Msd マニュアル

Please confirm that you are a health care professional

読み込んでいます

起立性低血圧

執筆者:

Lyall A. J. Higginson

, MD, University of Ottawa

最終査読/改訂年月 2016年 10月
ここをクリックすると家庭版へ移動します
本ページのリソース

起立性(体位性)低血圧は,立位をとった際に生じる過度の血圧低下である。コンセンサスに基づく定義は,20mmHgを上回る収縮期血圧の低下,10mmHgを上回る拡張期血圧の低下,またはその両方である。症状としては意識の遠のき,ふらつき,めまい,錯乱,霧視などが,起立後数秒から数分以内に起こり,臥位により速やかに消失する。患者によっては,転倒,失神,さらには全身痙攣を起こす場合もある。運動または大食が症状を増悪させることもある。その他に併発する症状および徴候のほとんどは原因に関連したものである。起立性低血圧は様々な病態に起因する血圧調節異常の表れであり,特定の疾患ではない。

体位性頻脈症候群(POTS)

体位性頻脈症候群(postural autonomic tachycardiaや慢性または特発性起立不耐症とも呼ばれる)は,比較的若年の患者でみられる起立不耐症症候群である。様々な症状(例,疲労,ふらつき,運動耐容能低下,認知障害)と頻拍が立位で生じるが,血圧はほとんどまたは全く低下しない。症状が生じる理由は明らかでない。

病態生理

正常では,急激な起立に伴って重力負荷が生じると,下肢および体幹の容量血管に血液が貯留(1/2~1L)する。続いて起こる静脈還流量の一時的減少により,心拍出量が低下し,その結果として血圧が低下する。この変化に反応して,大動脈弓および頸動脈洞の圧受容器が自律神経反射を亢進させることで,血圧は速やかに正常化する。交感神経系により心拍数と心収縮力が亢進し,容量血管の血管運動緊張が上昇する。同時に起こる副交感神経(迷走神経)抑制も,心拍数を増加させる。ほとんどの人では,起立時にみられる血圧および心拍数の変化は最小限かつ一過性であり,症状は発生しない。

立位を維持すると,レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系の活性化と バソプレシン(ADH)の分泌により,ナトリウム・水貯留と循環血液量の増加が起こる。

病因

自律神経反射弓の求心性,中枢性,もしくは遠心性部分が疾患や薬物によって障害されている場合,心筋収縮性や血管の反応性が低下している場合,循環血液量が減少している場合,またはホルモン応答に欠陥がある場合には,恒常性維持機構が不十分となり,低下した血圧を回復できなくなることがある( 起立性低血圧の原因)。

原因は症状が急性か慢性であるかによって異なる。

急性の起立性低血圧の最も一般的な原因としては以下のものがある:

慢性の起立性低血圧の最も一般的な原因としては以下のものがある:

  • 加齢に伴う血圧調節の変化

  • 薬物

  • 自律神経機能障害

食後の起立性低血圧もよくみられる。これは炭水化物を多く含む食事に対する インスリン反応と消化管での血液貯留によって発生する可能性があり,この状態は飲酒により悪化する。

icon

起立性低血圧の原因

原因

神経性(自律神経機能障害が関与する)

中枢性

脳卒中(多発性)

脊髄

腫瘍

末梢性

糖尿病性,アルコール性,栄養性神経障害

家族性自律神経失調症(Riley-Day症候群)

腫瘍随伴症候群

純粋自律神経不全症

交感神経切除術

心血管系

循環血液量減少

脱水

出血

血管緊張の障害

臥床(長期)

低カリウム血症

心拍出量の障害

収縮性心膜炎

頻拍性不整脈または徐脈性不整脈

その他

薬物

血管拡張薬

カルシウム拮抗薬

硝酸薬

自律神経に作用するもの

α遮断薬(プラゾシン,phenoxybenzamine

降圧薬(クロニジン,メチルドパ,レセルピン,[まれに]β遮断薬)

抗精神病薬(特にフェノチアジン系薬剤)

モノアミン酸化酵素阻害薬(MAOI)

三環系または四環系抗うつ薬

その他

アルコール

バルビツール酸系薬剤

レボドパ(パーキンソン病[まれ])

ループ利尿薬(例,フロセミド)

キニジン

ビンクリスチン(神経毒)

*これらの疾患は臥位高血圧を引き起こす。

治療開始時に症状がよくみられる。

評価

起立性低血圧は,血圧測定値の著明な低下と低血圧を示唆する症状が起立により誘発され,臥位により軽減した場合に診断する。原因を検索する必要がある。

病歴

現病歴の聴取では,症状の持続時間および重症度(例,失神または転倒を伴ったか否か)を同定すべきである。既知の誘因(例,薬物,臥床,脱水)および症状と食事の関係について患者に質問する。

