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双極性障害の薬物療法

執筆者:

William Coryell

, MD, Carver College of Medicine at University of Iowa

最終査読/改訂年月 2016年 8月

薬剤の選択および使用

いずれの薬剤にも重大な有害作用があり,薬物相互作用がよくみられ,かつ普遍的に効果のある薬剤はないことから,薬剤の選択は困難となる場合がある。各患者で以前に効果的かつ忍容性良好であった薬剤に基づいて選択すべきである。治療歴がない(または不明の)場合は,患者の病歴(特定の気分安定薬の有害作用に注目する)と症状の重症度に基づいて選択する。

患者の当面の安全と管理が損なわれる重度の躁病性精神病に関して,通常,緊急の行動コントロールとして鎮静作用のある第2世代抗精神病薬が必要となり,ときにベンゾジアゼピン系薬剤(ロラゼパムまたはクロナゼパム2~4mg,筋注または経口,1日3回など)を最初に追加することもある。

リチウムが禁忌(例,腎疾患)ではない患者において,それほど重度ではない急性エピソードに関して,躁病エピソードと抑うつエピソードの両方に対してリチウムが良好な第1選択薬である。作用の発現が遅い(4~10日)ため,有意な症状を呈している患者には,さらに抗てんかん薬または第2世代抗精神病薬を投与してもよい。

抑うつのある患者では,ラモトリギンが抗てんかん薬としての適切な選択肢となる場合がある。

双極性の抑うつに関して,最良のエビデンスがクエチアピンもしくはルラシドンの単剤投与またはフルオキセチンとオランザピンの併用を示唆している。

双極I型障害の寛解が達成されると,全例で気分安定薬による予防的治療が適応となる。維持療法中にエピソードが再発した場合,医師はアドヒアランスが不良か否かを,もし不良であれば,アドヒアランスが再発前後のいずれで発生したのかを究明すべきである。気分安定薬の種類または用量を変更することが治療の忍容性を高めるか否かを究明するため,アドヒアランス不良の理由を調査すべきである。

リチウム

合併症のない双極性障害では,3分の2もの多くの患者がリチウムに反応し,それにより双極性の気分変動が軽減される一方,正常な気分に対する影響はみられない。

使用されている気分安定薬がリチウムかそれ以外かにかかわらず,混合状態,急速交代型の双極性障害,不安の併存,物質乱用,または神経疾患を有する患者では大幅な改善が得られる可能性が高い。

炭酸リチウムは300mg,経口,1日2回または1日3回から投与を開始し,定常状態の血中濃度および忍容性に基づいて,0.8~1.2mEq/Lの範囲に調節する。服用量が安定してから5日後および最終投与の12時間後の濃度を測定すべきである。維持するための目標薬物濃度はそれより低く,約0.6~0.7mEq/Lである。より高い維持濃度は躁病エピソード(抑うつエピソードではなく)に対して予防的であるが,有害作用が多くなる。糸球体機能が非常に良好な青年患者では,より高用量が必要となり,高齢患者ではより低用量が必要である。

リチウムは直接的または間接的に(甲状腺機能低下症を引き起こすことにより)鎮静および認知障害を生じる可能性があり,しばしばざ瘡および乾癬を増悪させる。最も一般的な急性で軽度の有害作用は,微細な振戦,線維束性収縮,悪心,下痢,多尿,多飲,および体重増加(一部は高カロリー飲料の摂取にも起因する)である。通常,これらの作用は一過性であり,わずかな減量,分割投与(例,1日3回),または徐放剤の使用がしばしば奏効する。用量が確立されると,夕食後に全量を投与すべきである。本投与法によりアドヒアランスが改善することがある。β遮断薬(例,アテノロール25~50mg,経口,1日1回)により重度の振戦をコントロールすることができるが,一部のβ遮断薬(例,プロプラノロール)はうつ病を悪化させることがある。

リチウムの急性毒性は粗大な振戦,深部腱反射の亢進,持続性頭痛,嘔吐,および錯乱から始まり,昏迷,痙攣発作,および不整脈へと進展することがある。以下の患者では毒性が発生する可能性が高くなる:

  • 高齢患者

  • クレアチニンクリアランスが低下している患者

  • ナトリウム喪失が生じている患者(例,発熱,嘔吐,下痢,または利尿薬の使用による)

サイアザイド系利尿薬,ACE阻害薬,アスピリン以外のNSAIDが高リチウム血症の一因となることがある。血中リチウム濃度を6カ月毎に,さらに用量変更のたびに測定すべきである。

リチウムの長期的な有害作用としては,以下のものがある:

  • 甲状腺機能低下症(特に甲状腺機能低下症の家族歴がある場合)

  • 遠位尿細管を含む腎障害(主に腎実質性疾患の既往がある患者において)

このため,TSH濃度はリチウムの投与開始時のほか,甲状腺機能障害の家族歴がある場合は年1回,その他全ての患者では2年に1回のモニタリングを行うべきである。甲状腺機能低下症は気分安定薬の効果を鈍らせることがあるため,TSH濃度は(躁病の再発時を含めて)症状から甲状腺機能障害が示唆される場合も必ず測定すべきである。BUNおよびクレアチニンもベースライン時のほか,最初の6カ月間は2~3回,その後は年1~2回測定すべきである。

