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性別違和および性転換症

執筆者:

George R. Brown

, MD, East Tennessee State University

レビュー/改訂 2019年 7月
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性別違和は,長期間持続する異性への強い同一化を特徴とし,不安,抑うつ,いらだちのほか,しばしば出生時に割り当てられた性とは異なる性別として生きたいという望みを伴う。性別違和を有する人は,しばしば自分のことを生物学的な事故の被害者と認識し,非情にも自身の主観的な性同一性と相容れない肉体に閉じ込められていると確信している。最も極端なタイプの性別違和は,性転換症と呼ばれることがある。

性,性別,および同一性

性(sex)と性別(gender)は同じものではない。

  • 性(sex)は,その人の生物学的な状態(男性,女性,または半陰陽)を指す。

  • 性的同一性(sexual identity)は,その人が性的に引きつけられる個人の性(存在する場合)を指す。

  • 性同一性(gender identity)は,自分がどの性別(gender)に属しているかを認識する主観的感覚であり,すなわち人が自分を男性,女性,トランスジェンダー,別の識別用語(例,ジェンダークィア[genderqueer],ノンバイナリー[nonbinary],アジェンダー[agender])のどれに該当すると考えているかである。

  • 性別役割(gender role)は,性同一性の客観的,公共的な表現であり,自身が自認する性別(gender)であるということを自身または他者に示すために行うあらゆる言動が含まれる。

性別役割行動は伝統的な男らしさまたは女らしさの連続体上に存在するが,現在では,伝統的な男性・女性の二分法に当てはまらない(また必ずしも当てはめられることを望まない)人もいるという文化的認識が広まってきている。それらの人々は,自身についてジェンダークィアやノンバイナリー,あるいは過去10年でより一般的に使用されるようになった他の多くの用語のいずれかで呼称されることがある。自身の性同一性が出生時の性と一致する人に対して,シスジェンダー(cisgender)という用語が使われることがある。

欧米文化は,幼い女児の性別不適合的(おてんばな)行動(一般に性別の障害とはみなされない)に対して,男児の「めめしい」行動より寛容である。姉妹または母親の衣服を着ようとするなど,女児または母親としてのロールプレイを行う男児も多い。通常,この行動は正常な発達の一部である。小児の性別不適合(本人の出生時の性に対する文化的規範と異なる行動)は障害とはみなされず,成人期まで持続したり,性別違和に至ったりすることはまれであるが,持続的な性別不適合の男児は成人期に同性愛者または両性愛者になる可能性が高い場合がある。

性別違和

大半の人では,自身の生物学的(出生時の)性,性同一性,および性別役割が一致する。しかしながら,性別違和のある人は,自身の出生時の性と性同一性との間にいくらかの不一致を経験する。

性別不一致,または性別不適合,それ自体は障害とはみなされない。しかしながら,出生時の性と自らが感じる性同一性の間に不一致が感じられることで著しい苦痛や日常生活への支障を来している場合には,性別違和の診断が適切となりうる。その苦痛は,典型的には不安,抑うつ,いらだちの組合せである。重度の性別違和を有する人は,しばしば性転換症者(トランスセクシャル)と呼ばれ,長期間持続して当事者を混乱させる重度の症状を体験し,自分の体を内科的および/または外科的に変えて,体を自分の性同一性に近づけたいという強い望みをもつ場合がある。

正確な数値は不明であるが,Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition(DSM-5)に記載されているように,出生時の性が男性の人の0.005~0.014%,出生時の性が女性の人の0.002~0.003%が性別違和の診断基準を満たすと推定されている。それより多くの人が自身をトランスジェンダーと考えているが,性別違和の基準は満たさない。

性別違和の診断は基本的に身体的な状態(性発達の障害に近い)であって,決して精神障害ではないと主張する学者もいる。逆に,トランスジェンダーのコミュニティに属する人の中には,極端な形態の性別不適合でさえ,人間の性同一性および性別表現における正常な変異に過ぎないと考える人もいる。

性別違和および性転換症の病因

性同一性は,大部分が生物学的因子(例,遺伝的相補性,出生前ホルモン環境)によって決定されるが,確固とした矛盾のない性同一性および性別役割の形成は社会的因子(例,両親の情緒的な絆の特徴,両親のそれぞれが子供ともつ関係)の影響も受ける。一卵性双生児では二卵性双生児と比べて性別違和の一致率が高いことを示す研究があり,トランスジェンダーの性同一性に遺伝的な要素があることが示唆されている。

