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認知症の行動・精神症状

執筆者:

Juebin Huang

, MD, PhD, Memory Impairment and Neurodegenerative Dementia (MIND) Center, University of Mississippi Medical Center

最終査読/改訂年月 2016年 2月

秩序破壊的行動は認知症患者によくみられ,介護施設入所の最大50%はこれが主因である。秩序破壊的行動としては,徘徊する,不穏になる,わめく,ものを投げる,たたく,治療を拒む,絶え間なく質問する,スタッフの仕事の邪魔をする,不眠症,および号泣などがある。認知症の行動・精神症状については,まだ十分な検討がなされておらず,その治療法はほとんど分かっていない。

どの行動が行動症状であるかの判断は,極めて主観的である。許容度(介護者がどの行動を許容できるか)は,患者の生活環境,特に安全性に一部依存している。例えば徘徊は,患者が安全な環境で生活していれば(全てのドアとゲートが施錠され警報がついていれば)許容できるかもしれないが,介護施設や病院の中では,患者が徘徊すると他の患者の邪魔となったり施設の運営に支障を来したりすることから,許容できないことがある。

多くの行動(例,徘徊,質問を繰り返す,非協力的に振る舞う)は日中の方が許容されやすい。日没現象(日没頃または早晩の秩序破壊的行動の増悪)が介護者の許容度の低下と真の日内変動のどちらを反映しているのかは不明である。介護施設では,認知症患者の12~14%が日中よりも夜間に秩序破壊的行動をとることが多い。

病因

行動・精神症状は,認知症に関連する以下のような機能変化に起因している可能性がある:

  • 不適切な行動に対する抑制の低下(例,公共の場で脱衣する)

  • 視覚的および聴覚的手がかりの誤解釈(例,治療を攻撃と認識して抵抗することがある)

  • 短期記憶の障害(例,すでに返答を得たことを繰り返し質問する)

  • ニーズを表現する能力の低下または表現できない(例,孤独を感じて,怯えて,または何かの物や人を探して徘徊する)

認知症患者はしばしば,管理された施設生活にうまく適応できない。施設では食事,就寝,および排泄の時間が個別化されない。高齢の認知症患者の多くでは,以前に比べて制限が多く,慣れない環境に移された後に行動・精神症状が出現または悪化する。

身体的な問題(例,疼痛,息切れ,尿閉,便秘,身体的虐待)は,患者が何に困っているのか十分にコミュニケーションを取れないことも一因となって,行動・精神症状の増悪につながることがある。身体的な問題はせん妄を引き起こすことがあり,慢性の認知症にせん妄が併発すると行動症状はさらに悪化する。

評価

  • 行動の特徴づけ(例,Cohen-Mansfield Agitation Inventoryによる)

  • 具体的な行動の記録

  • 併存するうつ病および精神病の評価

興奮という言葉はあまりに意味が多く有用ではないため,患者の全ての行動にこの言葉でレッテルを貼るのではなく,その行動を評価・分類するのが最善のアプローチである。Cohen-Mansfield Agitation Inventoryがよく使用され,この指標では行動を以下のように分類する:

  • 攻撃的な身体的行動(physically aggressive):例えば,人や者を叩く,突く,蹴る,噛む,引っ掻く,または掴む

  • 非攻撃的な身体的行動(physically nonaggressive):例えば,物を不適切に扱う,物を隠す,着衣や脱衣を不適切に行う,ゆっくり歩く,わざとらしい癖や文を繰り返す,落ち着きなく振る舞う,どこかに行こうとする

  • 攻撃的な言語的行動(verbally aggressive):例えば,悪態をつく,奇妙な音を出す,叫ぶ,感情を爆発させる

  • 非攻撃的な言語的行動(verbally nonaggressive):例えば,不平を言う,泣き言を言う,常に注目を求める,何でも嫌がる,発言に割り込む(その内容はまともなこともあれば的外れなこともある),悲観的になったり威張り散らしたりする

以下の情報を記録しておくべきである:

  • 具体的な行動

  • 誘因となる出来事(例,食事,トイレ,投薬,受診)

  • 問題行動の開始時間と消失時間

この情報があると,行動のパターンや強度の変化を確認しやすくなり,管理計画が容易になる。

行動が変化する場合,身体診察を行って身体疾患および身体的虐待を除外すべきであるが,患者自身に関連した要因以外では環境変化(例,介護者の交替)も原因になることがあるため,注意すべきである。

うつ病は認知症患者ではよくみられ,行動に影響を及ぼすことがあるため,同定しておくべきである。最初の臨床像としては,認知機能の突然の変化,食欲低下,気分の悪化,睡眠パターンの変化(しばしば過度の眠気),引きこもり,活動性の低下,涙もろくなる,死や死ぬことについて話す,易怒性や精神病症状の突然の出現,その他の突然生じる行動の変化などがある。しばしば,うつ病は家族により初めて疑われる。

精神病的行動もまた,管理法が異なるため,識別しなければならない。妄想または幻覚の存在は精神病を示唆する。妄想および幻覚は,認知症患者でよくみられる見当識障害,恐怖,および誤解と鑑別しなければならない。

  • パラノイアを伴わない妄想は見当識障害と混同されることがあるが,妄想は通常は固定的である(例,介護施設を何度も監獄と呼ぶ)のに対し,見当識障害は変化する(例,介護施設を監獄,レストラン,家と呼ぶ)。

