QT延長症候群とトルサード・ド・ポワンツ型心室頻拍

執筆者:L. Brent Mitchell, MD, Libin Cardiovascular Institute of Alberta, University of Calgary
レビュー/改訂 2021年 1月
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トルサード・ド・ポワンツは,QT延長を呈する患者でみられる特殊な形態の多形性心室頻拍である。速く不規則なQRS波を特徴とし,心電図の基線を中心にねじれたような形を呈する。この不整脈は自然に治まることもあれば,増悪して心室細動に移行することもある。有意な血行動態障害を引き起こし,しばしば死に至る。診断は心電図検査による。治療はマグネシウムの静注,QT間隔を短縮する処置,および心室細動の可能性が高まっている場合は電気的除細動による。

不整脈の概要も参照のこと。)

トルサード・ド・ポワンツの原因となるQT延長は,先天性の場合と薬剤性の場合がある。QT間隔が延長すると,再分極時間の延長から早期後脱分極と不応期の空間的分散が誘導される結果として,不整脈が起こりやすくなる。

先天性QT延長症候群

これまでに明確に異なる先天性QT延長症候群が少なくとも10種類記載されている。大半の症例はまず次の3のサブグループに分類できる:

  • QT延長症候群1型(LQT1):アドレナリン感受性の心筋カリウムチャネル(I Ks)をコードするKCNQ1遺伝子の機能喪失変異により引き起こされる。

  • QT延長症候群2型(LQT2):別の心筋カリウムチャネル(I Kr)をコードするHERG遺伝子の機能喪失変異により引き起こされる。

  • QT延長症候群3型(LQT3):心臓ナトリウムチャネル(I Na)の速い不活性化を障害するSCN5A遺伝子の変異により引き起こされる。

これらは不完全浸透の常染色体優性遺伝疾患として遺伝し,かつてはRomano-Ward症候群と呼ばれていた。これらの遺伝子(特にLQT1)異常を2コピー有するまれな患者では,先天性難聴もみられ,かつてはジャーベル-ランゲ-ニールセン症候群と呼ばれていた。

QT延長症候群の患者では,トルサード・ド・ポワンツに続発する再発性失神や,トルサード・ド・ポワンツの増悪による心室細動に続発する突然死がみられる可能性が高い。

薬剤性QT延長症候群

トルサード・ド・ポワンツ型心室頻拍は薬剤が原因で発生することが多く,通常はIa群,Ic群,またはIII群の抗不整脈薬に起因する。トルサード・ド・ポワンツ型心室頻拍を誘発する他の薬剤としては,三環系抗うつ薬,フェノチアジン系薬剤,特定の抗ウイルス薬,抗真菌薬などがある(最新のリストはCredibleMedsを参照)。

症状と徴候

基本心拍数(200~250/分)が高すぎて十分な血流が得られないため,患者はしばしば失神で受診する。意識のある患者では動悸が一般的にみられる。ときに蘇生後にQT延長が検出される。

診断

  • 心電図検査

診断は心電図検査により行い,QRS軸の動揺がみられ,QRS波の極性が基線の上下で変動する(トルサード・ド・ポワンツ型心室頻拍の図を参照)。発作間の心電図では,心拍数で補正したQT間隔(QTc)に延長が認められる。正常値は平均で約0.44秒であるが,個人差および性差がある。家族歴から先天性症候群が示唆されることがある。

トルサード・ド・ポワンツ型心室頻拍

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治療

  • 心室細動には非同期下の電気的除細動

  • 電解質異常,特に低カリウム血症の是正

  • 硫酸マグネシウム(MgSO4)の静注

  • 原因の治療

急性発作が血行動態障害を来すほど長く続く場合は,電気的除細動(100ジュールで開始)により治療する。しかしながら,早期再発が通例である。電解質異常(例,低カリウム血症)は心室性不整脈のリスクを高める可能性があるため,是正すべきである。患者はしばしばマグネシウムの投与(通常は硫酸マグネシウム2gを1~2分かけて静注)に反応する。この治療が不成功に終わる場合は,5~10分後に2回目の急速投与を行い,腎機能不全のない患者には3~20mg/分でのマグネシウムの点滴を開始してもよい。リドカイン(Ib群抗不整脈薬)はQT間隔を短縮し,特に薬剤性のトルサード・ド・ポワンツに効果的となりうる。Ia群,Ic群,およびIII群の抗不整脈薬の使用は避ける。

薬剤が原因の場合は問題の薬剤を中止するが,トルサード・ド・ポワンツ型心室頻拍の頻度が高いか持続時間が長い患者では,薬剤の排出が完了するまでQT間隔を短縮する治療が必要である。心拍数を増加させるとQT間隔が短縮するため,一時的ペーシング,イソプロテレノール静注,またはこれらの併用がしばしば効果的である。

先天性QT延長症候群の患者には長期治療が必要である。治療選択肢としては,β遮断薬,恒久的ペーシング植込み型除細動器(ICD),これらの併用などがある。家族も心電図検査により評価すべきである。

先天性QT延長症候群の患者では,QT間隔の延長を引き起こす薬剤の使用を確実に避け,労作に関連した症状がみられる患者(通常はLQT1またはLQT2)では,激しい運動を避けさせるべきである。治療選択肢としては,β遮断薬,より高い心拍数を維持するためのペーシング(QT間隔を短縮させる),ICD,これらの併用などがある。現行のガイドラインでは,心停止から蘇生した患者およびβ遮断薬投与にもかかわらず失神がみられる患者に対してICDが推奨されている。

要点

  • トルサード・ド・ポワンツ型心室頻拍の原因となるQT延長は,先天性の場合と薬剤性の場合がある。

  • トルサード・ド・ポワンツ型の発作は,通常は自然に終息するが,しばしば再発する。

  • トルサード・ド・ポワンツが心室細動を誘発した場合は,電気的除細動が必要である。

  • トルサード・ド・ポワンツは,硫酸マグネシウム2gの1~2分かけての静注,低カリウム血症の是正,ペーシングまたはイソプロテレノールによる心拍数増加,および原因の是正により治療する。

  • 先天性症候群の患者には,β遮断薬,恒久的ペーシング,植込み型除細動器,またはこれらの併用による長期治療が必要である。

  • 家族も心電図検査により評価すべきである。

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