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双極性障害の薬物療法

執筆者:

William Coryell

, MD, University of Iowa Carver College of Medicine

最終査読/改訂年月 2018年 5月
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薬剤の選択および使用

いずれの薬剤にも重大な有害作用があり,薬物相互作用がよくみられ,全ての患者に効果を示す薬剤はないことから,薬剤の選択が困難となる場合がある。各患者で以前に効果的かつ忍容性良好であった薬剤に基づいて選択すべきである。治療歴がない(または不明の)場合は,患者の病歴(特定の気分安定薬の有害作用に注目する)と症状の重症度に基づいて選択する。

リチウムが禁忌(例,腎疾患)ではない患者において,それほど重度ではない急性エピソードに関して,躁病エピソードと抑うつエピソードの両方に対してリチウムは優れた第1選択薬である。作用の発現が遅い(4~10日)ため,重大な症状を呈している患者には,さらに抗てんかん薬または第2世代抗精神病薬を投与してもよい。

抑うつのある患者では,ラモトリギンは抗てんかん薬の中で適切な選択肢となりうる。

双極性の抑うつ状態に関して,最良のエビデンスにより,クエチアピンもしくはルラシドンの単剤投与またはフルオキセチンとオランザピンの併用が示唆されている。

双極I型障害で寛解が達成されると,全例で気分安定薬による予防的治療が適応となる(双極I型障害は,少なくとも1回の明白な躁病エピソードと通常は複数回の抑うつエピソードの存在により定義される)。維持療法中にエピソードが再発した場合,医師はアドヒアランスが不良か否かを,もし不良であれば,アドヒアランスが再発前後のいずれで発生したのかを明らかにすべきである。気分安定薬の種類または用量を変更することが治療の忍容性を高めるか否かを明確化するため,アドヒアランス不良の理由を精査すべきである。

リチウム

合併症のない双極性障害では,3分の2もの多くの患者がリチウムに反応し,それにより双極性の気分変動が軽減される一方,正常な気分に対する影響はみられない。

使用されている気分安定薬がリチウムかそれ以外かにかかわらず,混合状態 混合性の特徴 双極性障害は,躁病エピソードおよび抑うつエピソードにより特徴づけられ,これらは交互に生じることもあるが,多くの患者はどちらか一方が優勢である。正確な原因は不明であるが,遺伝,脳内神経伝達物質の変化,および心理社会的因子が関与する可能性がある。診断は病歴に基づく。治療は気分安定薬の投与で構成され,ときに精神療法を併用する。 通常,双極性障害は10代,20代,または30代で発症する(Professional... さらに読む ,急速交代型の双極性障害(通常は1年に4回以上のエピソードと定義される),不安 不安症の概要 恐怖や不安は誰もが日常的に経験するものである。恐怖とは,直ちに認識可能な外部からの脅威(例,侵入者,凍結した路面でスピンする車)に対する情動的,身体的,および行動的な反応である。不安とは,神経過敏や心配事による苦痛で不快な感情状態であり,その原因はあまり明確ではない。脅威が生じる厳密な時期と不安との間に強い結びつきはなく,不安は脅威の前に... さらに読む の併存,物質乱用 物質使用障害 物質使用障害は物質関連障害の一種であり,物質の使用に関連する重大な問題を体験しているにもかかわらず,患者がその物質を使用し続ける病的な行動パターンを伴う。脳内神経回路の変化などの生理学的臨床像が認められることもある。 関わる物質は多くの場合,典型的に物質関連障害を引き起こす10種類の薬物クラスに含まれるものである。このような物質はいずれも脳内報酬系を直接活性化し,快感をもたらす。活性化が非常に強いために,患者はその物質を強く渇望し,その... さらに読む ,または神経疾患を有する患者では大幅な改善が得られる可能性が高い。

炭酸リチウムは300mg,経口,1日2回または1日3回から投与を開始し,定常状態の血中濃度および忍容性に基づいて,0.8~1.2mEq/Lの範囲に調節する。服用量が安定してから5日後および最終投与の12時間後の濃度を測定すべきである。維持するための目標薬物濃度はそれより低く,約0.6~0.7mEq/Lである。より高い維持濃度は躁病エピソード(抑うつエピソードではなく)に対して予防的であるが,有害作用が多くなる。糸球体機能が非常に良好な青年患者では,より高用量が必要となり,高齢患者ではより低用量が必要である。

リチウムは直接的または間接的に(甲状腺機能低下症を引き起こすことにより)鎮静および認知障害を生じる可能性があり,しばしばざ瘡および乾癬を増悪させる。最も一般的な急性で軽度の有害作用は,微細な振戦,筋の線維束性収縮,悪心,下痢,多尿,多飲,および体重増加(一部は高カロリー飲料の摂取にも起因する)である。通常,これらの作用は一過性であり,わずかな減量,分割投与(例,1日3回),または徐放剤の使用がしばしば奏効する。用量が確立されると,夕食後に全量を投与すべきである。本投与法によりアドヒアランスが改善することがある。β遮断薬(例,アテノロール25~50mg,経口,1日1回)により重度の振戦をコントロールすることができるが,一部のβ遮断薬(例,プロプラノロール)はうつ病を悪化させることがある。

