(頸部痛および背部痛の評価 頸部痛および背部痛の評価 頸部痛および背部痛は最も一般的な受診理由の1つである。本章では,後頸部を含む頸部痛(前頸部に限った痛みは扱わない)および腰痛を扱うが,ほとんどの重度の外傷性損傷(例, 骨折, 脱臼, 亜脱臼)は扱わない。 原因によっては,頸部痛または背部痛は神経症状を伴うことがある。 神経根が侵されている場合,痛みがその神経根の分布に沿って遠位に放散する... さらに読む も参照のこと。)
脊柱管狭窄症は先天性または後天性のことがある。頸椎または腰椎を侵すことがある。後天性の腰部脊柱管狭窄症(LSS)は,中年患者または高齢患者における 坐骨神経痛 坐骨神経痛 坐骨神経痛は,坐骨神経に沿った痛みである。通常,腰部の腰椎神経根圧迫に起因する。一般的な原因としては,椎間板ヘルニア,骨棘,脊柱管の狭小化(脊柱管狭窄症)などがある。症状としては,殿部から下肢に放散する疼痛などがある。診断ではときにMRIまたはCTを行う。筋電図検査および神経伝導検査で,侵されたレベルを同定できる。治療には,対症療法およびときに手術(特に神経脱落症状がある場合)などがある。... さらに読む の一般的な原因である。LSSの最も一般的な原因は,馬尾の圧迫を伴う, 変形性関節症 変形性関節症(OA) 変形性関節症は,関節軟骨の破綻および潜在的な減少,加えて骨肥大(骨棘形成)など他の関節変化を特徴とする慢性の関節症である。症状としては,活動によって増悪するまたは誘発される徐々に発生する疼痛,覚醒時および安静後に30分未満続くこわばりなどのほか,ときに関節の腫脹がみられる。診断はX線によって確定する。治療には,理学療法,リハビリテーション,患者教育,および薬剤などがある。 変形性関節症(OA)は最もよくみられる関節疾患であり,40代およ... さらに読む ,退行性の椎間板疾患, 脊椎症 頸椎症および頸椎症性脊髄症 頸椎症は頸椎の変形性関節症であり,脊柱管の狭窄を引き起こすほか,ときに変形性関節症により生じる骨増殖(骨棘)が下位頸髄に侵入することで頸髄症を引き起こすこともあり,さらに,ときに下位頸髄神経根が侵されることもある(脊髄神経根障害)。診断はMRIまたはCTによる。治療では非ステロイド系抗炎症薬および軟性カラーの使用または頸椎椎弓切除術を行うことがある。 ( 脊髄疾患の概要も参照のこと。)... さらに読む ,および 脊椎すべり症 脊椎すべり症 脊椎すべり症は,腰椎がその下の椎骨との位置関係においてずれた状態である。前方へのずれ(前方すべり)の方が後方へのずれ(後方すべり)より多くみられる。脊椎すべり症には複数の原因がある。脊椎のどこにも起こりうるが,最も一般的には腰部と頸部にみられる。腰椎すべり症は,無症状のこともあれば,長時間の歩行時または立位時に疼痛を引き起こすこともある。治療は対症療法であり,腰椎の安定化を伴う理学療法などがある。... さらに読む である。その他の原因としては, 骨パジェット病 骨パジェット病 骨パジェット病は,限局した部位で骨代謝回転が亢進する成人の骨格の慢性疾患である。正常な基質が,軟化し腫大した骨に置き換わる。本疾患は無症候性のこともあれば,骨痛または変形が徐々に発症することもある。診断はX線による。治療には対症的な処置としばしば薬物(通常はビスホスホネート)が含まれる。... さらに読む や 強直性脊椎炎 強直性脊椎炎 強直性脊椎炎は,代表的な 脊椎関節症であり,体幹骨,末梢の大関節,および指の炎症,夜間の背部痛,背部のこわばり,脊柱後弯症の増強,全身症状,大動脈炎,心伝導異常,ならびに前部ぶどう膜炎を特徴とする全身性疾患である。診断には,X線上で仙腸関節炎を示す必要がある。治療は,非ステロイド系抗炎症薬および/または腫瘍壊死因子阻害薬もしくはインターロイキン17(IL-17)阻害薬と関節の柔軟性を維持する理学療法による。... さらに読む などがある。
腰部脊柱管狭窄症の症状と徴候
