(脱髄疾患の概要 脱髄疾患の概要 中枢および末梢神経系の多くの神経線維を覆っている髄鞘は,軸索による神経インパルスの伝達を加速する。ミエリンを障害する疾患では神経伝達が阻害され,その症状は,神経系のいずれかの部分の障害を反映することがある。 中枢神経系の乏突起膠細胞により形成されるミエリンは,末梢でシュワン細胞より形成されるものと化学的,免疫学的に異なっている。したがって... さらに読む も参照のこと。)
視神経脊髄炎スペクトラム障害では,ときに両側性となる急性 視神経炎 視神経炎 視神経炎は視神経の炎症である。症状は通常片眼性で,眼痛および部分的または完全な視力障害を伴う。診断は主として臨床的に行う。治療は基礎疾患に対して行う;ほとんどの例は自然寛解する。 視神経炎は20~40歳の成人に最も多い。ほとんどの症例は脱髄疾患,特に 多発性硬化症によるものであるが,多発性硬化症の場合は再発しうる。視神経炎は多発性硬化症の最初の臨床像となることが多い。その他の原因としては以下のものがある:... さらに読む に加えて,頸髄または胸髄の脱髄が生じる。以前は 多発性硬化症 多発性硬化症(MS) 多発性硬化症(MS)は,脳および脊髄における散在性の脱髄斑を特徴とする。一般的な症状としては,視覚および眼球運動異常,錯感覚,筋力低下,痙縮,排尿機能障害,軽度の認知症の症状などがある。典型的には複数の神経脱落症状がみられ,寛解と増悪を繰り返しながら,次第に能力障害を来す。診断には,時間的・空間的に独立した複数の特徴的な神経病変(部位は中枢神経系)を示す臨床所見またはMRI所見を必要とする。治療法としては,急性増悪に対するコルチコステロ... さらに読む (MS)の亜型と考えられていたが,現在では独立した別の疾患と認識されている。
視神経脊髄炎スペクトラム障害では,脳や特に脊髄および視神経の星細胞上に発現するタンパク質であるアクアポリン4のほか,ときに他の標的が,免疫系による攻撃を受ける。星細胞は自己免疫性の炎症と脱髄によって損傷を受ける。
NMOSDの症状と徴候
視神経脊髄炎スペクトラム障害の症状としては,視力障害,筋攣縮,対麻痺または四肢麻痺,失禁などがある。
特異的かつ特徴的な臨床像として以下のものがある:
視交叉を侵す重度の両側性視神経炎:視野の上下半分の視力障害(水平性視野欠損)または視力低下(20/200以下)
完全な脊髄症候群:特に強直痙攣発作を伴うもの
最後野症候群:難治性の吃逆または悪心および嘔吐を引き起こす(最後野は嘔吐を制御する部位であり,第4脳室床に位置する)
3つ以上の隣接する髄節に及ぶ急性横断性脊髄炎
NMOSDの診断
脳および脊髄MRI
視覚誘発電位
視神経脊髄炎スペクトラム障害の診断では通常,脳および脊髄MRIと視覚誘発電位検査を行う(1 診断に関する参考文献 視神経脊髄炎スペクトラム障害は,主に眼および脊髄を侵す脱髄疾患であるが,アクアポリン4が含まれる中枢神経系の他の構造も侵す可能性がある。 ( 脱髄疾患の概要も参照のこと。) 視神経脊髄炎スペクトラム障害では,ときに両側性となる急性 視神経炎に加えて,頸髄または胸髄の脱髄が生じる。以前は 多発性硬化症(MS)の亜型と考えられていたが,現在では独立した別の疾患と認識されている。 視神経脊髄炎スペクトラム障害では,脳や特に脊髄および視神経の星... さらに読む )。
以下の特徴は視神経脊髄炎を多発性硬化症(MS)と鑑別するのに役立つ:
MSでは典型的には1つの髄節が侵されるのに対し,視神経脊髄炎ではいくつか(典型的には3つ以上)の隣接する髄節が侵される。
MSとは異なり,視神経脊髄炎ではMRIで白質病変を認めるのまれである。
MRIでの病変の形態および分布がMSと異なる。
視覚誘発電位は,視神経脊髄炎を他の視神経症と鑑別するのに役立つ。視神経脊髄炎スペクトラム障害の所見としては,振幅の低下や潜時の延長などがある。この検査は,発症前に臨床的に明らかでない損傷を検出するのにも有用である。
MSとの鑑別を目的として,視神経脊髄炎スペクトラム障害に特異的なIgG抗体(アクアポリン4抗体[NMO-IgGとしても知られる])を測定する血液検査を行うこともある。抗MOG(ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質)抗体により,視神経脊髄炎スペクトラム障害患者の一部を同定することができ,この抗体をもつ患者はアクアポリン4抗体をもつ患者やいずれの抗体ももたない患者と比べて臨床的特徴が異なり,増悪が少なく,回復が良好と考えられている。
診断に関する参考文献
1.Wingerchuk DM, Banwell B, Bennett JL, et al: International consensus diagnostic criteria for neuromyelitis optica spectrum disorders.Neurology 85 (2):177–189, 2015.doi: 10.1212/WNL.0000000000001729 Epub 2015 Jun 19
