ボクサー認知症は1920年代に同定され,より新しい用語である慢性外傷性脳症はこれと同じ疾患であると考えられている。慢性外傷性脳症については広く研究が行われてきた。この疾患は,頭部外傷を繰り返し起こした運動選手(アメリカンフットボール選手など)の引退後,あるいは爆発による閉鎖性頭部外傷のために脳損傷を負った兵士にみられることがある。
繰り返し頭部外傷を起こした人の中でも,なぜ一部の人だけが慢性外傷性脳症を発症するのか,また様々な頭部外傷を経験した後にこの疾患を発症するリスクとしてどのようなものがあるのか(例,頭部外傷の回数,加わった力の強さ)は,今のところ不明である。脳震盪(一見軽いものも含む)を複数回起こした運動選手の約3%が,慢性外傷性脳症を発症している。
慢性外傷性脳症の病態生理学的特徴は,過剰にリン酸化されたタウタンパクの沈着による神経原線維変化であり,これが血管周囲,皮質溝の深部,および軟膜下と脳室周囲領域に最も顕著にみられる。
症状と徴候
診断
治療
特異的な治療法はない。他の認知症の場合と同様に,支持療法が 助けになる可能性がある。例えば,居住環境は明るく,にぎやかで,親しみ慣れたものとし,見当識を強化できるような配慮を施す(例,大きな時計やカレンダーを部屋に置く)べきである。患者の安全を確保する対策(例,徘徊する患者に対して遠隔モニタリングシステムを使用する)を講じるべきである。
予防
予防対策が最も重要な介入である。慢性外傷性脳症は典型的には頭部外傷を繰り返すことで生じるため,脳震盪を起こした人には,安静にして競技への復帰は徐々に行うよう助言すべきである。1シーズンに数回の脳震盪を起こした選手には,競技を続けることのリスクについて助言すべきである。