  • 幻覚は外界からの感覚刺激を伴わない;外界からの感覚刺激(例,携帯電話,ポケットベル)の誤解釈に伴う錯覚とは区別すべきである。

治療

  • 環境調整および介護者への支援

  • 必要なときのみ薬剤

認知症の行動・精神症状の管理については議論があり,十分に研究されていない。支持療法の方が好ましいが,薬剤が広く使用されている。

環境調整

安全かつ柔軟な環境を構築して,危険ではない行動にも対応できるようにすべきである。徘徊がある患者の安全確保には,歩行時の目印となる標識や鍵または警報のついたドアが有用となる。睡眠障害のある患者には,睡眠時間を自由にしたり,ベッドを設置したりすることが有用となる。

認知症の治療に用いられる以下の対策は,一般に行動症状を最小限に抑える上でも有用である:

  • 時間および場所に関する手がかりを与える

  • ケアを行う前に説明する

  • 身体的な活動を奨励する

特定の患者に対して適切な環境を提供できない施設では,それが可能な施設に患者を転院させる方が薬物治療よりも望ましい可能性がある。

介護者への支援

介護者への支援は極めて重要である。

認知症からどのようにして行動・精神症状に至るのかを学習し,秩序破壊的行動に対する対処法を学ぶことは,家族やその他の介護者がより良好に患者の世話をして対処するのに役立つ。

ストレスはかなりのものになりうるため,その対処法を学ぶことは不可欠である。介護者がストレスを感じている場合,支援サービス(例,ソーシャルワーカー,介護者の支援団体,訪問介護)に紹介したり,レスパイトケアが利用可能であればその活用方法を教示すべきである。

介護をしている家族の半分近くに抑うつが生じるため,家族に抑うつがないかモニタリングすべきである。介護者の抑うつは迅速に治療すべきである。

薬剤の使用

認知機能を改善する薬剤(例,コリンエステラーゼ阻害薬)は,認知症患者における行動・精神症状の管理にも役立つ。しかしながら,行動症状を主眼とした薬物治療(例,抗精神病薬)は,他のアプローチが無効に終わった場合と安全確保のために薬剤投与が不可欠な場合にのみ用いられる。治療を継続する必要があるかどうかを少なくとも月1回の頻度で再評価すべきである。薬剤を選択する際は,最も許容できない行動を対象にすべきである。

抗うつ薬としてはSSRIが好ましいが,その処方はうつ病の徴候がある患者に限定すべきである。

抗精神病薬

抗精神病薬は精神病患者でしか効力が示されていないが,それでもしばしば使用されている。抗精神病薬がそれ以外の患者に有益となる可能性は低く,有害作用(特に錐体外路症状)が発現する可能性が高い。遅発性ジスキネジアまたは遅発性ジストニアが生じることがあり,これらの病態は薬剤の減量や中止によっても解消しないことが多い。

どの抗精神病薬を選択するかは,相対的な毒性によって判断する。従来型抗精神病薬の中で,ハロペリドールは鎮静作用が比較的弱く,抗コリン作用もさほど強くないが,錐体外路症状を引き起こす可能性が最も高い;チオリダジンとチオチキセンは,錐体外路症状を引き起こす可能性はより低いが,ハロペリドールよりも鎮静作用と抗コリン作用が強い。

第2世代(非定型)抗精神病薬(例,アリピプラゾール,オランザピン,クエチアピン,リスペリドン)は抗コリン作用が最小限で,従来型抗精神病薬よりも錐体外路症状が少ないが,これらの薬物の長期使用は高血糖および全死亡リスクの増大と関連している可能性がある。また,認知症に関連した精神病症状がある高齢患者では,これらの薬剤により脳卒中のリスクが上昇する。

抗精神病薬を使用する場合は,低用量(例,オランザピン2.5~15mg,経口,1日1回;リスペリドン0.5~3mg,経口,12時間毎;ハロペリドール0.5~1.0mg,経口,静注,または筋注,1日2回または必要に応じて)を短期間で投与すべきである。

他の薬物

抗てんかん薬(特にバルプロ酸)は,衝動的な行動爆発のコントロールに有用となることがある。

鎮静薬(例,短時間作用型ベンゾジアゼピン系薬剤,例えばロラゼパム0.5mg経口を必要に応じて12時間毎に投与するなど)は,イベントに関連した不安を緩和するため短期間用いられることがあるが,こういった治療を長期間続けることは推奨されない。

要点

  • 何が秩序破壊的行動に該当するかは主観的に決まるもので,ばらつきがみられるが,行動障害は介護施設入居理由の最大50%を占めている。

  • 行動症状は慣れ親しんだ家庭環境から移動した際に悪化することが多い。

  • 行動障害は,患者が身体的問題を伝えられないことに起因する場合がある。

  • Cohen-Mansfield Agitation Inventoryを用いて行動障害を分類する。

  • 認知機能の突如の変化,食欲低下,気分の悪化,睡眠パターンの変化(しばしば過度の眠気),引きこもり,活動性の低下,涙もろくなる,死や死ぬことについて話す,易刺激性や精神病症状の突然の発生といった,うつ病の徴候を認識する。

  • 可能であれば薬剤を避け,環境調整により治療する。

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