NMOSDの治療
コルチコステロイドおよび免疫調節薬または免疫抑制療法
視神経脊髄炎に根治的な治療法はない。しかしながら,治療により増悪を予防し,遅らせ,重症度を軽減することができる。
C5阻害薬であるエクリズマブは,アクアポリン4抗体陽性の視神経脊髄炎スペクトラム障害に対する治療薬として承認されている。有害作用には呼吸器感染症,頭痛,肺炎などがあり,重大となる場合があるため,注意深く患者をモニタリングすべきである(1 治療に関する参考文献 視神経脊髄炎スペクトラム障害は,主に眼および脊髄を侵す脱髄疾患であるが,アクアポリン4が含まれる中枢神経系の他の構造も侵す可能性がある。 ( 脱髄疾患の概要も参照のこと。) 視神経脊髄炎スペクトラム障害では,ときに両側性となる急性 視神経炎に加えて,頸髄または胸髄の脱髄が生じる。以前は 多発性硬化症(MS)の亜型と考えられていたが,現在では独立した別の疾患と認識されている。 視神経脊髄炎スペクトラム障害では,脳や特に脊髄および視神経の星... さらに読む )。髄膜炎菌性敗血症を発症した患者が1例報告されているため,治療を開始する前に髄膜炎菌に対するワクチン接種が必要である。
最近,サトラリズマブ(インターロイキン6受容体を標的とするモノクローナル抗体)およびイネビリズマブ(B細胞上のCD19を標的とするモノクローナル抗体)が,アクアポリン4抗体陽性視神経脊髄炎スペクトラム障害の治療薬として承認された。尿路感染症や呼吸器感染症などの感染症について注意深くモニタリングすべきである。
メチルプレドニゾロンとアザチオプリンがしばしば併用される。コルチコステロイドで反応が得られない場合は, 血漿交換 血漿交換 アフェレーシスとは,機器を用いて血液中の血球と水溶性成分を分離する処理のことを指す。アフェレーシスは,供血者に対してしばしば行われ,様々な患者の輸血に用いるべく全血を遠心分離して個々の成分(例,特定の重力に応じて赤血球,血小板,および血漿)を分取する。アフェレーシスは様々な疾患に対する治療目的でも用いられる( 1)。 治療目的のアフェレーシスとしては, 血漿交換や 血球除去などがある。... さらに読む が有用となりうる。
抗B細胞抗体であるリツキシマブは,ある二重盲検プラセボ対照試験で再発を減少させることが示されている(2 治療に関する参考文献 視神経脊髄炎スペクトラム障害は,主に眼および脊髄を侵す脱髄疾患であるが,アクアポリン4が含まれる中枢神経系の他の構造も侵す可能性がある。 ( 脱髄疾患の概要も参照のこと。) 視神経脊髄炎スペクトラム障害では,ときに両側性となる急性 視神経炎に加えて,頸髄または胸髄の脱髄が生じる。以前は 多発性硬化症(MS)の亜型と考えられていたが,現在では独立した別の疾患と認識されている。 視神経脊髄炎スペクトラム障害では,脳や特に脊髄および視神経の星... さらに読む )。ときに他の免疫調節療法および免疫抑制療法が用いられる。
ナタリズマブおよびフィンゴリモドは無効とみられ,有害である可能性がある。
治療に関する参考文献
1.Pittock SJ, Berthele A, Fujihara K, et al: Eculizumab in aquaporin-4-positive neuromyelitis optica spectrum disorder.N Engl J Med 381 (7):614–625, 2019.doi: 10.1056/NEJMoa1900866 Epub 2019 May 3
2.Tahara M, Oeda T, Okada K, et al: Safety and efficacy of rituximab in neuromyelitis optica spectrum disorders (RIN-1 study): A multicentre, randomised, double-blind, placebo-controlled trial.Lancet Neurol 19 (4):298–306, 2020.doi: https://doi.org/10.1016/S1474-4422(20)30066-1
NMOSDの要点
視神経脊髄炎スペクトラム障害は脱髄を引き起こし,典型的には抗アクアポリン4抗体または抗MOG(ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質)抗体が陽性である。
典型的な症状としては,視力障害,筋攣縮,対麻痺または四肢麻痺,失禁などがある。
視神経脊髄炎スペクトラム障害は,脳および脊髄MRIと視覚誘発電位検査により診断する。
治療には,コルチコステロイドおよび免疫調節薬または免疫抑制療法などがある(例,エクリズマブ,リツキシマブ)。