リチウムの急性毒性は粗大な振戦,深部腱反射の亢進,持続性頭痛,嘔吐,および錯乱から始まり,昏迷,痙攣発作,および不整脈へと進展することがある。以下の患者では毒性が発生する可能性が高くなる:

  • 高齢患者

  • クレアチニンクリアランスが低下している患者

  • ナトリウム喪失が生じている患者(例,発熱,嘔吐,下痢,または利尿薬の使用による)

サイアザイド系利尿薬,ACE阻害薬,アスピリン以外のNSAIDが高リチウム血症の一因となることがある。血中リチウム濃度を6カ月毎に,さらに用量変更のたびに測定すべきである。

リチウムの長期的な有害作用としては,以下のものがある:

このため,TSH濃度はリチウムの投与開始時のほか,甲状腺機能障害の家族歴がある場合は年1回,その他全ての患者では2年に1回のモニタリングを行うべきである。甲状腺機能低下症は気分安定薬の効果を鈍らせることがあるため,TSH濃度は(躁病の再発時を含めて)症状から甲状腺機能障害が示唆される場合も必ず測定すべきである。BUNおよびクレアチニンもベースライン時のほか,最初の6カ月間は2~3回,その後は年1~2回測定すべきである。累積投与量が腎障害の危険因子であるため,効果的な予防を達成できる最小有効量を採用すべきである(1 リチウムに関する参考文献 いずれの薬剤にも重大な有害作用があり,薬物相互作用がよくみられ,全ての患者に効果を示す薬剤はないことから,薬剤の選択が困難となる場合がある。各患者で以前に効果的かつ忍容性良好であった薬剤に基づいて選択すべきである。治療歴がない(または不明の)場合は,患者の病歴(特定の気分安定薬の有害作用に注目する)と症状の重症度に基づいて選択する。 患者の当面の安全と管理が損なわれる重度の躁病性精神病に関して,通常,緊急の行動コントロールとして鎮静作用... さらに読む , 2 リチウムに関する参考文献 いずれの薬剤にも重大な有害作用があり,薬物相互作用がよくみられ,全ての患者に効果を示す薬剤はないことから,薬剤の選択が困難となる場合がある。各患者で以前に効果的かつ忍容性良好であった薬剤に基づいて選択すべきである。治療歴がない(または不明の)場合は,患者の病歴(特定の気分安定薬の有害作用に注目する)と症状の重症度に基づいて選択する。 患者の当面の安全と管理が損なわれる重度の躁病性精神病に関して,通常,緊急の行動コントロールとして鎮静作用... さらに読む )。

リチウムに関する参考文献

抗てんかん薬

気分安定薬として作用する抗てんかん薬(特にバルプロ酸とカルバマゼピン)が,しばしば急性躁病および混合状態(躁病およびうつ病)に対して使用される。ラモトリギンは気分交代およびうつ病に効果的である。双極性障害における抗てんかん薬の正確な作用機序は不明であるが,γ-アミノ酪酸を介した機序および最終的にはGタンパク質シグナル伝達系が関与していると考えられている。リチウムと比較した場合の主な利点は,治療域が広く,腎毒性がないことである。

バルプロ酸に関して,まず20~30mg/kgの負荷量を投与した後,250~500mgを経口,1日3回(徐放剤を使用できる)で投与する;目標血中濃度は50~125μg/mLである。このアプローチでは,用量漸増法と比べて,有害作用が増えることはない。有害作用には,悪心,頭痛,鎮静,めまい,および体重増加などがあり,まれながら重篤な有害作用として肝毒性や膵炎などがある。

カルバマゼピンは負荷量での投与は行わず,初回から200mg,経口,1日2回で開始し,4~12 μg/mLの目標濃度が得られるまで200mg/日ずつ漸増させるべきである(最大,800mg,1日2回)。有害作用としては悪心,めまい,鎮静,および不安定感がある。非常に重度の有害作用には,再生不良性貧血および無顆粒球症がある。

ラモトリギンは25mg,経口,1日1回,2週間で開始した後,50mg,1日1回で2週間,続いて100mg/日で1週間投与し,その後は必要に応じて毎週50mgずつ,最大200mg,1日1回まで増加することができる。用量はバルプロ酸服用患者では低く,カルバマゼピン服用患者では高くする。ラモトリギンは発疹のほか,特に推奨した増量法より急速に増量した場合,まれに生命を脅かすスティーブンス-ジョンソン症候群 スティーブンス-ジョンソン症候群 (SJS) および中毒性表皮壊死融解症 (TEN) スティーブンス-ジョンソン症候群(SJS)と中毒性表皮壊死融解症(TEN)は,重度の皮膚過敏反応である。薬剤,特にサルファ剤,抗てんかん薬,および抗菌薬が最も頻度の高い原因である。斑が急速に拡大して融合し,表皮の水疱,壊死,および剥離へとつながる。診断は通常,当初の病変の外観と臨床的な症状群から明らかである。治療は支持療法であり,シクロスポリン,血漿交換または免疫グロブリン静注療法(IVIG),および早期のステロイドパルス療法が用いられ... さらに読む スティーブンス-ジョンソン症候群 (SJS) および中毒性表皮壊死融解症 (TEN) を引き起こす可能性がある。ラモトリギン服用中,新たな発疹,蕁麻疹,発熱,腺の腫脹,口内および眼のびらん,ならびに唇または舌の腫脹があれば報告するよう患者に促すべきである。