症状把握(review of symptoms)では,原因疾患の症状,特に視覚障害(瞳孔散大および遠近調節の消失に起因する),失禁,尿閉,便秘,暑さへの耐性低下(heat intolerance)(発汗障害に起因する),勃起障害などの自律神経機能不全の症状がないか調べる。その他の重要な症状としては,振戦,強直,および歩行困難(パーキンソン病,多系統萎縮症);筋力低下および疲労(副腎機能不全,貧血);ならびに黒色タール便(消化管出血)などがある。神経疾患,心血管疾患,および悪性腫瘍による他の症状に注意する。

既往歴の聴取では,糖尿病,パーキンソン病,悪性腫瘍(腫瘍随伴症候群を引き起こす)など,既知の潜在的原因を同定すべきである。使用薬剤の聴取では,問題となる処方薬( 起立性低血圧の原因),特に降圧薬および硝酸薬について調査すべきである。起立性症状の家族歴は,家族性自律神経失調症の可能性を示唆する。

身体診察

仰臥位をとらせてから5分後と立位をとらせてから1分後および3分後に血圧および心拍数を測定する;起立できない患者は起座位で評価してもよい。代償性の心拍数増加(10/分未満)を伴わない低血圧は自律神経の障害を示唆する。著明な増加(心拍数が100/分を上回るか,増加幅が30/分を超える)は循環血液量減少を示唆し,また低血圧を伴わずに症状が発生する場合は,POTSが示唆される。

皮膚および粘膜を視診して,脱水の徴候やアジソン病を示唆する色素変化(例,色素沈着,白斑)がないか確認する。消化管出血を検出するために直腸診を行う。

神経学的診察では,泌尿生殖器および直腸反射の検査により自律神経機能を評価することが可能であり,評価対象としては精巣挙筋反射(正常では,大腿部を擦ると陰嚢が挙上する),肛門括約筋反射(正常では,肛門周囲の皮膚を擦ると肛門括約筋が収縮する)などがある。末梢神経障害の徴候(例,筋力,感覚,深部腱反射の異常)を評価する。

警戒すべき事項(Red Flag)

特定の所見はより重篤な病因を示唆する:

  • 血便または便潜血陽性

  • 神経学的診察での異常

所見の解釈

急性症状を呈する患者では,最も一般的な原因は薬物,臥床,および体液量減少であり,しばしば臨床的に明らかとなる。

慢性症状を呈する患者では,自律神経機能障害を引き起こしている神経疾患を全て検出することが重要な目標となる。運動機能の異常がみられる患者では,パーキンソン病または多系統萎縮症の可能性がある。末梢神経障害の所見を認めた患者は,明らかな原因(例,糖尿病,アルコール依存症)を有している場合もあるが,潜在癌に起因する腫瘍随伴症候群およびアミロイドーシスも考慮する必要がある。末梢自律神経症状のみを呈する患者では,純粋自律神経不全症の可能性がある。

検査

心電図,血清電解質,および血糖値をルーチンに確認する。ただし,これらの検査もその他の検査に,特異的な症状から示唆されない限り,通常はほとんど有益とならない。

薬物が原因であることを確認するため,被疑薬を減量するか,投与を中止してもよい。

自律神経機能障害が疑われる場合はティルト試験を行ってもよい;この検査では仰臥位および立位での血圧評価より一貫性の高い結果が得られ,下肢筋の収縮による静脈還流の増加が排除される。30~45分間の血圧評価の間は,患者には直立位をとらせてよい。

自律神経系の症状または徴候がみられる患者では,糖尿病パーキンソン病,ならびに,おそらくは多系統萎縮症および純粋自律神経不全症についてさらなる評価が必要である。純粋自律神経不全症の検査では,仰臥位および立位で採取した検体による ノルアドレナリンまたは バソプレシン(ADH)の血漿中濃度測定が必要になる場合もある。

自律神経機能はベッドサイドでの心臓モニタリングにより評価することができるが,この検査は頻繁に行われるものではない。自律神経系が正常な場合,心拍数は吸気に反応して増加する。患者にゆっくりと深く呼吸(吸気約5秒間と呼気約7秒間)させつつ,心臓の状態を1分間モニタリングする。呼気時の最長拍動(RR)間隔は,正常では吸気時の最短RR間隔の少なくとも1.15倍となり,これより短い間隔は自律神経機能障害を示唆するが,この吸気に対する反応は加齢とともに減弱することもある。安静時と10~15秒間のバルサルバ手技時の間でも,同様のRR間隔の変化が認められるはずである。