腰部脊柱管狭窄症患者では,歩行中,ランニング中,階段を昇っているとき,または立っているときでさえ,殿部,大腿部,または腓腹部に痛みが生じる。この痛みは神経性跛行と呼ばれる。痛みは静止立位では軽減しないが,背中を曲げるまたは座ることにより軽減する(ただし錯感覚は持続する)。坂道を歩いて上る場合は背中がわずかに曲がるため,歩いて下る場合より痛みが少ない。障害された神経根の分布域で,疼痛,錯感覚,筋力低下,および反射低下がみられることがある。まれに,LSSまたは大きな椎間板ヘルニアによる突然の神経根糸圧迫によって,下肢遠位部の不全麻痺ならびに会陰部および肛門とその周辺の感覚低下(サドル型感覚脱失)を伴う 馬尾症候群 症状と徴候 が生じるほか,膀胱,腸管,および外陰の機能障害が生じることがある;脊髄損傷の場合と異なり,下肢の筋緊張および深部腱反射は低下する。
腰部脊柱管狭窄症の診断
臨床的評価
ときにMRI,電気診断検査,またはその両方
特徴的な症状に基づいて脊柱管狭窄症を疑う。診断検査は 坐骨神経痛に対するものと同様 診断 坐骨神経痛は,坐骨神経に沿った痛みである。通常,腰部の腰椎神経根圧迫に起因する。一般的な原因としては,椎間板ヘルニア,骨棘,脊柱管の狭小化(脊柱管狭窄症)などがある。症状としては,殿部から下肢に放散する疼痛などがある。診断ではときにMRIまたはCTを行う。筋電図検査および神経伝導検査で,侵されたレベルを同定できる。治療には,対症療法およびときに手術(特に神経脱落症状がある場合)などがある。... さらに読む である。腓腹部の症状は血管性間欠性跛行の症状に類似することがある。跛行は,安静(姿勢の変化ではない)による軽減,皮膚萎縮,ならびに脈拍,毛細血管再充満,および血管検査の異常により鑑別できる。
腰部脊柱管狭窄症の治療
耐容性に応じた活動,鎮痛薬,およびときに神経障害性疼痛を緩和する薬剤
理学療法
コルチコステロイドの硬膜外注射を行うことがある
重症例に対し手術
腰部脊柱管狭窄症患者における保存的治療および手術適応は, 坐骨神経痛 坐骨神経痛 坐骨神経痛は,坐骨神経に沿った痛みである。通常,腰部の腰椎神経根圧迫に起因する。一般的な原因としては,椎間板ヘルニア,骨棘,脊柱管の狭小化(脊柱管狭窄症)などがある。症状としては,殿部から下肢に放散する疼痛などがある。診断ではときにMRIまたはCTを行う。筋電図検査および神経伝導検査で,侵されたレベルを同定できる。治療には,対症療法およびときに手術(特に神経脱落症状がある場合)などがある。... さらに読む に対するものと同様である。
コルチコステロイドの硬膜外注射によって一過性の軽快がときに得られる。症状があり外科的介入の適応がない患者では,硬膜外注射と屈曲ベースの理学療法の組合せによって症状がある程度改善する場合がある。
進行した脊柱管狭窄症に対し,手術では脊柱管部で圧迫された神経根と椎間孔部で絞扼された神経根の除圧を行うが,これにはときに2つまたは3つのレベルでの椎弓切除術に加えて椎間孔拡大術およびときに固定術を必要とする。
脊椎の安定性を維持しなければならない。1または2カ所の椎間腔に,不安定性がある場合,または関節炎による重度で極めて限局した変化がある場合は脊椎固定術が適応となることがある;ただし,いくつかの研究ではこのアプローチには反対議論があることが強調されている(1, 2 治療に関する参考文献 腰部脊柱管狭窄症は,腰部脊柱管の狭小化することで,椎間孔から出る前の神経根糸および馬尾の神経根が圧迫される病態である。歩行中または荷重負荷があるときに,体位性の背部痛,椎間孔での神経根圧迫の症状,および下肢の痛みを引き起こす。 ( 頸部痛および背部痛の評価も参照のこと。) 脊柱管狭窄症は先天性または後天性のことがある。頸椎または腰椎を侵すことがある。後天性の腰部脊柱管狭窄症(LSS)は,中年患者または高齢患者における... さらに読む )。
治療に関する参考文献
Försth P, Olafsson G, Carlsson T, et al: A randomized, controlled trial of fusion surgery for lumbar spinal stenosis.N Engl J Med 374:1413-1423, 2016.doi: 10.1056/NEJMoa1513721
Ghogawala Z, Dziura J, Butler WE, et al: Laminectomy plus fusion versus laminectomy alone for lumbar spondylolisthesis.N Engl J Med 374:1424-1434, 2016.doi: 10.1056/NEJMoa1508788