では低く,腎性尿崩症では適切な上昇がみられる。しかし,バソプレシンは測定が難しく,この検査はルーチンには利用できない。さらに,水制限試験は極めて正確であるため,バソプレシンの直接測定は不要である。脱水後または高張食塩水注入後のいずれかの血漿バソプレシンの値は診断に有用である。

パール&ピットフォール

  • 重篤な脱水が起こりうるため,水制限試験は患者が常に監視下にあるときにのみ行うべきである。

表&コラム

心因性多飲症

心因性多飲症は鑑別診断が困難となることがある。患者は最大6L/日の水分を摂取,排泄し,しばしば感情的に不安定である。中枢性尿崩症や腎性尿崩症の患者とは異なり,通常は夜間頻尿または口渇による夜間覚醒はない。この状態で大量の水分摂取を継続すると,生命を脅かす低ナトリウム血症につながる恐れがある。

急性心因性多飲症患者では,水制限中は尿が濃縮される。しかし,慢性的な水分摂取は腎髄質の浸透圧を低下させるため,多飲が長期に及ぶ患者では水制限中も尿が最大限に濃縮されず,部分型中枢性尿崩症の患者と同様の反応がみられる。しかし,中枢性尿崩症とは異なり,心因性多飲症患者は水制限後に外因性バソプレシンに反応を示さない。この反応は腎性尿崩症と類似しているが,バソプレシンの基準値が腎性尿崩症では高値であるのに比して心因性多飲症では低値であるという点で異なる。水分摂取を2L/日以下に長期間制限すると,正常な尿濃縮力が数週間以内に回復する。

中枢性尿崩症の治療

  • ホルモン製剤(例,デスモプレシン)

  • 非ホルモン製剤(例,利尿薬)

中枢性尿崩症は,ホルモン補充および是正可能な原因の処置によって治療できる。適切な管理がなされなければ,恒久的な腎障害が生じうる。

溶質負荷を低減することによって尿量が減少するため,塩分摂取制限も役立つ場合がある。

ホルモン製剤

デスモプレシンは最小限の血管収縮特性を有する合成バソプレシンアナログであり,大半の患者で長時間(12~24時間)持続する抗利尿作用を示し,鼻腔内,皮下,静脈内,または経口で投与できる。デスモプレシンは成人と小児ともに選択すべき薬剤であり,2つの形態の点鼻液が利用可能である。目盛り付き経鼻カテーテルを備えた滴瓶は,5μgから20μgまで用量を増加して投与できる利点があるが扱いにくい。0.1mL中に10μgのデスモプレシンを含む溶液を噴霧するスプレーは,使用がより簡便であるが,固定量しか投与できない。

個人差が大きいため,各患者で所定用量の作用持続時間を確認しなければならない。作用持続時間は,定時の尿量および尿浸透圧を追跡することによって確認できる。夜間の用量は,夜間頻尿の予防に必要な最低量とする。朝および夕の用量は別々に調整すべきである。13歳以上での通常量の幅は10~40μgで,大半は10μg,1日2回を要する。3カ月から12歳までの小児に対する通常量の幅は2.5~10μg,1日2回である。

過量投与は体液貯留および血漿浸透圧低下につながり,幼児では痙攣発作を引き起こす可能性もある。このような場合はフロセミドを投与して利尿を誘発する。頭痛は厄介な有害作用であるが,一般に用量を減らすと消失する。まれにデスモプレシンにより軽度の血圧上昇が起こる。鼻粘膜からの吸収は,効果が不安定なことがあり,上気道感染症またはアレルギー性鼻炎がある場合は特にその傾向がある。デスモプレシンの鼻腔内投与が適さない場合には,点鼻用量の約10分の1の量を皮下注射してもよい。急速な効果が必要であれば(例,循環血液量減少時),デスモプレシンは静注でも使用できる。経口デスモプレシンでは,点鼻剤との用量の同等性が予測できないため,各患者で用量を調節する必要がある。初回量は0.1mg,1日3回経口であり,維持量は通常0.1~0.2mg,1日3回である。

パール&ピットフォール

  • 所定用量のデスモプレシンの作用持続時間は個人差が極めて大きいため,各患者で確認しなければならない。

合成バソプレシンの鼻腔スプレーであるリプレシン(lypressin)は,もはや入手できない。

バソプレシン水性注射剤5~10単位の皮下または筋肉内投与によって得られる抗利尿反応の持続は,通常6時間以下である。したがって,この薬物は長期治療にはほとんど役に立たないが,意識のない患者での初期治療および外科手術中の中枢性尿崩症患者には使用できる。合成バソプレシンは,各患者に適した用量および間隔で1日2回から4回,鼻腔に噴霧することもできる。タンニン酸バソプレシンオイル0.3~1mL(1.5~5単位)の筋肉内注射は最長96時間まで症状を制御できる。

非ホルモン製剤

多尿を減らす上で,少なくとも3群の非ホルモン製剤が有用である:

  • 利尿薬,主にサイアザイド系

  • バソプレシン分泌を促進する薬(例,クロルプロパミド,カルバマゼピン,クロフィブラート)

  • プロスタグランジン阻害薬

これらの薬剤は特に部分型中枢性尿崩症に有用であり,外因性バソプレシンの有害作用を引き起こさない。

サイアザイド系利尿薬は部分型や完全型中枢性尿崩症(および腎性尿崩症)で逆説的に尿量を減少させるが,これは主に利尿薬により細胞外液量が減少し近位尿細管での再吸収が増加する結果である。クロロチアジド15~25mg/kgによって尿量は25~50%減少する。

クロルプロパミド,カルバマゼピン,およびクロフィブラートにより,一部の部分型中枢性尿崩症患者でバソプレシンの投与の必要性がなくなるか軽減される。いずれの薬剤も腎性尿崩症には効果がない。クロルプロパミド3~5mg/kg,1日1回または1日2回経口投与によりバソプレシンがいくらか放出され,さらに腎でのバソプレシン作用が増強される。クロフィブラート500~1000mg,1日2回経口投与またはカルバマゼピン100~400mg,1日2回経口投与は成人にのみ推奨される。これらの薬剤を利尿薬と併用して,相乗効果を期待することがある。しかし,クロルプロパミドによって著明な低血糖が生じる可能性がある。

プロスタグランジン阻害薬(例,インドメタシン0.5~1.0mg/kg,経口,1日3回など,ただし大半の非ステロイド系抗炎症薬[NSAID]が効果的である)の効果は限定的である。プロスタグランジン阻害薬は,おそらく腎血流量および糸球体濾過量(GFR)を低下させることにより,尿量を減少させる可能性があるが,減少率は一般に10~25%未満にとどまる。インドメタシンに加え,ナトリウム摂取制限およびサイアザイド系利尿薬を使用することは,腎性尿崩症における尿量のさらなる低減に有用である。

中枢性尿崩症の要点

  • 中枢性尿崩症は,バソプレシンの欠乏により引き起こされ,これにより腎臓の水再吸収能が低下し,重度の多尿(3~30L/日)に至る。

  • 原因は,視床下部-下垂体系に影響する原発性遺伝性疾患または多様な腫瘍,浸潤性病変,損傷,もしくは感染などである。

  • 診断は水制限試験による;患者は脱水後に尿を最大限濃縮できないが,外因性バソプレシンの投与後には尿を濃縮できる。

  • バソプレシン低値は診断に有用であるが,バソプレシンは測定が難しく,この検査はルーチンには利用できない。

  • 治療可能な原因があれば対処し,バソプレシンの合成アナログであるデスモプレシンを投与する。

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