まれに,性転換症に半陰陽(半陰陽の状態[性発達の障害])や 遺伝学的異常 性染色体異常の概要 性染色体異常には性染色体の異数性,部分欠失,または重複が関与し,モザイクの場合もある。 ( 染色体異常症の概要も参照のこと。) 性染色体異常はよくみられ,様々な先天奇形や発育異常を合併する症候群の原因となっている。その大多数は出生前から疑われることはないが,母体年齢が高いなどの他の理由で実施された核型分析の際に偶然発見されることがある。出生時に異常を認識することも困難である場合が多く,思春期まで診断されないこともある。... さらに読む が合併することもある(例, ターナー症候群 ターナー症候群 ターナー症候群の女児は,2つのX染色体のうち1つが部分的または完全に欠失した状態で出生する。診断は臨床所見に基づき,細胞遺伝学的分析で確定する。治療法は臨床像に応じて異なり,心奇形に対して手術を行うこともあれば,しばしば低身長に対する成長ホルモン療法と思春期発来異常に対するエストロゲン補充を行うこともある。 ( 染色体異常症の概要および 性染色体異常の概要も参照のこと。) ターナー症候群は世界中で出生女児の約1/2500に発生する。しか... さらに読む ターナー症候群 クラインフェルター症候群 クラインフェルター症候群(47,XXY) クラインフェルター症候群は,2つ以上のX染色体に加えて1つのY染色体が存在する異常であり,表現型は男性となる。診断は臨床所見に基づき,細胞遺伝学的分析で確定する。治療にはテストステロンの補充を含めることがある。 ( 染色体異常症の概要も参照のこと。) クラインフェルター症候群は最も頻度の高い 性染色体異常で,出生男児の約1/500に発生する。過剰なX染色体は60%の症例で母親由来である。胚細胞が精巣内で生存できないため,精子およびアンド... さらに読む クラインフェルター症候群(47,XXY) )。

環境因子の重要性の程度については依然として議論があるが,性の指定や性的な養育に混乱があると(例,半陰陽または性器の外観が変化する遺伝性症候群[アンドロゲン不応症など]がある場合),小児は自身の性同一性や性別役割について確信がもてなくなることがある。しかしながら,性の指定と性的な養育が不明瞭でなければ,たとえ半陰陽があったとしても,小児の性同一性の発達に影響を及ぼさないことがある。

性別違和および性転換症の症状と徴候

小児における性別違和の症状

小児期の性別違和は多くの場合,2~3歳までに現れる。一般的には小児に以下の言動がみられる:

  • 異性の服の着用を好む

  • 自分は反対の性であると主張する

  • 目覚めたら反対の性の体になれっていればと願う

  • 異性に典型的なゲームや活動に参加することを好む

  • 自身の性器に対して陰性感情を抱く

例えば,自分には将来ペニスができ,男の子になるのだと言い張る女児もおり,立って排尿することもある。男児は女性であるという空想にふけり,荒っぽい遊びや競争的なゲームを避けることがある。座って排尿し,自分の陰茎や精巣を取り去りたいと願う男児もいる。男児では,思春期の身体的変化に対する苦悩に続いて,青年期には身体を女性化する治療を求めるようになることが多い。性別違和を有する小児の大半は,6~9歳になるまで評価を受けることはなく,その時点ですでに性別違和が慢性化している。

性別違和と診断された小児のうち,成人になっても性別違和が続いている人は少数のみである。性別違和のある思春期前の小児による社会的および/または医学的な移行をいつ支援するべきか,支援をするべきかどうかについては,かなりの議論があり,その判断の指針となるような決定的な研究は存在しない。

成人における性別違和の症状

性転換症者の大半は幼児期から性別違和の症状を有しているか,他者とは異なるという感覚を経験するが,成人期まで問題が生じない者もいる。男性から女性への性転換症者(性転換女性)は,最初は異性装者であって,人生の後になって初めて自身の反対の性への同一性を受け入れる場合もある。

自身の異性的な(トランスジェンダー的)感情から逃れたいと思う性転換症者は,結婚したり兵役を務めることが多い。一旦自身の異性的感情と社会的な移行を受容すれば,多くの性転換女性は,ホルモン療法や性別適合手術を受けるか否かにかかわらず,女性として社会の構造の中に円滑に溶け込んでいく。

出生時の性は男性であったが性同一性は女性である人の中には,社会の中で女性として働き生活できるように,女性的な外見になる方法を習得し,女性の身分証明書(例,運転免許証,パスポート)を取得することで満足する人もいる。一方で問題を経験する人もおり,具体的には不安,うつ病,自殺行動などがみられる。それらの問題には,性別不適合行動を受け入れてもらえないことに伴う社会的および家族的ストレス因が関連している場合がある。

