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複合性局所疼痛症候群(CRPS)

(反射性交感神経性ジストロフィーおよびカウザルギー)

執筆者:

James C. Watson

, MD, Mayo Clinic College of Medicine and Science

レビュー/改訂 2020年 2月
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複合性局所疼痛症候群(CRPS)は,軟部組織もしくは骨損傷後(I型)または神経損傷後(II型)に発生して,当初の組織損傷から予測されるより重度で長期間持続する,慢性の神経障害性疼痛である。その他の症状として,自律神経性の変化(例,発汗,血管運動異常),運動機能の変化(例,筋力低下,ジストニア),萎縮性の変化(例,皮膚または骨萎縮,脱毛,関節拘縮)などがみられる。診断は臨床的に行う。治療法としては,薬剤投与,理学療法,交感神経ブロックなどがある。

CRPS I型はかつて反射性交感神経性ジストロフィー(Complex Regional Pain Syndrome: Treatment Guidelinesも参照),II型はカウザルギーと呼ばれていた。どちらの病型も若年成人で最もよくみられ,女性の方が男性より2または3倍多い。

複合性局所疼痛症候群の病因

CRPS I型は,典型的には外傷(通常は手または足)に続いて発生し,挫滅損傷(特に下肢)で最もよくみられる。一方で四肢切断,急性心筋梗塞,脳卒中,またはがん(例,肺,乳房,卵巣,中枢神経系)に続発することもあり,約10%の症例では原因不明である。一般的には,最初の外傷を治療するために四肢を固定した後に発生する。

CRPS II型はI型と類似するが,末梢神経に明らかな損傷が認められる。

CRPSの病態生理

病態生理は明らかでないが,末梢の侵害受容器および中枢神経系の感作と神経ペプチド(サブスタンスP,カルシトニン遺伝子関連ペプチド)の放出が疼痛および炎症の持続に寄与する。CRPSは他の神経障害性疼痛症候群よりも交感神経系の関与が強く,中枢性に交感神経活動が亢進するとともに,末梢の侵害受容器にノルアドレナリン(交感神経伝達物質)に対する感作が生じ,これらの変化によって発汗異常や血管収縮による血流低下を来すことがある。しかしながら,交感神経系に対する処置(中枢性または末梢性の交感神経ブロック)が奏効するのは一部の患者のみである。

CRPSの症状と徴候

複合性局所疼痛症候群の症状は非常に多彩で,単一のパターンに従うものではなく,感覚異常,局所の自律神経異常(血管運動または発汗),および運動異常がみられる。

疼痛(焼けつくような痛みや疼くような痛み)は診断の中核となる特徴である。1つの末梢神経の分布には一致せず,局所に分布する環境変化や精神的ストレスにより悪化することがある。通常,アロディニアおよび/または痛覚過敏がみられる。疼痛によって患肢の使用が制限されることも多い。

皮膚の血管運動性変化(例,発赤,斑状,青白い変色;皮膚温の上昇または低下)や発汗運動の異常(皮膚の乾燥または発汗過多)がみられることもある。かなり強い限局性の浮腫が生じることがある。

その他の症状としては,萎縮性の異常(例,光沢を伴う皮膚萎縮,爪の亀裂や過度の伸長,骨萎縮,脱毛)や運動機能の異常(筋力低下,振戦,攣縮,手指の屈曲固定または内反尖足位を伴うジストニア)などがある。関節可動域がしばしば制限され,ときに関節拘縮に至ることもある。症状のために切断後の義肢装着が困難になることもある。

心理的苦痛(例,抑うつ,不安,怒り)がよくみられ,それらは原因不明という状況,効果的な治療法の欠如,長期に及ぶ経過によって助長される。

CRPSの診断

  • 臨床的評価

複合性局所疼痛症候群は以下がみられる場合に診断される:

Budapest基準には4つのカテゴリーがある。CRPSと診断するには,4つのカテゴリーのうち3つで少なくとも1つの症状を患者が報告する必要があり,また同じ4つのカテゴリー(症状と徴候とで重複している)のうち2つで少なくとも1つの徴候を医師が検出する必要がある:

  • 感覚:知覚過敏(徴候としては,ピン刺しに対する反応)またはアロディニア(徴候としては,軽いタッチ,深部体性感覚への圧,および/または関節運動に対する反応)

  • 血管運動:温度の左右非対称(徴候としては> 1°C)または非対称性の皮膚の変色

  • 発汗運動または浮腫:発汗の変化,非対称性の発汗,または浮腫

  • 運動または栄養:皮膚,毛髪,もしくは爪の栄養性変化,可動域の減少,または運動機能障害(筋力低下,振戦,ジストニア)