抗てんかん薬

気分安定薬として作用する抗てんかん薬(特にバルプロ酸とカルバマゼピン)が,しばしば急性躁病および混合状態(躁病およびうつ病)に対して使用される。ラモトリギンは気分交代およびうつ病に効果的である。双極性障害における抗てんかん薬の正確な作用機序は不明であるが,γ-アミノ酪酸を介した機序および最終的にはGタンパクシグナル伝達系が関与していると考えられている。リチウムと比較した場合の主な利点は,治療域が広く,腎毒性がないことである。

バルプロ酸に関して,まず20~30mg/kgの負荷量を投与した後,250~500mg,経口,1日3回(徐放剤を使用できる)で投与する;目標血中濃度は50~125μg/mLである。このアプローチでは,用量漸増法と比べて,有害作用が増えることはない。有害作用には,悪心,頭痛,鎮静,めまい,および体重増加などがあり,まれながら重篤な有害作用として肝毒性や膵炎などがある。

カルバマゼピンは負荷量での投与は行わず,初回から200mg,経口,1日2回で開始し,4~12 μg/mLの目標濃度が得られるまで200mg/日ずつ漸増させるべきである(最大,800mg,1日2回)。有害作用としては悪心,めまい,鎮静,および不安定感がある。非常に重度の有害作用には,再生不良性貧血および無顆粒球症がある。

ラモトリギンは25mg,経口,1日1回,2週間で開始した後,50mg,1日1回で2週間,続いて100mg/日で1週間投与し,その後は必要に応じて毎週50mgずつ,最大200mg,1日1回まで増加することができる。用量はバルプロ酸服用患者では低く,カルバマゼピン服用患者では高くする。ラモトリギンは発疹のほか,特に推奨した増量法より急速に増量した場合,まれに生命を脅かすスティーブンス-ジョンソン症候群を引き起こす可能性がある。ラモトリギン服用中,新たな発疹,蕁麻疹,発熱,腺の腫脹,口内および眼のびらん,ならびに唇または舌の腫脹があれば報告するよう患者に促すべきである。

抗精神病薬

急性の躁病性精神病は,以下のような第2世代抗精神病薬で管理されることが増えてきている:

  • リスペリドン(通常は2~3mg,経口,1日2回)

  • オランザピン(通常は5~10mg,経口,1日2回)

  • クエチアピン(200~400mg,経口,1日2回)

  • ジプラシドン(40~80mg,経口,1日2回)

  • アリピプラゾール(10~30mg,経口,1日1回)

加えて,エビデンスにより,これらの薬剤は急性期以降の気分安定薬の効果を高める可能性があることが示唆されている。

これらの薬剤はいずれも錐体外路系の有害作用を有し,アカシジアを引き起こすことがあるが,そのリスクはクエチアピンおよびオランザピンなどの鎮静作用の強い薬剤ではより低い。それほど即時に出現しない有害作用としては,有意な体重増加およびメタボリックシンドローム(体重増加,腹部脂肪の過剰, インスリン抵抗性,および脂質異常症を含む)の発現などがある;鎮静作用が最も弱い第2世代抗精神病薬であるジプラシドンおよびアリピプラゾールでは,リスクが低い可能性がある。

食物および水分の摂取が不十分で,極度に活動亢進性の精神障害患者に関して,リチウムまたは抗てんかん薬に加え,抗精神病薬の筋注と支持療法を行うことが適切となる場合がある。

妊娠中の注意事項

妊娠中のリチウムの使用は,心血管奇形(特にエプスタイン奇形)のリスク増加と関連する。ただし,この特定の奇形は絶対リスクが極めて低い。妊娠中のリチウムの服用は,あらゆる先天奇形の相対リスクを約2倍増加させるとみられるが,そのリスクはカルバマゼピンまたはラモトリギンの使用に関連する先天奇形リスクの増加(2~3倍)と同程度であり,バルプロ酸の使用に関連するリスクよりも大幅に低い。

バルプロ酸では,神経管閉鎖不全やその他の先天奇形のリスクが一般的に使用される他の抗てんかん薬よりも2~7倍高いとみられている。バルプロ酸は神経管閉鎖不全,先天性心疾患,泌尿生殖器奇形,筋骨格系の異常,および口唇裂または口蓋裂のリスクを高める。また,妊娠中にバルプロ酸を服用した女性の子供の認知的予後(例,IQスコア)は,他の抗てんかん薬によるものより悪く,リスクは用量依存性とみられる。バルプロ酸は注意欠如・多動症および自閉スペクトラム症のリスクも高めるとみられる(1)。

妊娠早期における第1世代抗精神病薬および三環系抗うつ薬の使用に関する広範な研究では,懸念の原因は明らかにされていない。パロキセチンを除くSSRIについても同じのようである。第2世代抗精神病薬は双極性障害の全ての病期でより広範に使用されているものの,胎児に対するリスクに関するデータはまだ乏しい。

分娩前の薬剤(特にリチウムおよびSSRI)の使用は,新生児へのもち越し効果につながる可能性がある。

治療方針の決定は,計画外妊娠の場合,医師がその件を知った時点ですでに催奇形作用が生じている可能性があるため,複雑なものとなる。周産期精神科医へのコンサルテーションを考慮すべきである。全例において,治療のリスクと便益について患者と話し合うことが重要である。

妊娠中の注意事項に関する参考文献

  • 1.Tomson T, Battino D, Perucca E: Valproic acid after five decades of use in epilepsy: Time to reconsider the indications of a time-honoured drug. Lancet Neurol 15(2): 210–218, 2016. Epub ahead of print (2015 Dec 3). doi: 10.1016/S1474-4422(15)00314-2.

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