性別違和および性転換症の診断

  • DSM-5の特異的な基準

全年齢層での診断

性別違和は年齢層によって現れ方が異なる。しかし,DSM-5の基準では,全年齢層での性別違和の診断について以下の両方の存在が必須とされている:

  • 6カ月以上にわたって認められる出生時の性と自らが感じる性同一性との著しい不一致(異性への同一化)

  • この不一致により生じた臨床的に重大な苦痛または機能障害

小児での診断

全年齢層で必須とされる特徴に加えて,小児では以下のうちの6つ以上が認められる必要がある:

  • 反対の性別(または他の何らかの性別)でありたいという強い欲求またはそうであるという強い主張

  • 反対の性別に典型的な衣服を着ることに対する強い嗜好と(女児では)典型的な女性的衣服を着ることへの抵抗

  • 遊びにおける異性の役割に対する強い嗜好

  • 反対の性別に典型的な玩具,ゲーム,活動に対する強い嗜好

  • 反対の性別の遊び相手に対する強い嗜好

  • 出生時の性と一致する性別に典型的な玩具,ゲーム,活動に対する強い拒絶

  • 自分の身体構造に対する強い嫌悪

  • 自分が感じている性同一性と一致する第一次および/または第二次性徴に対する強い欲求

異性への同一化は,単純に反対の性である方が文化的に有利との認識による願望であってはならない。例えば,妹が受けている特別扱いを自分も受けられるよう女の子になりたいと言う男児では,性別違和がある可能性は低い。

青年および成人での診断

全年齢層で必須とされる特徴に加えて,青年および成人では以下のうちの1つ以上が認められる必要がある:

  • 自分の第一次および/または第二次性徴を取り除きたい(または青年期早期では,その発達を阻止したい)という強い欲求

  • 自分が感じている性別と一致する第一次および/または第二次性徴に対する強い欲求

  • 反対の性別(または他のなんらかの性別)になりたいという強い欲求

  • 別の性別のように扱われたいという強い欲求

  • 自分が別の性別に典型的な感情および反応を備えているという強い信念

成人における性別違和の診断では,著しい苦痛や社会的,職業的,その他重要な機能領域に明らかな問題が起きているかどうかの判断に焦点が置かれる。性別不適合のみでは診断を下すのに不十分である。

性別違和および性転換症の治療

  • 精神療法

  • 一定の年齢以上(典型的には16歳以上)の意欲のある一部の患者に対しては,必要に応じて同意と承諾を得た上で,ホルモン療法(cross-sex hormone therapy)と,ときに性別適合手術やその他の性別確認手術(gender-affirming surgery)。

異性装などの性別不適合行動については,心理的苦痛と機能的障害のいずれも併存しなければ,治療の必要はない。そのような行動は障害とはみなされない。

治療が必要な場合は,患者の同一性に異を唱えて放棄させようとするのではなく,患者の適応を助けることを目標とする。成人の性同一性を変化させる試みは,有効性の証明がなされておらず,現在では非倫理的とみなされている。

ほとんどの欧米文化では,治療を求める性転換症者の大半は,出生時の性が男性で,女性としての性同一性を主張し,自身の性器と男性的特徴を嫌悪している。しかしながら,治療法が改善されてきたことで,女性から男性への性転換症者(性転換男性)も身体科および精神科の診療現場で多くみられるようになってきているが,欧米の文化における発生率は男性から女性への性転換症の約3分の1である。

性転換症者が医学的支援を求める主な目的は,心理学的治療を受けることではなく,身体的外観を自らが感じる性同一性に近づけるホルモン投与および/または性別適合(性別確認または性器)手術を受けることである。この障害が適切に診断され,医師が性同一性障害の治療に関する国際的に認められた診療基準(World Professional Association for Transgender Health[WPATH]から入手可能)に従う場合には,精神療法,ホルモン療法,自らが感じる性同一性での少なくとも1年間の生活,および性別適合手術の併用で治癒が得られることがある。

性別違和患者は異性のホルモン療法および外科的手技を考慮する前に精神療法を受けることは必須とされなくなっているが,精神医療の従事者は患者が判断を下す支援として以下のことを行うことができる:

男性から女性への性転換症

中等量の女性化ホルモン(例,エストラジオール経皮パッチ0.1~0.15mg,1日1回)の使用に加えて,電気分解治療,発声療法,その他の女性化治療を併用することにより,女性の性別役割への適応が安定化することがある。女性化ホルモンには性別違和の症状に対して有意な効果があり,多くの場合,第二次性徴で目に見える変化(例,乳房の成長,顔毛および体毛の減少,殿部の脂肪の増加)が生じる前に行うのが有益である。一部の患者は,女性化ホルモンの使用のみで,心理的支援や手術を行わなくとも,女性として十分に快適な生活を送ることができる。