また,症状を説明できる他の疾患の所見を認めないことが必須である。他にも疾患がある場合は,CRPSの可能性がある,ないしCRPSの可能性が高いと考えるべきである。

骨変化(例,X線写真での脱石灰化,3相骨シンチグラフィーでの集積亢進)が検出されることがあるが,通常は診断が難しい場合にのみ評価される。ただし,画像検査では,CRPSのない患者でも外傷後には骨の異常が描出されることがあるため,異常所見は非特異的である。

交感神経異常に対する検査として,生理食塩水(プラセボ)またはフェントラミン1mg/kgを10分かけて点滴静注しながら疼痛スコアを記録する方法があり,プラセボではなくフェントラミンの投与後に疼痛が軽減すれば,交感神経依存性疼痛が示唆される。

診断(および治療)を目的として,交感神経ブロック(星状神経節または腰部)が用いられている。しかしながら,CRPSの全ての疼痛が交感神経依存性というわけではなく,また神経ブロックは交感神経以外の神経線維にも影響を及ぼす可能性があるため,偽陽性や偽陰性の判定がよくみられる。

診断に関する参考文献

CRPSの予後

予後は様々であり,予測は困難である。CRPSは寛解することもあれば,何年も安定して経過することもあり,また少数の患者では,進行して他の部分にまで波及する。

CRPSの治療

  • 集学的治療(例,薬剤,理学療法,交感神経ブロック,心理学的治療,ニューロモジュレーション,鏡療法)

複合性局所疼痛症候群の全ての治療の第一目標は,患肢の可動性を高めることである。

CRPSの治療は複雑であり,満足のいく効果は得られないことが多く,特に開始が遅れるとその可能性が高くなる。具体的には,薬剤投与,理学療法,交感神経ブロック,心理学的治療,ニューロモジュレーションなどがある。比較試験はほとんど実施されていない。

交感神経依存性疼痛を有する患者の一部では,局所交感神経ブロックにより疼痛を緩和でき,それにより理学療法が可能になる。経口鎮痛薬(非ステロイド系抗炎症薬[NSAID],オピオイド,様々な鎮痛補助薬)でも,リハビリテーションが可能になるまで疼痛を緩和できる可能性がある。

ニューロモジュレーションとしては,植込み型脊髄刺激装置の使用が増えてきている。後根神経節刺激では,局所的な症状が標的とされることがある。経皮的電気神経刺激(TENS)は,様々な刺激パラメータを設定して複数の部位に適用されるもので,効果的である可能性があるが,長期間にわたる試験が必要である。

オピオイド,麻酔薬,ジコノチド(ziconotide),および/またはクロニジンの脊髄幹輸注(neuraxial infusion)が役立つこともあり,またバクロフェンの髄腔内投与によってジストニアの軽減が得られる可能性がある。

アロディニアのある患肢の脱感作も不可欠である。この処置では,まず比較的弱い刺激(例,絹)を与えてから,徐々に刺激の強度を高めていく(例,デニム)。患肢を冷水に浸けてから温水に浸けるthermal contrast bathという方法も脱感作に用いられる。

幻肢痛 合併症 または脳卒中によるCRPS I型の患者で鏡療法が有益であったことが報告されている。まず患者の下肢の間に大きな鏡を置く。鏡に健側の下肢を映し,患側(疼痛がある方または失った方)の下肢は患者から見えないようにして,2本の正常な下肢があるという印象を患者にもたせる。続いて患者に対し,鏡に映った像を見ながら,正常な方の下肢を動かすように指示する。この運動により脳がだまされ,患肢ないし切断下肢が痛みなく動いていると認識するようになる。この運動を1日に30分間,4週間にわたって行わせると,大半の患者が大幅な疼痛の軽減を報告する。

鍼治療が疼痛の緩和に役立つことがある。

CRPSの要点

  • 複合性局所疼痛症候群は外傷(軟部組織,骨,または神経),四肢切断,急性心筋梗塞,脳卒中,またはがんに続発することがあるが,明らかな原因がみられない場合もある。

  • 神経障害性疼痛,アロディニアまたは痛覚過敏,および局所の自律神経失調がみられ,かつ他の原因が同定されない場合には,CRPSと診断する。

  • 予後は予測困難であり,治療を行っても満足のいく効果は得られない場合が多い。

  • 複数の方法(例,神経障害性疼痛に対する薬剤,理学療法,交感神経ブロック,心理学的治療,ニューロモジュレーション,鏡療法)を用いて,できるだけ早期に治療する。

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