抗精神病薬

  • リスペリドン(通常は2~3mg,経口,1日2回)

  • オランザピン(通常は5~10mg,経口,1日2回)

  • クエチアピン(200~400mg,経口,1日2回)

  • ジプラシドン(40~80mg,経口,1日2回)

  • アリピプラゾール(10~30mg,経口,1日1回)

加えて,エビデンスにより,これらの薬剤は急性期以降の気分安定薬の効果を高める可能性があることが示唆されている。

これらの薬剤はいずれも錐体外路系の有害作用を有し,アカシジアを引き起こすことがあるが,そのリスクはクエチアピンおよびオランザピンなどの鎮静作用の強い薬剤ではより低い。比較的投薬開始すぐには出現しない有害作用としては,有意な体重増加およびメタボリックシンドローム メタボリックシンドローム メタボリックシンドロームは,大きなウエスト周囲長(過剰な腹部脂肪による),高血圧,異常な空腹時血漿血糖値またはインスリン抵抗性,および脂質異常症を特徴とする。原因,合併症,診断,および治療は,肥満の場合と同様である。 先進国では,メタボリックシンドロームは深刻な問題である。メタボリックシンドロームは非常によくみられ,米国では,50歳以上の人のうち40%を超える割合でみられる可能性がある。小児および青年がメタボリックシンドロームを発症する... さらに読む (体重増加,腹部脂肪の過剰,インスリン抵抗性,および脂質異常症を含む)の発現などがある;鎮静作用が最も弱い第2世代抗精神病薬であるジプラシドンおよびアリピプラゾールでは,リスクが低い可能性がある。

食物および水分の摂取が不十分で,極度に活動亢進性の精神障害患者に関して,リチウムまたは抗てんかん薬に加え,抗精神病薬の筋注と支持療法を行うことが適切となりうる。

抗うつ薬

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妊娠中の注意事項

妊娠中のリチウムの使用は,心血管奇形(特にエプスタイン奇形)のリスク増加と関連する。ただし,この心血管奇形の絶対リスクは極めて低い。妊娠中のリチウムの服用は,あらゆる先天奇形の相対リスクを約2倍増加させるとみられるが,そのリスクはカルバマゼピンまたはラモトリギンの使用に関連する先天奇形リスクの増加(2~3倍)と同程度であり,バルプロ酸の使用に関連するリスクよりも大幅に低い。

バルプロ酸では,神経管閉鎖不全やその他の先天奇形のリスクが一般的に使用される他の抗てんかん薬よりも2~7倍高いとみられている。バルプロ酸は神経管閉鎖不全,先天性心疾患,泌尿生殖器奇形,筋骨格系の異常,および口唇裂または口蓋裂のリスクを高める。また,妊娠中にバルプロ酸を服用した女性の子供の認知的予後(例,IQスコア)は,他の抗てんかん薬によるものより悪く,リスクは用量依存性とみられる。バルプロ酸は注意欠如・多動症および自閉スペクトラム症のリスクも高めるとみられる(1 妊娠中の注意事項に関する参考文献 いずれの薬剤にも重大な有害作用があり,薬物相互作用がよくみられ,全ての患者に効果を示す薬剤はないことから,薬剤の選択が困難となる場合がある。各患者で以前に効果的かつ忍容性良好であった薬剤に基づいて選択すべきである。治療歴がない(または不明の)場合は,患者の病歴(特定の気分安定薬の有害作用に注目する)と症状の重症度に基づいて選択する。 患者の当面の安全と管理が損なわれる重度の躁病性精神病に関して,通常,緊急の行動コントロールとして鎮静作用... さらに読む )。

妊娠早期における第1世代抗精神病薬および三環系抗うつ薬の使用に関する広範な研究では,懸念の原因は明らかにされていない。パロキセチンを除くSSRIについても同じのようである。第2世代抗精神病薬は双極性障害の全ての病期でより広範に使用されているものの,胎児に対するリスクに関するデータはまだ乏しい。

分娩前の薬剤(特にリチウムおよびSSRI)の使用は,新生児へのもち越し効果につながる可能性がある。

治療方針の決定は,計画外妊娠の場合,医師がその件を知った時点ですでに催奇形作用が生じている可能性があるため,複雑なものとなる。周産期精神科医へのコンサルテーションを考慮すべきである。全例において,治療のリスクと便益について患者と話し合うことが重要である。

妊娠中の注意事項に関する参考文献

  • 1.Tomson T, Battino D, Perucca E: Valproic acid after five decades of use in epilepsy: Time to reconsider the indications of a time-honoured drug.Lancet Neurol 15 (2): 210–218, 2016.doi: 10.1016/S1474-4422(15)00314-2.

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