性別適合手術は,男性から女性への性転換症者の多くが要望する。手術では,陰茎および精巣の切除および人工腟の形成を行う。亀頭の一部を陰核として残すと,通常は性的な感受性が残り,大半の例でオルガスムの能力が維持される。

性別適合手術を進める決断は,しばしば患者に重大な社会的問題をもたらす。こうした患者の多くは既婚者であり,子供もいる。性別および性別役割を変える親または配偶者は,親密な関係において大きな適応上の問題を抱える可能性が高く,その過程で愛する人を失うこともある。追跡研究では,性器手術は一部の性転換症者がより幸福で,より生産的な人生を送るのに役立っており,したがって,強い動機があり,反対の性別役割を終止続ける生活を少なくとも1年間送り,かつ適切な評価を受けた上で治療を受ける性転換症者では妥当とされている。

一部には,豊胸術,顔面女性化手術(例,鼻形成,眉毛挙上,ヘアラインの変更,顎の再構築,気管軟骨の切削[喉頭軟骨の減量]),声質を変えるための声帯手術など,性器以外の性別確認のための外科的手技を希望する患者もいる。

通常はジェンダー支援団体への参加が助けになり,こうしたグループはほとんどの大都市に存在し,インターネットを通じて参加することも可能である。

女性から男性への性転換症

女性から男性への性転換症患者は,大きな乳房をもった状態で男性の性別役割を示した生活を送ることが困難なため,しばしば早期から乳房切除術を要望する(さらしなどを巻いて乳房を小さく見せる行為は,呼吸を困難にすることが多い)。

その後,一連の男性ホルモン剤投与(例,テストステロンエステル製剤300~400mg,筋注,3週毎,または等価量のアンドロゲン経皮パッチまたはゲル)に続いて,子宮摘出術および卵巣摘出術が施行されることもある。テストステロン製剤は,永続的な声の低音化,筋肉および脂肪の分布の男性化,ならびに陰核肥大を引き起こし,顔毛および体毛の成長を促進する。

患者が以下のいずれかを選択することがある:

  • 前腕内側,下肢,または腹部から移植した皮膚で作製する人工陰茎(新生陰茎)(陰茎形成術)

  • 恥丘から採取して,テストステロンにより肥大化したクリトリス周囲に移植した脂肪組織を用いて作製する小陰茎(陰核陰茎形成術)

いずれの手技でも通常は陰嚢形成術も行われ,大陰唇を切開して陰嚢に似せた空洞を形成し,精巣インプラントを挿入して新生陰嚢を満たす。

一部の患者では手術がより高い適応性および生活上の満足感を得るのに役立つことがある。男性から女性への性転換症者と同様に,女性から男性への性転換症者もまた,不可逆的な性器手術への紹介の前に少なくとも1年間にわたり男性の性別役割で生活させるべきである。

新生陰茎の解剖学的な結果は,機能および外見の点で,男性から女性への性転換症者の腟形成術ほど満足のいくものではない場合が多く,おそらくはこのことが,女性から男性への性転換症者からの性器の性別適合手術の要望が比較的少ないという現状につながっている。陰茎形成術の術式が改善し続けるにつれて,陰茎形成術の要望が増えている。

性別違和および性転換症の要点

  • 性別違和を精神障害とみなすべきかどうかについては議論があり,性別違和は基本的に医学的な病態であると考える学者もいる一方で,トランスジェンダーのコミュニティに属する人の中には,極端な形態の性別不適合でさえ,人間の性同一性および性別表現における正常な変異であると考える人もいる。

  • 性別違和の診断は,出生時の性と自らが感じる性同一性との不一致が顕著で,それにより著しい苦痛および/または機能障害が引き起こされている場合にのみ下される。

  • 性転換症者が医学的支援を求める主な目的は,通常は心理学的治療を受けることではなく,身体的外観を自らが感じる性同一性に近づけるためのホルモン投与および/または性器手術を受けることである。

  • 男性から女性への性転換症者の一部は,女性化ホルモンの使用のみで,女性として十分に快適な生活を送ることができる。

  • 性転換症者は,性別適合手術を考慮する前に反対の性別役割で少なくとも1年間生活すべきである。

  • 性別違和と診断された思春期前の小児の治療については,依然として議論がある。

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