治療

薬物以外での治療

長期の床上安静が必要な患者には,毎日起座位をとらせ,可能な場合はベッド上で運動させるべきである。また患者には,臥位または座位からはゆっくりと起き上がらせ,十分に水分を摂取させ,飲酒は制限するか控えさせ,可能であれば定期的に運動させるべきである。定期的な適度の運動は全体的な血管緊張を促進し,静脈系への血液貯留を減少させる。高齢患者は長時間の立位を避けるべきである。ベッドの頭側を上げて寝ることにより,ナトリウム貯留の促進と夜間利尿の減少が得られ,症状が軽減する可能性がある。

食後低血圧は,食事の量や炭水化物の量を減らし,飲酒量を最小限に抑え,食後の突然の起立を避けることで,予防できる場合が多い。

体にフィットする腰までの高さの弾性ストッキングを着用することにより,起立後の静脈還流量,心拍出量,および血圧が上昇する可能性がある。重症例では,下肢および腹部に十分な対圧を生じさせるのに,飛行士が使用するタイプの膨張式耐Gスーツが必要になる場合もあるが,忍容性が不良のことが多い。

塩分および水分摂取量の増加は,血管内容量の増加をもたらすことで,症状を低減する可能性がある。心不全と高血圧がみられない場合は,食物に塩を多く入れたり塩化ナトリウム錠剤を摂取したりすることにより,ナトリウム摂取量を1日当たり6~10g増量することができる。このアプローチは,特に高齢患者や心筋機能障害のある患者において心不全のリスクを高めるが,心不全を伴わない就下性の浮腫(dependent edema)出現は,このアプローチの継続に対する禁忌ではない。

薬物治療

鉱質コルチコイドであるフルドロコルチゾンは,ナトリウム貯留を引き起こし,それにより血漿量を増加させることで,しばしば症状を軽減させるが,これはナトリウム摂取量が十分な場合にのみ効果的である。用量は0.1mgの就寝時経口投与とし,1mgに達するか末梢浮腫が発生するまで週1回の頻度で増量する。この薬剤は交感神経刺激に対する末梢血管収縮の反応性も改善する可能性がある。臥位高血圧,心不全,および低カリウム血症が起こる可能性があり,カリウムサプリメントが必要になることもある。

動脈と静脈の両方に対して収縮薬である末梢性のα作動薬であるミドドリンが,しばしば効果的となる。用量は2.5~10mgの1日3回経口投与である。有害作用には,錯感覚やそう痒(おそらく起毛に続発する)などがある。この薬剤は冠動脈疾患または末梢動脈疾患の患者には推奨されない。

NSAID(例,インドメタシン25~50mgを1日3回経口投与)はプロスタグランジンの血管拡張作用を阻害し,末梢血管抵抗を増加させる可能性がある。しかしながら,NSAIDは消化管症状や望ましくない昇圧反応(インドメタシンと交感神経刺激薬の同時投与で報告されている)を引き起こす可能性もある。

ノルアドレナリンの前駆体であるL-ジヒドロキシフェニルセリンは,自律神経機能障害に有益となりうる(少数の試験で報告)。

プロプラノロールまたはその他のβ遮断薬は,ナトリウムおよび鉱質コルチコイド療法の有益な作用を高める可能性がある。プロプラノロールによるβ遮断は,末梢血管に非拮抗状態のαアドレナリン作動性血管収縮を引き起こし,一部の患者で起立時に生じる血管拡張を予防する。

老年医学的重要事項

起立性低血圧は全高齢者の約20%で発生し,合併症,特に高血圧を有する患者と長期療養施設の入所者で頻度がより高い。多くの転倒例が未診断の起立性低血圧の結果である可能性もある。

高齢者で発生率が高くなるのは,圧受容器の反応性が低下し,動脈のコンプライアンスも低下することによる。圧受容器の反応性が低下すると,起立に対する心拍数増加や末梢血管収縮の反応が遅延する。逆説的であるが,高血圧は圧受容器の感受性低下の一因となり,起立性低血圧に対する脆弱性を高めることがある。高齢者では安静時の副交感神経緊張も低下しているため,反射性の迷走神経抑制による心拍数増加も低下する。

要点

  • 起立性低血圧には,典型的には体液量減少または自律神経機能障害が関与する。

  • 高齢者ではいくらかの自律神経機能障害がよくみられるが,神経疾患を除外しなければならない。

  • ときにティルト試験を施行する。

  • 治療としては,静脈系への血液貯留を減少させる物理的な対策,ナトリウム摂取量の増加,ときにフルドロコルチゾンまたはミドドリンの投与などがある。

ここをクリックすると家庭版へ移動します
よく一緒に読まれているトピック

おすすめコンテンツ

ソーシャルメディア

TOP